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業界動向 2022.01.28 sponsored

学びの場をゼロから考え直す。デジタルハリウッド大学が挑む「バーチャルキャンパス」を追え!【第2回: 空間/建築編】

「バーチャルキャンパス」と聞いて何を思い浮かべるだろう。今ある学校をそっくりそのままVR空間に移植したデジタルツイン、あるいは空に浮かぶ巨大建築だろうか? 教育における「バーチャル」の活用は遠隔授業や体験学習において進んでいるものの、バーチャルキャンパスという「学生や教員が交流し、学び、出会う場所」を作る取り組みにおいては模索が続いている。

折しも、これまでに数々のクリエイターを輩出してきたデジタルハリウッド大学では、バーチャルキャンパスの構想とプロトタイピングが進行中だ。本記事ではデジタルハリウッド大学学長の杉山知之氏と、コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた活動を領域横断的に行う建築家・豊田啓介氏のセッションの様子をお送りしよう。

なお、第一回となる杉山氏とデジタルハリウッド大学事業部執行役員・池谷和浩氏のセッション記事はこちらのページで読むことができる。ぜひ第二回を読むにあたっての参考としてほしい。

杉山知之 / Tomoyuki Sugiyama
1954年東京都生まれ。デジタルハリウッド大学 学長、工学博士。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務めている。2011年9月、上海音楽学院(中国)との 合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の初代学院長に就任。XRコンソーシアムアドバイザー、一般社団法人エンターテインメントXR協会監事、超教育協会評議員を務め、また福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。著書は「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」※最新刊(ちくまプリマー新書)ほか。

豊田啓介 / Keisuke Toyoda
1972年、千葉県出身。1996~2000年、安藤忠雄建築研究所、2002~2006年、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを蔡佳萱と設立、2016年に酒井康介が加わる。2020年、ワルシャワ(ヨーロッパ)事務所設立。2017年、「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領域横断型プラットフォームgluonを金田充弘と設立。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・開発・リサーチ・コンサルティング等の活動を、建築やインテリア、都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。2025年大阪・関西国際博覧会 誘致会場計画アドバイザー(2017年~2018年)。建築情報学会副会長(2020年~)。大阪コモングラウンド・リビングラボ(2020年~)。2021年より東京大学生産技術研究所特任教授。

バーチャルで「ヒト」の尺度をどう超えるか?

杉山:
僕たちは今2つの経路から「バーチャルキャンパス」を考えていて、ひとつは何らかの空間があるという状態、有り体に言えば場です。一般に「キャンパス」という時はこっちですよね。もうひとつは参加者のアバター、デジタル上の身体です。既存のZoomやcluster、Discordのようなものは、生身より帯域は狭いけれど、人同士のコミュニケーションとしては十分成り立ちます。こうしたツールの組み合わせでキャンパスが持つべき最低限の機能、バージョン0.1や0.5くらいの機能は持たせられるのではないかと思っているところです。
豊田:
現実の「もの」が持つ無限の情報に対して、僕たちは限られたチャンネルしか扱えないわけですよね。視覚や音、触覚といったものはそれらのチャンネルのひとつですが、ここからどの要素を組み合わせて「拡張」と「増幅」のどちらに持っていくかをうまく体系化していく必要があると感じています。本来遠くにいるはずの人がすぐそばにいるように感じられるような体験は拡張側ですが、それも視覚や音声だけならZoomや電話で既にできてしまう。とはいえ技術的な制約も含め、僕らが使えるモダリティ(感覚)のチャンネルってまだ狭いと思うんです。仮に一度に同期できるチャンネルが5種類しかない場合、そこで何を選択するのか、どこにどれだけ偏らせるのかという部分により意識的になると変わってくるんじゃないかと。重要なのは編集の技術とノウハウです。

そうするとバーチャルキャンパスに存在する部屋は、必ずしもどれも共通のモダリティの束を持たなくてもいいと思うんです。音の解像度が極めて高い部屋、同時参加人数が非常に多いから多対多のコミュニケーションに向いている部屋、などが考えられるでしょう。現実空間に居住している人間ベースで考えると不自由に感じられるかもしれませんが、ロボットやノンヒューマンエージェント(Non-Human Agent)はそういう世界で動いています。人間でない存在にとっての世界や環境をどう作るかという観点から考えると、制約ある状況でのコミュニケーションやモダリティの束ね方のヒントが得られるのかもしれません。

杉山:
前回の作戦会議でも話したのですが、制約という観点からはバーチャルキャンパス上で使うアバターのスケールが問題になると思っています。クジラと一寸法師が同一の空間にいて共同作業をすることは果たして可能なのかという。生徒に「アバターを自由に作ってみて」と言っても、結局自由ではなくなってしまうんです。
豊田:
スケールの話は物理世界の感覚と大きく異なってくるという点で、非常にクリティカルな部分だと思っています。現実の建築は物理的に「絶対的な」存在があるから、「正しさ」に意識的ですよね。図面と縮尺の寸法は100%正しくするという世界観が前提にある。
杉山:
建築だと空間的なスケールは常にヒトの身体のスケールから割り出されますよね。
豊田:
バーチャルや3Dと呼ばれるもので建築設計を行うことの価値として、ヒト準拠のスケール感に閉じていた感覚を解放する点は大きいですね。建築は社会的な制約やしがらみによって強く縛られている一方で評価軸も明瞭ですが、バーチャルは逆に自由すぎて拠り所がない分、共通の評価をつくることがまだ難しいですよね。
杉山:
スケールからの解放は魅力的ですが、やはり難しいところだと。
豊田:
一昔前はデジタルで設計するとスケール感を見失うからダメだと言われていましたし、実際従来の価値観で評価すればその通りです。しかしスケールをミリ単位からキロメートル単位まで自由自在に行き来できると考えた時に、社会や建築や人々はどう変わるのだろう、という新たな可能性の部分はあまり探索されていない。今の社会や世の中の状況を鑑みると、失敗するリスクを負ってでも探索する価値の方が大きいのではないかと思っています。
杉山:
どうヒトのスケールを超えるか、あるいはどこまでヒトのスケールに押し留めていくのかは、僕らも模索の真っ最中ですね。
豊田:
そういう意味では「ヒト」中心のスケールで構築されている社会のタガ、制約をどうやって外すのかという試行錯誤こそが、「バーチャルキャンパス」を通してデジタルハリウッドさんが社会に投げかけている価値だと思いますね。もちろんなんでも外せばよいというわけではないのですが、「ザ・建築学科」的な人たちと、バーチャルな空間を設計する人たちが同じ土俵でコラボレーションを行い、感覚を混ぜ合わせることこそが必要なのかもしれません。

「アナログとデジタル」「バーチャルとリアル」の二項対立の先に

杉山:
もうひとつお聞きしたいこととして、広い意味での建築、アーキテクチャの人間への影響力があります。強力なアーキテクチャはその圏域に入った人を特定の状態や気持ちにさせてしまう作用があると思いますが、「適当な気持ちで学校に来たけど、教室に入った瞬間にものすごく厳粛な気持ちになるような場」を作れないかというのは考えています。

例えば「セカンドライフ」で自分のアバターがバーチャルリゾート的な場所にいるんですね。現実側の自分が深夜にあれこれとメールを打っているのに、アバターは綺麗な海岸でリラックスしている(笑) でも、僕はそうするとアバターを通してどこか癒やされてしまうんですよ。

豊田:
建築や場の力、主体性や身体性を有無を言わせず統合してしまう力にはすさまじいものがありますね。僕もこの実装をバーチャルの世界で行うことについてはずっと考えていますが、結論はまだ出せていません。少なくとも視覚に頼るだけ、形や色などの表現だけではそういう状況は作り得ないとは思っています。

この建築や場が持つ力を示す一例として、Epic Gamesが「フォートナイト」で開催したトラヴィス・スコットのコンサートが挙げられると思います。巨大な3DCGのトラヴィスが立って歌っているというスケール感のディストーションに加え、ある音がした瞬間に重力が消えて空中に引っ張り上げられ、プレイヤーが保有していた運動能力や身体制御が剥奪されたり、突然すべてが水没し、キャラクターを通して水中を泳いでいるような抵抗を感じたりする。重力や音、運動感覚といった建築がこれまでメインとして扱っていなかったチャンネル、運動感覚や引力がねじ曲がるといった要素が建築や場の素材として使える……というのはセンセーショナルでした。こうした要素もデザインの対象としていけば、新しい強度が出てくるのだと思います。

杉山:
現実の建築では作れない作用ですよね。およそ2日での来場者数が約2,800万人というのも強烈な数字で。
豊田:
現実では絶対にできないですよね(笑)
杉山:
アバターで密にリアルタイムなコミュニケーションを取るとなると、現実には数十人がまだまだリミットだと思うので、大学なのでせめて1,000人くらいはできると嬉しいとは思っています。もちろん技術的な制約も多々ありますが。
豊田:
「フォートナイト」の話につなげると、ゲームの「人間の感覚がそこそこ十分に騙される最低限のラインを狙って可能な限り軽くする」という技術のすごさを思い知らされますね。設計で使うBIMデータはとにかく全体に均質に正確ですが、同時に重すぎるとも思っています。多種多様なエージェントと相互作用するための環境記述はもっと相対的だし動的です。BIMのような絶対的で静的な記述体系で扱うのは難しい。一方、ゲームで使われるデジタル空間の作り方って、建築の持つ正確さとは違う、相対性ベースでの体系なんです。そこが面白いし可能性だと思っていて。
杉山:
建築をやっていた身からすると、あれはある種のチートなんですよね。体験する人をいかにそれっぽいと思わせるか、というか。僕らがVRを最初にやり始めたころもそうでした。ただの板だけれど、いつも体験する人の方を向くようにプログラムしてあるから立体的なものに見えるとか、距離が離れたら解像度が低くて軽いデータに置き換えていくとか(笑) ゲームを開発している方々は当たり前のようにやっていますが、建築だとなかなかそうはいかないですね。
豊田:
このふたつの領域や感覚をうまく混ぜられないかという問いは常にありますね。建設や建築の現場の人は自分の領域からうまく抜けられないケースが多いですし、逆にゲーム関連の人も「最終的にそれでどんなゲームやエンタテインメントができるのか」に強く引っ張られてしまう。自分の領域から抜け出て、その双方に立脚して橋渡しができる人や環境、インフラが整ってくれば大きく変わるのではないかと思っています。
杉山:
僕は気が長いので1994年から3DCGを教えはじめたんですが、3DCGを使える人が増えれば増えるほど、バーチャルな空間を人類が生活する場として作る、運用する、応援する、理解する人もどんどん増えるだろうと思っていました。当時こそ「そんなにたくさん3DCGを使える人を輩出してどうするの?」と言われていたりもしましたが、技術やツールを通して「バーチャルな空間を生活の場とする」という感覚を体得した人がたくさん生まれたら色々なものごとが変わる、という信念は少なからずあったんです。豊田さんがおっしゃっていることはこれに近いのではないかと思いました。
豊田:
僕はnoizとしての活動を続けつつ大学の特任教授をやっているのですが、自分が何かを作ることと同じくらい、教育や体系を作ること、理解を社会に根付かせることを促進させないと、今あるべき社会がしかるべき強度で実現できないのではないかと感じています。

例えば今回のセッションでは話の都合上、バーチャルとリアルを対立関係であるかのように取り扱いましたが、そもそもこのふたつが、世の中で二項対立的に扱われていることこそがヘンなんですよね。建築でもアナログな図面とデジタルなツールを対立させるような世界観はありますが。この二項対立的な考え方自体を壊すようなクリエイティブやそれを作る人、理解する人が増えていってほしい。

杉山:
僕らもエッジなリーダーを増やし続けるだけでなく、理解者や賛同者を増やしていくという感覚はあります。学校や何らかの場、ひいては社会も長い間運営されるわけですから、それを脈々と続けていけるような場所や拠点として「バーチャルキャンパス」を考えていきたいと思います。

(第三回: 身体/アバター編に続く)

セッションのフルバージョンをPodcastで配信中

今回は杉山氏と豊田氏のセッションを再構成し、対談記事という形でお送りした。このセッションのフルバージョンはMogura VRのPodcast「もぐラジオ」にて配信中。以下のリンクから視聴できる。

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(企画・執筆・編集:水原由紀


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