TIS株式会社、東京都市大学、岡山理科大学、工学院大学の共同研究グループが、バーチャル空間におけるアバターの外見がアイデアを出す会議に与える影響を検証しました。本研究結果によると、「参加者の実際の外見と類似しないアバター」を使用した方が、会議での発言のバランスが向上し、ポジティブな反応が増加することが明らかになりました。
イノベーション創出のためのアイデア出し会議においては、多様な参加者がバランスよく参加することと、新しいアイデアに対して受容的な姿勢を持つことが重要です。しかし実際の会議では、社会的地位や年齢などの要因により、発言を控えてしまったり、特定の参加者の意見を受け入れなかったりするケースが発生します。
本研究では、「外見の社会的手がかりによる先入観や固定観念への影響を低減できれば、バランスのとれた参加、そして受容的な姿勢を促すことができる」と仮定し、アバターの外見がバランスのとれた参加、受容的な姿勢に与える影響を検証・考察しました。
実験では、性別や年齢の異なる4人1組を16グループ作り、計64人の参加者を対象に検証を実施。参加者は、自分の外見と類似した「外見による社会的手がかりのあるアバター」と、外見と類似せず参加者間で同一の「外見による社会的手がかりのないアバター」のいずれかを使用してVR空間で議論を行いました。
(外見による社会的手がかりが「ある」アバター(左)と「ない」アバター(右))
議論は、特定のテーマに対して10分間アイデアを出すタスクと、出されたアイデアについてグループで1位から3位までを決定する意思決定タスク(最大10分間)の2段階で構成されました。
検証の結果、外見による社会的手がかりのないアバターを使用した場合、参加者間の発話量や発言回数のバランスが良くなることが判明しました。また、社会的影響力においても参加者間の差が小さくなることが示されました。
さらに、発話内容の分析では、社会的手がかりのないアバターを使用したグループでは、「いいね」「素敵」などの肯定的な発言やポジティブな感情を表す発言が、社会的手がかりのあるアバターを使用したグループと比較して約2倍に増加したことが明らかになりました。
(ポジティブな感情を表す発言(左)と賛成のリアクション(右))
研究チームは、「この結果から、VR環境での多様な背景を持つ参加者によるアイデア出し会議において、社会的手がかりのないアバターは、バランスのとれた参加と受容的な姿勢を促進することが示された」と結論づけています。
本共同研究には、TIS株式会社戦略技術センターの井出将弘セクションチーフ、東京都市大学デザイン・データ科学部の市野順子教授、同大学メディア情報学部の宮地英生教授と岡部大介教授、岡山理科大学経営学部の横山ひとみ准教授、工学院大学情報学部の淺野裕俊准教授が参加。研究成果は、情報処理学会の「論文誌ジャーナル Vol.66 No.1」に掲載されています。
(参考)プレスリリース