国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」が今年も開催されました。今年の「XR Kaigi 2021」はオンラインカンファレンス「XR Kaigi Online」(11月15日~17日)と、リアル会場での展示・体験会「XR Matsuri」(11月25日・26日)のハイブリッドで実施。XR Kaigi Onlineでは、3日間の期間中に50以上のセッションが行われました。
今回はその中から、11月16日に行われたサイバーエージェントのセッション「「広告・マーケティング」を進化させるメタバース・XR技術」をレポートします。登壇者はCyberHuman Productionsの芦田直毅氏と岩崎謙汰氏。セッションでは広告・マーケティング分野におけるXRの可能性が論じられました。
「技術」と「人間」の融合を目指すCyberHuman Productions
CyberHuman Productionsは「Cyber(技術)とHuman(人間)の融合で新しいクリエイティブ・作り方をつくるクリエイター集団」を謳い、主に広告やフォトグラメトリを使用した映像制作などを行う、サイバーエージェントの100%子会社です。
セッションでは、2020年4月から2021年11月までの期間にサイバーエージェント、およびCyberHuman Productionsが携わった事例もまじえ、XR技術やメタバース技術が広告・マーケティングを進化させる可能性を芦田氏と岩崎氏がそれぞれの立場から語りました。
(CyberHuman ProductionではXRコンテンツ制作も幅広く手がける)
広告・マーケティングにおけるXRの活用事例
セッション序盤、まずは芦田氏が2020年から2021年にかけて広告・マーケティングの領域で起きた大きな変化点を、4つの分野に分けて事例とともに紹介しました。
(メタバースやオンラインイベントなど、広告・マーケティングの分野では直近2年で大きな変化が訪れた)
1. メタバース
コロナ禍により物理的なイベントができなくなったことで、バーチャルな世界(メタバース)でイベントを行う事例が増えました。
CyberHuman Productionsでも、ファッションブランドY’sの店舗・アトリエを舞台にしたバーチャルアートプロジェクトを担当したほか、J2のサッカークラブ・FC町田ゼルビアの公式スタジアムアプリ「ZEL-STA」向けにボイスチャットや3Dアバター機能を制作しました。
(ファッションブランドY’sとCyberHuman Productionsがコラボして作成したバーチャル店舗)
2. デジタルヒューマン
(デジタルヒューマンのimma(左)と、『Fortnite』に出演したトラヴィス・スコット(右))
バーチャル上の存在であるデジタルヒューマンは、メタバースとも関わりの強いコンテンツ。日本発のバーチャルヒューマンではimmaなどがいるほか、特に海外では著名アーティストのデジタルヒューマン化も話題になっています。
CyberHuman Productionsでは2021年、ファッションモデルの冨永愛をはじめとする著名人のデジタルツイン制作する「デジタルツインレーベル」を立ち上げ。実在の人物をデジタルヒューマンにすることで、メタバース内での活躍が可能になったり、リアル現場であっても「撮影環境が厳しい」などの理由で本人が活躍しきれないような場での活用が検討されています。
(「デジタルツインレーベル」では著名人のデジタルツイン化(3DCG化)を推進)
3. バーチャルプロダクション
(バーチャル空間で映像などを制作するバーチャルプロダクションもコロナ禍で利用が進んだ)
バーチャルスタジオでロケ地を再現し、実在の人や物と合成撮影する「バーチャルプロダクション」。CyberHuman Productionsでもバーチャルプロダクションに取り組んでいます。
ロケ地をバーチャルで作れるようになったため、現地撮影の代替だけでなく、従来では実現不可能だったさまざまな映像を作り出すことができるようになっていくだろうと芦田氏は言います。
4. オンラインイベント
(オンラインイベントはいくつもの企業がさまざまなプラットフォームを利用して開催している)
物理的なイベント開催が難しい状況の中、それを逆手に取ってオンラインイベントが多数開催されるようになった昨今。その内容も、製品発表会・カンファレンス・ファンイベントなど多岐にわたります。
今年のXR Kaigi Online、基調講演の会場および撮影はサイバーエージェントとCyberHuman Productionsの技術によって実現しています。
メタバース・XR技術のこれから
4つの分野で事例を紹介したあと、芦田氏はこの1年半ほどの間に「オンライン○○」「バーチャル○○」「メタバース」といった言葉があちこちで聞かれるようになったことに言及。
広告・マーケティングの分野でもこれらを上手く活用していくことが求められるだろうとしました。
一方で、これらが一過性のものとしてもてはやされて終わりにならないよう注意が必要だと言います。
芦田氏はZoomやSlackがコロナ禍を経て仕事や日常生活に浸透していった例を挙げ、リアルとオンライン○○、リアルとバーチャル○○を上手く使い分けていくことで、新しいコミュニケーションスタイルが生まれるのではないかと指摘。またそうすることで、一部の人しか新しい技術を使えない、いわゆるキャズムの問題も乗り越えられるだろうとしました。
(コロナ禍などで一躍脚光を浴びた新技術を、一過性のものにしないことが重要)
(ZoomやSlackと同じように、上手く使い分けることで一般層にまで広がるだろうとした)
一般層に向けたサービス開発のための取り組み
(サイバーエージェント・CyberHuman Productionsでは、ギーク層だけでなく一般層にも使ってもらえる製品やサービスの提供を目指している)
芦田氏のパートに続いては、サイバーエージェントおよびCyberHuman ProductionsでのXRに関する取り組みを、岩崎氏がエンジニアの視点から紹介・解説しました。
新技術を使用して事業アイデアを創出する際の課題として、岩崎氏はエンジニアの立場から、顧客との対話の多いビジネスチームの「技術的発想の壁」と、技術について知識を持つエンジニアの「マーケット不安の壁」の2つを指摘。
(XR事業創出においては、エンジニアとビジネスチームで異なる課題がある)
そこでサイバーエージェントおよびCyberHuman Productionsでは、社内イベントを活用してプロトタイピングを重ね、ビジネスチームに使用してもらうことでフィードバックをもらい、反響の大きいものを顧客に提案することで社会実装を進める、というサイクルを生み出しました。
社内イベントでは毎回、エンジニアとクリエイターのみで構成されるチームでアイデアを発表・実験・改善を繰り返しながらアイデアをブラッシュアップしていきます。
(社内でのプロトタイピングからスタートし、開発サイクルを通じて最終的な製品・サービス化を目指す)
また社内だけでなく、社外向けにプロジェクトを発表していく場も。2021年5月にはサイバーエージェントのイベントとして「CA BASE NEXT」を開催。岩崎氏もプレゼンターとして発表を行いました。
(岩崎氏による「バーチャル撮影システムによるMixed Reality表現」の発表)
こうした取り組みの結果、エンジニアが楽しみながら自発的にさまざまなアイデアを出せるようになり、エンジニア発想の進化的アイデアが顧客提案に採用されることも増えたとのことです。
XR技術で日本全体の閉塞感を打破する
セッションの最後は再び芦田氏のパート。バーチャル○○やメタバースなど新しいキーワードが登場しているが、結局のところ、それらは今まであったものを現実空間でやるかインターネット上でやるかの違いくらいしかないのではないか、と芦田氏は言います。
(インターネットの特性に合った企画やサービス設計が重要だと芦田氏は考える)
そのうえで、もともと現実空間でやっていたものをインターネット上に持ってくる場合、そこに「インターネットらしさ」を加えられるかどうかが重要だとし、また、リアルとバーチャルの使い分けを研ぎ澄ましていくことで、新しい技術やサービスも消費されずに持続的に成長していけるだろうと語りました。
(XR技術の普及により、既存の場所やサービスに新しい用途が生まれるなどの変化が訪れるのではないかとも)
最後に芦田氏は「XR技術を用いることで、日本の持続的な成長や日本の閉塞感の打破を目指していきたい」というメッセージを発信し、セッションは終了となりました。