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業界動向 2021.05.07

4,000件以上のXR案件から見えてきた傾向と制作の課題

2020年12月8日から10日の3日間にわたって開催された、国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi 2020」。期間中に行われた50以上のセッションの中から、あらためて振り返っておきたいセッションをMogura VR編集部がピックアップ。今回はクリーク・アンド・リバーのセッション「法人向けXRの取引実績4,000件の内訳と2020年の事例紹介」のレポートです(※記事内に登場する各種データはXR Kaigi 2020開催当時のもの)。

セッションにはクリーク・アンド・リバーの渡辺愛美氏、吉岡宗一郎氏の2名が登壇。同社が持つ4¥000件もの法人向けXRの取引実績の内訳について紹介したほか、現場プロデューサーの視点から、2020年の法人向けXR制作事例を紹介しました。

4000件もの法人向けXRの取引実績。その内訳は年々変化している

セッションではまず、VR部門でディビジョンマネージャーを務める渡辺氏がクリーク・アンド・リバー社の法人向けXRの取引実績について紹介しました。

同社のXR事業がスタートしたのは2016年。それから2020年までの5年間、売上高は右肩上がりの成長を続けており、法人市場でのXR需要が着実に伸長していることがわかります。

通算4000件におよぶ取引の内訳に関して、渡辺氏は「市場の成長に伴い、複数のソリューションを組み合わせるニーズが増えている」と言います。セッションで公開されたグラフによれば、2016年にはハードウェア販売かコンテンツ開発のどちらかのみの取引がほとんどだったところ、2020年にはハードウェアの販売からコンテンツ開発までを一貫して行う事例が全体の77%を占めるようになっています。

法人が抱えるXR導入のハードルとは

渡辺氏は続いて、2020年に同社によく寄せられた声と、それに対する回答を紹介しました。

まず取り上げたのは「DXを検討する中でXRにも興味を持ったのですが……」という声。渡辺氏は、「『DX』という言葉の中にはさまざまな課題感や実現したいものが含まれている」とし、具体的にどのような課題を解決するのがよいのかといった、一歩踏み込んだ観点からのコンサルティングや企画提案を行っているそうです。

続いては「VRイベントを開きたいが、予算や手法が知りたい」という相談内容。この相談に対し、クリーク・アンド・リバー社ではVRイベント向けシステムの開発・提供はしていないものの、目的に合わせたハードウェアやシステムの選定・提案を行っているとのこと。

また2020年は「XRを用いた遠隔での作業支援などを行いたいが、現在どこまでどのようなことが実現できるのか知りたい」という相談も多かったそうです。同社では最新デバイスを使ったR&D;は常に行っており、このような相談に対しては、クライアントの要望と現在のデバイス・技術をすり合わせ、「現在実現可能なこと」「今後実現可能になること」をフェーズ分けして提案しているといいます。

最後に取り上げたのは、元々VRを活用したトレーニングを行っている会社からの「密回避のためにVRトレーニングをより強化したいが、教材を量産するコストがかかりすぎる」という内容の問い合わせ。これに対して渡辺氏は同社のサービス「ファストVR」を紹介しました。

「ファストVR」は、非クリエイターでも事務用PCで簡単にインタラクティブなVRコンテンツを制作できるVR教育ソリューション。導入時に使い方のレクチャーも提供しており、クライアントからも好評だそうです。

その他、具体的な事業事例として、東京都が推進する「5G技術活用型開発等促進事業」において同社が開発プロモーターに採択されたことを紹介。今後、5GとXR空間を活用した開発を行うスタートアップと東京都との間に入り、開発のサポートを行っていくとのことです。

XRの制作現場ではどのようなことが起きているのか

続いては、VR部門でプロデューサーを務める吉岡宗一郎氏が登壇。制作現場の視点から、2020年の具体事例を考察・紹介しました。今回詳細に取り上げたのは「点群データに基づきVR空間を作成するプロジェクト」についてです。

吉岡氏はまず、点群データからVR空間を作成するプロセスについて紹介。点群データの中から地形のデータのみを取り出し、Unityでテクスチャやオブジェクトの調整を行っていくと説明しました。

直近で取り組んだ具体的なプロジェクト事例として紹介されたのは「5G×GOLF 〜未来のゴルフビジネスを創造〜」。ゴルフ場全体を点群データから3Dデータ化し、VR空間内で活用する事例で、3Dデータ制作着手からアプリケーション制作まで、わずか1か月の制作期間で実施したとのことです。

同プロジェクトでは点群データの取り扱いだけでなく、アプリケーションの制作までを行う事例だったため、UI・UXデザインの制作やプログラミングに必要なスタッフも含めてのチーム組成となったという吉岡氏。様々な領域の専門スタッフを社内で有することにより、短納期でも柔軟にラインを確保することが可能だといいます。

また、実際に点群データから作成した3Dデータについて、地平面の凹凸や高低差の正確性はもちろんのこと、木などのオブジェクトについては点群データだけでなく現地でのロケハンなどによって調査した情報も併用し、より現実に近い状態を再現しているとのことです。

XRコンテンツの開発に点群データを活用するメリットについて、吉岡氏は「広い空間の3Dモデルを測量なしで作成可能」「構造体の図面がなくても3Dモデルを作成可能」という2点を挙げました。

前者のメリットは、時間と工数を大きく圧縮できること。手間のかかる測量を必要としないため、1日程度で地形データの取得が可能となるとのことです。

後者のメリットとしては、点群データを使うことで、設計図を取得することができない大型機械や、日々構造が変化する工場などに対しても3Dモデルの制作が可能になることを挙げました。

一方で、点群データの利用にはデメリットや課題点もあると言います。具体的には「生の点群データは重すぎてPCの処理が間に合わず、間引く必要がある」「相性が悪い対象物も多い」という2点を挙げました。

前者については、取得した点群データを1/100程度に間引いて使用しているものの、間引き処理だけでも2、3日かかるなど、手間と時間が必要な工程となってしまうとのこと。

また、点群データは木の表面など表面形状が複雑なものや、木陰など環境が細かく変動する対象を苦手としており、機械学習で補正するなどの処理方法が今後求められるだろうと語りました。

吉岡氏は最後に、近年盛り上がりを見せる「デジタルツイン」「ミラーワールド」といった文脈の中で点群データの引き合いが増えていることに言及。前出の課題点などが残るものの、3Dデータ作成におけるコストの低減・高精度化を果たせるデータ形式となっていると説明し、セッションは終了となりました。

XR Kaigi 2020のセッション動画をYouTubeで公開中

今回レポートしたセッションをはじめ、XR Kaigiの公式YouTubeチャンネルではセッション動画を多数公開しています。イベントに参加した人も未参加の人も、ぜひ一度チェックしてみてください。

(参考)XR Kaigi 公式YouTubeチャンネル


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