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メタバース 2022.03.03

クリエイターが都市をハックする 都市連動型メタバースを語る KDDIロングインタビュー

コロナ禍の2020年5月からメタバースプラットフォームclusterで始まった「バーチャル渋谷」。バーチャル渋谷を仕掛けたKDDIは遡ること数年、XRやメタバースに関するプロジェクトやスタートアップへの投資、業界企業と連携を2016年から始めている。直近では、メタバースの話題が盛り上がった2021年秋にバーチャルシティというコンセプトを発表。そのガイドラインを策定する「バーチャルシティコンソーシアム」という団体の立ち上げと精力的に動きを活発化し、通信事業者として時代を先駆ける取り組みを推進している。

今回は、キーマンであるKDDI株式会社 事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部長の中馬和彦氏に、その取り組みの舞台裏をインタビューした。


中馬和彦 KDDI株式会社 事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部長
KDDI株式会社 事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部長としてスタートアップ支援プログラムKDDI ∞ Laboやスタートアップ投資ファンドKDDI Open Innovation Fundを統括
・KDDI∞Labo長
・バーチャルシティコンソーシアム代表幹事
・経済産業省 J-Startup推薦委員
・経団連スタートアップエコシステム改革TF委員
・東京大学大学院工学系研究科非常勤講師
・クラスター株式会社 社外取締役
・Okage株式会社 社外取締役

「渋谷区公認バーチャル渋谷」の軌跡

久保田瞬(以下、すんくぼ):

バーチャルシティの構想を大きく打ち立て、団体作りと、営利企業としての取り組みだけでなく、社会への還元など、色々なことを考えているように見受けられます。

最近は世の中で「メタバース」という言葉がバズっています。業界もそれによってピボットする会社も出てきたりと、今までずっとやってきたことを揺さぶられるような状況にもあるかと思いますが、今の状況をどう見てらっしゃいますか。

中馬 和彦氏(以下、中馬):

「今年は(XR)くるぞくるぞ」っていつも言ってますけどまだ来てないですね(笑)。僕らもXR系で一番投資をしていたのが2〜3年前なので、メタバースプラットフォームのclusterも含め「ようやくここに来た」という状態です。

すんくぼ:

バーチャル渋谷は、2020年の5月19日から始めて、もう複数回イベントもやられています。回を経るごとに新しいチャレンジをしてきたと思いますが、バーチャル渋谷のスタートから今までを振り返るといかがでしょうか。


(バーチャル渋谷 au5G ハロウィーンフェス2021)

中馬:

元々渋谷区との取組は、2019年9月からARを中心に、渋谷の街をデジタル拡張することで、新しいアートやストリートカルチャーの可能性を広げようと、渋谷区と一緒に取り組み始めました。

月1くらいでアートウォールや、渋谷PARCOにAKIRA ART OF WALLをARで再現するなど、それなりの反響もある中、2020年春にNetflixで久しぶりに「攻殻機動隊」の新作が出るとなり。彼らと一緒に基本はARを中心に、ARとリアルイベントという形で、渋谷を「攻殻機動隊」でジャックする準備をしていたのですが、コロナで何もできませんでした。

代わりに、将来的にはデジタルツインを作っていく構想があったので、前倒しして2020年の3月からプロジェクトをスタートさせました。そこから2ヶ月ぐらいで、5月19日にバーチャル渋谷をローンチしたわけです。


(2020年5月19日開催の「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」では5万人以上のユーザーが参加。)

以降、いろんなイベントをやってきましたが、リアルのイベントが、まったくできない状況が続いたので、渋谷の企業を中心に「バーチャル渋谷で何かできませんか?」という話が続々と寄せられました。

僕らからすると、元々リアルのARが中心で、VRはもう少し先かなと思っていたんですが、逆にARを使ったリアルインタラクションができないので、一旦バーチャルに逃げ込んだ形にはなりましたが、実際コロナ禍ではそれが受け皿になりました。リアルでできない人たちが、活躍の場を求めて使っていただき、広がりました。

僕らの元々の目的は渋谷の街をデジタル拡張することです。バーチャル空間も「都市と連動させ、いわゆるデジタルツインをやっていく」と考えていました。本質的に言うと、リアルの街とつながっているからこそのオリジナリティのあるメタバースを追求しようとしていたのですが、いまのところリアル連動は本格的には解禁できていません。

すんくぼ:

そこで2021年秋のハロウィンでは若干取り組まれていたような?

中馬:

2021年はチャレンジしたかったので、一部リアル連動に取り組みました。例えば、自分のアバターを簡単に作ってバーチャル渋谷へ持ち込める株式会社PocketRDのAVATARIUM(アバタリウム)との連携とか。


(撮影データからオリジナルアバターを自動作成。アプリでカスタマイズもできる株式会社PocketRDのAVATARIUMと連携)

双方向性を実現することにも挑戦しました。JOYSOUNDの株式会社エクシングと連携して、カラオケの特定のリアルルームからバーチャル渋谷にダイブインしてルームからストリートライブできるといった、こともしてきました。リアルのカラオケボックスに全員集まっていないんだけど、リアルとバーチャルで融合してみんなで遊ぼうよというコンセプトがあったので、その一部を切り出してやってみたという事例です。


(JOYSOUNDの現実のカラオケルームで歌うと、バーチャル渋谷のステージにアバターが登場。)

理想を脇にスマホで敷居を下げた

すんくぼ:

バーチャル渋谷でのイベントは実績としても毎回かなりの参加者を集めていますよね。

中馬:

2020年の春に40万人、2021年に55万人と数を集められたのは、過渡期ですけど、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を被るピュアなVRにこだわらず、スマホに割り切ったことが幸いしました。

プラットフォームでいうと、初期のclusterはそもそもまだVRHMDを前提に作られており、スマホ対応していませんでした。私が2019年の10月にclusterに取締役になり、CEOの加藤さんたちと話をしたんです。

KDDIのイベントは、ユーザーが限られるサービスだと進出しにくいですが、スマホも含めて裾野が広いと知名度の高いIPも持ってきやすいです。そこで「HMDが広がるのは、まだまだかかるから当面はハイブリッドでやろうよ」と。clusterアプリのスマホ版は2020年2月にローンチしました。

すんくぼ:

絶妙なタイミングでしたよね。

中馬:

そこにたまたまコロナ禍が始まり、バーチャル渋谷の企画が立ち上がって、スマホが受け皿となりました。

元々clusterはフレンド機能などSNSに関する機能が弱かったんですよね。最初のハロウィンのときは、フレンド機能も限定的でしたし、ボイチャの機能も弱かったです。あとオリジナルアバターも、基本はハロウィンの用意されたアバター3種類の中から出てくださいと言う感じで。そのときのフィードバックとして、「ハロウィンって着飾るイベントなのに、着せ替えが用意されたものだけってどうですか?」というのが結構ありまして。

2021年はオリジナルアバターで参加できることだけはやろうと、一年かけてプラットフォーム拡張を進めてきました。オリジナルアバターで入れるとかなりメタバース感というか、わちゃわちゃ感が出ていたので、ようやくハロウィンらしいイベントになったかなと思っています。

中馬:

都市連動型メタバースを標榜しているので、ハロウィンではワーカーの方々にも参加してもらいました。誘導員やカメラマンなど、20人ぐらいの方に公式スタッフとして入ってもらったんです。今後の都市化を狙った施策の取り組みとしてはおもしろかった。

すんくぼ:

スタッフの方に入ってもらったことと、都市連動はどうつながっていくのでしょうか?

中馬:

都市連動の考え方は、渋谷にあるリアルな街の機能や状態を、リアルとつなぐ接点のAPIとして開放して、まず商業側に使ってもらいます。商業施設のバーチャル店舗がリアルと連動し、取り組みできるようにします。そうなると当然、店のリアルのスタッフがサポートすることもあれば、バーチャルスタッフがサポートすることもあり、その両方が必要だと思っています。

街なので、警察官もいるかもしれないし、火は出ないから消防士はいらないけど、ある程度は誘導員がいるよねと。僕らはいつもバーチャル空間に慣れているからいいけど、初めて来た人は、意外と迷子になってて。これってリアルな街と同じように、誘導員や公式カメラマンが必要ですよね。

すんくぼ:

参加者と主催者がいるだけではなく、公共の街の人がいるイメージですね。

中馬:

運営側のサードパーソンが必要だと思っていて。今回は地方や海外からあえてスタッフとして入ってもらって、評判もよかったです。地方で最寄りの駅まで車で1時間かかる女性も今回参加してくれて、普通に渋谷のハロウィンでアルバイトできました、と。

メタバースは次世代SNSプラットフォームへの正統進化

中馬:

コロナによってメタバースが加速しています。学校に行けないから、部活もなくて、とりあえずApexやFortniteに入って、最初はゲームしてたけど、ゲームもしなくなって、だべってたら「これって次世代SNSじゃないですかね」と。ただそれだけだと思っていて。

すんくぼ:

まさにそうですね。

中馬:

その流れで、今回のバーチャル渋谷のような受け皿も含め今はイベントベースでやっているので、常に人が滞留してません。でも、明確なアプリケーションがあれば、常に人が滞留する構造になると思っています。

僕らとしては次世代のネットサービスは、ブログ、SNS、メタバースへと正統進化していくと思っています。自分たちが主でやるか従でやるかは別なんですが、新しいものは常に通信会社として先行して取り組んできている、この分野もその中の一つとして取り組んでいます。

都市連動型メタバースというのは、たぶんメタバースと言っている人の中でも、唯一無二だと思っています。普通はメタバースといえばバーチャル空間に振るのが一般的ですよね。

都市連動型メタバースというコンセプトの背景としては、5Gの時代に起きている2つの大ききな動きがあります。基本的にはインターネットの進化であり、表現力の向上という形でのメタバースの正統進化。これがインターネットで起きていることだとすると、もう一つはリアルでのいわゆるデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)と呼ばれる、無人化、省人化ですね。今、無人レジや、モバイルオーダーが急激に進み、僕らも通信会社としてDXの名の元に推進しています。

逆にいうと、リアルの状態をAPI化することを自ら推進していることになります。そのAPIの受け皿が3Dでいいと思っています。無人化、省人化されたリアルを、メタバースに吐き出していって、そこで融合していくと。

ユーザーは当然今はスマホファーストですが、今後バーチャルファーストになり、いずれバーチャル側が主になってリアルが動いていくと思っています。

通信会社としてはちょうどリアルとバーチャルの両方をやっているので、いい頃合いでハマってきました。都市連動型に絞り込んで今進めています。

二次創作のUGCでメタバースを育てる

すんくぼ:

イベントベースではなく、人が滞留する「場」として作っていくとありました。現時点で人が滞留するモチベーションのきっかけの一つが大きなゲームだと思うのですが、ゲーム以外にもあるとお考えですか?

中馬:

そもそも「なぜ人が渋谷に行くのか?」ということ。若者も別にゲームのために街には行かなくて、「人との出会い」のために街に行くと僕は思っています。

カリスマ店員や、街を歩いている人がおしゃれだったり、「ただ人がいる」とか「個性的な店がある」からで、これを忠実に再現するというか、その考え方を自分たちの空間の中に再現していきたいですね。

リアルAPIで、リアルの環境やお店をセレクトして、ストリートごとに色のある渋谷という街の文化を、まずデジタライズして街の中でAPIで提供します。一見すると「商業施設をバーチャル空間に作って、お店出して、物を売るんですよね」となるかもしれません。

でも、僕らがやりたいことは、個人がバーチャルな渋谷を使って二次創作できるような環境を作ろうとしています。ユーザーが街のAPIを利用して、独自サービスを作ってしまうような、そんな二次創作者が出てきてほしい。実際に商品が売れたら、実店舗の在庫からAPIを引っ張って物を売って、アフィリエイトを得る構造にしていきたいなと。

渋谷のストリートや特定のカレー屋が大好きでしょうがない渋谷LOVERが、InstagramやTwitterでつぶやきまくるみたいに、世界の表現力をもっと上げられると思っているんですよ。なので基本的にはUGCをメインで育てていこうかなと。

すんくぼ:

ユーザー個人が対象になるということなんですね。

中馬:

究極的に個人をターゲットにしています。リアルの街のアセットを、一般の方に開放し、かつ商業的利用を可能にすること。成果報酬で利益を配分するレベニューシェアといったビジネスモデルを検討しています。

「リアルの街がメタバースを使って遊ばれること」で結果、街を盛り上げてもらう。メタバースファーストで街が進化していき、形が変わっていくモデルを渋谷で作りたいと思っています。

「こういうとき、この権利は勝手にユーザーがやっていいですよ」などルールとして一旦まとめようと、バーチャルシティコンソーシアムを立ち上げ、今ファーストドラフトとして作ろうとしています。

バーチャルな渋谷をハックせよ。


(KDDIが構想する、バーチャルとリアルをつなぐプラットフォーム「バーチャルシティ」)

すんくぼ:

商業施設に開放してもらうAPIはどんなものになるんでしょう?

中馬:

最初に考えているのは、リアル店舗の在庫や物の情報です。当然ECの形では残ってますので、どこまで出せるかどうか。あとは店の状態。満席・空席情報。あとやれるようなら、特定の店にお客さんが何人ぐらいいるかとか、今日あの店員がいるのか、などの店内の状態に関するプレゼンス情報です。

すでに株式会社バニッシュ・スタンダードのように、リアルの店員がInstagramをやることで、インセンティブになる仕組みが出来ていたりします。ああいうものがより表現力が上がっていくんじゃないかなと。

すんくぼ:

店舗の在庫情報ですか。

中馬:

僕がいつも冗談で言う話があります。例えば僕がストライプが大好きでストライプのシャツしか着ませんとなったら、渋谷中のセレクトショップから、ストライプの在庫データを引っぱってくるストライプスという店をセンター街に開く人が出てくるみたいな感じにしたいですね。

すんくぼ:

街にはいろんな商業の方がいると思うんですけど、まず注目しているのは小売や店舗のイメージなんですね。

中馬:

店舗の方がわかりやすいだろうなと。僕らも別に物販したいわけではなく、あくまでもトランザクションをあげていきたいというか。人の欲求って儲かるもので頑張るというインセンティブがあると思うので、そこはやりたいなと。

渋谷には、ストリート文化が元々あり、そこを開放していくことで、アーティストの表現に対してプラットフォームが整備されて投げ銭レベルになっているので、その活性化はやりたいですね。

すんくぼ:

渋谷の街をデジタルツイン化するという言葉から想像するのは特定の店舗などではなく、空間そのものを持っていくイメージがあります。ストリートミュージシャンの話も出てきたので、店舗だけでなく公共空間も持っていくというのも考えているんですね。

中馬:

フレームとしての渋谷が象徴的だから。スクランブル交差点に価値があるじゃないですか。あそこで何かやりたいというのは価値になりますよね。「あそこで歌いたい」とか、「あそこに行って写真撮りたい」というのは残すべきだと思っています。一方でリアルの渋谷でできないことを、ハックできるようにするという観点でいくと、ベースは渋谷であるべきです。ビジュアル的にも渋谷でいいと思うんですよね。

すんくぼ:

渋谷の世界線がいっぱい分かれていくみたいな。

中馬:

例えば新しく開発する商業施設をメタバース上で先んじて開放しておき、テナントも全部ユーザーに作ってもらって賑わったものを、そのままリアルのテナントとして誘致したらどうかと僕らは提案しています。

すんくぼ:

なるほど。おもしろいですね。

中馬:

これはUGCでもありながら、スマートシティ的でもあります。「バーチャル空間だからなんでもできますよ」と。バーチャル空間で作られたことの一部がリアルにフィードバックされることによって、得られる対価だったり、ダイナミズムがすごくある取組になると思っています。

地域でローカルである程度の顧客と接点がある通信会社だからこそできることではないでしょうか。

すんくぼ:

バーチャル渋谷でリアルの情報がバーチャル側に流れ込んできて、今度はデジタルが、リアル側にどうフィードバックを返して、最後どう変わっていくのか気になります。デジタル側で行われていることを、リアルの方に返していくようになるのでしょうか?

中馬:

トラフィックとしては圧倒的にバーチャルの方にボリュームがあると思いますので、そのユーザーをいかに滞留させ、そのパワーを渋谷の街に注ぎ込めるかだと思っています。

リアルの方にネットの情報をフィードバックすると、たとえば、リアルで店舗試着していても、バーチャルの人たちからコメントをもらって、実際のスタイリングを決められるとか。鏡の前に立っていると、それがバーチャル側に見えていて、20代の女性だけの意見が聞きたかったら、20代の女性だけが投票してくれて。

ネットだと(SNSなどで)普通だと思うんですけど、それをリアルにも持ち込めるじゃないか、というのが連動するメリットですよね。

こういうことをするためにはやっぱり人が常に滞在していないといけないので、基本的に新しい表現の場としての、クリエイターエコノミーの次世代プラットフォームを作ることが、基本的なバーチャルシティの構想ですね。

最強の市区町村「渋谷」をバーチャル空間でも唯一無二の街へ


(渋谷区公認のバーチャル渋谷 au5 G ハロウィンフェス2021)

すんくぼ:

こうしたバーチャルシティ構想のスタートが渋谷なわけですね。

中馬:

当時、渋谷109をスターにしたのは、ギャルたちですよね。ギャルが集まったことで109がスターになりました。これは偶発的な要素も多くあったのではないかと思っています。こうした偶発性を生み出せる唯一無二の環境や、集まっている人たちが大事だと僕らは捉えています。

メタバースを商業側の人にのみ開放するのではなく、一般コンシューマーに開放してもらって、渋谷をジャックしてもらえば、たぶん渋谷はバーチャル空間の中で、唯一無二の街になり、カルチャーとして存続するんじゃないかというのが、渋谷区と僕らで目指している世界です。

すんくぼ:

渋谷区とタッグを組み、目指すところが完全に一致していると。

中馬:

バーチャルシティコンソーシアムの発足式にはわざわざ渋谷区長の長谷部健さんも来てくれました。渋谷区はモデルを作ったら、横展開してあげるよと言ってくれているんです。

これが結構大きいです。日本は県の単位ではなく、市区町村単位で台帳が管理されているので、結局住民のデータベースは市区町村です。この最小単位かつ、最強の市区町村が渋谷なので、日本中の首長が見ているんですね。

そこを長谷部さんと一緒に進め、渋谷未来デザインにライセンスを提供していくことで、渋谷の街にも還元しようとしているんです。

キャリアだからこそできるハードウェア普及への貢献

すんくぼ:

ここまでコンセプトの話を聴いてきましたが、技術的にはどんな課題をクリアする必要がありますか?

中馬:

すべてのプロジェクトで端末スペックとのバランスを取りながらやっていますがやっぱり大変ですね。当たり前ですけど、PCVRに振り切ったら、いくらでも表現力上げられるわけじゃないですか?

没入感とか、インタラクションもあげられるけど、やはりたくさんの人がいないと意味がないので、スマホで広げました。そのときにスマホとは言ってもいつ頃の機種まで広げるのという話が問題になりました。

初期はiPhone8までやってたんですけど、その性能に合わせなきゃいけないとかなり制限が出てきてしまい……。同時接続を維持するのも厳しかったですね。

2021年のハロウィンではiPhoneX以上を推奨にしたんですよ。なので随分とスペックに余裕ができ、ユーザーが好きなアバターでイベントに参加できたり、ポリゴン数もあげて、アバターの同時表示数を上げられたりと、空間内の表現もかなりリッチにしてます。

ライブなどでのインタラクション表現もだいぶ実装したんですが、それでも所詮iPhoneXなわけで。5Gスタンダードな端末くらいの性能が、ボトムラインだと思っています。5Gを引き出すためには相当なマシンパワーが必要で、iPhoneのパワーや性能は10倍程度に上がってます。

本当はiPhone12以上対応にすると全然違うんですよね。ここについて僕らができることは、5G端末を普及させること。そして、できればHMDやスマートグラスを普及させることだと思っています

端末の普及がいかに進むかによって、できる表現の幅が全然変わってきます。これは本当に時間との戦いだし、僕らでもできることなんですよね。極端な話iPhoneのSEではなくて、mini(iPhone 13 mini)が売れれば、それだけ僕らが目指す世界に近づいていくということだと思っています。

すんくぼ:

スマホの機種と一蓮托生な感じがおもしろいですね。

中馬:

みなさん「5Gって何ですか?」っていうんですけど、そんなの関係なくって「5G端末なんだ」というのが僕の持論です(笑)

端末のスペック依存の世界だと思うので、ここをコントロールできるキャリアのような存在がプラットフォームの進化と合わせて、同期をとって進められるかが一番の課題だと思っています。

すんくぼ:

最近clusterもOculus Quest(Quest2)にもようやく対応しましたね。

すんくぼ:

KDDIはMRグラスNrealLightなど、スマホと接続する端末を売っていますよね。VRHMDもこれまで何度か取扱はありましたが、視野に入れていくのでしょうか?

中馬:

5Gが出たときに、韓国が先行して、すべての方にHMDをサービスとセットにしてプレゼントしていたんです。GearVRとかやってたじゃないですか?

過去に一部だけちょっとHMDをやったんですけど、全然うまくいかなくて。僕の感覚でいうと、もうちょっと時間がかかるなと思ったんで、clusterにもまずはスマホ対応してもらいました。

一旦ここは割り切って、「スマホで面を取りに行こうよ」という戦略に、今は移っていただいています。なのでHMDを、どこでもう一回デバイス普及させるかというのは、ARグラスとのバランスも含め、作戦練り直し中ですね。

すんくぼ:

やれるタイミングがあればやっていきたいと。

中馬:

はい。結局デバイスの普及によってしか、サービスは進化しないですし。僕らだけではマーケットは作れませんが、アシストすればマーケットの最後の1歩を超えられると思っているので、そのタイミングを見計らっています。

すんくぼ:

VRヘッドセットもあれば、ARグラスの話もあったりと、構想の中ではVR/ARと両方のパターンを見ながら、難しい読みをされていますね。

中馬:

そうですね。後は音に関してはいけそうだなと思っています。少なくともAirPodsは普及しましたよね。冗談みたいな話ですけど、リアル渋谷を歩いている人に、バーチャル渋谷から声をかけるということを考えているんですよ。

当然リアルでログインして歩いてることが前提ですけど。ログインして歩いていると、ある特定のスポットの同じ座標軸にいる人に、いきなりリアルの人に対してボイチャができるということを今検討していて。

これはプライバシーの問題もいろいろあるんですけど。本来の渋谷っぽい利用シーンだと思っているんです。

日本発「都市連動型メタバース」のスタンダードを世界へ

すんくぼ:

都市連動型のメタバースは今後どう広げていくのでしょうか。

中馬:

実はかなり早い段階で他の街からもバーチャル渋谷のようなことをやりたいと話がきたんですが、事情もあり実現しなかったんです。

実は渋谷ってすごくうまく回っているんですよ。渋谷区や渋谷未来デザインが間に入っているというのもあるんですけど、商店街も協力的で、この渋谷での成功事例をちゃんとルール化していかないとと考えています。

今度大阪でも取り組みますけど、バーチャル渋谷の事例を、横展開するときに正直渋谷での例を一つ一つやるのは気が狂う作業になるなと思っています。

それで今渋谷モデルをベースにルールを共創し、成果物としてガイドラインを作るためのバーチャルシティコンソーシアムを立ち上げてやっているんですね。経産省にもオブザーバーとして参加していただいてまして、日本から世界へ「都市連動型のスタンダード」を出せればという背景があります。

すんくぼ:

メタバースも「オープンメタバース」と「クローズドメタバース」、要は「管理者がいるのか、いないのか」という話がよく出ます。KDDIさんの都市連動型についてはどう考えてますか?

中馬:

バーチャル渋谷は、完全な管理者のいるクローズド型ですよね。僕らのやりたいことは、UGCで渋谷のストリートを取り戻し、拡張するのが目的なので、本来的にはオープン型にすべきだと思っているんですよ。

ただこれが、今日現在でブロックチェーンやNFTを組み込んだ3.0ベースのメタバース空間をちゃんと作れるのかというと、結構技術的にはハードルが高いですし、考え方も全然違います。僕の発想としては、仕組み的にはWeb2.0なんですけど、発想はWeb3の発想を入れたいなと。

要はそれって、そこにいた人たちが瞬間的に起きていることが、例えば何かしらに応援する人がいたときに、応援する人たちがシェアし続けたら、その人たちも恩恵に預かれる構造だと思います。ワンショットの「1万人一気に集めて終わり」ではなくて、「最初は10人しかいなかったんだけど、それが100万人に伝搬された」という考えの方が価値があると。そういう経済的な仕組みを何か入れられないかなと思っています。

すんくぼ:

リアルな都市はルールが色々あって厳格に管理されています。都市のデジタルツインをメタバースに持っていったからと言って、いきなり好き勝手どうぞと、自由に開放できるのでしょうか。

中馬:

渋谷にバーチャル渋谷という新しいものが出てきました。バーチャル渋谷に集まって創作活動したら、それが波及的に広がっていくかどうかという構造を作っていかないとなりません。僕らがPontaとか小銭をばら撒いてやってます、というのはどこかで行き詰まるのは見えているわけです。そうしたくないので正直どうするんだろうと(笑)。

すんくぼ:

業界全体、関わっているみなさん思っていると思います(笑)。

中馬:

標準となるリファレンスモデルがないんですよ。ビジネスモデルは3.0、構造は2.0で行きたいですね(笑)。

すんくぼ:

それが最前線にいるということかなと思っていて、トライ&エラーを繰り返しながら、考えていくしかないんですよね。そもそもトライアンドエラーにすら取り組めていない企業も多いかと思います。

ユーザーの進化で空間にスワイプも? 整い始めるARグラスへの道

すんくぼ:

最後に今後のKDDIのXRの取り組みをききたいと思います。中馬さんは、デバイスがアクセスするインターフェースのスペックが一番重要で、変わっていくことにより、出せるものも変わっていき、キャズムを超えていけるんじゃないかと考えていらっしゃるということですよね。

中馬:

そうですね。僕らもどちらかというとARよりVR思考でやってきています。かなり苦戦した中で、どちらかというとちょっとずつARの比率をあげてきています。ARに関していうとテーマパークとか、例えば沖縄アリーナなど、確実にロケーションベースの利用シーンはもう作れています、

渋谷でイベントベースでは、主流のインターフェースにはなってきていると思うので。あとは高性能なスマホの普及と、スマホのユーザーの習慣化です。

ポケモンGOも含めて、かざして触ってスワイプとか、フリックみたいなことは一朝一夕に根付かないですよね。「全裸監督のヤツがあるから、かざして何かしましょう」ということって、2年前にやっても誰もやらなかったと思うんですよ。

ここ1〜2年でコロナで引きこもっていたことも含め、何かしらのユーザーのタッチパネル越しのオブジェクトに対する操作の習熟度が、すごくあがったような気がしています。習慣化には、時間が必要です。なのでARに関していうと、ARグラスに移行していくための土壌は整ってきたんじゃないかという気がしています。コンテンツ制作サイドも、潤沢に出てきていますし。


(Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督 シーズン2』とのARを使ったコラボレーションプロジェクト)

すんくぼ:

実感として、ユーザーが慣れてきているという手応えがあるんですか。

中馬:

たぶんスマホをスワイプしてARの操作をしている延長で「空間に対してスワイプする」ことになっても、もしかするといけるんじゃないか、というところまでは来ていると思うんですよ。

すんくぼ:

なるほど。全裸監督の取組も感触はよかったんですね。

中馬:

リアルにみんな飢えているというところもあると思いますが、評判はすごくよかったですね。リアルのイベントたりとて、デジタルのインタラクションがないものは、もうなくなるんじゃないか、という気がしています。

結局、デジタルマーケティングが進化していって、ユーザーにワンショットにイベントをして、人が集まってよかったねという企業は減ってきています。集っている人たちに対して、ログインしてもらって、IDをとって、その後で長く顧客を育成して、成果にコンバージョンするというデジタルマーケティングが、リアルのイベントにおいても入り込んできています。

アプリなりユーザーに体験価値を与えることで、ユーザーのIDを取って、接点を持っていく。デジタルの常識がリアルに入り込んでいるということに尽きると思います。

すんくぼ:

XRは体験価値を与えるインターフェースの極みというところがありますものね。今日はありがとうございました。


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