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その他VRヘッドセット 2023.04.02

世界最軽量でVR体験を変える 「つけていることを忘れる」VRヘッドセット「Bigscreen Beyond」

2022年後半から2023年前半にかけてVRヘッドセットに新たな波が訪れている。Quest Pro、VIVE XR Elite、PlayStation VR2、MeganeXなど、枚挙に暇がない。

そんな中、2023年2月に突如として発表されたVRヘッドセットが「Bigscreen Beyond」(以下、Beyond)だ。世界最小・最軽量を謳(うた)い、性能も飛び抜けている新たなVRヘッドセット。驚くべきことに、このデバイスを作ったのはBigscreen VRというスタートアップだ。

Bigscreen VRは、VRヘッドセットをかけて、バーチャル空間で友達と大画面でNetflixなど様々な映像を見ることのできる「Bigscreen」というサービスを提供している。さながらVR映画館とも言えるサービスで、基本的には遠くにいる誰かとアバターで隣り合って見ることを前提としているため、ソーシャルVRそして今でいうところのメタバース的なサービスでもある。

これまでMogura VRでは、このサービスを「VRChat」や「cluster」などと同様に報じてきた。そんなソーシャルVRの企業として捉えてきた。そのBigscreenがデバイスを出すというのだ。そして、これまで見たVRヘッドセットと比べてもかなり尖っている。

Mogura VRでは、このBigscreen Beyondを体験し、製造元であるBigscreen VRのCEOであるダーシャン・シャンカー氏にインタビューする機会を得た。

この記事では、デモ体験の内容をお送りする。

筆者はOculus Rift DK1(開発者版)以来、これまで様々なVRヘッドセットを体験してきたが、Beyondの体験は非常に印象的だった。

なお、今回筆者が体験したのは、プロトタイプから進化した製品化直前のバージョンだ。製品用に試作中の箱も合わせて見せてくれた。最終的な製品版とは異なる箇所がありうることにご注意いただきたい。

※本記事の制作にあたっては、取材時間が短く取材現場での写真が少なくなっています。

フィット感抜群の「完全なデモ体験」

デモルームに使っているマンションのリビングルームに入ってソファーに座ってさっそく実機と対面した。

見た瞬間、圧倒的に小さいということがわかり、そして手に持つと非常に軽い。

スマホよりも軽く、当然コントローラーよりも軽い。片手で持ててしまう。

すでに公称でサイズと重量が発表されているが、世界最小・最軽量を謳(うた)っただけあって実物の印象も圧倒的だ。なお、Beyondにはコントローラーは付属しないため、SteamVRに対応した任意のコントローラーを自前で調達することになる。

箱から本体を取り出して一通り眺めたら、用意されていたフェイスクッションをカチャッとアタッチする。しっかりと固定されてずれないが着脱もしやすいマグネット式だ。

ヘッドセットを装着するためにもう一つ大事なパーツであるヘッドバンドを本体に取りつける。同梱されるのはいわゆるヘッドバンドだ。ヘッドセットを被ったら、Meta Quest 2と同じようにベルトで頭にフィットするように調整する。

そして、頭に装着。

デモ中に何度かつけたりはずしたりを繰り返したが、「装着してからVR体験に入るまでが一瞬」ということに筆者は気づいた。

しばしばVRヘッドセットを使うときにはこんな事が起きる。「装着後にひとまずヘッドバンドを固定し、少しずれる感じがするのでヘッドバンドを再度調整し、次は見え方がぼやけているようなので、ヘッドセットを上下にずらしたり、IPD(両目の距離)に合わせてレンズの位置を調整してようやくスタート」……いわゆるフィッティングの過程だ。

Beyondの場合、初回でヘッドバンドさえ調整してしまえばフィッティングは終わりだ。
2回目以降はヘッドバンドさえ調整されてるので、もはやフィッティングにかかる時間はゼロだ。
そしてプレイ中にずれることはない。

見え方も形状もフィット感が抜群なのだ。

抜群のフィット感を実現するための長い道のり

この抜群のフィット感にはちょっとした経緯がある。

今回の取材を申し込んだとき、実は「顔の3Dスキャン」と視力の提出を事前に求められた。

つまりBigscreen Beyondはメガネと同じで、一人ひとりの顔の形状に合わせたフェイスパーツを作り、メガネを装着しなくても使えるように視力に合わせた矯正レンズをスキャンデータを元に設定されたIPDで標準装備したオーダーメイドのVRヘッドセットだ。

実際に公式サイトでBigscreen Beyondを予約すると、購入画面ではレンズの対応とその後、3Dスキャンの段取りがあることが説明される。

3Dスキャンはスマホを使ったサービスと連携しているので指示に従って顔に向けてスマホを動かしたりすれば数分で終わる。

(3Dスキャンの様子。目と両耳に髪がかかるとズレるのでかなり掻き上げることになる……)

レンズは自分で手配しても良いとのことだが、今回は急遽の取材申し込みということでもあり、レンズの用意が間に合わなかったため、視力矯正がないと生きていけない筆者は日本でコンタクトレンズを作って臨んだ。


筆者のフェイスクッション(左上)と別のデモユーザー(アメリカ人)向けに作られたフェイスクッション(右下)。厚みや形状がが全く異なる。

フィット感の話に戻ろう。

このフィット感が活きてくるのは装着時だけではない、顔の形状にピタッとフィットするため、プレイ中は隙間が存在せず光が一切入ってこないのだ。

そして、激しい動きをしても顔に完全にフィットした軽量なヘッドセットがずれることはない。動きすぎてずれたヘッドセットを触って直す、そんな所作は不要だ。

筆者は、VRリズムゲーム「Beat Saber」の高難易度設定「Expert」でプレイしてみたが、一切ずれることはなかった。

激しい動きといえば気になるのは蒸れや汗だ。
やや伸縮性のある素材のクッションは通気性が比較的良い。とはいえ汗は避けられないと思うが、素材はウォッシャブルとのこと。他のVRヘッドセットの「洗えるフェイスクッション」とは素材が異なるので柔らかなフィッティングは犠牲にならない。

鮮明な解像度、視野角は個人差がありそう

ではVR体験の中身はどうか。

Beyondには片目2.5Kの有機ELパネルが採用されている。発色は良く、真っ暗な状況がしっかりと再現される。

Quest 2 Pico 4 Valve Index VIVE XR Elite Varjo Aero BigScreen Beyond
ディスプレイ方式 LCD LCD LCD LCD LCD
(miniLED)
OLED
解像度 1832×1920×2 1920×2160×2 1440×1600×2 1920×1920×2 2880×2720×2 2560x 2560×2

形状ゆえにスペック上の視野角は水平93度、垂直90度と若干狭いが、他のヘッドセットを被った直後にかけたり、気になる人は気になるという程度かもしれない。目の前のコンテンツに集中してしまうと、筆者はあまり狭いことが気にならなくなった。

逆にこれだけ小型でその程度しか狭くなっていないことが驚きでもある。

パンケーキレンズはムラがなく、フィッティングによりピントがずれることもないため、常にくっきりとVRが体験できた。PCVRなので、SteamVRのコンテンツが全て対応している。

筆者がプレイしたのは、「Big Screen」でのNetflixの映画鑑賞、「Kayak VR」、「Half-Life:Ayx」、「Beat Saber」。ピクセルのドットが見えることもなく、非常に高画質で快適なVR体験だった。

まさかの「存在を忘れるVRヘッドセット」

Beyondとワイヤレスヘッドホン(AirPods Max)を装着したまま数十分、いくつかのコンテンツを連続で遊んでいたとき、筆者を驚きが襲う。

VRヘッドセットを装着していることを忘れてコンテンツに没入していたのだ。

非常に軽く、有線コードは十分余裕があるので違和感もなく、激しい動きによるヘッドセットのズレを直したいと思うことも、汗によるレンズの曇りをふきたくなることもない。鼻の隙間から光も入ってこず、ふと「そろそろ現実に戻ってインタビューに移らないと」と焦って、ようやく外した。ヘッドホンをかける際に「ノイズキャンセリングをONにしようか?」と言われて断っていて良かった。もしノイズキャンセルしていたら、もっと没入してしまっていたかもしれない。

解像度やコンテンツのクオリティなどではなく、軽量とフィット感の追求による深い没入は、筆者がこれまでのどのデバイスでも体験したことがないものだ。

まさに「存在感のない」VRヘッドセットと言っても過言ではない。

VRヘッドセットをレビューするときには装着感という言葉を使うが、このデバイスに関しては「装着していることを忘れるほどの装着感」ということになる。

筆者は普段からメガネをかけているが、メガネを意識することがないのは重さを感じないからだ、フレームによってフレームの存在は視界に入ってくるが、生活している中で「いまメガネかけてるなぁ」と思うことはない。

なお、メガネの場合、疲れにくいのは35g前後が基準とされているようだ。VRヘッドセットはさすがに朝起きてから寝るまで1日中かけることまでは想定されないとはいえ、Beyondが長時間の使用でどれくらい疲れるのだろうか。シャンカー氏自身は「数時間続けて使っている」とのこと。製品版でのチェックを楽しみに待ちたいところだ。

最後に、PCと接続して通電したBeyondは紫に光っていた。ユーザーの好みでRGB設定が可能とのこと。Beyondは史上初の”ゲーミング”VRヘッドセットでもある。遊びも効いているというわけだ。

Bigscreen Beyondは、現在日本を含む各国に向けて公式サイトで予約を受け付けている。価格は日本円にして164,800円(税込)。さらにゲーミングPCが必須となるため、決して安くはない金額だが、既存のVRヘッドセットとは一線を画したものであることは間違いない。こだわりたいVRユーザーや予算に余裕があるユーザーには1台目としてもオススメできるデバイスだ。

なお、Mogura VRでは、Bigscreen VRとは何者か?なぜソーシャルVRを運営するBigscreen VRがデバイス開発に踏み切ったのか、そして妙にVRユーザーが感じるかゆいところに手が届いているのはなぜか、CEOのダーシャン・シャンカー氏のインタビューを別途お送りする。

(参考)Big Screen公式


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