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業界動向 2026.09.28

VRはヘッドセットから眼鏡型へ――Meta VR Glassesが示す「次の10年」

日本時間2026年9月24日、Metaは年次イベント「Meta Connect」の基調講演で「Meta VR Glasses」を発表した。重さ約100g、ストラップのないグラス型のVRデバイスで、2027年春に1,299.99ドル(日本円価格は未定)で発売する。
筆者は発表に先立ち、日本メディア向けの体験会で実機を試した。その体験は別記事のレビューに譲るとして、本記事で話題にしたいのは、このデバイスが何を象徴しているかだ。



Oculus Riftの製品版が発売された2016年から10年。VRは、ついにヘッドセットをやめた。そしてそれは、VRが主役の座をおりることでもある。

10年越しの“サングラス型”

筆者はかつてApple Vision Proのレビューで、「Apple Vision Proはヘッドセットではなくコンピュータなのだ」と書いた。当時それはあくまで概念上の定義の話であり、デバイスの形状としては、ヘッドセットだった。しかし、Meta VR Glassesは、文字通りの意味でヘッドセットではなくなった。


VR Glassesは、グラス本体とパックの2ピース構成だ。演算処理とバッテリーを光ファイバーケーブルの先のパックに逃がし、顔に載るのはセンサーとディスプレイだけになった。頭を締め付けるストラップはなく、側面も開いている。見た目はサングラスに近いが、正面を不透過のディスプレイが覆い、カメラ越しに現実を見るVRデバイスである。
実際にかけてみると、つけていることを忘れる軽さだった。小型軽量の威力は、Bigscreen Beyondですでに経験済みだ。ただしBeyondはPCとベースステーションを前提とするPCVRであるのに比べて、VR GlassesはPCなしで自己完結したまま、この軽さに収めている。

この形にたどり着くまでに、Metaは長い時間をかけてきた。2016年のOculus Connect 3で、当時Oculusのチーフサイエンティストだったマイケル・エイブラッシュ氏は「5年後のVR」を予言した。2019年には、初代より200g軽い試作機「Half Dome 2」を披露している。


2020年には、「VRの次の時代が来るのは自分たちの投資と開発があるからだ」と言い切った。ただし、その時期はたびたび後ろ倒しにされてきた。

2022年の研究発表イベント「Inside the Lab」では、超薄型の試作機「Holocake 2」の光源の課題が解決できれば、「サングラス型VRヘッドセットへの道が開かれるでしょう」と語っている。スキーゴーグルのような次世代コンセプト「Mirror Lake」が示されたのも、この場だ。


それから4年。その“サングラス型”は、ようやく製品の形をとった。10年目にして、VRは次世代に入ったのだ。

説明文から消えた「VR」

では、次世代のVRは何を目指しているのか。Metaの公式の一文を深読みしてみたい。プレスリリースはVR Glassesを、「映画館、コートサイドの特等席、ワークスペース、ゲームコンソールのすべてを約100gのグラス型に凝縮」したデバイスだと説明している。
製品名にVRを冠しながら、この一文にVRという言葉は出てこない。
体験会で担当者に確かめても、名前はQuestを冠さない「Meta VR Glasses」だという。10年にわたってVRを牽引してきたMetaが、製品の価値を語る一文からVRを外した。筆者は、ここにこのデバイスの本質があると考えている。
Meta Questシリーズは全世界で数千万台規模で出荷され、ゲーム機としては一定規模のサイズの市場を確立した。一方で、Metaはゲーム用途に作られたQuestシリーズを自分向けではないと感じる人がいることも認めている。やや重く、長時間の映画やスポーツ観戦には快適と言えず、人前では少し使いづらいからだ。先立つ2026年3月のGDC2026で、Metaはこのユーザー層を「メインストリームの大人」と呼んだ。VR Glassesは、その人たちに向けた答えである。



だからこそ、MetaはVR Glassesを明確に映像視聴に寄せてきた。VRデバイスとして初めてIMAX Enhancedの認定を受け、Dolby VisionとDolby Atmosに対応した。Disney+の3D作品や、周囲の空間まで物語の一部にする独自形式「VR Enhanced」も用意する。IMAXもドルビーもVR Enhancedも、すべて映像のためだ。
もう一つの柱が仕事だ。VR Glassesを装着した状態で、机の表面をそのままキーボードに変える入力は、筆者も体験して、キーボードの再発明だと感じた。位置がずれず、良い速度でミスなくタイプできる(※キーボード機能自体はMeta Questシリーズから実装済み。ただし、Questの仕事での用途の幅はこれまで限定的である)。

映像と仕事は、Apple Vision Proが2大用途に据えた領域でもある。映像視聴から入るのは理にかなっている。座って長く観る映画こそ、軽さが最も利する使い方だからだ。VR Glassesは、Vision Proが敷いた路線を、重さと価格の壁を下げて歩き直している。Metaの担当者も、2〜3倍高い製品に期待するような品質だと説明する。
開発の方向も、この変化を映している。ゲームはハンドジェスチャー前提になり、映像や仕事のアプリは、2DのAndroidアプリを2.5Dに空間化する「Meta Spatial SDK」で作る。コントローラーをつなげばQuestのライブラリ全体が動くが、重心はゲームから映像とアプリへ移った。
VR Glassesは、VR“も”できるデバイスなのだ。
スマートフォンが音楽プレイヤーやカメラを飲み込んだとき、電話は主役の座をおり、数ある機能の一つになった。それでも、電話が使われなくなったわけではない。VR Glassesで起きていることは、それに近い。

競合は“グラス”と“AI”になった。

ヘッドセットをやめたことで、競合も変わった。比べる相手は、QuestやVision Proだけではない。スマートグラスの中でも映像を映すディスプレイグラスと、その延長にあるARグラスだ。用途は、まさに映像視聴と生産性である。
象徴的なのが、XREALとGoogleが開発を進める「XRAL AURA」だ。AURAはVR Glassesと同じSnapdragon Reality Eliteを使い、95g未満の本体に有線のコンピュートパックを組み合わせる。価格は上限1,500ドルで、日本を含む地域で2026年中の発売を予定している。XREAL AURAが狙っているのは、まさにMeta VR Glassesの狙う用途とユーザー層と被ってくる。

呼び名をめぐる争いも始まっている。XREALはAURAを、ヘッドセットでもディスプレイグラスでもない「空間コンピューティンググラス」とうたう。一方でGoogleは、同じAURAを「メガネに見せかけたヘッドセット」だと形容した。
違いは光学系にある。VR Glassesは不透過のディスプレイにパススルーで現実を映すので、周囲を消してVRに入れる。AURAは光学シースルーで、現実を直接見ながら映像を重ねる。没入を取るか、現実の見え方を取るか。一長一短だ。
エイブラッシュ氏は2017年のF8で、VRとARはいずれメガネ型のデバイスで融合し、境目はなくなっていくと語っていた。VRは小さく軽くなり、ディスプレイグラスは高機能になった。その予言は、VRとARの2つのルートから同時に現実になりつつある。新しいハードウェアジャンルの幕開けだ。


一方、Questはしばらく別の製品ラインとして続くだろう。一体型でケーブルがなく、体を動かすゲームに向くからだ。どこまで小型化できるかは分からないが、当面、VR GlassesはQuestを置き換えるものではない。
競争の軸は、ハードウェアだけではない。VR GlassesのOSにはMeta AIのエージェントが組み込まれ、話しかけるだけで映画の再生やワークスペースの調整ができる。そのMeta AIは今年、大きく姿を変えた。4月にMeta Superintelligence Labs初のモデル「Muse Spark」が登場し、9月8日には米国で個人向けAIエージェント「Muse」の提供が始まった。Museは質問に答えるだけでなく、ブラウザを開いてフォームを埋め、ユーザーに代わって交渉まで進めるという。
Metaは、グラスこそがAIエージェントと常につながる主要な手段になるというビジョンも語っている。2025年のMeta Connectでは「コンテキスチュアルAI(文脈を理解するAI)」と呼び、今後のXRの鍵とした。

グラスとAIエージェントの組み合わせは今後の大きなポイントになりうる。Googleが備えるAndroid XRには、GoogleのGeminiが標準で組み込まれている。MetaはMuseを自社製品のために作ったモデルだとうたい、Google製品に溶け込むGeminiと同じ戦い方を選んだ。グラスをめぐる競争は、MuseとGeminiの競争にもなりうる。
手も視線も使えるVR Glassesは、AIだけが頼りのデバイスではない。それでも、ワークスペースを整え、作業を肩代わりするエージェントが加われば、VR Glassesは「操作する画面」から「任せられる相棒」へと変わりうる。

次世代の代償と宿題

Meta VR Glassesは「次の10年」を予見するデバイスとなる。しかし、課題もある。
一つ目は、光学系だ。2016年にエイブラッシュ氏が描いた「5年後のVR」では、可変焦点や広い視野角が柱だった。だがVR Glassesの発表では可変焦点に触れられておらず、視野角は70度と最低限だ。筆者も体験で、視野角は十分と思いつつも、気になった点だった。解像度の37PPDも、Metaが「人の目レベル」の目安とする60PPDの6割強にとどまる。
小型軽量と視野の広さのトレードオフは、Metaの研究の歴史でもある。先述のHalf Dome 2も、初代より軽くするかわりに視野角を狭めていた。次世代は、映像のリアルさより先に、かけやすさの軸でやってきた。
2つ目は価格だ。1,299.99ドルは、Meta Quest 3(発売時499.99ドル)の約2.6倍にあたる。一方でAura(上限1,500ドル)とはほぼ同じ価格帯で、Vision Pro(発売時3,499ドル)の4割弱だ。Vision Pro級として見れば安く、Questの延長として見れば高い。誰に向けた製品かで、評価が割れる価格である。
3つ目はケーブルだ。パックとケーブルでつながった姿は、10年前を彷彿とさせる。Oculus Riftも有線のPCVRだった。ただ、Riftのケーブルは据え置きPCにつながる鎖で、ケーブルのないVRは2019年のQuestを待たねばならなかった。

VR Glassesのケーブルは、ポケットのパックにつながる。AURAも同じ有線の分離構成をとり、Vision Proもバッテリーは外付けだ。100g級を実現するための、業界共通の設計と見るべきだろう。Riftと重なるのは、新しいカテゴリの第一世代機という立ち位置である。一体型になれば理想だが、さすがにそれにはまだ時間がかかるだろう。
もう1点気になるのは、日本での発売は視野に入っているとみていい。日本メディア向けに体験会を開き、日本円価格を「未定」とし、AIグラスの新モデルも日本で発表と同時に発売されるからだ。
ただし、コンテンツは別の話だ。Disney+の3D配信は「一部の国」から始まり、没入型スポーツの提携先は米国中心で、利用できるサービスは国や地域で異なるとされる。配信パートナーの一覧には、Netflixの名前もない。Museも現状は米国限定だ。映像とAIを柱にするデバイスだからこそ、Metaにはぜひ、日本でも発売と同時にコンテンツとAIをそろえてもらいたい。

今回のデバイスの登場がもたらす影響は明確だ。VRの競争相手は、もはやVRではない。ディスプレイグラスやARグラス、そしてAIアシスタントと同じ土俵で、映像と仕事の時間を奪い合うことになる。VRのコンテンツや開発に関わる人ほど、VRの外側の動きに目を向けておく必要があるだろう。
10年前、VRはそれ自体が目的だった。Meta VR Glassesで、VRは映画館や仕事場、ゲーム機と並ぶ機能の一つになった。主役の座をおりることを、筆者は後退だとは思わない。VRが本当に広がるための条件なのだ。
VRの次の10年が始まる。


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