活用事例 2017.07.07

これからVRビジネスを始める人が押さえておくべき先行事例

2.ノンゲームVRコンテンツ制作事例から見る、コンテンツの魅力を高める手法

2人目の登壇者は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの秋山氏。ゲーム以外のエンターテインメントコンテンツ制作を軸に、以下の内容が語られました。

a.Sence of Presence
b.VR酔い
c.インタラクション vs ノンインタラクション

a.Sence of Presence

先に登壇した玉置氏と同様、秋山氏もSence of Presenceの大切さを強調しています。玉置氏が重点的に述べた「キャラクタープレゼンス」(相手がまさにそこにいる感じ)に加えて、「体験者自身が無自覚に、その世界の中に自分がいると感じる」という意味でのプレゼンスも重要です。

プレゼンスを高めるために必要な要素として、秋山氏は
・フレームレート
・リアルな表現と非現実な表現
を挙げました。


・フレームレート
フレームレートとはソフトウェア側で1秒間に描くフレーム数のこと。「快適な体験のためにはフレームレートは60Hz以上が必須」と秋山氏は言います。「フレームレートは画質を犠牲にしてでも絶対に確保するべき」というのは、Oculus Riftのベストプラクティスガイドでも記されるなど、VR業界ではほぼ定説になりつつあります。コンテンツ開発は出来るだけ低遅延の処理で行い、フレームレートを確保することは重要です。

なお、PSVRのディスプレイは120Hzのリフレッシュレートに対応していますが、「リプロジェクション」というフレームを補間する技術を用いて、PS4からは毎秒60回(60フレーム)で出力されるものを、120Hzで出力することができます。ネイティブで120Hzのフレームレートを実現するのが難しい場合に嬉しい機能です。
 

・リアルな表現と非現実な表現
玉置氏の述べた「クロスモーダル」にも関係しますが、秋山氏は「すべての物理法則を忠実に再現することが果たして正解なのでしょうか?」と問いかけました。

たとえばアニメのキャラクターなどは、印象などを受けてそれぞれの人の脳内に独自の“イメージ”が作られます。その作られたイメージ像の身長や髪色などは、実際の設定と全く同じとは限りません。設定に忠実なVRキャラクターを作ったとしても、体験者の持つイメージとの差異が目立ち、逆にプレゼンスが剥がれてしまうこともあるのです。

また、快適な体験のためには「ちょっと手が当たったくらいでは動かない」「間違えて手を放してしまっても落ちない」などの配慮が効果的な場合もあります。どこまでを現実世界と同じにするか、というのはよく考えなければいけない問題です。
 
秋山氏はこれに「VRは、ドラマなどのストーリー性を持ったコンテンツとの相性は最高」と続けました。VR技術を使うことで、映像コンテンツを「テレビの前で見ている体験」から「その中の一人になる体験」へと変えることができるのです。
 
VR映像のストーリーを考えるうえで大切なポイントは“視聴者を置いてけぼり”にしないことです」と秋山氏は強調します。話のテンポや演出を製作者サイドで勝手に決めすぎると、体験者は「ただ見ているだけ」となってしまい、従来型コンテンツと同じになってしまいます。これではVRでやる意味がほとんどありません。
 
【More Info】
キャラクター以外のたとえば手のプレゼンスについて、CEDEC2016ではOculusやソニーから開発者が登壇し、セッションが行われました。
【CEDEC2016】Oculusが語る「手でやろうとしたことが全てできるVR」が面白くなるコツ
【CEDEC2016】VRで没入感を深める”手を使った自然なインタラクション” SIEが語る技術的な知見

またVRのストーリーテリングについては、以下の講演なども参考になります。
『狼と香辛料』の支倉凍砂氏が語った「VRアニメーション制作で得た知見」
【インタビュー】「マシュに会えたと感じていただきたい」『FGO VR』開発秘話、1日限りの『FGO GO』の挑戦をクリエイティブディレクター塩川氏に訊く
【体験レポ】実験的VRホラー『眠れぬ魂』360度映像と2D映像の融合作に迫る
【VRDC2016】「全てが周りにあるのは、周りに何もないのと同じ」360度動画制作で嵌りがちな罠を回避する方法
「マジシャンのようになれ」トップクラスのVRアニメ制作スタジオが挑むストーリーテリング

b.VR酔い

続いてはVR酔いについて。「VR酔いは食あたりと同じです。酔いを起こしたコンテンツは二度とやりたくないと思われてしまいます」と秋山氏。氏は酔いの原因について、「多岐にわたる」としながらも、主なものとして以下を挙げました。

・グラフィックをリッチにして処理が重くなった(フレームレートが確保できなかった)
・コントローラによる連続移動を採用してしまった(VRでの動きと現実の身体の動きの不一致)
・演出として驚きを入れるために、カメラを高速移動させた(同上)

秋山氏は「技術的に解決ができない問題は、すっぱりあきらめた方が無難。これくらいなら酔わないだろう、などといった妥協だけは絶対にしてはいけない」と注意を促しました。

またVR酔いをスコアリング・デバッグしてくれるサービスを利用するのも手だと言います。たとえば株式会社デジタルハーツ紹介記事)やイー・ガーディアン株式会社紹介記事)などが、日本国内でこうしたサービスを展開しています。
 
【More Info】
VR酔いに関しての詳しい知見は、Oculus社が公開しているベストプラクティスガイドや、以下の記事も参考になります。

Oculus社が公開しているベストプラクティス
Ubisoftが『Eagle Flight』で得た、快適なVRコンテンツ制作のイロハ
【CEDEC2016】SIEのVRコンサル担当直伝!VR酔い対策のイロハ
 

c.インタラクション vs ノンインタラクション

「Sense of Presenceを最大化するために不可欠なのが、インタラクションです」
秋山氏は最後に、インタラクションの実装について述べました。「物を掴む、VR世界の時間軸に干渉するなど、VR世界への干渉に夢中にさせることが大事」だと言います。
 
では、VR動画コンテンツでは、インタラクションはどのように実装されるべきなのでしょうか?
 
秋山氏は「まず最初に、そのコンテンツを体験する人がどんな人なのか、きちんと見極めることが大切」と言います。

動画コンテンツを求めている層は、FPSゲームをプレイする層と違って、ゲーム的な操作に不慣れな人が多いのではないでしょうか。VRゲームでは銃を撃ったり、物を投げたりと自由度が高いことがそのまま面白さにつながりますが、視聴メインの動画コンテンツでは逆に、過剰に能動的なインタラクションは操作が大変で、プレゼンスをがす恐れがあるのだとか。
 

たとえば能動的なインタラクションがほとんどない『傷物語VR』は、VRプロジェクションマッピングという新しい映像提示手法によってVR世界側が変化してくれることで、受動的な体験者の気持ちをつかむことに成功しています。
 
【More Info】
【Unite2017】PSVR『傷物語VR』、『FGO VR』の開発で使われた技術とは?
【体験レポ】映像に引き込まれる演出 アニメ系VRコンテンツの新しい表現『傷物語VR』


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