国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)や東北大のチームは、「双方向リモート触覚伝達システム」を開発しました。このシステムは、指先などで感じた「触覚」を腕で計測し、離れた相手にその感覚を伝えられる技術です。今後、XRやメタバースにおける遠隔技能教育や、コミュニケーション支援ツールとしての活用が期待されています。
「双方向リモート触覚伝達システム」では、触ったときの振動を腕に取り付けた小型の機器で測定します。その測定データをもとに、同じ振動を別の人の腕に伝えます。触った感覚がそのまま相手に再現される仕組みです。まるで実際に同じものに触れているかのような感覚を共有できるようになるといいます。
このシステムは、NEDOが進める「人工知能活用による革新的リモート技術開発プロジェクト」の一環で開発されました。産総研、国立大学法人東北大学、国立大学法人筑波大学、株式会社Adansonsが共同で取り組んでいます。
今回のプロジェクトには、主に二つの背景があります。一つは、職人などが持つ繊細な技術や感覚を後世に伝えることが難しくなっている問題です。従来の方法では、細かな触覚を正確に伝えるのが難しいという課題がありました。もう一つは、オンライン上だけではコミュニケーションが難しいと感じる人が増えたことです。この技術は、遠隔でも「触覚」を共有することで、より豊かな交流が可能になると期待されています。
このシステムの具体的な活用事例もすでに複数示されています。一つ目は東北大学が開発した「ARを使った技能教育」です。作業時の触覚を測定し、初心者がその感覚を再現できるシステムで、作業を直感的に学べるようになります。
この技能教育システムを用いると、触覚を共有される側が装着した腕輪型デバイスに内蔵されたバイブレーターを使って振動を再生可能です。
手首位置で振動体感を記録し、忠実に再生するには、振動の伝わりやすさの個人差を補正したり、小型のバイブレーターでも再生できる信号に変換する必要があります。東北大学は触覚信号の強調技術を用いて、個人差を補正し、バイブレーターが提示する体感量を忠実に制御することが可能になるとのこと。
二つ目は、 筑波大学が開発した心拍数共有アプリです。このアプリは振動を使って相手の心拍を伝えることで、ゲームやスポーツ観戦、アスリートとコーチ間でのコミュニケーションなど、新しい楽しみ方を提供しています。iPhoneおよびApple Watchユーザー向けの心拍数共有アプリ「Hear2gether」は一般ユーザーも無料でダウンロードできます。
三つ目は、産総研が開発した触覚デバイス評価技術です。これは、皮膚の内部で発生する細かな変化を見える化して、振動を正確に伝える方法を評価する技術です。この技術により、より正確な触覚デバイスの設計が可能になります。
この技術には、産総研が独自に開発した「極薄ハプティックMEMSデバイス」や、実際の皮膚の物性や触感を模倣するために作成された人工モデルである「皮膚ファントム」が活用されています。
(※MEMSはMicro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システムを指す)
四つ目は、株式会社Adansonsが開発した触覚信号編集ソフトウェアです。このソフトウェアは、ノイズ(雑音)の多い環境でも、人間が伝えたい信号をAI(人工知能)が簡単に分離・編集できるようにするものです。これにより、複雑な触覚信号を分かりやすく伝えることができます。
(参考)プレスリリース