医療や福祉分野でVR技術を活用する株式会社ジョリーグッドが、米国の大学と共同で、VRを用いた認知症ケア教育プログラムを実施します。このプログラムは、介護現場の課題である高い離職率の改善を目指すもの。VRにより、認知症の方へのより良いケア方法を実践的に学べます。日米共通の課題解決に向けた試みであり、将来的な日本国内への展開も期待されます。
この認知症ケア教育プログラムは、介護職のスキル向上を目的としています。特に、認知症患者への対応能力を高めることに重点を置いています。介護現場では、認知症の方とのコミュニケーションやケアの難しさが、職員の負担増や離職につながる一因とされています。VRによるリアルな体験を通じて、適切なケア方法を学び、自信を持って業務にあたれる人材を育成することを目指します。
開発は、日本国内で医療・福祉分野のVRトレーニングを展開してきたジョリーグッドと、介護や老年学に関する知見を持つ米国のジョージ・メイソン大学が共同で行います。
日米ともに高齢化が進み、介護人材の不足や定着率の低さが深刻な問題となっています。VRを活用することで、従来の座学やOJT(実地研修)だけでは難しかった、多様な状況に対応できる実践的なスキル習得を支援します。安全な仮想環境で繰り返し練習できる点も、VR教育の利点です。
認知症ケア教育プログラムとは
本プログラムの受講者は、VRヘッドセットを装着します。VRヘッドセットは、頭にかぶるゴーグル型の装置で、360度の映像により、体験者はまるでその場にいるかのような没入感を得られます。
コンテンツには、認知症の方が見ている世界を体験する視点や、介護者として対応を学ぶ視点などが含まれます。例えば、「食事の介助中に拒否された場合、どのように声かけをすれば良いか」「落ち着かない様子の入居者に、どう寄り添えば安心してもらえるか」といった具体的な場面が想定されます。
受講者はVR空間内で様々な状況に直面し、適切な対応方法を選択・実践することで学びを深めます。このような体験を通じて、認知症の方の気持ちを理解し、より質の高いケアを提供するためのヒントを得ることが期待できます。
本プログラムは米国での実証運用を通して、効果を測定します。介護職員のスキル向上度や、学習意欲、離職率の変化などを評価する予定です。得られたデータや利用者からのフィードバックを基に、内容の改善やコンテンツの拡充を図ります。
将来的には、日本国内の介護施設や介護福祉士養成校などへの導入も視野に入れています。日本の介護現場が抱える課題解決にも貢献することが期待されます。VR技術の進化とともに、より効果的で利用しやすい教育プログラムへと発展していく可能性があります。
ジョリーグッドは、「テクノロジーで、医療の進化を加速する。」をミッションに掲げる企業です。特に医療・福祉分野におけるVRソリューションの開発・提供に力を入れています。代表的なサービスには、医師の手術手技をVRで体験・学習できる医療教育プラットフォーム「オペクラウドVR」や発達障害を持つ方向けのソーシャルスキルトレーニングVR「emou」(エモウ)も展開しています。大塚製薬株式会社とも提携し、精神疾患領域での共同開発も進めています。同社は、事業拡大のために複数回の資金調達も実施しており、医療・福祉分野でのVR活用をさらに強化していく方針です。
医療・介護分野でのVR活用広がる
VRはエンターテイメントだけでなく、様々な産業分野での活用が進んでいます。特に医療や介護の分野では、その可能性に大きな注目が集まっています。
国内外の事例を見ると、VRの活用方法は多岐にわたります。教育を目的とした活用では、手術シミュレーションや看護技術のトレーニング、今回のような介護研修などに使われています。危険を伴う手技や、再現が難しい状況も、VRなら安全かつ繰り返し練習できます。
治療やリハビリテーションでも活用が進んでいます。例えば、VR医療プラットフォームを提供するXRHealth社は、認知機能のリハビリを目的としたVRゲーム開発企業を買収し、サービスを拡充しています。他にも、痛みの軽減(疼痛緩和)、高所恐怖症などの治療、脳卒中後のリハビリ支援などにVRが応用されています。
患者のケアや生活の質(QOL)向上にも役立てられています。高齢者施設では、VRを使って思い出の場所を再訪したり、旅行体験を提供したりする取り組みが実施されてます。この取組により、利用者の精神的な安定や意欲向上につながる効果が報告されています。
VRは医療・介護従事者の教育効率を高めるだけでなく、患者や高齢者の治療、そして心のケアにも貢献する可能性があります。今後、さらなる技術開発と導入事例の増加により、医療・介護サービスの質の向上に貢献していくことが期待されます。
(参考)プレスリリース