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セミナー 2021.12.29

【XR Kaigi 2021】ARグラスを発売して1年で何が起きたのか?KDDIが語る今と未来

国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」が今年も開催されました。今年の「XR Kaigi 2021」はオンラインカンファレンス「XR Kaigi Online」(11月15日~17日)と、リアル会場での展示・体験会「XR Matsuri」(11月25日・26日)のハイブリッドで実施。XR Kaigi Onlineでは、3日間の期間中に50以上のセッションが行われました。

今回はその中から、11月16日に行われたKDDIのセッション「au版メタバースとコンシューマ向けスマートグラス~発売1年のふりかえりと、今後について」をレポートします。登壇者はKDDI 5G・XRサービス企画開発部の王健氏、山本尚弘氏、白石里咲氏の3氏。セッションでは同社のこの1年でのXR分野での取り組みや、今後の展望などが語られました。

KDDIのXRにおける取り組み

セッションではまず王氏が登壇。KDDIのXRにおける取り組み概況を語りました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で通信の重要性が増した昨今、KDDIでは「ずっと、もっと、つなぐぞ。」をスローガンに5Gエリアの整備を進めています。2022年3月末までに5G基地局を約5万局設置する計画をはじめ、5Gやその先を見据えた投資も2030年までに約2兆円を予定しているとのこと。

また、同社は5Gの活用先としてXR分野でもさまざまな取り組みをしており、スポーツからエンタメにいたるまで、多様な事業領域で事業化に向けた実証実験を行っています。


(スポーツ・音楽・ファッション・エンタメと、多様な分野でXRの活用を目指す)

2021年9月に発表したau版メタバースもその一例です。新型コロナウイルスの影響を受け、バーチャル空間の活性化と5Gの加速を目的として、KDDIは2020年5月に「バーチャル渋谷」を開始。2020年秋に開催した「バーチャル渋谷 au5 G ハロウィーンフェス」には約40万人が参加しています。また、DeNAベイスターズと提携し、「バーチャルハマスタ」もオープン。コロナ禍で現地参加ができない野球ファンに向けたバーチャル空間を提供しました。


(バーチャル渋谷(左)とバーチャルハマスタ(右))

KDDIでは今後、新型コロナウイルスによって加速した「バーチャルとリアルを融合」を推進していくとのこと。2021年にはドイツテレコム社ほかと連携して、5G環境でのVPSとクラウドレンダリングの実証実験、およびXRコンテンツの企画・開発を行っています。

また、業界にXRコンテンツの企画開発の仕組みを広めていくため、開発者向けのポータルサイトも公開しました。ポータルサイトではWeb APIの仕様情報や試験用ツールを入手できます。


(KDDIではバーチャルとリアルの融合を推進。開発者向けの情報提供も開始している)

スマートグラス「NrealLight」の振り返り

続いては山本尚弘氏が登壇。メタバース実現のキーデバイスとして注目されているスマートグラスにフォーカスした、KDDIの取り組みについて解説しました。

KDDIではスマートグラス「NrealLight」を2020年12月に発売開始。発売前からイベント出展やKDDIの店舗での展示を実施したほか、開発者支援プログラムなど、さまざまな取り組みを行ってきました。


(KDDIがこれまでに行ってきたNrealLightの施策振り返り)

NrealLightは6DoFに対応した、スマートフォンと接続して使用するスマートグラス。軽量ながら対角52度の視野を持ち、フルHD(1920×1080)の映像体験が可能になっています。


(NrealLightはau +1 collectionにて発売中)

山本氏は続けて、NrealLightの対応スマートフォンがauの一部端末に限られている理由や、NrealLight用アプリ「Nebula」のバージョン(キャリア版/ユニバーサル版)の違いについて説明しました。
 
(NrealLight用アプリ「Nebula」はキャリア版とユニバーサル版の2種類が存在する)

KDDIではスマートグラスのパフォーマンスに合わせたスマホの開発を、ソフト・ハード両方の面から行っています。そのひとつがNrealLight用のインターフェースシステム「Nebula」。Nebulaにはキャリア版とユニバーサル版があり、山本氏から両者の違いが説明されました。

キャリア版Nebulaは、Androidの2Dアプリをバーチャル空間上に複数配置することができます。キャリア版ではアプリケーションの他にNebula Serviceというシステムが動いており、バーチャルウィンドウ機能やアプリ間の連携を可能にしています。つまり、スマートフォン側にシステム面で特殊な実装が必要になります。他にも、電源供給やデバイスマネージャーなどの部分でスマートフォンに特殊な実装がされています。

対してユニバーサル版は、スマートフォン側の特殊な実装なしに機能するように開発されたバージョンです。こちらは2Dアプリケーションが起動できない代わりに、Webブラウザをバーチャル空間上に複数配置できるようになっています。ただし、スマートグラス連携時に不安定になるスマートフォンは対応端末のリストから除外されています。

他にも電波の干渉や非常時対応など様々な観点から検証を行い、安定した動作が確認できたスマートフォンのみを対応端末として公開しているとのことです。


(キャリア版とユニバーサル版は機能の差だけでなく、実装レベルで違いがある)


(戦略パートナーとして、Nreal社とは引き続き実証実験や仕様の検討、日本国内におけるローカライズ業務などで協力しているとのこと)

拡がるスマートグラスの活用

次に登壇した白石里咲氏からは、NrealLightの活用事例が複数紹介されました。

NrealLightの店舗展示

KDDIの直営店ではNrealLightの店舗展示を行っています。中でも、KDDIのコンセプトショップ「GINZA 456 Created by KDDI」では、季節に合わせた展示を実施。例えば2021年10月から行われている「HOKUSAI REMIX」(2022年1月中旬まで開催予定)では、NrealLightをかけると葛飾北斎の作品が大画面で観賞できるようになっています。


(葛飾北斎の浮世絵を新感覚アート体験として楽しめる「HOKUSAI REMIX」(右上))

NrealLight×館内案内

(日本科学未来館)

日本科学未来館では2021年3月、VPS(Visual Positioning Service)を活用した館内案内の実証実験を行いました。NrealLightを装着して館内を巡ると、バーチャルなアテンダントが館内を案内してくれます。従来の音声ガイドと違い、音声だけでなく視覚的なガイドができる点が特徴です。


(館内をアテンドしてくれるのは、KDDIが開発したバーチャルヒューマン「coh」)

セッションではこの他にも、NrealLightとアート展、スポーツ観戦、アトラクション展示などを組み合わせた事例が紹介されました。



(NrealLightを活用したMR体験の事例が複数紹介された)

NrealLight×エクステリア

環境エクステリアの企画開発やガーデン用品の販売を手がけるタカショーでのNrealLight活用事例です。タカショーはこれまでカタログなどで確認していた製品を、自宅の庭などにARで配置し、実際の使用風景をシミュレーションできるシステムを制作。同システムをNrealLightで利用することで、製品を現実世界に溶けこんだものにできます。


(3Dオブジェクトのプレゼンツツールとして、装着しやすいNrealLightを活用した事例)

動画視聴に特化した新型デバイス「Nreal Air」

 続いては、再び登壇した王氏からNrealの新型スマートグラス「Nreal Air」が紹介されました。

KDDIのアンケート調査によれば、昨年発売されたNrealLightでは一般ユーザーの大半が動画視聴のために利用していたそう。大画面で、周りを気にせず、好きな体勢で視聴できる点が好評だったようです。

一方で、アンケートでは「重い」「バッテリー持ちが悪い」「対応スマホが少ない」などの不満点も明らかになりました。これらの不満点を解決し、動画視聴に特化したモデルとして登場するのがNreal Airです。


(KDDIが実施した調査では、ユーザーの9割がNrealLightの主な用途としてビデオ視聴を挙げた)


(ユーザーの声を反映し、ビデオ視聴特化デバイスとしてNreal Airは開発された)

Nreal Airは内蔵カメラがなくなった代わりに、より軽く、よりバッテリーが長持ちするようになっているとのこと。XR体験としては控えめになるものの、4メートル先に130インチの画面があるのと同じ仮想スクリーンサイズを実現したほか、シネマティックサウンド対応など、高クオリティの視聴体験ができるようになっています。


(6DoFのNrealLightとは異なり、Nreal Airは3DoF。頭の回転や傾きに対応する)

製品にはその他、明るい場所でも画面を見やすくするライトシールドや、メガネ常用者がメガネなしでも使えるようにする矯正レンズフレームなどが付属します。また、外付けデバイスを用いることで、接続可能な端末がNrealLight・Nreal Airとも拡張される予定とのことです。


(外付けデバイスを介して接続可能な端末の種類が増える予定(図下))

Nreal Airの登場により、NrealLightでは6DoF対応のMR体験を、Airではより長時間の映像視聴をといった、用途に応じた使い分けが可能になります。なお、Airの販売詳細は今後発表される予定です。


(NrealLight(左)とNreal Air(右)のスペック比較)

バーチャルシティの構築を推進

王氏は最後に今後の展望について語りました。KDDIではリアルとつながる「バーチャルシティ」プラットフォームの構築を目標に、それを支えるインフラとして大容量・低遅延・多接続を実現する5Gの普及を目指していくとし、セッションは終了となりました。


(リアルとバーチャルが融合する「バーチャルシティ」と、それを支える5Gのインフラ)


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