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業界動向 2024.07.29

世界トップ企業や政府にも採用される高品質XRヘッドセット「Varjo XR-4」の戦略とは。担当者に訊く

高解像度なHMDといえば、フィンランドのVarjo社の製品がまず思い浮かぶ。企業市場向けなので、体験したことがある人自体は少ないだろうが、その画質・品質は圧倒的に高い。

一方で、市場には高解像度なHMDが続々と登場しつつある。中でもAppleの「Vision Pro」は多くの注目を集めており、企業向けでの利用も進むと見られている。

この状況に、Varjoはどのような戦略で臨むのだろうか? 今回はVarjoの最新XRヘッドセット「Varjo XR-4」を体験しつつ、担当者に話を聞いた。

今回お話を伺ったのは、Varjo・VP of Sales EMEA & APACのJoakim Dekker氏と、同・Senior Soft EngineerのSamuli Jääskeläinen氏だ。


(写真左:Senior Soft EngineerのSamuli Jääskeläinen氏。写真右:VP of Sales EMEA & APACのJoakim Dekker氏。撮影:西田宗千佳)

Varjo XR-4を体験。「肉眼レベルの品質」に偽りなし

まずはVarjo XR-4について見ていこう。

冒頭でも述べたように、Varjo製品の特徴は「高解像度」であること。Varjo XR-4も、3840×3744ドットのミニLED採用液晶パネルを2枚使い、51ppdと密度の高い映像を実現している。参考までに、Metaの一般消費者向けHMD「Meta Quest 3」は約25ppdだ。


(「Varjo XR-4」。周囲の様子を確認できる高解像度のカメラや、距離を測るためのセンサーが多数搭載されている。撮影:西田宗千佳)

HMDを設計する場合、一般的には解像感と視野角はトレードオフになる関係にある。だがXR-4の場合、視野角は水平方向に120度・水平方向で105度と広い。

また、ビデオシースルーによるMixed Reality(複合現実、MR)用のカメラも搭載しており、周囲の様子を確認することができる。

XR-4は大きく2つのモデルがある。外部センサーを使わない「インサイドアウト方式」のトラッキングに限定したモデルと、外部にセンサーを置く「アウトサイドイン方式」にも対応したモデルだ。後者はSteamVRに準拠しているとのことだ。


(「Varjo XR-4」のアウトサイドイン方式トラッキング対応版。SteamVRに準拠しているため、開発もしやすいだろう。撮影:西田宗千佳)

今回はインサイド・アウト方式でのデモを体験したが、精度に問題はなさそうだと感じた。アウトサイドイン方式のものについては、すでに後付けのトラッカーを導入済みの企業も多いため、そうしたニーズにも対応するためとのこと。

VarjoのHMDは基本的に高性能PCと接続して使うことを前提としている。今回のデモも同様で、ケーブルでPCと接続した上で利用している。解像度の高いディスプレイも、ハイエンドなPCとのセットで使うことを前提とした仕様だ。


(「Varjo XR-4」を体験中の筆者)

かぶってみると、当然ながら画像のクオリティは非常に高い。国内代理店であるエルザジャパンのサイトでは「肉眼と同等の解像度」と説明されているが、確かにその表現も的外れなものではない。

例えば自動車をバーチャル空間に配置してみたが、ディテールを含めとても精細に表現されている。ボディの塗装や周辺の反射もきちんと再現されていて、特にMixed Reality環境だと「まさにそこにある」という感覚が強い。

また、純粋なVRモードでコクピットのシミュレーションも体験できた。こちらも画質的には実写感覚。ちょっと普通と違うのは、XR-4が「視線認識機能」を備えているため、それを使ったシステムが存在していたことだ。写真のように、視界の中に「どこを見ているかのヒートマップ」を重ねられるようになっている。実際にシミュレーションとして使い、習熟度などを分析していくにはとても良い機能だろう。

もう一つ、今回はとあるデモが用意されていた。現在彼らが「テクノロジープレビュー」として公開しているTeleportという技術だ。

これはLiDAR搭載のiPhoneとアプリを使って周囲の動画を撮影すると、その動画から空間を3Dデータに変換するというもの。そして、そのデータをXR-4の中に配置して体験することができたのだ。


(「Teleport」のスクリーンショット。iPhoneで撮影してから再構成されたとは思えないクオリティだった。3D Gaussian Splattingを使っているという)

これもかなりインパクトが強い。元々のデータの質が高いということもあるが、それを実物と同じサイズで、肉眼に近い質感で見られるHMDの中で体験していることもあり、「そこにいる」ような体験ができた。

Varjoの価値は「開発の自由度」と「セキュリティ」にある

一方で、Varjoには強敵も現れ始めている。もっともわかりやすいのはVision Proだろう。XR-4の方が解像度も視野角も大きいが、表示の美しさ・リアリティという意味ではかなり近い。Vision Proの60万円弱という価格は「高い」と言われるが、法人市場を考えるとそこまででもない。そもそも、XR-4はVision Proよりずっと高価であり、最も安いモデルでも71万円を超える。

しかし、Varjoはこれらのライバルが出てくることをあまり気にしてはいないようだ。それは独自の強みがあるからでもある。そして、Vision Proとの競合について問われたDekker氏は、「我々の製品とVision Proは、必ずしも競合していない」と語った。

「弊社のコアユーザーのほとんどは、非常にハイエンドなソフトウェアエコシステムを持っており、それをサポートできるのは弊社だけです。弊社顧客が求めている作業の多くは、おそらく、Metaの製品やVision Proではできないものです。おそらくVision Proはホームエンターテイメント向けであり、もっと言えば2Dコンテンツ体験向けだと考えています」(Dekker氏)

Dekker氏が語ったのは、すなわち機器を使う上でのアプリケーション開発基盤が重要、という考え方だ。

「差別化要因となるのは、ビジュアルの高い再現性だけではありません。私たちが提供するソフトウェアエコシステムへのアクセスです。弊社にはソフトウェアのインテグレーションを行う専門チームがあり、すべての主要なエンタープライズソフトウェアエンジンをサポートするためにAPIを更新しています」(Dekker氏)

「考えてみてください。弊社の場合、Unity・Unreal Engineのどちらもサポートしています。必要ならば、Varjoネイティブな環境も用意されており、ヘッドセットにより深いレベルでアクセスできます。他のヘッドセットとも互換性を維持できるOpenXRもサポートしています。こちらではそれほどハードウェアに深くアクセスすることはできませんが、それでもAppleのエコシステムが提供しているものよりもオープンなので、ニーズに応じて、もう少し深く行くこともできます。例えばカメラのデータストリームを取得して、自由に活用することもできます」(Jääskeläinen氏)

コンシューマ向けのHMDは、PCなどの接続を前提としないスタンドアローン型が多く、使える演算力には一定の制限がある。しかしPC接続を前提としたVarjo製品は、そのパワーをフルに活かすことができる。

もう1つ、彼らが強みとして挙げるのが「セキュリティ」だ。

「政府関係を含めた多くの顧客が、ハイレベルなセキュリティを求めています。その場合、製品は特定地域外で製造される必要があります。Varjoはフィンランドに独自の製造拠点を有しており、“セキュア”と呼ぶ製造ラインがあります。これらの出荷先は、主に政府関連向けです。彼らはセキュリティを非常に大切にしており、デバイスには通信を行う無線コンポーネントが一切搭載されていないことを求めます。これは我々も重視している点であり、だからこそ政府や防衛関連の案件が増えているのです」(Dekker氏)


(「XR-4」には「Secure Edition」が存在する。Dekker氏が語るように、製造は100%フィンランド国内で行われ、無線通信用のコンポーネントを一切持たない構成となっている。画像:Varjo)

軍事や政府関連目的のシミュレーションでも、XR機器は重要になってきている。それらの場所で使うのであれば、厳密な管理のもとに出荷され、かつ有線で使う安全なHMDの方が良い……ということになるのだろう。

なお、Varjoはこの5月に、クラウドストリーミング「Varjo Reality Cloud」の開発を終了すると発表している。編集部が別途取材した情報によれば、こちらも「セキュリティを重視する顧客」の要望と開発リソースの兼ね合い、という部分が多かったようだ。

3D化ソリューション「Teleport」に大きな可能性

もう1つ、彼らが現在力を入れているのが、前出の「Teleport」という技術だ。周辺を3Dキャプチャする技術は多々あるが、筆者の体験での感想として、品質の面で言えばトップクラスではないか、と感じる。


(画像:Varjo)

「Teleportはまだプレビュー段階の技術ですが、その将来性には大きな自信を持っています。我々はLiDARを搭載したiPhone Proに専用アプリを入れ、それで撮影した動画をクラウドで処理する、というアプローチを取りました。LiDARを必要とするのは、より正確な距離情報を取得するためです。いろいろなキャプチャ技術があるのは知っていますが、この方法がもっとも簡単で、使いやすいと考えています。他社は多くの場合、データを視覚化するのに独自の方法を使っていますが、この方法ではデータをヘッドセット利用するのに手間がかかります。Varjoの場合は、Unityプラグインを取得することで、データセットを簡単に組み込めます。Teleportを顧客独自のプロジェクトに組み合わせることもできます」(Jääskeläinen氏)

クラウドベースなので処理時間は必要になるが、高精度な3Dシーンのキャプチャの可能性は大きい。手軽に作れるようになれば、それだけVarjo製品が使われる可能性も広がるだろう。現在はアーリーアクセスで一部開発者と顧客に提供しテストしている段階だが、より多くの開発者に公開され、色々気軽に試せるようになることを期待したい。

(執筆:西田宗千佳、編集:水原由紀)


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