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活用事例 2025.03.19

プロアマ問わず熱中する「スマホ3Dスキャン」の最前線に迫る 「Scaniverse Japan Meetup in 掛川」体験レポ

Niantic社から提供されるスマートフォンで気軽に3Dスキャンを体験できるアプリ「Scaniverse」。そのユーザーの集合するリアルコミュニティイベント「Scaniverse Japan Meetup in 掛川」(以下、Scaniverse Meetup)が、静岡県掛川市で2月に開催されました。本イベントは、Niantic社が主催するもので、文化的な掛川の街を舞台に、ユーザーたちの熱い交流と3Dスキャン文化の隆盛を見ることができました。

イベント概要:「Scaniverse Meetup」とは?

Scaniverse Meetupは、今回初開催となる「Scaniverse」のコミュニティイベントです。静岡県掛川市に、全国から多くのScaniverseのユーザーが集い、2日間にかけて3Dスキャンに関するライトニングトークや、会場周辺の文化的な建物をスキャンして回る催しが行われました。

そもそも「Scaniverse」とは、スマホを使って無料で手軽にできる3Dスキャンができるアプリです(iOS、Android両対応)。スマホだけで、小さいモノから周囲の景色全体まで、さまざまなモノをスキャンできます。スキャンしたモデルデータは外部のサービスにエクスポート可能。また、スキャンしたスポットをアプリ内の地図に登録し、他のユーザーに共有することもできます。スキャンのモードは「Mesh」と「Splat」の2種類があり、用途や対象物によって使い分けできるのも特徴。何より無料で誰でも使えることから、プロアマ問わず利用者が多数おり、SNSでは普段の食事、散歩中に見つけた珍しい物、景色の美しい観光地、果ては出張先のビジネスホテルの部屋まで、3Dスキャンされた様々なものがシェアされています。スキャンしたモデルは、AR機能で表示させることも可能。子供やペットの成長記録としてスキャンデータを残し、今の子供やペットと見比べて活用する例もあります。

今回のイベントの発端となるのは、昨年9月に日本のNianticオフィスで開催されたScaniverseコアユーザーの意見討論会でした。その際に出たコミュニティイベントのアイデアが、5か月という短い期間で形となりました。

今回は、Niantic主導、静岡県と掛川市の共催での開催。また、協力団体として、モバイルスキャン協会、Code for Kakegawa、CITY (Community for Immersive-reality Technology)、みんキャプといった、3Dスキャンやテック系の団体によるタッグとなっています。

そもそもなぜ掛川なのか

世界的に展開しているNianticが、なぜ日本で、しかも主要都市から離れたエリアでイベントを開催したのか。その理由は、静岡県がこれまでに積み重ねてきた3Dスキャンの実績にあります。

静岡県では、県全域を点群データとしてスキャンし、そのデータを一般公開する「VIRTUAL SHIZUOKA」という取り組みを実施してきました。このデータは、防災や文化財の保存など、幅広い分野で活用されています。2022年には、台風15号被害報告書で点描データを活用するなど、オープンデータの活用に積極的です。

さらに、本イベントに関わる団体が過去にこの地域でスキャンを実施していたことも理由に挙げられます。今回の会場である「大日本報徳社」は2016年頃に撮影され、「掛川城」はコロナ禍にバーチャル再現のためのスキャンが行われました。さらに、2023年には掛川城の改修工事に伴い足場が組まれた状態となっていたため、モバイルスキャン協会のメンバーがスキャンを実施していました。

そうした経緯を受け、Nianticの白石淳二さんがイベントの現地視察に訪れて、掛川を開催地として決定されました。

イベントの様子と参加者層

今回会場に選ばれた「大日本報徳社 大講堂」は、国の重要文化財で、小学校の校庭にある銅像で有名な二宮金次郎に由来する建物です。”報徳”とは二宮金次郎が唱える教えで、その教えを実践する目的で建てられました。歴史的文化的に価値のある建物が多く立ち並ぶ街「掛川」の中でも、講演会や研修でも使用される地域で愛された場所です。


大日本報徳社

大日本報徳社の大広間には、Scaniverseユーザー約150名が集結。ライトニングトークやスキャン講習などを通して、交流を楽しみました。今回のイベントのキャパについて、運営としては、初のリアルイベント開催で、想定が付かなかったということがあったようです。しかし、その不安とは裏腹に、チケット公開後1週間でそれが満席となりました。まだ今回の開催情報が届ききる前に完売を迎えたこともあり、参加応募ができなかった方をSNS上で見かけるなど、まだまだ参加人数が増える余地が見て取れます。

参加者の属性としては、筆者の目算で40、50代男性が多かったように感じました。イベント内でとっていたアンケートでは、北は北海道、南は九州までと全国から熱意あるファンが参加しています。地方での開催ということもあり、現地のユーザーが多いかと思いきや、かなり分散されているという結果になりました。

ユーザーの3Dスキャンの用途としては、業務目的で使用するプロから、Scaniverseで日常的に様々なものを気軽に撮影するライトユーザーまで幅広く参加していました。これまで3Dスキャンは建築や土木といった業界で使用されることが多い、業務用の技術といった印象でしたが、近年モバイルスキャンアプリが普及してきたことにより、一般層への広がりを見せているようです。今回のイベントの参加者が多かった理由も、その一般層への広がりによるものだと考えられます。

Niantic社からは、白石さんとNathanさんが現地で参加。CEOのBrian “Bam” McClendonさんは、ビデオメッセージでの登場となりました。McClendonさんから、Scaniverseは124か国からスキャンデータが集まっているが、日本がその中でも1番多く集まっているという熱量の高さを感じるとコメントしていました。

掛川市の久保田 崇 市長と石川 紀子 副市長も駆けつけ、本イベントへの激励と感謝の言葉を述べていました。また石川副市長は、本イベントの協力団体でもある「Code for Kakegawa」のメンバーです。この団体は「地域をテクノロジーで元気に」を掲げる組織で、今回の掛川市での開催を非常に喜んでいた団体でもあります。

装置にスマホをはめ込むだけ! 人力で行う全身スキャン

会場には全身の3Dスキャンを行う装置が展示されていました。制作者は、株式会社サステナブル・パビリオン2025の木村匡考さん。今年開催の大阪・関西万博に展示予定のもので、スキャンした自身の3DモデルにNFTと結びつけることで自身の分身を生成できるといった内容になっています。

この装置は、なんとスマホを装置にセットするだけで使えます。被写体となる人が中央の台に入り、スマホをセットした側面部を押して6周回すと、スマホがレールに沿って上下に移動していき、身体全体を撮影していくという仕組みです。照明も取り付けられており、時間や場所を選ばず使えるのもポイントです。

設計思想に「公園の遊具のように誰でも使えるもの」があり、スマホがあれば誰でも使用できる簡単なものになっている点が興味深いところでした。こうした人力の装置と組み合わせても利用できる点も「Scaniverse」の面白いところと言えそうです。

歴史ある掛川で3Dスキャン行脚

掛川市には、大日本報徳社や掛川城だけでなく、二の丸茶室、ステンドグラス美術館など文化的に価値のある建物が多くあります。なので、掛川の街並みをスキャンして回る「掛川をスキャン!みんなで3Dスキャン活動」と題した地域の散策企画も実施されました。Niantic社から無料で配布された散策パスポートとイベント腕章で、各種施設に無料で入場ができるようになり、各々がスキャンしたい場所を自由に回って撮れます。

掛川🉐パスポートとNianticの腕章

掛川市ステンドグラス美術館

文化財の建物といったスキャンする機会が滅多にないものをスキャンできるとあって、参加者は大いに盛り上がりました。

Scaniverseには、先述したとおりスキャンしたデータをアプリ内の地図にマッピングする機能があり、ユーザー同士で共有することができます。開催前は数件しかなかったスキャンの痕跡は、イベント後には大日本報徳社を中心に数10件にも増えていました。ユーザーの熱意の結果と言えるでしょう。貴重な文化遺産の現時点での状態を、3Dデータとして保存しておけば、後年になっても価値のあるものになりますし、SNSでシェアして「掛川にはこのような素晴らしい施設が多数あるぞ」と広くアピールすることもできます。それこそ、今回参加したユーザーもスマホを向けながら様々な活用方法のアイデアを練っていた人も少なくないはずです。


イベント後の掛川市周辺のスキャンデータ分布

著者もこの企画に参加。実際に現地で建物やオブジェクトを撮影しました。

また、コミュニティイベントだからこそと言える良い点は、周囲に同志が多くいることです。3Dスキャンは浸透してきたといえど、まだ物珍しいもの。被写体に対してカメラやスマホを構えて、周囲をグルグルと回るその姿は、知らぬ者からは少し変わって映るはず。しかし、今回のイベントは3Dスキャンを知る者たち。心置きなくスキャンを行ったり、時には協力してスキャンを行うなどの光景がありました。「誰かと一緒に観光地を巡りながら写真を撮る」という行為は、すでに一般的な趣味としてすでに浸透していますが、今後は「一緒に3Dスキャンする」光景も広がっていくのかもしれないと考えていました。

Scaniverseから見る3Dスキャンの一般化

イベント中、数100万円もする高額な測定機器を披露するユーザーもおり、参加者から熱心な質問や感想が交わされていたのが印象的でした。専門家による一方的な講義形式ではなく、基礎知識を持ったもの同士が知識をシェアし合う様子を見るに、スマホによる3Dスキャンの一般化までの道は、すでに整いはじめているのではないかと思いました。重要なのは、プロもアマチュアもどちらも同じくらいの熱量で新しい技術の話をしている点です。スキャンする目的や考え方に違いはあっても、モチベーションが同じであれば話し合い、お互いに高め合うことができる。おそらく、今回のMeetupをきっかけに、各ユーザーが様々なアイデアを熟成させ、実現させていくことになるのではないでしょうか。そして、このイベントの交流から生まれたユーザーたちの繋がりは、作品制作や他のイベントなど新たな取組みに発展し広がっていくことでしょう。

今回、大盛況の後に閉幕したScaniverse Meetup。今後の開催でも、参加者数が増える見込みがあることから、まだまだ規模が大きくなることが予想されます。

最近ではNianticは、Meta社のVR/MRヘッドセット「Meta Quest3」で閲覧できるWebアプリ「Into the Scaniverse」をリリース。世界中のユーザーがスキャンしたデータを見ることができるようになりました。また点群データで保存される「Splat」モードのデータを、PLYやLASといった独自の形式でエクスポートできるようになるなど、スキャンしたデータの活用の幅も広がっています。次々と「スマホの3Dスキャンだけで実現できること」が増えている中で、今後どのように一般層にまで普及していくのか、注目していきたいところです。


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