「Horizon Worlds」は、Meta社が提供するメタバースプラットフォームだ。これまで主にMeta QuestシリーズのXRヘッドセット向けに展開されていたが、近年ではスマートフォンやWebブラウザからもアクセス可能となっている。これにより、ヘッドセットを持たないユーザーでも、手軽にメタバース体験を楽しむことができるようになった。
また、音楽イベントやファッションショーなど、アーティストとのコラボレーションも積極的に行われており、エンターテインメント性の高いコンテンツが多数提供されている。これらの取り組みにより、Horizon Worldsは多様なユーザー層に対応するプラットフォームへと進化を遂げている。
2025年3月に開催されたGDC 2025での講演「Meta Horizon Worlds制作の極意」は、Meta社のメタバースプラットフォーム「Horizon Worlds」に関する講演だ。
本講演では、Meta社のプロダクトマネージャーであるジョーダン・シール氏が登壇し前半で開発ツールを紹介、さらに後半ではトップクリエイター3名によるパネルディスカッションが行われた。内容は、クリエイター支援策や最新開発ツールの紹介に焦点を当てている。
本記事では、この講演の詳細なレポートを通じて、Horizon Worldsが提供するクリエイター向けの新たな可能性と、最前線の開発環境について探っていく。
刷新されたデスクトップエディタ
シール氏はHorizon Worldsの開発を支えるツール群を紹介。まずは「デスクトップエディター」だ 。デスクトップエディターはアセットの配置やインポート、シーン構築の基盤となるツールで、階層表示、アセットライブラリ、シミュレーション機能などを備え、他のゲームエンジン経験者にも馴染みやすいUI/UXを目指している。
特筆すべきは、モバイル体験への対応強化だ 。エディター内でモバイルデバイスでの見え方や操作感をプレビューでき、テスト用のリンク共有やスマートフォンへの通知機能も備える。これにより、MRヘッドセットだけでなくモバイル向けコンテンツ開発も効率化される。
アセット面では、BlenderやMayaからのインポートに正式対応 。従来困難だったカスタムアセットの導入が容易になり、より複雑で高品質なワールド構築が可能になった 。加えて、豊富なNPCライブラリや、ワールド制作のスターターキットとなるアセット群も提供される 。
ゲームロジック構築の核となるのは、スクリプティング言語「TypeScript」だ 。Web開発等で広く使われている言語であり、学習コストが比較的低い点がメリットとされる 。堅牢なHorizon APIと組み合わせることで、複雑なゲームプレイの実装を可能にする 。また、VS Codeなど、開発者が使い慣れた外部IDEを利用できる点も強調された 。
チーム開発を円滑にするコラボレーション機能も標準搭載されている 。複数人が同時に同じワールドを編集でき、誰がどこを編集しているかリアルタイムで把握可能 。追加設定なしで即座にプレイテストに入れるため、「ゼロフリクション」な開発サイクルを実現するとしている 。
リリース後の改善に不可欠なパフォーマンス分析ツールも提供される 。メモリやCPU/GPU使用率といった技術的なパフォーマンス測定に加え、ユーザーがどこで時間を費やしているか、アクティブユーザー数といったグロースに関わる指標も分析可能である 。
「週単位から時間単位へ」AIで加速するワールド構築
シール氏が「クリエイターのスーパーパワー」として特に期待を寄せるのが生成AIの活用である 。現在および近日実装予定の機能として、以下の3つが紹介された 。
- TypeScriptコード生成: 「コインを回転させながら浮かせる」といった自然言語プロンプトから、対応するTypeScriptコードを自動生成。コーディングに不慣れなクリエイターでもインタラクティブな要素を容易に実装できる 。
- オーディオ生成: 「コイン獲得時のチャリンという音」のような指示で、効果音やBGMを生成 。ファイルを探す手間なく、イメージ通りのサウンドを組み込める。
- テクスチャ生成: 「球体にコインのような金色のテクスチャを追加」といったプロンプトで、3Dモデルにテクスチャを適用 。グレーボクシングからの迅速なディテールアップが可能になる。
さらに、開発期間を「週単位から時間単位へ」短縮する、より強力な生成AI機能の開発も進められている 。
- メッシュ生成 (4月末提供予定): 「剣を持ったカートゥーン調の海賊サルが宝箱の上に立っている」といった詳細なプロンプトから、3Dモデル(メッシュ)を直接生成 。外部ツールやアセット購入に頼らず、エディタ内で完結できる。
- スカイボックス生成: プロンプト入力により、ワールドの背景となるスカイボックス画像を生成 。
- シーン生成 (初夏提供予定): 「居心地の良い島の海岸沿いのコテージ、サーフシャック、ドック」といったプロンプトから、複数のアセットが組み合わされたシーン全体を生成。
シール氏は、これらのAI機能を駆使することで、冒頭で見せたようなリッチなワールドが、わずか6時間で構築可能になった実例を挙げた 。
デモでは、空のワールドに生成AIでコインやNPC(猿のキャラクター)を追加し、コイン収集ゲームの基本的な仕組みを短時間で実装する様子が披露された。また、自然言語からTypeScriptコードを生成し、コインに回転や浮遊アニメーションを付与するプロセスも紹介された。
シール氏によれば、「制作の時間をさらに短くすることが目標」とのことで、引き続き開発を続けていくようだ。
「劇的な変化」初期から関わるクリエイターたちの証言
講演後半では、Horizon Worldsで活躍するトップクリエイター3名を招いたパネルディスカッションが行われた。登壇者した3名はそれぞれ異なる関わり方をしている。
ジェシカ・リチャードソン 氏は、Kawaii Creator Design StudioのCEO兼創設者。元デザイナーの経歴を活かし、家族と共にホームスクールの一環として開発を行うユニークなスタイルを持つ。鮮やかで遊び心のある作風が特長で、40以上のワールドを制作し、著名なブランドを築き上げている。
ベンジャミン・ヴィーナー氏は、HabitXr ConsultingのCEO。Horizon Worldsで5年の開発経験を持ち、特に『Plants!』や『Bugs!』といった居心地の良い体験(Cozy Experiences)で知られる。他のスタジオへの技術コンサルティングや、『The Office』『ESPN Tailgate』といったプロジェクトへの貢献など、多方面で活躍している。
ペドロ・マシャド氏は、Kluge InteractiveのLead Game Designer。ゲーム開発を14年間経験しており、Horizon Worldsでは3年間で『Dreamkeeper』や『Smash golf』など約20のワールドに関与。ゲームプレイデザイン、特にプロトタイピングやバランス調整を行っている。
3名は初期からHorizon Worldsのクリエイターである点は共通だが、開発スタイルが大きく異なる。特にリチャードソン氏は、ティーンエイジャーの子供2人と夫と共に家族で開発しており、「ホームスクールのカリキュラムの一部としてHorizonを使い始めた」と語る 。彼女はVR内での体験設計、長男はTypeScript、娘は3Dアートと役割分担し、隣り合って議論しながら「少し魔法のような、少し驚くような」体験作りを目指しているという 。
ヴィーナー氏とマシャド氏は、ツールの中でもVR空間内で複数人が同時に編集できるコラボレーション機能の価値を強調 。ヴィーナー氏は「アーティストやコーダーと一緒にクリエイティブスペースの中にいることほど素晴らしいものはない」と述べ 、マシャド氏も「VRに入って、自分の手で構築するのは魔法のようだ」と語った 。一方で、デスクトップエディターは従来のゲームエンジンに近く、開発経験者には馴染みやすい点も評価できるようだ 。
初期だからこそ競合も少なく、Horizon Worldsでの展開は3名にとってすでにビジネスになり始めているようだ。ヴィーナー氏は、自身はコンテンツ販売ではなく、他のスタジオへの技術コンサルティングや共同制作をビジネスの中心に据えていると説明 。5年間のプラットフォーム経験を活かし、開発スタジオのスムーズな導入支援で成功しているという 。
Kluge Interactiveのマシャド氏は、Horizon Worlds向け開発がビジネスの重要な柱になっていると述べた 。小規模なプロトタイプから外部クライアントとの大規模プロジェクトまで幅広く手掛けており 、特にVRとモバイルのクロスプラットフォーム対応に注力している 。
リチャードソン氏は、「プラットフォーム上で強力で認識可能なブランドを構築すること」に注力していると語る 。「新しいワールドをリリースすると、ほとんどの人がチェックしに来る。何か新しくて革新的なことを試すことを信頼されている」と述べ、そのブランド力が企業との協業機会にも繋がっているとした 。
そして、Metaが活用するAIについても大きな話題になった。3者とも、アイデア出しやコンセプト作成の段階では、生成AIを活用している 。
さらに、リチャードソン氏は、家族それぞれのアイデアをAIに投入し、さらに発展させる使い方をしている 。また、短期間でゲームを開発した「ゾンバーガーズ」では、オーディオ生成AIを駆使して「NPCとのウィットに富んだ対話」を実装したところ、プレイヤーから好評だったとのことだ。
ヴィーナー氏は、頭の中のイメージをアーティストに伝える際に、画像生成AIが非常に役立つと述べた。また、Metaが提供するオーディオ生成AIの品質を高く評価しており、「最終製品に使えるレベル」だとコメントした。一方で、メッシュ生成については「良い出発点だが、まだアーティストによる最適化が必要」との見解を示した 。
オーディオ生成AIに評価が集中した点は興味深い。
そして、Horizon Worlds向けのコンテンツ制作のポイントとして、リチャードソン氏は「初日から最適化を考慮する」重要性を説いた 。特に3Dモデルの最適化は必須であり、「素早く何かを組み立てられても、後で削減に時間を費やすなら意味がない」と指摘した。
マシャド氏は、初期段階では「量」を重視して多くのアイデアを高速で試し、有望なゲームループが見つかったら「質」に転換するアプローチを推奨した。
ヴィーナー氏は、Horizon Worldsの強みであるマルチプレイヤー機能を活かし、開発中の新機能を気軽にテストプレイヤーに試してもらう方法を紹介。Horizon Central(※Horizon Worlds内のハブエリア)で呼びかければ、すぐにフィードバックが得られる手軽さが魅力だと語った 。
このあたりの制作手法はRobloxやUEFNなどの類似プラットフォームの制作においても語られることであり、共通点と言える。
クリエイターファンドへの期待とコミュニティの力
最後に、クリエイターたちはHorizon Worldsの将来とコミュニティについて語った。マシャド氏は、プラットフォームが急速に成熟しており、「あらゆるタイプの開発者に対応できる段階に達した」と評価 。クリエイターファンドが「新しい才能をプラットフォームにもたらし、クールな新しいゲームや体験を生み出す」起爆剤になることへの期待を示した 。
リチャードソン氏も、「もしあなたが2年前、1年前、あるいは6ヶ月前にHorizonを試したことがあるなら、今はそれとは完全に異なる状況だ」とプラットフォームの急速な進化を強調 。Metaの開発チームがクリエイターからの「容赦ないフィードバック」に耳を傾け、必要なツールを提供してきた結果だと述べた 。
ヴィーナー氏も、Metaがクリエイターとの関係構築に力を入れてきた点を強調 。クローズドベータ時代から参加している彼は、「Metaは私たちと会話することに積極的だ」と述べ、クリエイター同士が助け合い、共に成長する文化がMetaによっても育まれてきたと語った。
講演の冒頭でMetaのシール氏はHorizon Worldsにおけるクリエイターエコシステムへのコミットメントを強調した 。その具体的な施策として、Metaが2025年2月にHorizon Worldsのクリエイター支援のために5000万ドル(約75億円)規模のクリエイターファンドを設立したことを紹介 。このファンドは、クリエイターがプラットフォーム上で魅力的なコンテンツを制作し、ビジネスを構築することを支援している 。
シール氏は、Metaがオープンに開発を進め、クリエイターの声に耳を傾けることを最優先事項としていると改めて強調、講演を締めくくった 。
「Horizon Worlds」は日本からもアクセスできる。Meta Questシリーズを購入するとアプリ内に、またはホーム画面内にコンテンツが並ぶが日本ではいまいち話題になっていない。ユーザーを集めているVRChatやRoblox、clusterなどが先行する中、存在感はない状況だ。
また、今回の講演で紹介されたAIを使った機能も日本ではロックがかかっており、使用できないものもある。
そういった状況ではあるが「Horizon Worlds」に注目しておきたい理由は2つある。1つはMetaのQuestと並ぶ注力しているサービスという点だ。Metaはメタバース実現のために、社名を変更した。そのお膝元のサービスが「Horizon Worlds」であり、Meta Questシリーズは世界で唯一、数千万台を売り上げているVRヘッドセットで、メタバースの世界に没入できる。開始からしばらくはクオリティが上がらずに世界的に嘲笑の的になっていたが、Meta自身は意に介さずアップデートを続けている。
そして、もう1つの理由はAIとの掛け合わせだ。AIとメタバースの組み合わせの可能性はしばしば語られるが、その実装スピードは緩やかだ。Metaがメタバースと同じく投資を続けてきたのがAI分野であり、彼らが展開するオープンソースのLLM「Llama」は世界的にも評価されている。そのLlamaで培ったAIをまず実装するのがMeta自身のサービスになることは当然と言える。世界のAI開発の最先端を走るMetaはXR分野でも世界を牽引している。AIとメタバースのかけ合わせを実験するのは間違いなく「Horizon Worlds」であるはずだ。














