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テック 2016.10.15

VRでも長時間プレイできる「マイクラ」であり続けるために 中の人が語った開発秘話

現地時間で10月5日から3日間、アメリカではOculusの開発者会議「Oculus Connect 3」(OC3)が開催されました。そこではOculusに関する新発表が多々あると共に、様々な開発者が自身の持っているVR技術に関する知見を共有するセッションも多く開かれました。

本記事では、OC3セッションのひとつ、「Minecraft: Breaking the rules of VR」(マインクラフト:VRのルールを破壊する)で制作者が語った、マインクラフトVR化に用いられている知見を紹介します。

image00登壇したのはマインクラフトのリードプログラマーであるソレン・ハンニバル・ニールセン氏。

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VR版マインクラフト

なお、本記事でレポートするセッションも含め、Oculus Connect 3で行われた全セッションの動画は、YouTubeのOculus公式チャンネルで配信されています

ゲームデザイン

マインクラフトをVR化するにあたって、何よりも念頭に置いたことがある、とハンニバル氏は始めます。

まずはとにかく、今まで通りの「マインクラフト」であり続けること。つまり、これまでマインクラフトが持っていたあらゆるゲームモードや特徴を引き継ぐということ。そして様々なプラットフォームで遊べ、マルチプレイヤーモードを搭載すること。長く遊んでいられること。

これらを指針としながら「制作を急がない、きちんと時間と手間をかける」ということも意識したそう。

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VRコンテンツの開発にあたっては、これまで業界で蓄積されてきた知見があります。ハンニバル氏は次にそれを紹介しました。

・既存のゲームを単純にVRに移植することはできない
・従来の一人称視点ゲームをVRにすると、酔いを招きやすい
・長時間のプレイは疲労に繋がる
・フラットなUIをそのまま使うと没入感を損ね、不快感を引き起こす

これらは全て「マインクラフト」のVR化の障壁になるようなものばかり。マインクラフト開発チームは、これら「VRコンテンツ制作の通説」を打ち破るため、4年の歳月をプログラミングに費やしました。「完全に遊べる」というクオリティに到達してから、さらに半年から9か月ほどの時間をかけて、最終調整を行ったとのこと。

開発上の注意

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マインクラフトはVR化にあたり、PCなどでプレイする従来のものの仕様から変更された箇所がいくつかあります。続いてハンニバル氏は「Development Notes」と題して、変更点を含む、開発中に気が付いたことなどを紹介しました。

VR酔い対策

まずはVRゲームをどうしたら快適にプレイできるか、ということについて。

・視界の移動はスナップターン方式
・移動は直線的な動きにする
・視野角の変化、そして必要のないカメラの動きはなくす
・ジャンプは一部直線的な振る舞い。そしてプレイヤー自身の操作でジャンプさせる

スナップターンというのは、スティックを倒すと一定角度だけカクッカクッと視界が移動することです。例えば一回に90度の移動なら、スティックを一度右に倒すとカメラは一気に真横を向きます。スティックを倒している間ずっと視界が回転し続けると不快感に繋がってしまうので、キャラの向き変更の際に良く用いられます。このスナップターンは、キャラクターの向きを変えるやり方としてはPlayStation VR(PSVR)向けソフトウェアの品質管理を行っているコンサルタントもPSVRソフト開発者に対して強く勧めています。

Gear VRやOculus Riftで実際にマインクラフトをプレイする際、ジャンプをすると挙動が特殊なのが分かります。ジャンプボタンを押した瞬間、上昇はゆっくり、そして最高到達点を迎え、上昇より速い速度で落下します。また画面揺れなども軽減されており、視界が不必要に揺れないように考慮されています。

リビングルームモードの搭載

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VR酔い対策を念入りにしたとしても、酔いの程度には個人差があり、完全に酔わないようにするのは困難を極めます。そこでマインクラフトでは、「リビングルーム」を用意しました。

VR版のマインクラフトではゲームを開始したとき、プレイヤーは大きなテレビの置いてある部屋にいます。そこではVR空間内のテレビで(従来のバージョンと同じ操作方法で)マインクラフトを遊ぶことができ、さながら現実世界でテレビゲームをしているような感覚になります。リビングルーム実装にあたっての留意点は以下の通りです。

・一人称視点を避ける
・視野角を一定に保つ
・PC版と同じ、従来の移動法(スナップターンではなく滑らかな視点移動)
・イマーシブ・モード(没入モード)への自然な移行

Gear VR版では、側面のタッチパネルを1回タップすると、カメラがテレビに寄っていき、やがてテレビの中に入り、一人称視点のプレイに切り替わるようになっています。

最終調整

最後に、一通りコンテンツ開発ができたところで、クオリティを上げるために行った最終調整について紹介されました。ハンニバル氏が挙げた作業は以下の通りです。

・周りを取り巻く音楽へのこだわり
・沢山のオプション(ユーザーによる多彩なカスタマイズ機能)
・繰り返し、人や設定を変えてプレイテストを行う
・高品質なコントローラーに向けて、連続的な回転方法も実装(非スナップターン)
・マウスとキーボードによる操作も可能に

音楽に関して。AndroidやiOS版では、ファイルサイズが大きくなってしまうので音楽の使用は控えたが、Gear VRはこの限りではないとし、マインクラフトの売りである穏やかなBGMをつけたとのこと。

またVR酔い対策を施した独自の操作以外にも、これまで「マインクラフト」で主要な操作方法であったマウス&キーボードでの操作も可能に。手元が見えない中での操作にはなりますが、操作方法の選択肢を増やし、ユーザーが一番快適に遊べるものを選んでもらえるようにした、とハンニバル氏。

眼精疲労への対策

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VRデバイスを装着し、長時間プレイするときに問題になるのは、眼精疲労です。他のゲームではどのような対策をしているのかあまり語られないノウハウが共有されました。

・物体表面のテクスチャーにアンチエイリアシング処理をかける
全てがブロックでできているマインクラフトの世界では、フィルターなどを設けておらず、世界の至る所にシャープなテクスチャーが存在します。この場合、プレイヤーがほんの少しでも顔を動かすとその荒さが目について、眼精疲労に繋がってしまうのです。そこでアンチエイリアシング処理をしてテクスチャのピクセルを滑らかにしたとのこと。コストのかかる処理だが、やる価値はあったと言います。

・洞窟での暗闇の描画を「ダーク」から「真っ黒」にする
もともとマインクラフトの洞窟は、暗さを表現するために「ダークな」表現を使っていました。これは暗いながらも奥がうっすら見えるというもの。VRでは思い切って何も見えない「真っ黒」にしてしまう方が、目への負担が少ないのです。(編集追記:Oculus RiftやGear VRでユーザーがのぞき込むことになる有機EL製のパネルは、液晶パネルと異なり、完全な「黒」の描画が可能とされています。)

・手に持ったものはZバッファ法によってレンダリング
Zバッファ法とは、簡単に言えば「一番手前のものだけを描画する」もの。つまり、より手前にある物体に隠されて見えない奥のものは、いちいち描画をしないという手法です。

・これまで2Dで描かれていたオーバーレイは3次元のキューブで表現する
たとえば火の粉など、これまでは2次元で描かれていたものに、VR版では奥行きを与えています。

・ユーザーインターフェースを焦点の深度でのモノスコーピック仕様にする
メニューなどのUIは、人が心地よく見つめることができる焦点の位置に、モノスコーピック仕様で表示するようにしています。

体験者の反応で気づいたこと

そして、ユーザーテストを行う中で気づいた4つのポイントについて最後に言及がありました。

・必ずしも全員がVR用の操作方法を好むわけではないこと

・画面下部に表示した説明テキストを、ほとんどの人は読まなかった
リビングモードから没入モードへの切り替え方を、画面下部にテキストで表示していたが、ほとんどの人が気が付かなかったとのこと。

・フレームレートが落ちることの悪影響を、ユーザーは知らない
「画質を犠牲にしてでもフレームレートは維持しろ」というのは、既にVRコンテンツ開発においては鉄則。不十分なフレームレートは、直接的にVR酔いを引き起こします。しかし一般のプレイヤーはそれを知らないため、自分がなぜ気持ち悪くなったのか、なぜ長時間のプレイができないのか分からない様子だったそうです。

・ヘッドセットをつけていると、各種ボタンの位置がどこかわからなくなる
特に、マインクラフトに不慣れな人に関して。マインクラフトはコントローラーのほぼすべてのボタンを使うため、視界がHMDで覆われた状態だと、初見での複雑なコントローラー操作は難しいのです。

マインクラフトVRは今後も、随時操作性や快適さに関するアップデート、および敵キャラなどのゲーム内容のアップデートを行うとしています。さらに年内にはOculus Riftのハンドコントローラー、Touchにも対応します。

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