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業界動向 2020.01.10

「Beat Saber」の大ヒットを支えた配信ツール「LIV」創業者が語る

たった3人の開発チームが、大ヒットタイトルを生み出す――。Beat Gamesから2018年に発売されたVRゲーム「Beat Saber(ビートセイバー)」は、そんな夢物語を現実のものとしました。発売されるや否や、各ストアのランキングで軒並み売上1位や人気1位を記録。2019年の早い段階で売上100万本に到達、同11月にはフェイスブックに買収され、スタートアップとしては早々にイグジットしています。

「Beat Saber」は、「VR向けのゲームを作っても、あまり売れないのではないか?」という、世界中のVR開発者の不安――2017年からずっと感じていた不安です――を吹き飛ばすがごとく現れた、希望の星でもありました。

その成功には、誰でも身体を動かして楽しめるゲーム性もさることながら、初期からのプロモーションが大きく貢献しています。しかし、彼らは「PRには一切資金を使用していない」とのこと。では、どのようにして「Beat Saber」はそのプロモーションに成功したのでしょう?

きっかけ

「Beat Saber」が発売前から何度もSNS上でバズを巻き起こし、期待値を高めることになったきっかけは、LIVという企業との出会いです。

LIVは、VRゲームをプレイしている様子を、第3者視点で見せるための配信ツールを手がけるスタートアップです。LIVのシステムを使ってBeat Saberをプレイする様子を映した動画は、公開から瞬く間に数百万回再生されました。同ツールは、日本でもVTuberがVRゲームを実況する際にもたびたび使用されています。

(LIVのシステムを使った「Beat Saber」のプレイ動画。すでに860万回以上再生されており、SNS上でも大きな話題となった)

Beat Gamesの元CEO、Jaroslav Beck氏のインタビューでも言及されており、同創業者のVladmir Hrinčár氏も「LIVとの出会いは重要な要素だった」と語るほど。

(前略)
私はLIVという、MR技術の会社の人々と知り合いました。少し話しただけでしたが、そこで第2の啓示を得たのです。「VRのために作ったリズムゲームはただのリズムゲームではなく、音楽を感じることができる全く新しい方法で音楽を楽しむものだ」と。

そのLIVがグリーンバックを使って作ってくれた動画がこちらです。「Escape」という曲を使い……これが全てを変えました。とんでもなく話題になってしまったのです。

(Jaroslav Beck氏のインタビューより引用)

「VRゲームの面白さを伝えるツールが無いことに気づいた」

筆者はチェコの首都、プラハに拠点を構えるLIVのオフィスを訪れました。LIVのオフィスは、チェコビールの工場をリノベーションしたビルにあります。居心地の良いソファが置かれたゲームスペースと、LIVの代名詞でもあるグリーンバックの設置されたオフィスでは、CEOの“Dr Doom”ことAJ Shewki氏らが仕事に打ち込んでいました。


(LIVのCEO、AJ “Dr Doom” Shewki氏(と、LIVのオフィスにいる猫)。大学時代は格闘ゲームをプレイしており、当時の持ちキャラであるDr Doomの名前を名乗っている。大の日本好きで、筆者が訪問したときは「ストリートファイター」のTシャツを着て登場した)

LIVは、2016年にDr Doom氏が趣味で始めたプロジェクトでした。「TwitchでVRゲームを配信しようとしたけれど、難しいことに気づいた。一人称視点でしか実況できないから何が起こってるのかわかりにくいし、良いツールもなかったんだよ」との談。

そこでグリーンバックを使い、現実のプレイヤーをゲーム内に合成する方法を採用。試しに作ってみた動画の一つが大きく話題になり、ディズニーやアディダスなどの大企業から依頼がくるようになったとのこと。その後LIVは2017年には世界的なアクセラレーターとして知られる500に採用、30万ドル(約3,200万円)のシードファンディングを行います。

2018年には「Beat Saber」のSteamでのアーリーアクセスの開始とともに、LIVも配信用のツール「LIV StreamKit」と開発者用のSDK「LIV SDK」のベータ版をリリース。現在は約300のゲームにLIVのSDKが組み込まれており、プレイヤーが第3者視点で遊ぶ様子を撮影できるようになっています。

また、配信者は実写合成だけでなく、アバターを使ってグリーンバックなしで簡単に配信ができるようになりました。日本ではよむネコのVRゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」がLIVを採用しています。

日本でも、LIVはVTuberのゲーム実況などにおいて注目を集めています。LIVにとっても「日本は重要なマーケット」(Dr Doom氏)とのこと。日本発のアバターのフォーマットであるVRMやモーションキャプチャシステム「バーチャルモーションキャプチャー」にも対応しています。ここまで日本のアバターシステムにいち早く対応しているサービスは類を見ません。

目指すは配信者、クリエイター、視聴者を繋ぐこと

「LIVはストリーマーとクリエイターが視聴者を増やす支援をしてきた」と語るDr Doom氏。次に取り組むのは、ずばり「収益化を支援する」こと。視聴者が支払いを行うことで、直接ライブストリーミング中のゲームに干渉できるシステムの構築を進めています。

「Beat Saber」の配信で行った実験では、視聴者がキューブを爆弾に変えられるようにした結果、通常の配信と比較して収益が7倍に増加。視聴者が配信者に関われば関わるほど、視聴者のエンゲージメントが増えることに注目しています。

2020年にこのシステムをローンチすべく、2019年にシードラウンドとシリーズAのファンディングを立て続けに実施。シードではOculusの創業者パルマー・ラッキー氏などから100万ドルを、シリーズAでは260万ドルを資金調達しました。

「ゲーム実況はこの15年間受け身だった。新たなインタラクティブな仕組みが必要だ」と語り、Dr Doom氏はこのシステムがゲーム実況を変えていく可能性を示唆しました。当然、視聴者がVRで観れる・参加できるようなVRビューワーも長期的には目標にしているとのこと。


(CTOのSteffan “Ruu” Donal氏はゲーム配信者でもあり、Beat Saberの最高難易度であるExpert+を難なくこなすヘビープレイヤーだ。Ruu氏のYouTubeチャンネルはこちら。なお余談だが、当初はサンフランシスコで創業したLIVは、ロンドンを経てプラハにオフィスを置いている。その理由は「プラハ出身のRuu氏が家族と過ごす時間をとるため」とのこと。全世界からリモートで13名の社員が働いているそうだ)

VRゲームを創るクリエイター、そしてそれを楽しむ配信者と視聴者のためのエコシステム構築を進める“縁の下の力持ち”的な役割を担うLIV。VRゲーム開発者だけでなく、VRのアプリケーションを開発している人が等しく悩む「見せ方」に真っ向から取り組んでいる必見のツールです。


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