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空間保存・報道 2019.04.10

文化遺産をVR/ARで再構築、イギリス政府や博物館が挑む その狙いと意義

イギリス・コーンウォール州にある5つの博物館が、VR/ARを用いた文化遺産の再構築に挑んでいます。このプロジェクトはイギリス政府からも支援を受けており、観光客の増加やそれに伴う経済効果の波及を狙います。

調達額は合計77万ポンド、大学や地域コミュニティとも協力

今回コーンウォールにある5つの博物館は、コーンウォール沿岸地域の住民らが出資するファンドからの資金調達に成功。その後政府からの入札による資金調達で77万ポンド(約1.1億円)の援助を受けることが決定し、AR/VRコンテンツの開発に着手しました。

このプロジェクトにおけるAR/VRコンテンツの開発には、研究者や技術者、地域コミュニティ、ファルマス大学、そして5つの各博物館が共同参画。「2019年4月末から2020年末にかけ、コーンウォール地域の各博物館で、AR/VRコンテンツを段階的に展開していく」とコメントしています。

観光客増加を見込む取り組み

プロジェクトではコーンウォール地方やシリー地方の文化遺産の強みと、急速に成長しているデジタル部門を活用。「観光体験の質を高めることで、新たな観光客を呼び込む」という戦略の一部としてスタートしました。本プロジェクトの発足によって、年間約25,000人の観光客増が予想され、地域に新たな雇用を創出するとともに、年間50万ポンド以上の経済効果を生み出すことが期待されています。

プロジェクトの代表であるGlenn Caplin氏は、次のように語っています。

本プロジェクトでは、最新技術を使用して、コーンウォールの文化遺産を没入型体験として提供することを可能にするとともに、コミュニティが新しいツーリズムの価値を生み出すことが可能となります。年間を通して、観光客の増加や地域雇用を作り出し維持していくことによって、経済の多様化を後押しすることとなるでしょう。

またプロジェクトの技術開発を主導するファルマス大学の副学長Anne Carlisle OBE教授は、その可能性について次のようにコメントしています。

このプロジェクトは大学の研究技術者にとって大きな機会となるだけでなく、地域経済を活性化する素晴らしい機会を提供します。豊富な文化遺産と、最先端の技術を融合させ、まったく新しい過去への体験を作り出していきます。この新しい観光体験は、特定の地域限定のものでなく、どこの地域でも実現可能なモデルを構築していくことになるでしょう。

テクノロジー×文化遺産の未来

VR/AR技術と文化遺産の融合は、今までにも各国で様々な試みが行われています。米NPO法人のCyArk社がVRで世界3か所の遺跡探検ができるアプリ「MasterWorks: Journey Through History」を配信し、英BBC放送局が歴史を探索するARアプリを配信するほか、日本国内でもスマートフォン向けVRアプリで軍艦島を体験できる「VR長崎360°」などがリリースされています。

このような試みはユーザーに歴史的・文化的なAR/VR体験を提供するだけでなく、時を経て衰退していく前の姿をデジタル保存し、文化遺産を後世に残していくという一面もあります。例として、GoogleとCyArkは保全の危機に瀕した史跡を記録する「オープン・ヘリテージ・プロジェクト(遺産公開プロジェクト)」を進めています。

英国でのVR/AR市場は拡大し、2020年では12億ポンドもの市場となるといわれているものの、ミュージアムでの利用は未だ発展途上といえます。この度のコーンウォールの取り組みが今後どのように発展していくのか、期待がかかります。

(参考)Business Cornwall Magazine


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