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活用事例 2017.05.26

【Unite2017】GoogleはなぜVR/ARに関心を持つのか Daydream/Tangoプロデューサーの講演をレポート

 
5月9日から2日間に渡って開催された開発者イベント「Unite2017」。その初日にはGoogleのシニアプロデューサー、アレックス リー氏による、開発者向けの講演が開かれました。DaydreamやTangoのパブリッシングプロデューサーとして活躍するリー氏の講演には、スマホ用のVR/ARアプリ開発に乗り出すべき理由が散りばめられていました。
 
講演は「なぜGoogleがVR/ARに関心をもつのか、またなぜこれほどVR/ARに投資をするのか」というリー氏の問いかけから始まります。

それによると、Googleのミッションはユーザーが情報にアクセスしやすく、そして情報を使いやすくすること。私達が世界とやりとりをするやり方と、VR/ARはディープに関わっているとのことです。
 

VR/ARをシェアするのにスマホを考える理由

コンピューティングの歴史を振り返ってみると、PC、インターネット、モバイルとメインテーマのシフトは15年おきに起きています。そしてVR/ARがこれからの次なるビッグウェーブになることが予想されています。

ちなみになぜ今、過去のウェーブにあったモバイルデバイス、スマホを使い続けているのかといえば、単純な話で世界で30億台が普及しているから。世界で15億の新しいスマホデバイスが毎年売られているという統計もあります。リー氏は「この規模はGoogleにとってだけでなく、アプリ開発者にとっても重要だろう」と語りました。
 
 

VR開発に必要な3つの要素


GoogleはモバイルVR用には「Daydream」、モバイルAR用にはTangoというプラットフォームを持っています。


VRプラットフォーム「Daydream」は段ボール製の「Cardboard」と、ハイエンドモデルVRの中間に位置する。Cardboardはすでに1000万台出荷されていますが、「高品質なVRの体験」という観点からは十分ではなく、一方でハイエンドモデルはデスクトップに縛られるという難点があります。

そこで「情報をユニバーサルにアクセサブルにすることを目指しているGoogleにとっては、スマホの規模感を活用できる左寄りの金額帯が手ごろで魅力的でした」とリー氏は述べます。
 

Daydreamのコントローラーは、ケーブルであれボタンであれ「体験」の障害になってはならない、というコンセプトのもとに生まれており、非常にシンプルな仕上がりです。
 

プレゼンス(存在)の感覚を汲み取る


VRのコンセプトは自分がいるはずのないところにあたかもいるかのようにマインドセットを変えていくというもの。そのためには3つの要素、つまり視覚、聴覚、そしてインタラクション(相互作用)が必要です。

1、見えるもの(魔法の20ミリ秒)


現実の世界では頭を動かす時には目も同時に動くため、頭と目に入ってくる光の誤差は0ミリ秒と言われています。頭の動きと目の動きが合わない場合はぎこちなくなってしまい、脳が目の前の光景を現実だと理解するための誤差は、20ミリ秒以下でなければなりません。

「ハードウェアのレベルでもソフトウェアのレベルでも、魔法の20ミリ秒を絶対に超えないことを基本にした」と話すリー氏。20ミリ秒以内を実現するためにハードウェアに必要なものは、低残像のディスプレイ、ハイパフォーマンスなプロセッサ、遅延の少ないセンサー。またOSではVR向けのデザインとして「アンドロイドN」(Android 7.0)が対応しています。

 

2、聞こえるもの


限られた資源の中で20ミリ秒以内を実現しつつ、没入感をさらに深めるには、オーディオを忠実にすることがポイントになります。たとえばVR上に木を表現するのであれば、ディテイルを加えるよりもローポリゴンモデルにオーディオを加える方が、よりVRの世界を体感してもらえるのです。


また、環境も大きく状況を変えます。同じ会話をするのでも、森の中と宇宙船の中とではまったく異なる。リー氏は「そこで我々はデヴェロッパーの皆さんが簡単にユーザーをVR内に入れるようにしました。SDKの中で特定の部屋の大きさや物理的な素材を入力すると、SDKが自動的に正確にマッチしたヴァーチャルな空間を作ります」と述べました。これにより没入感も高まることになります。
 
 

3、インタラクション


このDaydreamのコントローラーはさまざまなインタラクションを可能にしました。Rモデルと呼んでいるコントローラーは、頭や手を動かすと、それに合わせて物体を動かすことができます。バットを振ったり、パンケーキを振り返したりという動きがすべてナチュラルに可能。コントローラーについては開発キットには16の異なるデモがあり、オープンソースも公開しているとのことなので、開発者としては参考になるでしょう。
 
なお、VRを開発するうえでの注意点がいくつかあります。ユーザーが右、左、上、下を見るのは問題ないですが、肩越しに後ろを見る、下を覗き見る、ローラーのついた椅子でスライドしながら見ることなどは厳しいかもしれません。また、VR内の世界は優しい動きのほうが受け入れられやすいため、激しい動きを入れる場合には、その時間を短めにした方が良いようです。こちらのデモのオープンソースもあるので、参考にできます。
 
また、リー氏はDaydream用の開発ツールもいくつか紹介しました。Daydreamレンダラー、インスタンスプレビュー、インストラクションツール。GPUの統計的な解析ができるギャップリードはまもなく発表予定とのこと。
 
 

AR:ヴァーチャルなオブジェクトをどのようにリアルにするか


ここからはモバイルARプラットフォームTangoの紹介です。

通常のスマホは、空間をみても何百万という画素を認識するだけです。しかしTangoを搭載したスマホは人間的な感覚に少し似ています。画素数ではなく、空間の科学的な構成、表面、または障害物はなにか、というところを見るからです。
 
ではなぜTangoが世の中を理解することが重要なのでしょうか。ARのヴァーチャルオブジェクトは、実際の世の中のものと同じように重力や距離などの影響を受けて動く。だからこそ「スマホは現実の世界を知っていなければならない」とリー氏は主張します。
 
Tangoが世の中を理解するために必要な3つのベーシックな要素としては、空間の中で今どこにいるのか追尾するための「モーショントラッキング」。距離や床、壁のような構造を理解するための「デプスパーセプション」。そして一度行ったところを覚える「エリアラーニング」。
 
Tangoの概要説明を終えると、リー氏はTangoでできることを紹介しました。ARはオンラインでの買い物や、教育の現場でも活用されていますが、博物館美術館の展覧会では、たとえばミイラの中まで見通すことができるといいます。また、今までは確認できなかった、経年による色の変化まで確認できるとのこと。


「少しでもDaydreamやTangoについて理解をしていただければ幸いです」とリー氏は講演を締めくくりました。

多くのデベロッパーは頭の中にVRやARの世界を思い描いていることでしょう。デべロッパー向けにローカライズされているウェブサイトもたくさんあります。次の未来を作るのはあなたの番かもしれません。


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