AR(拡張現実)の事業・業務における活用事例が増えています。ARは『ポケモンGO』などのゲームやSnapchatといったカメラアプリといった用途が注目されがちですが、2017年現在、建設や土木、運輸、小売などのさまざまな分野で活用が進められています。
本記事では仕事上の利便性だけでなく、私たちの生活に関わるものまで、企業が取り組んでいるARの活用事例を紹介します。
目次
AR(拡張現実)とは?
具体的な活用例を紹介
【建設】小松製作所:ARで施工進捗を確認
【土木】東京メトロ:ARアプリでトンネルや橋りょうの維持管理を教育
【運輸】チャンギ国際空港:スマートグラスで荷物積み込みを効率化
【工事】明電舎:ARグラスを利用した危険回避システム
【生活】IKEA:ARで家具を”試し置き”
【観光】テレコムスクエア:観光雑誌とARで目的地の表示・方向・所要時間を表示
【美容】ModiFace:ARで化粧品を選択、顔に反映してメイク
AR(拡張現実)とは?
ARとは、Augmented Reality(オーグメンテッド・リアリティ)の略。日本語では「拡張現実」と訳されます。おおむね「現実の上にデジタルな情報を表示する」ものを見かけることが多く、2016年にリリースされた『ポケモンGO』などはこのARを一部機能で使用しています。
これまでのARは「カメラを通して現実にキャラクターを投影する」「特定のマーカーを認識してその上に情報を表示する」といったものが主流でしたが、近年は新たに「空間を認識するAR」が登場しています。
例えば、iPhoneやiPadに搭載されているiOS11からはフレームワーク「ARKit」が実装されています。対応機種では床などの面をカメラで認識し、その上にARでモノを置いたり、スケールや環境光の推定をしたりと、よりリアルに情報を表示できるようになりました。ポケモンに地面を歩かせたり、部屋の床にARの家具を置くといったことが可能です。
マイクロソフトの「HoloLens」はさらに空間の認識力が高く、面だけではなく壁や障害物なども認識し、それらの形状やモノの高さなどを考慮したうえでARを表示することが可能です。これらの技術的な進歩により、「現実を高度に反映したAR」が実現しつつあります。
ARの活用が行われている領域は、主に建築や土木、医療といった事前のシミュレーションが重要となる分野に加え、家具・家電の小売などがあげられます。例えば建築・土木分野では建設機械を現実に重ねて表示することで、実際にその場所に配置して運用できるかどうかを確認することが可能です。
小売においては、家具販売などの分野での導入が進められています。例として、家具を部屋にARで重ねて表示することで、「実際に部屋に置いたらどんなサイズになるのか?」「この家具は部屋のコーディネートに合うのか?」といった事前シミュレーションが可能になります。ビジネスだけでなく、私たちの生活の便利さも向上するのです。
このように、現実ではその場でチェックするためにコストや手間がかかることをARで行ったり、ARの情報をモノに重ねて表示したりすることで、安全な作業や業務の効率化、購買意欲の向上、生活の利便性アップなどにつながることが注目されています。
具体的な活用事例を紹介
ここまではARについての解説や、どのように取り扱われているのかを紹介しました。続いて、個別の活用事例を紹介していきます。
小松製作所:ARで施工進捗を確認
株式会社小松製作所(コマツ)はICTソリューション「スマートコンストラクション」プロジェクトの一環として、グーグル社のARプラットフォーム「Tango」を用いたスマートフォンアプリの開発を行っています。
本アプリはコマツと株式会社カヤックが協力してを制作を進めており、施工中の地形に対して完成設計面の3Dモデルを配置して進捗をチェックできる機能や、地形の形状をスキャンして掘削/ 盛土部分をARでチェックできる機能、ショベルカーやダンプカーといった建設機械を実寸大のAR表示で確認できる機能などを取り入れています。2017年7月時点ではプロトタイピングを終え、デモンストレーションなども開催されました。
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東京メトロ:ARアプリでトンネルや橋りょうの維持管理を教育
東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は自社向けのARを活用した研修・教育用アプリを開発しました。本アプリは総合研修訓練センター(江東区新木場)内の模擬トンネルや橋りょう・高架橋において、現場で発生する異常などをiPad上で再現することが可能です。これにより、実際にトンネルで起こる亀裂などの異常を確認でき、またテキストや写真での研修よりも効果的に教育を行えます。
模擬橋りょう・高架橋にはARマーカーを使用していますが、模擬トンネルは壁面自体をマーカーとして認識する技術を開発・活用しています。ARマーカーとは、画像認識を行うタイプのARにおいて、そのマーカーをカメラで読み取ることで情報を表示するための標識・パターンを指します。壁面自体をマーカーとして認識する技術により、模擬トンネルではARマーカーの貼付けや取替えが不要。応用として、設備の制約等によりARマーカーの設置が難しい場合やディスプレイに表示する対象が広範囲な場合における利用が考えられます。
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チャンギ国際空港:スマートグラスで荷物積み込みを効率化
シンガポールのチャンギ国際空港では、手荷物や貨物コンテナの積み込みを行う業務にAR技術を活用しています。スマートグラスを装着し、各コンテナにあるQRコードのようなマーカーをスキャン。その場で搭載方法の確認を行えます。またランプコントロールセンターも地上業務をリアルタイムにチェックできます。
シンガポールチャンギ国際空港で空港地上業務を行うSATS社は、2018年中頃までにスタッフ600人にスマートグラスの導入を予定。SATSは大きなワイドボディ航空機において1フライトあたり15分の積載時間の短縮を期待しているとのことです。
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明電舎:ARグラスを利用した危険回避システム
電気機器メーカーである株式会社明電舎は、AR技術を安全管理システムに活用しています。ARグラス(ARメガネ)をかけて場内を歩くと設置されたビーコンに同グラスが反応し、その場で危険な箇所を察知できます。
2017年6月時点では実際の現場でこの技術を活用し、より改良を重ね各現場への展開を検討している段階とのこと。初めて入る作業員や警備員が多い現場で、安全かつスムーズに受け入れ態勢を整えるための導入教育として、運用が想定されています。
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IKEA:ARで家具を”試し置き”
大手家具メーカーであるイケア(IKEA)はARで部屋の中に家具を配置できるアプリ『IKEA Place』を開発・配信しています。家具をオンライン購入する際に、実際にその家具を自分の部屋などに配置して確認できます。
https://www.youtube.com/watch?v=-xxOvsyNseY
約2,000種類ほどのイケア製ソファやテーブル、椅子やベッドなどを配置可能。対応機種であれば高性能なAR機能を使用し、表示された家具の光の当たり具合や影などもチェックできます。「買ってみたけどイメージと違う……」「適当に買ったらサイズが大きくて入らない……」といったトラブルを防ぐことにつながり、また試し置きすることで顧客の購買判断・購買意欲に寄与するものになりそうです。
・ネット通販で買う前に家具を自分の部屋に試し置き イケアのiPhone向けARアプリ『IKEA Place』
テレコムスクエア:観光雑誌とARで目的地の表示・方向・所要時間を表示
台湾の国際空港で配布されているフリーマガジン「日本放題」はARナビゲーションアプリ「PinnAR」と連動しています。「日本放題」に掲載されているページにスマートフォンのカメラをかざすことで「PinnAR」が起動。スマートフォン上に目的地の方向、距離、所要時間が表示されます。
「日本放題」は、日本の「食べる・遊ぶ・飲む・楽しむ」をテーマに、台湾人向けに旅行情報を提供するフリーマガジンです。発行元である株式会社テレコムスクエアは、台湾から日本に来た旅行客向けに地域活性化を図るとのこと。日本へと来る旅行客を対象としたAR事業としては、中国の検索エンジン「Baidu」の日本法人であるバイドゥ株式会社もAR広告販売を行っています。
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・ARアプリと連動する雑誌 台湾からの日本旅行客向けに
ModiFace:ARで化粧品を選択、顔に反映してメイク
美容関係のAR技術を提供するModiFace社によるARを活用したメイクアプリです。ARを使って顔にメイクをしたようなフィルターを施すほか、試した化粧品をギャラリーのように空間に並べて見ることができます。
リップの色を選んでユーザーの顔色に合うかどうかを試すことができたり、メイク後の顔を一通り保存して見比べることができたりと、通販・店頭販売双方での活用が見込めます。
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