2024年11月22日、東京・PARCO劇場にて「ビジネスと教育現場におけるXR活用事例と最前線を紹介する特別イベント」が開催されました。主催はMeta Questの法人向けプログラムを提供しているSB C&S株式会社と、Meta Platforms Technologies Japan合同会社。2025年1月15日から提供されるエンタープライズ市場向けMeta Quest 3Sの発売を前に、日本におけるMeta Questシリーズを活用した商用利用事例を詳しく学べる場となっていました。
コンシューマー向けにかなり広がってきているMeta Quest 3/3Sですが、ビジネスと教育の現場ではどのように活用されているのでしょうか。セッションの内容と、会場内に設けられた体験・相談ブースをレポートします。
Meta Connect 2024のハイライト
Meta Platforms Technologies Japan合同会社の Reality Labs Commercial Sales 日本事業統括のガレル・マラカド氏のセッションでは、9月25日(現地時刻)に開催されたMeta Connect 2024のハイライトとして、Meta Quest 3S、開発中のARグラス「Orion」、Metaが取り組むAI事業についての解説がされました。
会場からの注目度が高かったのはMeta Connect 2024で初お披露目されて世界中で話題になったARグラス「Orion」のユースケースです。光学式パススルーで現実を見ながら、複数のアプリを同時に表示できるマルチタスク機能や、マルチモーダルなAI機能。テキスト、動画、画像など、手元にあるデジタル情報をすぐに利用できるという説明にも期待が寄せられました。
企業や教育機関でMeta Questを使いやすくするQuest for Business
Metaが展開する法人向けのサブスクリプションサービスとなるQuest for Businessの解説を担当したのは、Meta Platforms TechnologiesでReality Labs B2B Tech Solutionsの鈴木貴志氏。日本では未発売ですが全世界で注目されているスマートグラス「Ray-Ban Meta」をかけて登壇しました。
「今、私が『今日ここの会場には何人いますか』とRay-Ban Metaに質問したところ、『100人近くの人がいますよ』とAIが回答しました。いま見ていただいてるとおり、Ray-Ban Metaはハンズフリーで操作できます。両手が繋がってる状態でも、何か知りたいこと、 何か聞きたいこと、確認したいことをボイスコマンドで質問することによって必要な情報を手に入れることができます」
そして本題へ。Quest for Businessは、VR/MRを用いて効率を改善したい企業や教育機関をサポートするサービスであると語ります。具体的には学習効率の改善や、効率のいいトレーニングの実現、リモートワークでも対面と同レベルのコミュニケーション環境を確立といったメリットがあり、その環境実現のためにMetaのエコシステムを活用します。
ハードウェアとして用いるのは”あらゆるユースケースをサポートするように設計されたヘッドセット”であるMeta Quest 3/3S。そしてセキュリティの担保やアプリの導入コスト・時間を管理するためのソリューションサービスとして、「Quest for Business」が存在します。
Quest for Businessの柱はユーザー管理、デバイス管理、アプリ管理、サポートの4つ。Microsoft Entra ID/Azure Active Directoryなどのクラウドアカウント管理機能と統合することで、利用者のアカウント作成・削除といった管理コストを抑えられる。コンシューマー用アプリのインストールをさせないための制限や、100台単位のデバイスへのアプリインストールなどの整備、そしてMeta Quest 3/3Sから直接サポートを受けられる体制などが整っています。
Quest for Business公式サイト:https://forwork.meta.com/jp/quest/business-subscription/
Metaの体験・相談ブースには、Orionのプロトタイプであり、研究用ツールキット「Aria Research Kit(ARK)」の根幹をなすカメラ付きスマートグラス「Aria」も展示されていました
※参考までに、体験・相談ブースで最も人気が高く長蛇の列を作っていたのはRay-Ban Metaが置かれたエリアでした。
Ariaは、実験用のスマートグラスでディスプレイはありませんが、外側/内側に多くのカメラを備え、ARグラスで活用するための各種センシングデータを取得できます。日本でも研究用デバイスとして提供されるのでしょう。
活用事例①「Microsoft MeshとMeta Questで実現するVRトレーニング」
1つめの活用事例紹介として登壇したのは、ダイキン工業、NEC、日本マイクロソフト、Meta Platforms Technologies Japan合同会社の4社。まずはダイキン工業株式会社 サービス本部 企画部 技術グループアプライドタスク担当課長の高原一誠氏のビデオメッセージからはじまりました。
ダイキン工業といえばエアコンの印象が強い企業ですが、家庭用においては空気清浄機や給湯器、業務用ではビル用空調や、大型工場設備の冷却システムなど、様々な製品を開発・販売しています。業務遂行のためには多くのエンジニアが必要ですが、人材確保と育成が課題となっていると語ります。そこで導入したのはVRを用いた教育システムだそうです。
「受講生も授業で作業手順を学んでテストで答えることはできるんです。でも、実際現場に行って正しい作業ができるかというと、なかなかそうではなかった。VRの中の彼らの行動ログを見ると、どこから手をつけていいのかわからず、行ったり来たりしてるようなログが多くみられました。今まで全然把握できなかった部分なので、大きな価値が出た案件だったなと思っています」
パネリストとして登壇したNEC プラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門プロフェッショナルの野中崇史氏は、VRのなかで反復練習できるだけでも十分訓練効果はあるけれども、それに加えたさらなる価値もあると語ります。
「どういうプロセスで点検をして機械の故障箇所を特定したか。その履歴が全部見えますので、受講生がやった手順と、リファレンスの手順とのギャップがどうだったかを確認したり、同じ習熟度の方が同じ点検の訓練を受けられたときに、どんな失敗をしたかといったことを見える化したことで更なる価値向上を実現できたと思います」
日本マイクロソフト シニア テクニカルアーキテクトの鈴木敦史氏は、Teamsのなかにアバターで入れる機能、複数アバターが1つの仮想空間に入れる機能にくわえ、ニーズに合わせて独自の仮想空間が作れるMicrosoft Meshの優位性について語ります。
「従業員イベントや、トレーニング、 そして社内向けのショーケースといった場で利用が可能になっています。事前に用意された仮想空間があり、それをノーコードでカスタマイズしていくこともできます
し、UnityとMeshツールキットを使って独自の仮想空間を1から開発していただくこともできます」
Meta Platforms Technologies Japan合同会社 Reality Labs Commercial Sales 事業開発担当部長の中島耕一郎氏は、Microsoft MeshとMeta Questの導入についてのアドバイスを語りました。
「DX=デジタルエクスペリエンスは、非デジタルのエクスペリエンスをどのようにデジタルで良くするかという視点が根底にあります。弊社にもMicrosoft Meshに近い機能を持つHorizon Worldsがあるのですが、それぞれ得手不得手な分野があり、今回のダイキン様の案件に関してはビジネスユーザー、訓練生と講師双方のことを考慮して、Microsoft Meshの選択が良かったのではないかと思います」
セミナー後、NECのブースでブレーカー交換のコンテンツを体験し、さらなるお話を伺いました。
文章のマニュアルよりも、動画マニュアルよりもわかりやすいVR教育コンテンツですが、今回制作したアプリケーションは各工程にかかった時間や、手順の間違いによる点数付けをすることで、正しい工程をスピーディに学べるUIUXになっていると感じました。また同コンテンツによって、複数の熟練者は特定の工程を省いて効率的に作業しているということも発覚したそうです。既存の手順マニュアルを再確認し、より効率の良いマニュアルに作り変える契機ともなるのではないでしょうか。
活用事例②「オンライン教育の新たな可能性」
角川ドワンゴ学園 普通科推進室 室長 佐藤将大氏は、XRがもたらす”ネットの学校”の空間性について語りました。同学園は2021年から通信制のN高等学校・S高等学校でVRヘッドセットを使い、メタバースで学べる「普通科」を開設。9,000人以上の生徒がMeta Questシリーズを使用して勉強していますが、スマートフォンのような小さな画面では集中しづらい、対面コミュニケーションスキルが上がりにくい、運動不足になりがちといった、従来のオンライン教育の課題を克服。VRはオンライン教育の領域を広げているそうです。
「私たちは基本的にVR空間で毎日イベントを開催しているのですが、 皆勤賞の生徒がいました。その生徒はキーボードで文字を打って会話に参加する生徒だったのですが、次の年度で新入生が入ってきた時に、活発に喋っている生徒がいるなと思って聞いてみたら、その生徒だったんです。アバターを変えていたので最初は気づかなかったのですが、コミュニケーションを積み上げ、自信を持って変化していくことを、VR空間がもたらしてくれたのかなと感じております」
数百人が参加するバーチャル体育祭や、100~200人の生徒が参加するグループディスカッションなどのコミュニケーション等を通じて対面コミュニケーションが苦手だった生徒同士が仲を深めたり、Zoomでは発言が少なかった生徒が積極的になるなどの事象も確認できたそうです。
角川ドワンゴ学園の体験ブースでは、メタバース校舎「学びの塔」やAIアバターと会話しながら英語のコミュニケーション力を高められるVRアプリ「スマート・チューター」が展示されていました。筆者は英語力が皆無といっていいレベルですが、分かる範囲で答えていくとアドバイスが的確であり、英語への苦手意識や人前で英語を話す恥ずかしさが解消されそうという印象を受けました。またスマートフォンと違ってヘッドセットを被っていると視野に余計なものが入らないことから、集中力が増す効果もあると感じました。
VR/MRを現場で活用する企業が集まるMeta for Work Japanコンソーシアム
イベントの最後に登壇したのは、SB C&S AR/VR/MRソリューション担当プロジェクトマネージャー 遠藤文昭氏。Meta for Work Japanの取り組みについて紹介がありました。
7月29日に発足したMeta for Work Japan コンソーシアムは、エンタープライズ向けアプリ/ソリューション開発パートナー、ベンダー、販売パートナー、ユーザーを結びつけるための団体です。XR技術の活用が進むなか、最新の海外事例の収集が難しいこと、日本国内のベンダーが開発しているソリューション情報の共有を行い、業界全体の底上げをするのが目的だそうです。
Meta Quest体験イベントなどの実施を支援したり、開発パートナー・販売パートナー向けのコミュニティを運営し、Meta AIの最新情報を含めた情報交換の場として活用。マーケット全体での一層の活性化を目指す、とのこと。
的確な情報を得るためにも、こういった業界横串で連携するための団体は重要です。ビジネス領域でMeta Questシリーズを活用したいと考えている企業の方々は、取り組みを本格化する第一歩としてコンソーシアムへ参加してみてはいかがでしょうか。