一般社団法人VRMコンソーシアムと株式会社Moguraは、2022年11月18日に「VRMコンソーシアム・オンラインセミナー2022 メタバースの標準化にむけた取り組みと課題について『第2回:クリエイターやIPを活用したイベント事例と、メタバースでの音楽利用について』」を開催しました。
メタバース時代のアバターの相互運用性を見据えた、3Dアバター向けファイル・フォーマット「VRM」。その策定と普及を目的として2019年に発足した団体が、VRMコンソーシアムです。また、VRMの国際的な標準化に向けて、2022年7月に「Metaverse Standerds Forum」(MSF)にも加盟。グローバルでも、共通規格化を図るための活動を続けています。
今回のイベントでは、「メタバースで音楽を使用する際の権利処理」に焦点を当てて、4名の登壇者によるセッションが行われました。
『バーチャルマーケット』では多くの人が集まることでIPの展開も実現できている
まず、株式会社HIKKY(以下「HIKKY」)の代表取締役CEO 舟越靖氏が、「新たな経済圏・文化圏を創る!メタバースで描く未来とは」というテーマでセッションを行いました。
HIKKYは、バーチャル空間にたくさんのクリエイターが参加して作品を展示し、その場で出会ったり遊んだりできるイベント『バーチャルマーケット』を、2018年から主催しています。
同社は「Creative Revolution」という理念を掲げて、創業当初からクリエイターと一緒に活動することにこだわってきたと舟越氏は語ります。あらゆる作品には「うまいヘタ関係なく価値がある」「ものを作ったことがない人でも作ってもいいんだ」という価値観を追求していきたいというのです。
その一方で、ビジネス面は「堅めに行っています」と舟越氏。『バーチャルマーケット』ではクリエイターが多数の作品を出展し、多くの人が作品を見に来たり、買い物をしに来たりします。そこで、その多くの来場者向けのマーケティングや宣伝に結びつけたい企業に様々な出展メニューを提供しています。
また、同社はメタバース事業の参入サポートやバーチャルイベントやライブイベントの制作・運営、さらにプラットフォームやメタバースコンテンツの構築支援も行っています。2022年にはシリーズAラウンドで累計70億円の資金調達を完了し、「順調な成長」(舟越氏)を続けています。
舟越氏は、メタバースが注目されたきっかけは、Facebookが「Meta」に社名を変更し、年間100億ドルの投資を発表したことだと見ています。すでにオタク市場が盛り上がっていたところで、「メタバース」が世界的なトレンドワードになり、様々な企業がメタバースへの参入を発表。「現在は注目が落ち着いてきた感はありますが、これからどのような形で展開されていくのか楽しみ」だと舟越氏は語ります。
『バーチャルマーケット』は、UGC(User Generated Content, ユーザー生成コンテンツ)を展示・販売できるイベントです。これまで、「バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数」と「1時間でTwitterに投稿されたアバターの写真の最多数」というふたつのギネス世界記録にも認定されています。
この2つの記録は、ユーザーの皆様と共に創り上げたことで取得できた記録であり、取得のために皆様にも楽しんでご参加いただいたので、取ることができて良かったと語りました。
『バーチャルマーケット』には多くの人が訪れますが、それにより広告や実験的な施策を行うときも効果が出やすくなっています。
HIKKYが企業に出展を薦めるときも、単に案件を受託するという姿勢ではなく、長年バーチャルをやってきた知見から出展内容を1からご提案するといったコンサル的なアプローチを心がけていて、出展企業との関係は、「受発注の関係」というより、「パートナーに近い形で事業そのものをサポート」する方向にシフトしているそうです。
ちなみに、舟越氏がこれまで10社以上会社を立ち上げてきた中で、多数のグローバル企業と直接取引するようになったのはHIKKYが初めてだそうです。VRやクリエイティブの素晴らしさがそれだけパワーを持っていることを、あらためて実感したと語ります。
『バーチャルマーケット』では企業とのコラボで、キャラクターなどのIPコンテンツ(知的財産権が発生する作品)を扱うことがあります。アバター販売などの企画も依頼されます。当然のことながら、IPコンテンツのキャラクター性を維持するために、様々なしがらみも発生します。1社1社に対応するのもかなりの労力が必要です。
『バーチャルマーケット』のすごいところは、著名IPのコンテンツやブースが同時に100以上展開されているところです。世界的なIPコンテンツは、それぞれの世界観を持っています。IPコンテンツホルダーは、他の作品と横並びにされたくないと思われているけれども、闇雲にそういっているわけではなく、IPコンテンツ固有の世界観を理解して欲しいのだと、舟越氏は語ります。
「意固地に横並びにしてほしくないという人たちばかりではありません。IPコンテンツの世界観を理解した上で、ユーザーや他のクリエイターにプラスになるのであればいいと考える方もいます。イベントの裏側では、社長レベルで話をして(バーチャルマーケットのミッションを)理解してもらっています。」
たとえば、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』には、ゲームやアニメのキャラクターなど、数多くのIPコンテンツが登場します。スピルバーグ監督には実績や知名度がありますから、権利者のみなさんも「大切なIPコンテンツを預けてもいい」と考えやすかったのかもしれません。対する『バーチャルマーケット』は、スピルバーグ監督のような大物は存在しません。イベント自体に多くの方が集まったことで、著名IPの展開ができるようになっていったのです。
HIKKYは自社でプラットフォームを持っておらず、『VRChat』という他社のプラットフォーム上の会場で事業を展開しています。会社が成長していくにつれて、自分たちでもプラットフォームを持つべきではないかという話が社内でも出たそうです。そのときに、「少し違うな」と思ったという舟越氏。「自分たちは、クリエイターだけでなくプラットフォームとも共存していける存在になりたい、であれば誰にとっても汎用性のあるツールを作るべきでは」と考えたのです。
そこで、メタバース構築の根幹となるエンジンを作って、それぞれが自分の空間を開発できるようにしていこうというコンセプトで生まれたのが、『Vket Cloud(ブイケットクラウド)』です。いわゆるゲームエンジンのようなもので、VRゴーグルなどを使わずブラウザだけでアクセスできるのが特徴となっています。
『Vket Cloud』は、法人向けは有料ですが、一般クリエイターには無料で提供しています。徐々に進化も遂げており、すでに500人程度の同時接続は実現。今後は1万、10万人といった人数の同時接続にも対応していく予定です。また、参加者がVRMのファイルを読み込ませて、自分のアバターでメタバースの中に入ることができるようになりました。
同社は『バーチャルマーケット』を展開するほかに、渋谷や秋葉原などをバーチャル化して展開する事業も手がけています。そのひとつが、『パラリアルワールドプロジェクト』です。2022年10月には「バーチャル沖縄」(運営:あしびかんぱにー)が参画し、地方創生のひとつの形として、VRソリューションを実現しています。『パラリアルワールドプロジェクト』では『VketCloud』を地方自治体などへ無償提供することも考えており、使い方のアドバイスなどもすでに行われています。
舟越氏にとってHIKKYは、「今後実施することを発表して実現していく、有言実行の組織」です。たとえば決済手段や現物の郵送・配達など、メタバースと直結していない部分があります。BtoBの要望だけではなく、BtoCの要望も多く寄せられているため、そのどちらにも答えられるようにしていこうとしています。
それらに足元で取り組みながら、大きな視点では「90年代にインターネットが普及し出した頃にあったような経済圏の発展が、このメタバースによって生まれると思っている」と舟越氏は語ります。メタバースブームの浮沈とは関係なく、社会現象それ自体をクリエイターと共に自分たちで作っていきたいと思っているからです。
メタバースの強みを活かして脱スクラップ&ビルドを目指す
「メタバース+IP活用への挑戦!~初音ミクVRテーマパーク『MIKU LAND』~」というテーマで行われたのが、株式会社バーチャルキャスト(以下「バーチャルキャスト」)の代表取締役社長 松井健太郎氏によるセッションです。
今回は、自身がバーチャル空間の中に入り登壇した松井氏。バーチャルキャストは、札幌にある株式会社インフィニットループと、株式会社ドワンゴの合弁会社として2018年に設立されました。サービス名でもある『バーチャルキャスト』は、「誰でもVTuberになれる配信システム」を目指すことから開発がスタートしています。その後、コミュニケーションやイベント、教育、ビジネスなどの分野も手がける総合的なVRプラットフォームに成長してきました。
事業内容は、VRを活用した教育事業がメイン。N高等学校やS高等学校でのVR学習で『バーチャルキャスト』が採用されています。企業向けVR事業やメタバースイベント事業なども行います。体験型のVR教材を提供していて、立体的な教材を使い、動かして学習したり、歴史遺産を360度で見て回るなど、動きやスケール感を直感的に理解できます。
N高等学校やS高等学校は、通信制の学校です。そのため、学生のコミュニケーション能力が伸びなかったり、面接の練習ができないといった課題がありました。その部分もVRを使って補っています。BtoB領域でも『バーチャルキャスト』は使われており、明電舎グループの活用事例では、リモートで受講できる安全体感教育や過去の労働災害を再現しています。
この『バーチャルキャスト』を活用した教育研修の特徴は、VCI(Virtual Cast Interactive)を採用したことで、安価に教材アイテムが制作できるところです。また、ひとつの空間に多人数がオンラインで参加できるので、一緒に課題を解決したり、ディスカッションをしたりといった研修も可能となっています。
また、多くの対応が現場の運用で柔軟にカバーできるところも『バーチャルキャスト』の特徴です。たとえば、バーチャル空間内で特定のオブジェクトを動かしたいとき、従来のシステムではプログラマーが数値を修正してビルドを行うといった、多くの手間がかかっていました。しかし、『バーチャルキャスト』ならば、ユーザーの誰かがログインして動かす程度で済みます。さらに、自社でプラットフォームを作っているため、必要に応じて機能を追加することもできます。
メタバースイベント事業は、主にIPやVTuber関連のイベントを中心に行っています。こちらは「持続可能な形」を意識しており、チケット販売やデジタルコンテンツ販売を中心に、きちんと収益が上がるようにしているとのこと。スマホ視聴に対応する場合はあるものの、あくまでVR機器を中心に展開されています。VR機器で参加できない人のために、グループ会社のドワンゴが提供する配信サービスなどでも見られるようになっています。
『VRグリーティング』というVR空間内での握手会も実施しています。また、初音ミクの公式VRテーマパーク『ミクランド』は、2020年から年に1~2回ずつ、過去6回開催されているイベントです。VR空間の中に初音ミクの世界観をモチーフにしたワールドを再現しています。2022年夏には、リアルイベント『マジカルミライ』との連動も行っています。
メタバースの強みを活かすために、『ミクランド』の運営は、脱スクラップ&ビルドを目指しています。リアルイベントはスクラップ&ビルドの典型で、多額の費用を掛けて会場を作り、当日の夜には壊してしまいます。しかし、メタバースなら、ベースの会場を維持したまま、ワンタッチで設営や撤去が行えます。
『ミクランド』も、ベースの会場を毎回増築していく形を採用しています。少しずつコンテンツが追加されていきますが、そうした中でも定番コンテンツが生まれたり、イベントが行われる度に、久々に帰ってきた感が味わえたりするのも特徴とのことです。
また、「初音ミクたちに会えること」も松井氏が大事にしているポイントです。初音ミクやVTuberは、リアルな世界には存在しません。目の前で会えるのはメタバース空間の中だけに限られます。その特徴を活かすために、広場でのグリーティングイベントや生ライブ、ユーザー同士のコミュニケーションなども行われています。
コロナ渦で活動が難しくなった創作の火を灯し続けるために生まれた『NEOKET』
「オンライン即売会NEOKETの事例紹介」というテーマで行われたのが、ピクシブ株式会社(以下「ピクシブ」)のVP of Product 新規事業部事業部長 清水智雄氏によるセッションです。
『NEOKET』は、バーチャル空間で行われるピクシブ主催の展示即売会です。コミケなどのオンライン版ともいえるイベントです。本物の即売会のように、サークルごとにスペースがあり、そこで様々なものの展示や販売が行われています。
サークルによってはサンプルのPDFが用意されており、その場で読むことができるほか、来場者がサンプルを読んでいるときはそのモーションになるため、クリエイター側からもサンプルが読まれているとわかるところもポイントです。
『NEOKET』は、参加費無料で体験できます。対象頒布物はオールジャンルですが、2022年11月の開催では4週にわたり実験的にジャンル分けしたテーマで行われました。また、『NEOKET』には3DアバターをVRM形式で自由に持ち込むことができます。3Dアバターのデータを別途用意されている『VRoid Hub』にアップロードすることで『NEOKET』上から読み込むことができるようになります。
サークルスペースで交流することもできます。その場でマイクを通して、ユーザー同士が生の声でやりとりが行えるところにこだわっています。オンラインでは、間接的なコミュニケーションになりがちです。しかし、即売会の醍醐味は、サークル側のクリエイターが、その場で見ている人や応援している人とリアルに接すること。それをオンラインで再現することを目指しているのです。
購入・決済は、ECサイト作成ツール『BOOTH』を利用して行われます。『NEOKET』を利用するには『BOOTH』でお店を持っている必要がありますが、その場で簡単に作ることができ、商品の追加も簡単にできます。『BOOTH』は月間PV7,000万、店舗数は45万と規模感もかなりのもの。デジタルアイテムだけではなく、リアルに本を売ることもできます。また、倉庫サービスもあるので、自宅から発送する必要もなく、決済後に自動発送してもらうことも可能です。
購入した頒布物は、『NEOKET』の会場内でアバターが持ち歩くことができます。アイテム購入がサークルにも伝わり、他の参加者に見せびらかすこともできます。こちらもリアルな即売会を意識したものです。
ひとつのインスタンス(島)に1,000人が同時参加できるところも、当初からのこだわりです。参加者が複数のインスタンスに分かれてしまうと、クリエイターがサークルの参加者とその場で話すことがなかなか実現できません。そこで、ひとつの空間内に全員が参加できるようにして、即売会の一体感が生まれるようにしているのです。
『NEOKET』をはじめるきっかけは、やはりコロナ渦でした。創作界隈にとっては重要な、リアルな即売会の多くが中止になったからです。そこで、創作の火を灯し続け、創作のサイクルを維持するために『NEOKET』が生まれています。
現在もなお、リアルな即売会はコロナ禍以前のような開催形式で行われていません。そもそも東京で開催されることも多いため、地方在住者はなかなか参加しづらい状況が続いています。そうした問題を抱えた人たちにとっても、オンラインで開催できることに価値があるのではないかと、清水氏は考えているそうです。
最後に清水氏は、「今後もリアルな即売会のいい部分をオンラインでも提供しつつ、リアルの課題も解決していきたい」と語りセッションを締めくくりました。
メタバースの権利処理は一般的なインターネットサービスと同じ
「メタバースにおける音楽著作権関連の取り扱いと課題について」というテーマで行われたのが、日本ネットクリエイター協会(JNCA。以下「日本ネットクリエイター協会」)の専務理事 仁平淳宏氏と株式会社NexToneの執行役員 営業本部本部長 伊藤圭介氏によるセッションです。
日本ネットクリエイター協会は、ボカロPや歌い手、動画制作者、イラストレーター、ゲームクリエイターなど、ネットで活躍するクリエイターの権利処理や確定申告のサポート、文芸美術国民健康保険組合のあっせんなどを行っています。現在は1,500名以上のクリエイターをサポートしている団体です。
NexToneは音楽著作権管理事業者で、日本で同様の事業を行っているのは日本音楽著作権協会(JASRAC)と同社の2社のみ。つまり、日本の楽曲の大半は2社のどちらかで管理されているともいえます。NexToneは音楽の著作権管理を基幹事業にしながら、様々な事業も展開しています。
まずはNexToneの伊藤氏から、メタバースでの権利処理について紹介が行われました。著作権管理の基本として、オンラインやオフラインに関係なく、勝手に他人の著作物を使うことはできません。権利者から利用許諾を得る必要があります。まずは利用したい著作物にどのような権利が発生しているのか、事前に把握しておくことが大事です。
メタバース内では、映像や音楽、イラスト、実演(例:アバターの動作)、コンピューターのプログラムなど、他の人に権利が発生する著作物を数多く扱います。たとえば、「メタバース空間で映画を流したい」ときは、プロデューサーや監督、脚本、原作、出演者、美術担当、音楽担当など、権利関係者のオンパレードです。
このとき、すべての関係者からひとつひとつ許諾を得る必要があるのかというと、必ずしもそうではありません。たとえば、映画の場合は、製作委員会形式で作品の制作・販売などが行われていて、製作委員会を窓口としたやりとりを行えることがあります。
一方で、音楽をメタバース空間で流したい場合は、音源に関する権利(例:原盤権)についてレコード会社等から利用許諾を得ることが必要です。また、その音楽の実演家である、アーティスト(歌手・演奏者)が持つ権利(例:実演権)の利用許諾も必要です。もっとも、音源に関する権利はレコード会社が持っていて、実演家からの利用許諾もまとめて許諾する形になっているのが一般的です。
このように、コンテンツの種類によって権利者が変わるため、個別に処理する必要があるのです。
メタバース空間で遊ぶ人たちは、リアルな空間と変わらない感覚でいるかもしれませんが、適用される法律がリアルな空間とは変わるところがネックになることがあります。そこで、仁平氏がバーチャル空間で活動しているクリエイターから、疑問に思っていることを事前に募集。それに対して、伊藤氏が解答するというスタイルでトークが進められていきました。
Q1. バーチャル空間で参加者から参加費用をいただくイベントを開催するときに、会場内で音楽を流すときの権利処理は、リアル空間とはどう違うでしょうか?
Q.2 参加費用をいただかずに、バーチャル空間に仲間内で集まって会合を開くけれども、市販のCD音源から音楽を流す場合には、原盤権や著作権はどう処理するべきでしょうか?
Q.3 参加費をいただくイベントをバーチャル空間で開催し、そこで音源の販売を行うときに、特別な権利処理は必要でしょうか?
Q.4 バーチャル空間で参加者から参加費用をいただくイベントを開催するときに、主催者が権利を持つ楽曲を、参加者みんなで合唱するときには必要でしょうか?
Q.5 バーチャル空間で参加者から参加費用をいただくイベントを開催するときに、ゲーム実況が可能なタイトルを実況する場合でも権利者に確認は必要でしょうか?
上記の質問にたいして伊藤氏は、バーチャル空間でミュージックビデオを流す場合、その曲が著作権管理事業者に登録されていれば、著作権管理事業者に事前申請をして使用料を払う必要があると説明。その申請に基づいて、作詞・作曲者に著作権使用料が支払われます。逆に登録されていない作品を利用する場合は、個別に著作権者と連絡を取って条件交渉を行い、使用料を支払う必要があります。また、ミュージックビデオの映像も使用しているため、映像原版の権利の許諾を得る必要があり、当然のことながらそちらの使用料も払う必要があるのです。
メタバース空間にはリアル感があるため、リアル空間でのライブに近い権利処理になるのではないかと考えがちです。しかし、メタバースはインターネット上で展開されているサービスです。特別なことはなく、通常のインターネット上の配信サービスだと解釈したほうがいいとのこと。
権利処理の方法も、他のインターネットサービスと変わりません。何も難しいポイントはなく、そのサービスが有料なのか無料なのか、ストリーミングなのかダウンロードなのかサブスクリプションなのかなど、どのような利用方法で音楽を利用するかによって、使用料条件や手続きが異なると考えればよいそうです。
メタバース以前に、SNS投稿プラットフォームなどでは、クリエイターに権利処理を任せるのは難しいというのが実状です。NexToneも、利用許諾を正しく行い、使用料徴収額を権利者に分配するために、プラットフォーマーとのやり取りを効率的に進めることも重要だと考えているとのこと。この先、メタバース利用者が拡大していくなかで、プラットフォーム側も体制を整えて、包括的な権利処理を行えるようにする必要があるのではないか、とのことでした。
いわゆる“偉い”といわれている先生の中には、「バーチャル空間もリアル空間も同じ空間なんだ。これからは、リアルとバーチャルの融合なんだ」と主張する人がいます。また、バーチャルはこのルール、リアルはこのルールというように、共通のルールを作ってもらいたいと考えているユーザやクリエイターもたくさんいます。
それに対して伊藤氏は、著作権法には新しいメディアが社会に現れるたびに、新しい条項を追加・修正してきた歴史があり、バーチャル空間での利用においては、現状インターネット上の利用として取り扱っているが、ルール・条件が明確で分かり易ければ、必ずしもバーチャル空間とリアル空間の許諾条件を無理やり融合させる必要はないかもしれないと語ります。
多くの人がリアルとバーチャルの区別をなくすことを希望しているのは、リアルなほうが処理が楽だと感じているからです。そのため、なぜ融合したいと考えているのか意見を聞いてみたいと伊藤氏はいいます。
メタバースは3D空間で、リアリティが高いがゆえに、権利処理で混乱しがちです。しかし法律上はまだ、インターネットサービスのひとつに過ぎません。「メタバース内で音楽をどのように使うのか」といった身近なところから、権利処理を考えていくことが前提になるのでしょう。
第3回のオンラインセミナーは2023年に開催予定
8月に行われた第1回のVRMコンソーシアムのオンラインセミナーに引き続き、開催された今回のイベント。次回は2023年に第3回の開催が予定されています。詳しい日程は「Peatix」で掲載されます。そちらにも注目してください。