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業界動向 2019.06.28

VRで描かれる“暴力” 体験を通して真の暴力とは何かを問いかける

ある都市の道端の一角で、バットを持った男性に繰り返し頭を殴られる男性の姿を2分間見るVRアート作品「REAL VIOLENCE」。本作品は、オーストラリアのタスマニアで毎年6月の冬の夜に開催される音楽とアートの祭典Dark MOFOにて上映されました。

暴力的シーンは本物か偽物か

VRでは、車が男性たちの横を無情にも通り過ぎるなど、誰もこの状況を気にも留めません。そしてユーザーは助ける術もなく、その光景をただ傍観するしかありません。本作の作者であるJordan Wolfson氏は、ユーザーに向けて真の暴力とは何かを問いかけています。

「REAL VIOLENCE」における暴力に関してWolfson氏は次のように語ります。

バーチャル空間で行われている行動は偽物ですが、これは真の暴力(Real Violence)です。真の暴力とは、苦しんでいる人によって描かれているのではなく、暴力を振るう行為から描かれています。

Wolfson氏の「REAL VIOLENCE」は体験することによって、暴力的行為があることを認識させられます。バットを持った男性はWolfson氏自身ですが、頭を殴られる男性は実在していません。

VRヘッドセットを通してみるその光景は、現実世界で行われている暴力と同じように衝撃的な印象を体験者に与えます。

問われるVRの影響力

ゲームやバーチャル空間でのバイオレンス(暴力)については今までにも多くの研究で取り上げられています。米国では暴力的なシーンを含むゲームをプレイすることは、子どもに悪影響を与えるのではないかという声が上がり、2005年にヒラリークリントン議員が暴力的シーンを含むゲームの販売に関する規制法案を提出しています。

ある研究では、VRにおける完全没入型体験は、ユーザーの人格にも多大な影響を与え得るとの発表がされています。また別の研究では、2Dと比較して3D映像はネガティブな感情をより多く与えやすいことを発表しています。

その一方で、治療法として用いられるVRが効果を発揮していることも確認されています。研究の一例で、ある家庭内暴力の加害者は、一般的な人よりも女性の表情から恐怖を認識する能力が著しく劣っていました。しかし加害者が、VRを用いて被害者の立場に置かれるバーチャル体験を行った結果、女性の表情から恐怖を認識する能力が向上したとの結果が出されています。また、VRで性犯罪被害者の治療に活用されたり、悪夢の克服にVRが効果的との調査結果が発表されています。

(参考)The Gurdian


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