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テック 2020.07.12

VRってなに? 仕組みや活用事例も含め徹底解説【2020年最新版】

ここ数年、バーチャルリアリティ(Virtual Reality; VR)という言葉を目にする機会が増えてきました。VRといえばゴーグルを被り、夢のような世界を見ることをイメージする人が多いかもしれません。

しかしVRはそれだけに留まらず、私達の社会や生活を根本から変えてしまうほどの可能性を秘めています。本記事では、VRについて詳しく知りたい方に向けて、技術的な仕組みや歴史、現在実現している技術や今後の展開などを紹介します。

【目次】
1. そもそもVRってなに?
2. VRで「臨場感」が生まれるしくみと理由
3. VRはどう使われているか
4. VRの未来
Appendix. もっとVRのことを知りたい人に

そもそも、VRってなに?

VR(Virtual Reality/バーチャルリアリティ)は「人工的に、現実と同等の体験を作り出す」こと、あるいはその体験そのものや、それを可能とする技術全般を指します。

VRを実現する技術には様々な種類がありますが、2020年現在、安価で広く利用されているのはVRヘッドセットです。他には人の周囲をスクリーンで囲う方法やプロジェクションマッピング、触覚や嗅覚デバイスなどでVRを実現、あるいはその臨場感を補強する手法も存在します。


(2020年代初頭におけるVRヘッドセットの代表例、Oculus Quest。)

広い意味でVRを捉えるなら、「そこに実物の星はないけれど、まるで本当に星空があるように感じられるプラネタリウム」もVR的なものだと言えるでしょう。VRは、ヘッドセットがなくても成立するのです。われわれが目にするVRヘッドセットは、「視聴覚において、VRを実現するための手っ取り早い手段のひとつ」ということになります。

Tips: じゃあ、AR、MRって?

VRと並べて語られることの多いAR(Augmented Reality/オーグメンテッドリアリティ)、そしてMR(Mixed Reality/ミックストリアリティ)についても解説しておきましょう。

AR「拡張現実(感)」と訳され、主に「現実の上にデジタルな情報を表示する/重ねる」ものとして扱われています。いわゆる「スマートグラス」や「ARフィルター」もこの仲間に入るでしょう。

MRは、VRやARが融合した環境のことで、「複合現実(感)」と訳されます。MRの世界は、VRやARを全く別の技術として切り離すのではなく、「物質的な環境にどれくらいバーチャルなものが混ざっているか」という度合いによって、VRやARが滑らかに切り替わるような環境です。目の前にあるオブジェクトが物質か、バーチャルな存在なのかを気にすることなく操作することができるようになるでしょう。マイクロソフトのHoloLensやNrealのNrealLightといったデバイスが、そうした環境を実現するものとして「MRデバイス」と呼ばれることがあります。

2020年現在、ARとMRの境界は消えつつある

技術が発展途上だったころのARは、「現実の状態を反映しないもの」でした。2020年現在ではスマートフォンや一部のARグラスなどを中心に、「現実の状態をセンサーやカメラでスキャンし、床の上にCGを置いたり、壁に情報を貼り付けたりできる」ようなARも増加。徐々に「現実を反映するAR」となりつつあります(「現実を反映するAR」を“MR”と呼んでしまっている人もいます。前述のように正確な定義とは異なります)。

 

VRで「臨場感」が生まれるしくみと理由

VRは人工的に現実と同等の体験を作り出す技術です。言い換えれば、我々が現実を認識する視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの感覚情報をコンピュータで人工的に作り出そうというものです。

VRを体験するためのハードウェア

VRを体験するためには様々な種類のデバイスがあります。2012年のOculus Riftの登場以降注目を集め、2020年現在も広く利用されているのがVRヘッドセット(VRHMD、VRヘッドマウントディスプレイ)です。

VRヘッドセットは、主に視聴覚を対象にしたVR体験を実現するためのデバイスです。左右それぞれの目に視差(目の位置のズレ)の分だけずらした映像を提示することで、映像を立体的に見せること(=立体視)が可能です。

さらに頭の動きをセンサが感知・追跡(トラッキング)し、頭を動かして視界が移動した瞬間、コンピュータが瞬時に場面を描画することで違和感のないVRが実現します。VRヘッドセットの中には、カメラが組み込まれており、位置や手の動きを認識するものもあります。

主要なVRヘッドセットには、次のようなものがあります。

・PCなどに接続して使用するハイエンドモデル:Oculus Rift S、VIVE Pro、PlayStation VRなど
・外部機器を必要としない一体型デバイス:Oculus Quest、Pico G2 4Kなど
・スマホを差し込んで使用する簡易デバイス(VRゴーグル):ハコスコなど


(左:Oculus Quest、右:HTV VIVE Pro)

VRヘッドセットは各機種ごとに必要な付属機器が異なっていたり、性能や拡張性も千差万別です。価格も数百円から数十万円まで。各デバイスの比較はこちらの記事を参照してみてください。

触覚などその他の感覚再現

VRヘッドセットは、主に視聴覚で得られる体験を再現するデバイスですが、その他の感覚も再現しようと試みられています。触覚など視聴覚以外の感覚を刺激するデバイスは、VRヘッドセットのように安価に提供するには遠いものも多く、産業用など特定の用途に向けたものもあります。


(触覚デバイスHaptX)

VRはどう使われているか

2012年、Oculus Riftはゲームの体験を進化させるデバイスとして登場し、VRヘッドセットの一般普及への道を切り拓きました。2020年現在、ゲームはあくまでも一用途。すでに様々な分野で利用され始めています。本章では事例の紹介を通じて、今VRでできることを紹介します。

ゲームなどのエンターテイメント

作品の世界に没入できるVRはゲーム、映画など様々なコンテンツ分野で使われています。

VRゲームのジャンルはアクション、パズル、体験、シミュレーション、スポーツなど多岐に渡ります。中にはルールや目的に従って課題をクリアするタイプではなく、シンプルに「様々な材料を使って工作をしてみる」「ものを直接つかんで遊ぶ」といった、インタラクションそのものを楽しめる作品もあります。

VRゲーム以外にも、友達とVR空間で一緒に映画を見ることができるサービスなどコミュニケーションに特化した「ソーシャルVR」というジャンルも人気です。最近ではバーチャル空間で開催されるイベントも増えてきています。

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(ソーシャルVRの例。左:cluster、中央:Bigscreen、右:VRChat)

トレーニングやシミュレーションなどの産業活用

現実で実現するには高コストなこともVRでは安価に再現ができます。しかも何度も繰り返せるのです。また、画面の中で見ていたものを、3次元空間で見ることができるだけでなく、手を伸ばしてインタラクションをすることもできます。このような特長ゆえに、医療、不動産、建築、自動車、製造業等、さまざまなビジネスの現場で導入が始まっています。特に多い用途はトレーニングやシミュレーションです。


(VRの産業活用の例。ウォルマートは17,000台のVRヘッドセットを導入して従業員のトレーニングを行っている)

実証実験を終えた企業が2018年頃から徐々に導入を始め、導入企業は年々増加しています。日本では、デジタルトランスフォーメーションの流れを受けて注目を集めています。

VRのビジネス導入について、詳しくは近畿経済産業局の資料(※リンク先pdf)が参考になります。

VRの未来

VR市場は、今後さらなる拡大が予想されています。2030年までに2020年の30倍近い60兆円規模の市場になる(2019年PwC)との予測もあります。VRヘッドセットはさらに小型・軽量になり、安価にそして手軽になります。また、できることもさらに多くなるでしょう。

では、VRは我々の社会をどのように変えていくのでしょうか? 正確に“予言”するのは難しいですが、様々な企業が掲げるビジョンは、未来を予測する手がかりになります。

いわゆる“テックジャイアント”であるGoogleやApple、Oculus(フェイスブック)やマイクロソフトが共通して描いているのは、MR(Mixed Reality)の未来です。冒頭のTipsでも説明しましたが、Mixed Realityは、ARやVRを別々なものではなく連続的な技術と捉え、それらを自在に混合することができる世界を表します。


(MRの概念図:トロント大学のPaul Milgramが1990年代に考案)

左端には全てが物質で構成される現実(Real)、右端には全てがバーチャルな存在(原物ではないけれど原物と同じ体験ができる)でできたVR環境が置かれています。中間地帯は、物質とバーチャルな存在が入り混じった環境になります。そしてARやVRが入り混じり、用途に応じて自在に使い分けられるような環境、この線全体がMRの世界です。

このように、VRはやがてARと合流し、他の技術とも密接に連携しながら、パソコンやスマートフォンのように「プラットフォーム」となり、社会の至る所に溶け込んでいくことが期待されています。

インターネットが発達した現代において、我々は現実空間とサイバー空間の両方を行き来しながら生活しています。VRはそうした現実のレイヤーを、さらに幾重にも増やしていく力を持っているのです。

Appendix:VRのことをもっと知りたい人に

さらに学べるおすすめの文献

VRという概念や技術、未来について解説しました。VRデバイスで動作するコンテンツを開発してみたい方は、例えばUnityUnreal Engineなどのゲームエンジンを利用すると良いでしょう。公式チュートリアルや、既に開発経験のあるエンジニアによる解説記事などが参考になります。

概念や歴史、VRの可能性についてさらに深い理解を得たい人は、次の書籍などが参考になります。

トコトンわかるVRの本
東京大学 バーチャルリアリティ教育研究センター 編。東京大学に所属するVRの専門家が、基礎から応用までを1トピック2ページでわかりやすく解説した書籍。

VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル
日本で最初に出版されたVRに関する書籍『人工現実感の世界』が大幅加筆を伴って再版。90年代の第一次VRブームから産学のVR動向を追い続けてきた記者が、VR技術の歴史的現場を解説。

VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学
スタンフォード大学で90年代からVR研究を行っている心理学者 Jeremy Bailensonの書籍の邦訳。VRが人の心や行動にもたらす影響について自身の研究を元に紐解き、それが実生活や産業とどのように結びつくのかを解説した書物。

万物創生をはじめよう――私的VR事始

よくわかるVR 何ができる? 社会はどう変わる?
VRがどんな未来を実現するのか、仕組みから応用までを具体的に解説した子供向けの書物。

VRについて学びたいと考えている人は、大学で勉強・研究を行うのも選択肢のひとつ。VRに関する研究(VRのための研究、VRを使った研究)を行う研究者は、全国の様々な大学にいます。VRに関する工学的な研究について、例えばみらいぶプラス(河合塾)の「バーチャルリアリティでリードする大学」などが参考になります。

VRの歴史

いつ頃からVR技術が誕生したか――は難しい問題です。これまで見た通り、レコードでの音楽体験やプラネタリウムも、VR的な側面を持っています。「実物ではないが、実物と同等の感覚刺激を提示する」という意味では、約2万年前に描かれたラスコーの壁画も「ドーム状ディスプレイに手描きの牛が表示されるVR体験だ」と解釈できます(ただし描かれた牛は当然コンピュータで制御されていないので、静止したままです)。

またリュミエール兄弟が1800年代に世界最初の映画を発明した際、(真偽は定かではありませんが)映像の中の汽車があまりにリアルだったために、画面から飛び出してくることを恐れた観客が思わず逃げ出した、という逸話も残っています。大画面での迫力ある映像体験は、現代のVRに通じる臨場感を持っている、と言えるでしょう。

VR技術の誕生

VRを「三次元空間の中で、身体を使って直感的にインタラクションできる」技術と定義すると、その端緒は1960年前後にあります。この頃、計算機技術が発達し、いわゆるコンピュータが登場したことで、工学システムを使って没入感のある感覚体験を作り出す試みが増えてきました。

 

そんな中、登場したVR機器が1950年代に登場した「SENSORAMA」です。これは3D撮影された映画を立体視で覗き込む体験型の筐体でした。映像に加えて音、風、シートの振動、匂いなどを提示する機構を備え、マンハッタンの街をバイクで走りながら油やピザの匂いを感じる体験ができたそうです。

 

1960年代には、アイバン・サザランドが世界で初めて、リアルタイムにCGレンダリングを行うVRヘッドセットを開発しました。天井から伸びるアームに取り付けられたゴーグル型デバイスをのぞき込むと、頭の動きに対応して描き出されるCGキューブを見られました。このシステムは、現在私たちが使用しているVRデバイスとほとんど同じ原理で動作しています。こういった実績からサザランドはVRの祖と呼ばれています。

VR1.0、1980年〜90年代のVRブーム

サザランドがVRの基盤となるシステムを発表して以降、次に大きな動きが見られたのは1980年代に入ってからでした。この頃には実用のためにVRを活用しようとする企業が登場してきます。

1980年代にはNASAが「The Virtual Interface Environment Workstation」と呼ばれるシステムを開発していました。ヘッドセットやグローブ型のコントローラは、見た目の上では現在のVR体験とほとんど同じです。遠隔地にあるロボットに「入り込んで」直感的な操作を可能にしていました。

 

1989年には、VPL Research社からVRヘッドセットである「Eyephone」と、グローブ型のコントローラである「DataGlove」が発売されます。この宣伝の売り文句として“Virtual Reality”が使われたことで、 VRはヘッドセットがもたらす没入体験の象徴的な単語となりました。

この頃になると「コンピュータが生成した3DCGの空間を体験する」技術を研究する研究者が世界中に点在していました。日本においても、産業・学術が連携し、様々なVRシステムが開発されました。日本バーチャルリアリティ学会が発足したのもこの頃です。

ただし、こうしたデバイスの価格は数百万円と一般消費者が購入するようなものではありませんでした。1990年代に花開いたVRブームは徐々に落ち着いてきます。

現在のVRブーム

時は流れて2010年代に入ると、現在のVRブームを引き起こす動きが出始めます。2012年にパルマー・ラッキーがOculus Riftを開発するとして、米国クラウドファンディングにて資金調達を(目標額の10倍を集めて)成功させます。これを皮切りに、各社から次々にVRヘッドセットの発売が発表されました。

(参考)


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