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MoguraVR

2017.11.30

【レポート】VRをどう活かすか 試行錯誤するハリウッドのVR事情

VR作品が多く生み出されている業界の一つが映画業界です。

眼前一杯のスクリーンに映し出される世界。2,3時間の上映時間中は観客は展開される物語に引き込まれます。映画はある意味、現実を離れてフィクションの世界に没入するメディアとも言えるかもしれません。

特に世界に名だたる映画が生まれる映画産業の中心地ハリウッドでは今や多くのスタジオや映画監督が何らかのVR作品を手がけ始めています。『スター・ウォーズ』、『スパイダーマン』などSF・ファンタジー・ヒーロー作品を中心にVR体験が作られています。

10月中旬にハリウッドでは『VR on the Lot』というVRイベントが開催されました。ハリウッドで行われるだけあり、テーマは“シネマティックなVR作品”について。ゲームではなく、360度映像やインタラクティブなVR体験などが展示され、ハリウッドのスタジオなどの講演が2日間にわたって行われました。

『VR on the Lot』では、ハリウッドのVR事情、そして映像系のVRの今後はどうなるのか、その一端に触れることができました。今回はその展示のレポートとなります。

大作関連のVR作品が続くものの模索を続ける映画×VR

『On the Lot』の会場となったウェストハリウッドの「ON THE LOT」では、DELLやHP、インテルなどの大企業から、Lytroなどのハードウェアメーカー、Penrose Studioなどのコンテンツ制作会社まで20ほどの企業が展示を行っていました。

狭い会場では、ところ狭しとブースが展開されていました。新発表が行われるイベントではないこともあり、すでに配信されているコンテンツを展示しているブースも多くありました。

・『ダンケルクVR』(DELLブース)
・『スパイダーマン ホームカミングVR』(インテルブース)
など

大作とも言うべき映画とともに作られるVRコンテンツは、多くが映画のプロモーションとして制作されています。360度動画であればYouTubeなどで無料公開され、インタラクティブなVR体験はSteamなどで配信されます。いずれもグラフィックは良質なものも多いですが、体験時間が短いなどVRコンテンツとしての総合点はまだ低いという印象。

VRコンテンツ単体での有効なマネタイズ方法は見つかっていないため、コンシューマー市場が小さい現状どのような形で配信するのかは1つの課題になっていそうです。筆者は、会場で昼食中に、映画を作っているプロダクション向けに売り込みをかけている360度撮影会社の営業担当者に話しかけられました。

また、会場内でひときわ体験のための長蛇の列ができていたのは卵型の椅子Voyager(POSITRON社)。こちらはただの観賞用の椅子ではなくモーションチェアで、360度の水平回転、35度の上下回転などの機能が搭載されています。

さらにモデルによっては顔付近には匂いを噴出する小型の噴出口がありました。

実際に体験したところ、360度動画を視聴中に椅子が回転することで視点移動を自動で行ってくれるという内容になっていました。モーション自体は比較的おだやかでしたが、それでも多少の酔いを感じました。また視点移動を自動で行うということは、もはや観る方向を制御していることにほかならず、通常のカメラで撮影する映像コンテンツとの違いが分からなくなってしまうのは残念です。

映画館での設置を目指しているとのことです。日本でも同様の形状のVR用チェアとしてはTelepod(株式会社EJE)があります。こちらは自動回転などはなく、シーンの音に合わせた振動が感じられる体感型の椅子となっています。

光明を見出した期待の新星

前述したようにハリウッドの大手スタジオのVR体験が映画の世界観をVRで体験するというアプローチをとっているのに対して、VRならではの“シネマティック体験”を追求しているスタジオがあります。

各種プラットフォームに向けてVR作品を提供しているスタートアップPenrose Studioは新作『Arden’s Wake』を展示していました。

Penrose Studioはマッチ売りの少女を題材にした『Allumette』(PlayStation VR、Oculus Rift、HTC Vive)という映像作品で知られています。このスタジオの作品の特長は「自分の好きな視点から物語を観ることができる」鑑賞方法を追求しています。目の前でジオラマのように展開するクレイ調のアニメを自分の好きな視点から楽しむことができます。

詳細は『Allumette』のレビューで詳述しています。
【PSVR】物語から離れたくなくなる傑作VRアニメ『Allumette』 娘と母に訪れた悲劇、そして愛を描く

『Allumette』で確立したこのスタイルをPenrose Studioは新作『Arden’s Wake』で踏襲され、さらにその特長を活かしたものに進化していました。『Arden’s Wake』は海上の家で頑固な父と2人暮らしの娘Ardenが主人公です。全3章構成で、今回は第1章の体験が可能でした。

『Arden’s Wake』は、とある日、お父さんが海に落ちてしまい、Ardenが1人乗りの潜水艦に乗って探しに行くという物語です。海が舞台ということもあり、「家の中と外」や「回り込み」という前作でも使われていた視点だけでなく、「海の上と下」という新たな視点が加わりました。体験者の目線はちょうど海上の家と同じくらいです。海上の家で物語が進行している間に、少ししゃがんで海の中に潜ってみると魚達が泳いでいます。

お父さんが海に落ちてしまうシーンや潜水艦が海の底に潜っていくシーンでは、海上から海中の奥深くまで、自分自身が沈んでいくキャラクターたちを追いかけることになります。

多くのスタジオが「VRならではのストーリーテリング」を試行錯誤する中、Penrose Studioはいち早く光明見出しているように感じられました。また、同社は自社開発したVR内VRコンテンツ制作ツール「Maestro」を使用し、VR内でどのようにみえるのか、などをチームで共有しながら制作を進めています。

https://www.youtube.com/watch?v=7B4-EElTGRg

人気ドラマ「シリコンバレー」VR化

映像作品を元にしつつも、長時間楽しめる作り込まれたVRコンテンツも展示されていたため、紹介します。

GPUメーカーAMDのブースでテレビ局のHBOがドラマ「シリコンバレー」のVR体験を展示していました。「シリコンバレー」は、名称の通りシリコンバレーを舞台にした人気ドラマシリーズです。スタートアップ「パイド・パイパー社」のメンバーたちが資金調達やライバル社の嫌がらせなどを受けながら二転三転の展開を繰り広げ、テック業界を風刺しています。シーズン5まで公開されており、日本ではHuluで配信されています。

そのVR版となる『Silicon Valley VR』は「パイド・パイパー社」が拠点を構えるエンジェル投資家の家を自由に歩き回り探索するというもの。ドラマを見ていると、この家のシーンが全体の半分程度を占めるほどに、ドラマを見ている誰もが馴染みのある場所です。

面白かったのは、ただ探索するだけでなく、体験開始時に「タスクリスト」を見せられる点です。

そこに書かれているのは「ボールを見つけて(上に放り投げて掴むことを繰り返し)青の面を5回だすこと」「リチャード(主人公)からの電話に出ること(電話に出るとプレゼン前に吐きそうなほどテンパったリチャードから頼み事をされる)」など、いずれもドラマを見ている人たちにはこれまたおなじみのアクションを追体験することになります。

ドラマの人物たちは電話に出たり、(VR内の)PCの画面上に登場し、自然にドラマの世界にいるような感覚で家の中を歩き回ることができます。

また、家の中にあるほぼすべての物を掴んだり、いじくり回すことができるため、VRゲーム『Job Simulator』のように非常に自由度の高いデザインです。家の中には、馬鹿でかいサイズのドリンクコップが置いてあったり、と思わずニヤっとしてしまう仕掛けやタスクばかりでした。

会場で流れていたティザームービー

https://www.youtube.com/watch?v=2d9Uh8Y4rcw

歩ける360度映像の可能性、360度映像は次の段階へ進めるのか

On the Lotのフロアでは、実写のVRコンテンツ制作のためのカメラや機材も多く展示されていました。

ライトフィールドカメラを開発しているLytroは、次世代機となるImmergeで撮影されたコンテンツをOculus Riftで展示していました。すでに一般公開されている『Hallelujah』というコンテンツですが、公開版は通常の360度映像です。

ライトフィールドカメラで撮影された360度映像は、その中で頭を動かすいわゆる360度の回転だけでなく動くことが可能になります。

Immergeで撮影された『Hallelujah』は、歌手が4方向で歌っている前半と、教会で聖歌隊をバックに歌う後半の2つのシーンで構成されています。

筆者は立ったまま体験しましたが、実際に動くことができたのは前後左右上下1メートル程度です。目の前にいる歌手は3mくらい離れたところに立っているため、「歩き回る」というよりは「多少身じろぎしても没入感が損なわれない」という程度の体験です。また、その距離感のため、また撮影の状況を考えても「回り込んで歌手の背中を観る」といったようなことはできません。

Immergeは現在、提携先を募集中とのこと。限定的に動けることを前提としてどのようなコンテンツを制作するかよく考える必要がありそうです。

Lytroのブース展示は予約制での体験となりましたが1日目の昼には2日目の予約が埋まってしまうほど。動き回ることのできない実写の360度動画が多い中、次世代のVR体験として注目を集めていました。

この記事を書いた人

すんくぼ(久保田 瞬)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。VRジャーナリスト。
VRが人の知覚する現実を認識を進化させ、社会を変えていく無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。VR/AR業界の情報集約、コンサルティングが専門。また、国外の主要イベントには必ず足を運んで取材を行っているほか、国内外の業界の中心に身を置きネットワーク構築を行っている。

Twitter:@tyranusii

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