Home » 【講演レポ】VR/ARを使ったビジネスの見つけ方 医療分野を例に語る


活用事例 2017.08.17

【講演レポ】VR/ARを使ったビジネスの見つけ方 医療分野を例に語る

 
2017年8月9日夜、VR・AR・MRとライフサイエンスをテーマにしたMeetupが開催されました。(イベントページ

主催を務めるHoloEyes株式会社はVR技術の医療応用などを行っていおり、2017年6月末に1.5億円の資金調達を成功させています(関連記事)。

同イベントではHoloEyes社を中心に様々な人が登壇し、VR・AR・MRなどのビジネス分野における動向やHoloEyes社が取り組んでいる医療への応用事例、またUnityを使ったビジネスモデルの紹介などが行われました。

イベント開催のあいさつを行ったのはHoloEyes社のCEO兼CTOである谷口直嗣氏。以下では講演内容を中心にイベントレポートをしていきます。

1.VR/AR/MRビジネストレンド


一人目の登壇者は、HoloEyes社の取締役兼CSOである新城健一氏。医療に限らない一般的なVR・AR・MRビジネス分野における動向を紹介しました。

AR業界マップ

氏が最初に紹介したのはThe Venture Reality Fundが公開しているAR分野の業界マップ。

The Venture Reality Fundによれば、最も活発に事業が動いているのはデバイス・SDKの分野で、またマップ最上段のアプリケーションに分類される企業数が前四半期と比べて60%増加したとのこと。新城氏はこれについて「まさにサービスを作り始めている黎明期の動き」と述べました。

本AR業界マップおよびVR版の業界マップの詳細は、関連記事を参照のこと。

(関連記事)
拡大する世界のVR業界 最新の業界マップが公開(2017.03.13)
大手の参入相次ぐAR分野 2017年第2四半期の業界マップ公開(2017.07.24)

コンテナとコンテンツ

また2017年3月に行われたイベントVRDCにてDigi-Capital社が公開したグラフも併せて紹介。グラフによれば、2016年にはAR分野への投資が大きな比重を占め、ソリューションサービスやビデオがそれに続く結果となっています。

新城氏はここで「コンテナとコンテンツ」という考え方に触れました。

かつては“巻物”という1枚の大きな紙(コンテナ)に何かコンテンツが描かれていましたが、時代とともに巻物は分割されて“ページ(本)”というコンテナが主流となりました。ページをめくる“本の時代”には、“巻物の時代”にはできなかった表現(例えば「見開き」など)が誕生し、コンテンツは新しいコンテナに合わせたものに変化していくのです。
 
近年広まりつつある“電子書籍”などは、まだ“新しいコンテナ”の上に“従来のコンテンツ”が乗っている段階と言えそうだと新城氏。

歴史的に見て、まずは従来のコンテンツが新しいコンテナに合わせた形にコンバートされる段階が訪れ、やがて新しいコンテナ独自の形式が産まれてきます。これはVRについても同様であり、コンテナとコンテンツのギャップにビジネスが生まる可能性があります。

広告・eコマース分野の応用事例

Digi-Capital社による二枚目のグラフは、これからVR/AR分野でどんなビジネスモデルが起こって来るかを表したもの。ハードウェア販売、広告、eコマースと順に続いています。

氏はこれまでの広告・eコマース分野での事例も紹介しました。

VR広告のプラットフォームを開発するImmersvや、VRで家具などの設置のシミュレーションを行うイケア、VRショッピングを手掛けているeBayやAlibabaなど。

新しいビジネスへのヒント

それでは今からビジネスを始めるには、どこに注目したら良いのでしょうか?新城氏は「フィクションをノンフィクションに」することが大事だと言います。

フィクションは以下の3種類に分類できると氏は語ります。

(1)ユーズドテクノロジーフィクション(UF)
現在のテクノロジーの新しい使い方を描く

(2)テクノロジーフィクション(TF)
5~10年先の近未来の技術を描く

(3)サイエンスフィクション
かなり先の未来に実現されるかもしれない技術を描く
 
このうち(1)と(2)の間にビジネスは生まれやすいのだと語ります。

そしてビジネスのタイプを

1.企画・製造
2.広告・告知
3.教育・啓蒙
4.販売・流通

の4つに分類し、あらゆる業界で「(1)と(2)の間にあるような先進技術を使って何ができるか」を検討すると良いと言います。
 

「“建築”の“企画・製造”では何ができるだろう?」「“観光”の“広告・告知”では何ができるだろう?」といったように検討することで、自分たちの強みを生かしてできるビジネスを見つけられるのではないか、と言って新城氏は締めくくりました。

2.VR/AR/MRライフサイエンス活用事例

続いて登壇したのはHoloEyes社の取締役兼COOである杉本真樹氏。

氏は現役の外科医であり、手術などの医療現場にVR・AR・MR技術を取り入れて活動しています。


実際の手術現場でVR技術を利用している例。

実際に現場で使われるデータを、VRで体験

杉本氏はまず、人間は3次元空間で行動をするのに利用するデータや情報が2Dの形を取っているというギャップを指摘しました。「手術は3D空間で行うのに、手術に用いるレントゲン写真などは2Dで表示されます。またこの会場に来るまでに利用した地図も、実際に移動するのは3次元空間であるのに平面表示です」

氏が取締役を務めるHoloEyes社は、3Dの人体構造をそのまま3Dで直感的に体感できるようなシステムを開発しています。

たとえばCTスキャンによって得たデータをドラッグアンドドロップするだけで、VRで体験できる形式に変換してくれる「VR OBJ Viewer」の開発。Autodesk社・Born Digital社と共同開発したこのソフトウェアは無料で公開されており、こちらのページのリソースデータからダウンロードすることができます。

実際に現場で使われるCTスキャンのデータをVR体験。

これら「VR OBJ Viewer」を含む、誰でも簡単に扱うことができるようにカスタマイズされた「医療向けVRスタンダードセット」は、Born Digital社から販売されています

「こうしたVR技術を利用した治療には、保険が適用される場合もある」と杉本氏。VR技術で3Dモデルを体験するだけなら、3Dプリンターで実物を製造するより格段にコストが抑えられるため、保険の範囲内で治療可能とのこと。将来的には保険が適用されるもとで、VR技術を利用した治療を受けることができる未来がくるかもしれない、と氏は語りました。

[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]

[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]

[/wc_column][/wc_row]

 

医療現場にVR技術を取り入れるメリット

杉本氏は、VR技術を用いることで得られるメリットとして、次の2点を紹介しました。

1.事前に手術のシミュレーションができる
講演では、患者がやって来る一時間前の手術室にて、患者本人のデータを使って手術のシミュレーションをしている様子が紹介されました。直前に本物と同じ見た目のデータを使って確認を行うことで、手術本番でも冷静に対応できるのだと言います。

2.医療教育への応用
たとえばベテラン医師が本人にしかできないような難しい手術を行った場合、その技術をどのように後輩医師に伝えていけばいいでしょうか。手術というのは「もう一度同じようにやってみる」ということが難しいもの。同じ患者は二度と同じ手術台には横たわりません。そこでVR技術を使えば、何度も実際の身振りで教えられるだけでなく、その様子を記録しておくこともできます。

また医療器具メーカーから、実際に販売しているネジやドライバーのCGデータを提供してもらえれば、(VRで)実物と同じ見た目の器具を使って練習をすることもできます。VRというプラットフォームのもと、従来のCGデータを統合することができるのです。

医療 × AR、医療 × MR

ARはAugmented Reality(拡張現実感)、MRはMixed Reality(複合現実感)を意味します。一般にVRがコンピュータによって生成された環境を体験するのに対し、ARは現実環境がより多く混ざっている状態を指します。典型的には現実世界の中にCGオブジェクトやスクリーンが浮いて見えるなど。MRはVR・ARを包括する概念で、物理環境とCG環境が様々な比率で混ざり合った環境のことです。

杉本氏はこれらの技術も積極的に医療現場に取り入れています。

この立体視ディスプレイ「zSpace」は、zSpace社が開発し富士通が販売を手掛けているもの。ディスプレイからCGが飛び出して見え、ペン状のコントローラーで操作をすることができます。

専用眼鏡をかけていれば誰でも体験できるため、手術や教育に応用可能とのこと。しかし氏は、ディスプレイという物理的な範囲の制約が少しネックだったと語ります。


http://holoeyes.jp/?lang=ja

そこで次に杉本氏が導入したのがマイクロソフトが開発しているMRデバイスHoloLens。HoloLensを装着している人なら誰でも、好きなようにCGを見たり操作したりすることができます。

横たわる患者の真上に、患者本人のデータを表示し、それを医師全員で参照しながら話し合う様子が見て取れます。

杉本氏は、これまでのVR医療活用事例やVR OBJ Viewerの使い方など、VR×医療の事情を詳しく紹介した『VR/AR医療の衝撃 ヘルスケアから医療現場、教育、コンテンツビジネスへ』(書籍ページ)も執筆しています。

3.Unityを使ったVR/AR/MRビジネスモデルの新提案

三人目の登壇者はゲームエンジン「Unity」のユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社より、エバンジェリストの伊藤周氏。


イントロとして、その場でギターのモデルをUnityにインポートし、すぐにHoloLensで現実空間に表示するデモが行われました。

伊藤氏は講演の中で、Unityを利用した新たなビジネスモデルの提案をしました。

Unity on Cloudのすすめ

まず、非ゲーム産業でUnityを使ったビジネスを行う場合に直面する問題として、以下の3つが挙げられました。

.ソリューションのマネタイズに困る
(ゲームにおけるガチャのような)継続的なビジネスモデルが構築できないため、受注側は必然的に「1案件いくら」と最初に報酬を受け取り、その後は継続的にサポートフィーをもらうという形にならざるを得ない。
 
2.カスタマイズできない
B2B案件を扱う一次請けには、「客の要望に沿うため、細かい点も毎回二次請けに戻す必要がある」という実情がある。

3.デプロイ(インストール)に困る
たとえばハウス展示場のVRコンテンツの場合、全国各地の展示場にソフトウェア・コンテンツを供給する必要があるが、実態として開発者が(USBメモリやDVDなどを)直接持っていく必要がある。

これら問題に対して伊藤氏は、クラウド上でUnityエディタを自動で動かすという解決策を提案しました。

AR CAD Cloud(ソフトバンク)の例

ソフトバンクが提供する「AR CAD Cloud」は、クラウド上に3D CADデータをアップロードするだけで、VR・AR・MRデバイスで体験ができる形にデータを変換するサービスです。

こうしたシステムを構築すれば、ユーザ側は「Unity」などのことを一切知らなくてもサービスを使用でき、簡単にVR体験を利用することができます。また一旦このようなサービスを作ると、その後は継続的に収入を得られるため、マネタイズ可能です。

HoloEyes社が現在開発しているサービスにも、これと同じビジネスモデルが適用可能です。(医療画像解析アプリケーションで得られたDICOMデータをクラウドにアップロードするだけで、VR体験可能な形にコンバートして返してくれる)

同様のビジネスモデルを適用できる例として土木分野と住宅分野の事業も触れられました。
 

土木分野


住宅分野

ただし、Unityをクラウド上で動かすには別途ライセンスが必要とのこと。伊藤氏は「相談等は柔軟に受け付けます。まずはお問い合わせを」と言って講演を締めくくりました。

おわりに

 
 
本イベントでは、HoloEyes社が取り組んでいる医療×VRという事業を手掛かりに、VRビジネスを立ち上げるためのヒントや、クラウド上でUnityを使った新ビジネスの提案がなされました。

(本イベンドのまとめ)

1. 医療、建築、観光……いずれの分野でも、「現在手の届く、少しだけ未来の技術」を組み合わせることで、広告や教育、製造や販売にどのような変化をもたらすことができるか考えることが、新ビジネスのヒントになり得る(新城氏)

2. 1.の具体例として医療現場にVR・AR・MR技術を取り入れた場合、3次元空間の自然なデータ・シミュレーションを医療現場で活用することができ、教育などにも応用が可能となる(杉本氏)

3. 2.で紹介された事例を手掛かりに、専門知識がない人でもVR技術を利用できるようクラウド上でデータ変換を行うなど、マネタイズ可能なシステムの提案(伊藤氏)

イベントではスナックやドリンクが配布され、体験型のデモ展示もあり、参加者同士の交流も活発に行われていました。
 


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード