活用事例 2017.07.07

これからVRビジネスを始める人が押さえておくべき先行事例

3.360°コンテンツ視聴体験の人間工学的評価

最後に登壇したのは、早稲田大学 基幹理工学部 表現工学科 教授である河合氏。

同氏の専門である人間工学的な見地から、VRコンテンツ開発に有益な知見が共有されました。

VR酔い:感覚不一致説

人間工学の観点によるVRの主要な技術的課題として、河合氏は「VR酔い」を挙げました。VR酔いの原因を説明する有力な仮説のひとつに、「感覚不一致説」があります。

感覚不一致説とは、自分が今実際に知覚している感覚が、過去の経験から予測される感覚と矛盾するのが原因で酔いが起きるというもの。

たとえば、VRで車に乗った時、「普通ならこんな時はこう揺れるはず」、「普通ならこれくらい圧力を感じるはず」などと、実生活での記憶に基づいて身体が感覚を予測しますが、実際には揺れや圧力は無く、予測と体験が矛盾します。この矛盾からくる一種の不適応現象として、VR酔いを説明することができます。これは玉置氏や秋山氏も述べたVR酔いについての話にも適用できそうです。

河合氏は、ノンゲームコンテンツ(例:YouTubeなどの動画)では「高画質化問題」、そしてゲーム系コンテンツでは「自由度問題」が感覚不一致の原因になる、と語りました。

ノンゲームの「高画質化問題」とは、「コンテンツを高画質にすることで逆に酔いやすくなる」というもの。描画遅延の大きいVRコンテンツや、カメラが激しく動くコンテンツなどで、単純に画質だけをよくした場合、逆に現実での見え方との差異が大きく感じられてしまい、酔いにつながるのだそう。目から入って来る情報だけが正確になっても、必ずしもVR体験の快適さにはつながらないのです。

ゲーム系の「自由度問題」は、「VRで動ける度合い」が「現実で動ける度合い」より少ないことです。たとえばポジショントラッキング機能の無い(頭の向きしか判別できない)VRHMDでは、HMDを着けたまま現実で歩いたり立ち上がったりしたとしても、VRの中のカメラは静止したままです。
                  
 【More Info】
VR酔いについて学術的に踏み込んだ話では、以下の記事も参考になります。

【CEDEC2016】VR酔いを学術的に考える
「VR大好きなんですが超酔うんですが – VR酔いの研究(1) VR酔いの意外な歴史」~白井博士のVRおもしろ相談室 第3回~
「VR大好きなんですが超酔うんですが – VR酔いの研究(2) 科学のチカラで酔いを覚ます!」~白井博士のVRおもしろ相談室 第4回~
「VR大好きなんですが超酔うんですが – VR酔いの研究(3) 自分の作っているコンテンツの酔いがなかなか無くなりません」~白井博士のVRおもしろ相談室 第5回~

最近の人間工学的評価事例

河合氏は次に、最近行われた、VRコンテンツ体験に関する人間工学的な実験を紹介しました。

この実験では、回転する椅子と回転しない椅子、それぞれに座っているときに360度全天球動画の視聴体験がどのように変化するか調べています。具体的には注視点、椅子・身体部位の回転角、情緒反応、不快感、臨場感などを測定し、ユーザの視覚・行動特性および心理反応を調査し、これからのVRHMDの活用についての知見を探るものとなっています。

被験者に5種類の異なる360度全天球動画を視聴してもらい、コンピュータやアンケートを用いて実験結果を解析した結果、以下のような考察が得られました。
 

【More Info】
河合氏が今回紹介した実験は、一般財団法人デジタルコンテンツ協会が公開している“「ヘッドマウントディスプレイを中心とした没入型映像システムに関する戦略策定」報告書”にて、より詳細な報告があります。

前半では没入感の要素などの分析・整理や相関性の検証を行い、その結果を、社会から求められる要件としてまとめています。また後半には、産業分野での応用可能性について、19社に対するヒアリングを行った結果などが詳細に掲載されています。報告書の掲載ページにて現在閲覧することができます。


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