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活用事例 2022.11.10

MRで患者と医師のコミュニケーション支援、メタバースでシンポジウム会場を再現 アステラス製薬

2022年9月27日、アステラス製薬はMR(複合現実、Mixed Reality)を活用し、患者と医師のコミュニケーションを支援する「HICARIプロジェクト」についての説明会を開催しました。メタバースでシンポジウム会場を再現した「アステラスデジタルホール」についても、メディア向け説明会・体験会を実施しています。本記事ではその様子をレポートします。

患者が病態を「自分ごと」として捕らえられるようにXRを活用

患者が疾病の内容を正しく理解することは、治療方針の決定や服薬継続率など、治療をする上でも重要なポイントとなります。しかし骨粗鬆症のように、自覚症状が乏しい疾患では「どんな症状が起きうるのか」「なぜその治療をしなければいけないのか」が理解しにくい、という難点がありました。したがって、医師の立場からすると「限られた時間で、どうやってわかりやすく患者に伝えることができるか」が課題になります。

こうした説明は、これまで医師からの口頭説明、イラスト、動画などを使って伝えられることがありました。しかしこれらは、一部の病態において直感的ではありません。模型や3Dビューを使って理解することもできますが、それらは客観視されてしまい、「自分ごと」として認識しにくいとの意見も。そこでXRを活用し、没入感を得ることで、その病態を「自分ごと」として捉えることができるのではないか——という仮説から、「HICARIプロジェクト」がスタートしたそうです。

「HICARIプロジェクト」はXR技術で得られる没入感を、疾患・疾病の説明に応用することで、患者と医師との間に生まれる病識理解のギャップを解消。コミュニケーションがより円滑になることを目的としています。現在はいくつか開発中のコンテンツがあり、その中のひとつが骨格モデルの投影です。こちらは、患者がHoloLens 2を装着することで、目の前に人の骨格モデルを見ることができ、脊椎や大腿骨はどこにあるのかといったことを、部位ごとにわかりやすく表示することができるというものです。


(骨の場所が、青色でわかりやすく表示されます)


(患者側はHoloLens 2を使用。基本的には操作などは行わないようになっている)

骨粗鬆症用のコンテンツでは、どのように骨密度が減っていくのかを、3Dグラフィックで目の前に投影してくれます。各ステージごとの差分表示機能も備えており、「どれだけ骨密度が減っているのか」も理解しやすくなっているのが特徴です。


(左側と比べて右側の骨密度が低くなっている)

もうひとつ、背中が丸くなってしまう円背(えんぱい)と呼ばれる症状がありますが、その影響でどのように圧迫骨折が進んでいくのか3DCGでわかりやすく表示することもできます。また、家電製品の3DCGを表示し「円背になる前と、なった後で、どのように見え方が変わるのか」といった体験も行えます。


(円背の影響で、圧迫骨折が起こる様子も確認できます)


(会場では実際にHoloLens 2を被り、目の前に現れたCGの冷蔵庫で円背が体験できるようになっていた。コンテンツ自体は153cm程の女性が円背になったときを想定。円背になると「見上げる」動作が必要になる)

2019年6月の発表から3年以上が過ぎた「HICARIプロジェクト」ですが、これまで2019年度と2021年度に、それぞれコンセプト検証(PoC)を実施しています。患者等にアンケートを取ったところ、疾患理解に対する項目では約85パーセントもの肯定的な回答を得ました。その一方で「コンテンツを増やして欲しい」「よりきめ細かな設定ができるようにしてほしい」という要望も上がっています。

この結果を受け、今後は定量的なトライアルを実施しきたいとのこと。また、全国の医療機関を対象としたトライアルも検討はしているものの、現在はまだコロナ渦の影響もあり、タイミングを見ながら実施していく予定となっています。

Webシンポジウムでは実現できなかった臨場感を生み出すためにメタバースを活用

今回のプロジェクト説明・体験会で、もうひとつ紹介されたプロジェクトがメタバースコンテンツの「アステラスデジタルホール」です。アステラス製薬は2022年1月に、メタバースを活用した先進的な情報提供手法の構築を用意しているというプレスリリースを発表しています。メタバースを講演会に活用することで、Webシンポジウムでは実現できなかった臨場感や、偶発的なコミュニケーションを作り出すことが、この「アステラスデジタルホール」の目的となっています。

現在はブラウザで動くシンポジウム会場を構築。リアルな会場をできるだけ再現したものとなっており、つくば研究センターにあるホールがそのまま再現されています。


(体験用に用意されたPCでは、つくば研究センターのホールではなく、同社内を再現したものでアバターを動かせるようになっている)

「アステラスデジタルホール」の企画そのものは、2020年頃からスタート。2021年には開発と全国にある営業所でテストを実施し、医師の満足度やリピート意向などを評価項目にしたところ、、全体的な満足度は約80パーセントが肯定的に回答。また、約90パーセントがリピート意向に関しても肯定的であるという回答を得ています。

利用者からは「講演会の臨場感が良かった」という意見や「資料などが確認できるブース機能が良い」という意見がありました。このような結果を受けて、先月から全国版のWebセミナーでも運用が開始されています。「アステラスデジタルホール」は今後も運用を続けていき、機能も拡張していく予定となっているそうです。


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