テック 2018.10.11

次世代GPUでVRは変わる?海外のVRの最新動向は?専門家が解説

SIGGRAPH2018 VR/AR事情

西川氏に続いた登壇したのはMogura VRの編集長を務める久保田瞬。今回のSIGGRAPHの最新VR/AR情報として、VRに関する新たな技術要素やVRコンテンツのストーリーテリング技法などを紹介・解説しました。


(Mogura VR 編集長の久保田瞬)

SIGGRAPH2018では、シンガポールのLemnis Technologies社のVerifocalをはじめ、数社が可変焦点型(※)のデバイスを出展していました。Verifocalのものはあまり機能が多くないものの「違和感はなかった」とのこと。Oculusも可変焦点のデバイスHalf Domeの開発を発表するなど、可変焦点型デバイスは注目が集まっているようです。

(※可変焦点……現在のVRヘッドセットやVRコンテンツでは、「近くのものを見ると遠くのものがぼやけ、遠くのものを見ると近くのものがぼやける」といった焦点=ピントの調節に伴う効果が搭載されておらず、VR内のオブジェクトの焦点距離はおよそ2mから1.5m前後に設定されている。可変焦点型デバイスではオブジェクトの遠近によって焦点が合うようになるため、よりリアルかつ自然なVRが体験できると期待されている)

また、SIGGRAPH2018にGoogleが展示していたライトフィールドカメラにも注目。こちらは写真だけではなく動画を撮影できるタイプで、アクションカメラとして知られるGoProが24台も装着されています。2018年春に解散したLytroが2017年末に製作したライトフィールドカメラと比べると「Lytroの方が良かった」とのこと。

大きな要因として、Googleのライトフィールドカメラは動ける範囲が狭いことを挙げました。Google側が「これはプロトタイプだ」と自ら明言しているように、完成度はまだまだとのこと。

また、企業系ブースのモーションキャプチャーを用いた展示の多くはフリーローム(自由に移動できる)での展示でした。「(フリーロームは)海外では人気映画とのコラボも多く、企業側にとっては映画会社へのアピール要素もあったのではないか」との推測も。「スター・ウォーズ」や「ターミネーター」など、映画を題材としたVRコンテンツやVR体験施設を見かけるようになりつつある現在では、確かにそうした意図も十分含まれていたと言えそうです。

VR作品のストーリーテリング

SIGGRAPHでは大量のVR作品が展示されており、「多すぎてとても全てを体験しきることはできなかった」ため、その中でも印象に残った作品をいくつか取り上げて紹介しています。

はじめに紹介していたのがディズニーが制作した「Cycles」。同社初の360度短編アニメです。この作品では360度で観ることの楽しさが入念に考えられており、細部までVR空間を作り込むことよりもストーリーテリングや体験に重視した作りとなっていたそうです。

次に紹介されたのがCave XRです。これは26台のVRヘッドセットMirage Soloが同期され、26人で洞窟の中での出来事を観る、いわば劇場型のVR作品になっています。「15分の作品としてはまとまっている」とのこと。他にもVR空間でVRの作品を作ったものや、現実空間の変化を利用したゲームなどさまざまな展示が行われていました。

VRの活用事例

SIGGRAPHにおいて、家具メーカーのイケア(IKEA)は実際にドイツで運用しているVRサービスを展示していました。VRヘッドセットを被り、VR空間で自分の好みの家具を部屋に配置できます。また体験中、家具の値段や名前は表示されるようになっており、メールアドレスを登録するとお気に入り登録した家具がスマートフォンに保存されます。店舗でVR体験をし、自宅で検討できる、という仕組みです。

イケアはすでにARを用いたサービスとして「IKEA Place」を展開しており、同社は今後この2つのサービスの連携を目指しているとのこと。VR/ARを商品確認から購入の流れにうまく取り入れている事例です。

また、スタンフォード大学のジェレミー・ベイレンソン教授などが取り組んでいる「1000 Cut Journey」なども取り上げられました。この作品では黒人差別を体験する内容となっており、「最初は自分が差別されていること自体に気づかないが、次第に、少しずつその状況を理解できるようになってくる」とのこと。心理学からVRへのアプローチなどの例も増えつつあり、様々な分野でのVRの利用が進みつつあります。「SIGGRAPHはあくまで学術中心だと思っていたが、想像以上に多様。どれもコンテンツのレベルが高かった」と話を締めくくりました。

StarVR Oneについて

今度はStarVRのAPAC Business Development ManagerのMarch Lu氏が登壇、SIGGRAPH2018で発表されたハイエンドVRヘッドセット「StarVR One」に関して話しました。


(StarVR APAC Business Development ManagerのMarch Lu氏)

StarVR Oneの特徴は、従来のVRヘッドセットと比較して非常に広い210度の視野角(従来のPC向けVRヘッドセットはおおよそ110度前後)。一度に視界に入る情報が増えることで、軍事演習をVRで行う際などに、より実践に近い状態で訓練をすることができます。また内側にアイトラッキング(視線追跡)用システムが準備されており、瞳孔間距離(IPD)調整を瞬時に行います。したがって、StarVR Oneを装着すればすぐにキャリブレーションが終わるとのこと。

既存のプラットフォームとの連携も、StarVR One SDKを用いれば行うことができるとのこと。上掲スライドではUnityやUnreal Engine 4、CryENGINEなどへの対応も挙げられています。現在は「まだ開発事業者用にしかStarVR Oneを製造していない」とのことですが、既存の開発ツールからStarVR One用のアプリケーションを開発することもできます。

StarVR Oneについて、Mogura VRは体験レポートを掲載しています。こちらでは使用感などを詳しく紹介しています。

SIGGRAPH Asiaについて

最後に、2018年12月に東京・有楽町で開催されるSIGGRAPH Asiaについて、シーグラフ東京チャプター代表の安藤幸央氏が紹介を行いました。

SIGGRAPH Asiaは今年で12回目を迎える学会及び展示会です。東京で開催されるのは今年が初。日本では過去に横浜と神戸で開催されています。複数の講演・セッションや転職マッチングスペースに展示など「盛りだくさんの内容」となっています。


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