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セミナー 2022.01.02

【XR Kaigi 2021】小売、広告、アパレル XRで拡張するマーケティングの未来

国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」が今年も開催されました。今年の「XR Kaigi 2021」はオンラインカンファレンス「XR Kaigi Online」(11月15日~17日)と、リアル会場での展示・体験会「XR Matsuri」(11月25日・26日)のハイブリッドで実施。XR Kaigi Onlineでは、3日間の期間中に50以上のセッションが行われました。

今回はその中から、11月17日に行われた博報堂のセッション「XRを活用した、マーケティング拡張の可能性」をレポートします。セッションでは、博報堂のクリエイティブディレクターでhakuhodo-XRのリーダーでもある尾崎徳行氏が聞き手となり、実際にXRプロジェクトに携わる登壇者と対談しながら、XRとマーケティングの可能性を議論しました。

4つの領域でXRソリューションを提供するhakuhodo-XR

セッションはまず尾崎氏によるhakuhodo-XRの紹介からスタート。

hakuhodo-XRは、「まじわる世界で、まだない解を。」をモットーに、XR技術を通じてマーケティング領域の拡張およびDX、さらにはさまざまなビジネス領域で新たな付加価値を提供する、博報堂グループ内の横断組織です。

活動領域は大きく「XR広告コミュニケーション」「バーチャル空間/メタバース/アバター」「XRコンテンツ企画・運営」「XRコンサルティング」の4つ。

セッションではこの4つの領域について、実際にそれらの取り組みに携わったゲストと尾崎氏が対談しながら、XR領域におけるビジネスの可能性・マーケティングの可能性を探っていきました。


(パートナー企業とともにさまざまなXRプロジェクトを実施してきたhakuhodo-XR)

1:生活者XR空間のビジネスの可能性


(三越伊勢丹の仲田氏(左)とhakuhodo-XRの尾崎氏(右))

最初の対談は三越伊勢丹の仲田朝彦氏。対談では、仮想都市空間プラットフォームREV WORLDS(レヴ ワールズ)を利用して2021年3月にオープンした、バーチャル伊勢丹について語られました。


(仮想都市空間プラットフォームREV WORLDS上に作られたバーチャル伊勢丹)

バーチャル伊勢丹はバーチャル空間上に構築された施設である一方、現実世界を忠実に再現する「デジタルツイン」とは異なる空間設計になっています。

現実世界とは異なるバーチャルのよさを活かした空間を設計することで、「想い出に残るようなEC体験」の実現を目指していると仲田氏は言います。誰かと一緒にアクセスをして購入する、という体験が付加価値になるのではないかということです。

また、仲田氏の着目するビジネス領域に「デジタルウェアの販売」があります。アバターが身に着けるファッションはデータであるため、在庫を持つ必要がないなどの有利な特徴を持っている一方で、その広がりはリアルのファッションと同等であると言います。


(バーチャルファッションにビジネスの可能性を感じているという仲田氏)

バーチャル空間上でのビジネスの手ごたえを問われると、「描いているビジョン、ビジネス規模に対してはまだまだ」だと回答。一方で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が大きいと言う仲田氏は、コロナ禍をきっかけにバーチャル空間が大衆化し、ユーザーに求められるフェイズに入った手ごたえを感じているとも語りました。

また、仲田氏にとって予想外だったできごとは、当初は若者向けとのイメージがあったバーチャル伊勢丹が、実際にはもっと上の年齢層、伊勢丹の既存顧客の目にも魅力的と映ったことでした。

購入までの手間や時間を短縮する従来のECとは異なり、バーチャル伊勢丹ではバーチャル空間で過ごす時間そのものに対しても価値を感じられるようにしたいと仲田氏。若者だけをターゲットにするのではなく、ぜひ親子三世代でバーチャル伊勢丹に来場してほしいと語りました。

さらに、バーチャル空間の普及で人々の体験価値がどう変わるか?という質問に対しては、「現実世界とバーチャル空間を併用していくようになるだろう」と回答。バーチャル伊勢丹でも現実の商品だけでなくアバター向けの商品も提供し、ユーザーに使い分けてほしいと締めくくりました。

2:生活者XR空間のUXデザインの可能性


(CRAFTARの川島氏(左)と三越伊勢丹の丸山氏(右))

続く対談には三越伊勢丹の丸山透氏と、博報堂グループの映像コンサルティング会社・CRAFTARの川島英憲氏が登場。バーチャル伊勢丹におけるUXデザインの思想やプロセスについて語りました。

(REV WORLD上に構築されたバーチャル伊勢丹の紹介映像)

「きっかけを、インストールしよう。」をキャッチコピーとしてデザインされたREV WORLDS。そのUXはコミュニケーションを重視した設計になっています。スマートフォンだけでできること、というハードルの高さもありつつ、チーム内でディスカッションを密に行いながら設計・実装を進めていったとのこと。

また、設計時に女性スタッフの意見を多く反映したことも工夫のひとつです。例えば、アバターの見た目をアニメ寄りにするかリアル寄りにするかという決定の際にも女性スタッフの意見を反映。ファッション要素も取り入れることができ、かつアプリとして親しみやすいバランスのデフォルメ度合いに決定しました。伊勢丹本館やデパ地下などの空間は、アバターデザインが決定した後から作り込んでいったとのこと。

こうした工夫の結果、REV WORLDSの女性比率は全ユーザーの半数近くにまでなっています。アプリのグラフィックに対しても「かわいい」「親しみやすい」と好評だそうです。


(コミュニケーションを軸に、将来的にはショッピング以外のコンテンツも追加したいとのこと)

また、思いがけない発見として、デパ地下空間を思いきり走るユーザーがいたことを挙げた丸山氏。「現実のデパ地下では走ることができないから」ということのようですが、バーチャル空間をしっかり作りこんでいたことがこうした体験を可能にしたのではないかと語りました。

さらに丸山氏は、3D空間をWebページのUI/UXデザインとの違いにも言及。2Dの媒体では文字と画像・動画ですべての情報を伝える必要がありますが、3D空間であるREV WORLDSでは商品の3DCGモデルはもちろん、壁や床も自由に作りこむことができ、企業が伝えたいメッセージがより表現できると言います。

また、Webサイトでは「いかに早く必要な情報にたどり着けるか」が重視されるのに対し、3D空間では「その場にいるだけでも楽しい」という体験も重視されるようになるとし、バーチャル伊勢丹のUX設計においても心がけているポイントだとしました。


(従来のWebサイト(左)とバーチャル空間(右)ではUI/UXの思想が異なる)

一方、川島氏はアクセシビリティの観点に着目。さまざまな事情で現実世界の店舗に来店することが難しいユーザーでも、バーチャル空間ならばアクセスしやすいはずだとし、従来のEC以外の新たな買い物体験を提供できる点にも可能性を感じていると語りました。

3:生活者XR空間の広告体験ビジネスの可能性

続いては、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の荒井浩介氏が登壇。XR空間上の広告ビジネスについて、同士がリーダーを務めるプロジェクト「arrova」の事例を元に対談しました。

arrovaはゲームやエンタメなどのXRコンテンツにおける専門マーケティングチームとして、XR空間のメディアデザインや広告プロダクトを展開。すでに三越伊勢丹のほか、テレビ朝日、セガなどの国内大手企業と数々の取り組みを行っています。


(arrovaの現在の事業領域はIn-Game広告とXR空間広告の2つ)


(前出のREV WORLDSにおいてもさまざまな形のXR広告展望がある)

2020年に新規事業としてarrovaを立ち上げた理由を問われた荒井氏は、その理由としてコロナ禍による生活習慣の変化を挙げました。

コロナ禍をきっかけに、バーチャル空間におけるユーザー人口の爆発的増加、いわば「メタバース化」が起きつつある昨今。「XRコンテンツのメディア化」の潮流に、広告ビジネスのチャンスを見出したと荒井氏は言います。

バーチャル空間における広告ビジネスの可能性について問われると、XR空間ではこれまでのプッシュ型広告とは異なり、よりバーチャル空間に溶け込んだ形での広告が実現できると回答。

また、データの利活用の幅も広がるという荒井氏。ユーザーの視線データや行動データから、ユーザーの行動を阻害しない、これまでにない広告を最適な形で提供できるだろうと言います。さらに、リアルとオンラインをまたぐ形でのインタラクティブな広告施策も提供できるとしました。

一方、VR領域とは対照的に、リアル空間と紐づくAR広告に関しては慎重さが求められると言います。実際に人々が生活するリアル空間であるがゆえに、広告を出す場所や出し方、広告の内容はしっかり検討する必要があると指摘して対談を締めくくりました。


(バーチャル世界の人口増加により、XRコンテンツがメディア化する可能性を指摘)


(世界観になじんだ広告や、ユーザーが参加・体験できるインタラクティブな広告も)


(XR空間内で取得できるユーザーデータも広告に活用されるだろうとする)

4:生活者アバターのビジネスの可能性

最後の対談に登壇したのはVRCの清末太一郎氏。VRCは高速・高精度の3Dスキャン技術を有し、3Dアバターを使用したバーチャル試着技術や採寸技術の開発などに取り組んでいる企業です。

清末氏は、アバターにはメタバースなどのエンタメ空間での利用はもちろん、同社のフォトリアルなアバターを既存のさまざまなデータと組み合わせることで、よりトレーサビリティの高い個人データを取得し、ビジネスに活用できるだろうと言います。

例えばアパレルの分野ではオンライン試着サービスのさらなる体験向上、ヘルスケアの分野では体重やBMI値などの健康情報との組み合わせによる新規サービスなど、自身の正確な寸法のアバターデータを複数のサービスと連携させることで多様な展開が考えらえるとしました。

最後は尾崎氏が、清末氏の話は「XR空間上で自分がアバターとしてどう生活していくか」というテーマのヒントになるだろうと語り、セッションは終了しました。


(アバターに3DCGの衣服をリアルタイムで試着。アパレル分野での利活用を目指す)


(フォトリアルかつ高精度のアバターに個人の健康データを連携して活用する未来も)


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