日本人の代表がイギリスで創業した「Kudan」はイギリスに開発部隊をもち、ヨーロッパで実績を重ねている会社です。「クダン」とは、人間の顔に牛の体をもつ日本の妖怪のことで、その妖怪が現れると天変地異が起こるといわれています。Kudanは業界に天変地異を起こそうというところから名付けられたとのこと。
本講演ではスマホを使ったARの説明、実例の紹介や簡単なテストが行われました。千葉氏はまず前置きとして開発者の内心を代弁します。「現状のスマホ用ARアプリには不満足なものが多く、本格的にAR/MR用のアプリ開発をはじめるなら、HololensやTangoのようなハイエンドのプラットフォームがユーザーの手にいきわたるまで待つしかない」そんな風に思っていないだろうかと。
iPhoneでの実演
千葉氏はデモ映像として、スマホで上に太陽系が浮かんでいる映像を流しました。簡単に出現した惑星はしっかりその場に貼り付いて表示されています。普通のスマホでも高性能なプラットフォームと同じようなことができることの証明です。
なお、プロジェクトファイルはGithubにて公開しており、デモアプリはKudanのサイトからダウンロードもできるとのこと。
ベースにあるのはコンピュータビジョン技術
会場のオーディエンスの興味を引いた千葉氏は、Kudanの紹介を始めます。ベースにあるのはコンピュータビジョン技術。ビジュアルSLAMを活用した独自の「2D/3D認識エンジン」です。
ビジュアルSLAMとはスマホが周りの環境をみて、環境の3Dの形状を認識し、その認識から自分がどこにいるのかをリアルタイムで割り出す技術です。千葉氏は「Kudanはそれをビジュアルだけでやっています。赤外線センサーや、複眼カメラ、加速度センサーもジャイロもいらない。完全にカメラだけでやってしまう技術をもともと持っています」と話します。
また2D/3D認識エンジンをもとにアプリを開発しやすくした「AR SDK」もあるとのこと。
SLAMの技術デモ
千葉氏はこう続けます。「単眼カメラでも動かすことによって、その位置の小さな違いをもとに深さを探り出している」。
ビジュアルSLAMのエンジンはAR/MRだけではなく、VRのデバイスにおいても活用できるとのこと。VRデバイスにカメラを搭載し装着すれば、ビジュアルSLAMが空間を認識するので自分がどこにいるかわかります。つまり、ヘッドマウントディスプレイだけで歩くことが可能なVRを実現できるのです。
同社ではロボティクスにおいてもビジュアルSLAMを応用しています。現在の場や倉庫では、下にラインを引きその上をロボットが移動するのです。しかし同社のエンジンを使えば、マップがわかっている範囲であれば、ロボットは周囲を見渡すことで自分がどこにいてどこに行けばいいのかがわかります。千葉氏は「それをカメラだけでやってしまう」という。
上記の精度を持つビジュアルSLAMエンジンもiOS/Android向けへの提供を予定しています。
Marker/Markerless インタラクティブなKudanAR SDK
話題はモバイルアプリに移ります。
マーカーセットのARでは、事前に画像を登録しておき、それに対応する動画を出しています。しかし「KudanAR SDKの強みは、動画を出すだけでなく角度をつけて見てもしっかりと認識し続けること。指で遮ってもふわぁっとなりにくい」と千葉氏は主張します。
1つの目印から1つのコンテンツを出すだけではない、とのこと。CDジャケットを認識して音を出す場合、スマホの角度に合わせて曲を変え、聞こえ方も変えることが可能。複数間のマーカーの位置認識をすることで、ある特定のマーカーが指定した位置にあれば指定されたコンテンツを出す、ということができます。つまりインタラクティブな形のARといえるのです。
マーカレスの場合はどうでしょうか。
フォードの新車を表示させるときでも、マーカーをプリントアウトして置くなどの手順は必要なく、フォードを読みこむだけで車が出てきます。車の中身まで3DCGで作っているものならば、シームレスに近寄って車の中に入ってみることも可能とのこと。
「いろいろ複雑な環境に置いてみて、いろんな角度から見てみる、振ってみる、暗いところでも見てみる。いろいろ試して、うちのエンジンの強さを見ていただければ幸いです」と自信をのぞかせる千葉氏。
AR SDKの導入実績
左画像はフォードの自動車配置シミュレーション。1分の1サイズで出すことも可能なので、自宅のガレージに置いた様子、家の前の道路に置いた様子をシミュレーションできます。中央の画像は家具配置アプリの画面。店頭の家具を家の中に置いた様子のシミュレーションで、もちろん角度を変えて見ることも可能。右画像は床材のシミュレーション。自分の部屋に似合うカーペットを試しています。
日本ではテレビ朝日の「ミュージックステーション」のアプリ、サントリーのキャンペーン用の鉄道模型を出すアプリも弊社のエンジンが使われるなど、日本でもじわじわと利用実績が出ているようです。
以上のように速く、軽く、強いKudanAR SDKですが、モバイルARを普及させる意味もあって、無料でダウンロードできるとのこと。
講演の最後には、千葉氏が実際にKudanAR SDKをダウンロードして、マーカー上に球体を出現させるところまで実演し、難易度が高くないことを伝えました。
詳しい技術情報やドキュメントについてはサイトに情報を載せており、デモアプリもGithubでソースコードを公開しているとのこと。「開発チームが全員イギリスにいますので会話は英語になりますが、最近のGoogle先生は優秀なので(お問い合わせいただいても)きっと大丈夫です」と会場の笑いをさらって、千葉氏の講演は幕を閉じました。