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業界動向 2022.12.01

HIKKYが語る今後のメタバース戦略 現実とバーチャルが混ざる「リアルバーチャルマーケット」2023年開催へ

11月29日、株式会社HIKKYは初となるオフラインでの記者会見を開催しました。まもなく開催の迫るバーチャルマーケット2022 Winterの紹介や、出展社によるトークセッション、および今後控える新展開について、大々的な発表が実施されました。

MoguraVR編集部は、今回のHIKKY記者会見に参加。本記事では、HIKKY初となる記者会見の様子をお伝えします。

Vketに参加してみてどうだった? 新規参入社と5回目出展企業のコメントに注目

まず最初に、株式会社HIKKY CEOの舟越靖氏が登壇。ガートナーのハイプ・サイクルにも触れながらメタバース全体について論じた後、「バーチャルマーケット」のこれまでの足跡を紹介しました。

その後、「バーチャルマーケット2022 Winter」の紹介映像を挟んだ後、今回の出展社の代表者が登壇。舟越氏も交えたトークセッションが始まりました。登壇者は以下の通り。

  • 東海旅客鉄道株式会社 執行役員 事業推進本部 副本部長 川田啓貴氏
  • ヤマハ株式会社 ブランド戦略本部 マーケティング統括部 部長 浦川美穂氏
  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 取締役常務執行役員CSO 堀川賢治氏
  • 株式会社大丸松坂屋百貨店 常務執行役員 経営戦略本部長兼リスク管理担当 西阪義晴氏
  • 株式会社ビームス クリエイティブビジネスプロデュース部 木村淳氏

最初に、初出展となるJR東海の川田氏、ヤマハの浦川氏、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の堀川氏に、「バーチャルマーケット」およびメタバースへ参入を決めた理由や、「バーチャルマーケット」を通じて開きたい未来について質問。各登壇者の回答です。

JR東海 川田氏:
新しい体験提供の模索、Z世代や海外にリニアを知ってもらいたいという思いから参入を決めました。メタバースの将来性はまだわかっていませんが、人は人と会ってコミュニケーションを取りたい、という本能があります。だからこそメタバースは、コミュニケーションツールとして生活の一部となるのでは、と考えています。

ヤマハ 浦川氏:
若い人、クリエイターなど、新しい客層を探したいと考えています。「バーチャルマーケット」は先日体験したのですが、とてもおもしろいと感じました。とはいえ、リアルとは異なる感覚があるのも事実。新しい楽器の楽しみ方を通して、我々もメタバースを知っていきたいですし、そこから新たな価値を提供するきっかけを作れていければと考えています。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 堀川氏:
弊社は投資銀行、ウェルス・マネジメントに関わってきましたが、メタバースなど最先端テクノロジーから遠い位置にいました。これを大反省して、4月からチャレンジを始めています。

メタバースはデジタルアセットとの親和性が高いと考えています。まだデジタルなものは限られていますが、これからいろんな金融商品や、デジタルトークンが増え、それらの取引の場がメタバースになると期待しています。まずはしっかりとメタバースの世界を勉強したいですね。金融商品の提供はもちろんですが、金融教育の機会も提供したいと思っております。

次に、今回で通算5回目の出展となる、大丸松坂屋の西阪氏と、ビームスの木村氏に、これまでの出展の経緯や、「バーチャルマーケット」出展を通して得られたことなどを質問。以下のようなコメントを返しました。

大丸松坂屋 西阪氏:
2020年初頭からHIKKYさんと縁を得て出展してきました。最初は屋台という形で出展しましたが、いまはニューヨークやパリに店舗を展開しています。我々は「百貨店の楽しさ」を知ってもらいたいと考えており、ものを買うだけでなく、百貨店の空間的価値などを広めるべく、「社員インフルエンサー」の投入など、いろいろ取り組んできています。

「バーチャルマーケット」では5回目の出展ですが、ブース来場者は回を重ねるごとに”飛躍的に”増えています。「時間と場所の制約を克服する」というコロナ禍における課題に対して、メタバースは新たなチャネルとして手応えを感じています。一方、リアルとバーチャルの融合だけでなく、それぞれのチャネルならではの価値提供も大事です。HIKKYさん「バーチャルならでは」の価値提供にこだわりがあると感じており、今後もご一緒したいと考えています。

ビームス 木村氏:
当初は「eコーマスの延長」という認識で参入しましたが、いざ実際に中に入ってみると、そこには「コミュニケーションの温度」があると気づきました。そこで、リアルのスタッフという強みを活かすべく、総勢50名の店舗スタッフをバーチャル接客へ導入するようにしました。バーチャル接客では日替わりでスタッフが参加していますが、このため異なるコミュニケーションが成立し、それがコンテンツ提供になってると感じています。

また、バーチャル接客がきっかけでリアルショップに来てくれる人もいらっしゃり、お客様との新たなタッチポイントとして機能していると実感しています。メタバースではUGCの創出も強みだと感じますが、「コミュニティを持っているか」がものすごく重要で、これが成長するかどうかの条件になると思っています。なにより、VRゴーグルをかぶった瞬間って感動するんですよ。その感動を、もっと多くの人に体験してほしいと思っています。

初出展の3社は、メタバースというフロンティアに対する期待(と少しの不安)が感じられました。一方で、5回目の出展となる大丸松坂屋とビームスの2社からは、「バーチャルマーケット」という舞台がどう機能し、自分たちがなにを提供するべきかを、肌感覚で理解していることが伝わるコメントが得られました。

HIKKY、リアルへ進出。新規プロジェクト発表

続いて、これからのHIKKYの事業について、初出しの情報が発表されました。

舟越氏は、これからの展開について「リアルとバーチャルの融合」をキーワードとして提示。「人が集まることがメタバースを盛り上げる上で必要」と述べ、関連プロジェクトとしてHIKKYが展開してきた「パラリアルワールドプロジェクト」が紹介されました。

現実世界に実在する都市をメタバース上の都市として解釈し直し、メタバース上に構築する本プロジェクトは、「バーチャルマーケット2021」の企業ワールド「パラリアル渋谷」や「パラリアル秋葉原」を皮切りに、日本国内・国外の都市を対象に展開。「バーチャルマーケット2022 Winter」でも、「パラリアルパリ」「パラリアル名古屋」「パラリアル札幌」がオープンします。

そして、「リアルとバーチャルの融合」の新たな一歩として紹介されたのが、この日ソニーより発表されたモバイルモーションキャプチャー「mocopi」と、HIKKYが打ち出す新ソリューション「unlink」です。

「unlink」は、HIKKYが提供するメタバースエンジン「Vket Cloud」に、外部デバイス連携を提供するソリューション。ソニーの「mocopi」は第一弾連携として採用され、お手軽に全身の動きを反映させることができるようになります。

「Vket Cloud」は、Webブラウザからアクセスできるメタバース構築を実現するエンジン。PCやスマホだけでアクセスできる手軽さが特徴です。一方で、現状ではアバターは一部モーションしか表現できない状態。ここに「mocopi」を組み合わせることで、誰でもかんたんに全身の動きを「Vket Cloud」上へ持っていくことができます。


「unlink」にて「mocopi」を活用するデモとして、パフォーマーによるダンスも披露されました。登壇した2名のパフォーマーは、服に隠れていますが「mocopi」を装着した状態。まだ「unlink」自体が開発中ということもあり、動作には若干のラグが見られましたが、「VRデバイスを使わずメタバースにフルトラッキングモーションを持っていく」というコンセプトはキチンと表現されていました。

そして最後に驚きの情報も。なんと2023年の夏、「バーチャルマーケット」と「リアルバーチャルマーケット」が同時開催されるとのこと。これまでVR空間で展開された「バーチャルマーケット」が、現実の街にも進出を果たします。

記念すべき1回目の「リアルバーチャルマーケット」の会場は秋葉原。詳細こそ明かされなかったものの、現実の店舗のスタッフに「mocopi」をつけてもらって接客をしてもらったり、現実側にいるパフォーマーのダンスなどをバーチャルへ持っていく、あるいはその逆ができたらいい、という構想が語られました。

リアルもバーチャルも混ざり合っていく世界へ

HIKKYが今回のような大規模な記者会見を「現実で」実施するのは初となります。プレス側には、Mogura VRのような専門メディアもいれば、共同通信やテレビ局などの大手メディアも参加していたのも特徴的でした。その背景には、熱気と疑念が渦巻く「メタバース」を扱うリーディング企業として、自分たちがなにものかを広く、公に伝えるべき、という使命感のようなものが、舟越氏の話を中心に感じられました。

一方で、「リアルとバーチャルと融合」という新たな方針が打ち出されたことに驚きつつも、だからこそ「現実の場での記者会見」が採用されたのだという納得もあります。同時に、これまでVRに専念してきたHIKKYが、現実にも進出しようという姿勢を示してきたのは、大きな一歩になると感じます。

「VRChat」ユーザーは当然ながらVR空間に集まりますが、同時に秋葉原・富士ソフトビルの「HUB」など、リアルな交流の場を求める人も一定数います。HIKKYが今回打ち出した方針は、リアルで遊ぶソーシャルVRユーザーの動向をよく見ているような感触があります。そうしたHIKKYの方針は、舟越氏の「リアルだけでもなく、バーチャルだけでもなく、双方を混ぜ合わせていきたい」という言葉に集約されていました。

もちろん、現実を仮想空間へ持ってくるという動きにも可能性があることは、「パラリアルワールドプロジェクト」が示している通り。3つのパラリアルワールドが展開される「バーチャルマーケット2022 Winter」は、12月3日から開催されます。


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