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ARゲーム・アプリ 2024.05.11

AR仕掛けの広告は、タダの“おまけ”で無くなるかもしれない 印象的なプロモーション企画まとめ

2024年現在、様々な企業がAR技術を活用した広告やプロモーションの展開に力を入れています。こういったプロモーションは、使われ始めた当初は、スマートフォンの画面に芸能人の顔が出てきたり、小さなエフェクトが飛び出すといった“おまけ”程度の仕掛けが大半でしたが、最近はARの演出そのものをひとつのコンテンツとして注力する、本格的なものが増えつつあります。

本記事では、これまでに企業が行ったARプロモーションから特に印象的なものをピックアップして紹介します。

ポケモンGO:ゲーム内にAR企業広告を出す試み

スマートフォン向けAR位置ゲーム「ポケモンGO」では、ゲーム内に企業広告をARで表示する試みが行われています。フィールド上に登場するアドバルーンをタップすると見られるようになっており、日産自動車(以下、日産)や伊藤園、Lunchables(海外のみ)などの広告が展開されました。

このAR広告のユニークな点は、企業のロゴマークを表示するだけではなく、ゲーム本編のポケモン同様に、リアルの空間に企業のコンテンツを出現させられる点です。

例えば、日産の広告では、電気自動車「リーフ」がARで表示可能となっていました。実際の塗装を確認できる、カラーチェンジ機能も用意されており、もし「リーフ」を購入したら、現実では、どのように見えるかを確認できます。

このPRのもうひとつ興味深い点は、Niantic社のブラウザベースAR技術「8th Wall」が活用されていることです。「8th Wall」は、VRヘッドセットやスマートフォンなど広範囲のデバイスに対応しているAR技術ですが、今回の場合は、アプリベースである「ポケモンGO」に、直接埋め揉むようなかたちで活用しています。つまり、アプリ内のARシステムとは別のARシステムを走らせているのです。

これについて、Nianticのエンジニアリング部門のシニア・バイスプレジデントのブライアン・マクレンドン氏は、「ブラウザベース(※「8th Wall」のこと)のインターフェースは、アプリに比べて素早く反復的に改善できるのが大きな利点です。もしうまくいかなくても、JavaScriptを更新するだけですぐに修正が反映されます」とコメントしており、AR広告が、比較的柔軟にゲーム内に実装できる点を強調しています。

また「ポケモンGO」プレイヤーの視点に立てば「ARを立ち上げればアイテムが手に入る」という仕組みになっているのも魅力的です。


(フィールドアドバルーン。タップするとAR広告がスタート)

食品とのコラボ:ガスト&スターバックス


(ガストのARキャンペーンのイメージ画像)

一部の飲食店では、メニューや食べ物とARを組み合わせて、より食事を楽しめるキャンペーンが行われています。最近では大手レストランのガストや、スターバックスの取り組みが注目されています。

ガストの企画は、お花見のシーズンに合わせた期間限定キャンペーンで、メニューをスマホでスキャンすると、メニューの上に「地面」とさくらの木が表示されるというもの(現在は終了済み)。頼んだ食べ物などと一緒にARさくらを記念撮影したり、レストラン内にいながらお花見が楽しめたりします。

スターバックスは2020年から「さくらAR」と呼ばれるARキャンペーンを実施。このキャンペーンはガストと同じく春限定の催しで、2024年には、クマのキャラクター「ベアリスタ」がその場で即興で踊ってくるAR演出が話題に。ベアリスタの衣装や踊りの振り付けを変えられ、自由に踊る姿を動画に収められました。

飲食店によるARキャンペーンの増加には、注文した食品を撮ってSNSにシェアする文化の流れをくんだものです。いつもとは違った季節限定の華やかな写真を投稿できるのがポイントで、写真にストーリー性やメッセージ性を加えられます。上記のベアリスタのように、ショート動画での投稿を狙った取り組みも目立ち始めており、今後より、動画撮影を促すようなAR演出のプロモーション企画が登場するかもしれません。

映えを変化させるもの:スナップチャットやインスタ系

世界各国で多くのユーザーが利用する「スナップチャット」や「インスタグラム」では、ARフィルターを使ったPRや広告が展開されています。「スナップチャット」はAR機能で顔を加工したり写真を撮ったり、フレンドとチャットしたりできるアプリで、様々なエフェクトをかけて自分の顔を色々と加工できます。

フィルター系のARプロモーションを展開しているのは、主に美容(コスメ)やファッション関連の企業です。「スナップチャット」などでは利用者の顔改変や、猫耳やメイクのような、現実の顔をデコレーションするARコンテンツが親しまれており、PRしたい製品(を連想する)エフェクトを組み込む形でプロモーションが実施されています。

例えばAmazonは、2022年より「スナップチャット」の運営元Snap社と提携しており、同プラットフォーム上の公式アカウントでは、Amazon Fashionのアイウェア製品を体験できる、試着ARフィルターが提供されています。

このフィルターでは、マウイジム、ペルソール、オークリーなどの有名ブランドの製品もARで試すことができ、自分が実際に商品を手に入れたときのイメージをより固められます。他にも「Sponsored AR Filters」と呼ばれる機能もあり、ユーザーがコンテンツを撮影した後、加工のために使う「フィルター」の中に、企業スポンサーによるARフィルターが追加されていることも。既存のフィルターにロゴなどを載せる形になるので、より気軽にロゴ入りグッズを見られます。

ファッション方面では、ヨーロッパの高級ブランドDior(ディオール)が、インスタグラムでのARプロモーションに力を入れていることで知られています。同社は2019年、当時の新アイテム(サングラスやヘッドバンド)をAR試着できるフィルターを公開。また2023年には、コレクションにインスパイアされた、蝶をモチーフにしたARエフェクトをリリースしています。

なおインスタグラムのARフィルターは、Meta社のARエフェクト制作ツール「Spark AR Studio」を通じて動作しています。「Spark AR」は無料で展開されており、企業や個人製作者が気軽にコンテンツを制作できる点も、盛り上がりの要因の一つになっていると言えそうです。

夢の自動車が目の前に:ホンダとF1

アート作品や高級車といった、普段の生活では触れる機会の少ないモノを気軽に楽しめるのもARの魅力です。例えば、本田技研工業株式会社(ホンダ)では、公式サイトで、スポーツカー「シビックタイプR」やファミリーカー「ステップワゴン」といった一部車種の3Dモデルを公開。これらのモデルは、スマートフォンを使ってARで表示できます。


公式サイトより引用


(シビックタイプRのARは、内装まで閲覧可能)

事前に購入したい車をしっかり確認するには、販売店での見学会やモーターショーなど、特定の機会が限られてしまい、ややハードルが高いのが実情です。ARであれば、実寸台の車のモデルをその場に出現させ、内装まで確認できるのがポイント。もし駐車スペースなどがすでにあれば、サイズ感や雰囲気などまで把握できます。

モータースポーツ領域では、F1(フォーミュラワン)がARに注力しています。F1は基本的に市街地から離れたサーキットで開催されており、入場チケットも高価です。サーキットにはあまり来れないというライト層向けに、よりスポーツに親しんでもらうために取り組みを進めていると思われます。

ARに関する取り組みは、チームによって様々ですが、2022年、マクラーレンF1は、同チームのマシンを表示できるインスタグラム向けのARフィルターを公開しました。フィルターは、チームのスポンサー、仮想通貨取引所「OKX」とのコラボで、特別カラーのF1マシンを、好きな場所にARで置いて楽しめます。

なおマクラーレンは、VR分野とも協業していた時期があり、以前にはHTCとスポンサー契約を結んでいた経緯があります(現在は解消済)。

 

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ARゲームに夢中:ストリートファイター、サンリオ

AR技術を利用した本格的なゲームを配信してコンテンツのPRを行う企業も存在します。株式会社カプコンは2022年、当時35周年を迎えた「ストリートファイター」シリーズを題材にしたARゲームを展開しました。このゲームは「ストリートファイターII」をベースにしており、サントリーの「THE STRONG 天然水スパークリング」を購入すればプレイできました。

ゲームは、「ストリートファイターII」のボーナスステージをアレンジしたもので、作中のキャラクター“リュウ”や“春麗”を使って、「天然水スパークリング」が埋まった氷の柱を破壊するという内容です。波動拳などの必殺技も再現可能。ヒャダイン氏が本作の効果音から作り上げた曲を使ったプロモーション映像の公開も行われました。

サンリオは2024年3月、マクドナルドとコラボした、ポムポムプリン”をテーマにしたARゲーム「ぱくぱくプリン」を期間限定リリース。当時のハッピーセットについてくる、ポムポムプリンのおもちゃ(種類はどれでもOK)をアプリでスキャンするとプレイできました。空中に飛び出した食べ物から、ポムポムプリンが食べたいものを制限時間内に選んでいくというシンプルな内容で、バナナやキュウリ、プリンなど様々な種類があり、中にはパンケーキやマックのメニューなども登場。プレイヤーを楽しませつつ、上手くメニューのPRを行う構成になっています。

ARゲームは、ユーザー側にSNS上に感想を共有する動機を与えやすいのもポイントとなっています。またスマホで完結するため、動画投稿などのハードルが低いのもメリットと言えます。

まとめ:スマートフォンの性能向上も

上記で紹介したように、ARを使った広告プロモーションのスタイルは多岐に渡ります。幅広いコンテンツ展開が可能になった背景には、企業側のノウハウ蓄積のほか、スマートフォンを始めとする対応デバイスの性能が向上していることも関係しています。特に、iOS系のデバイス(iPhone、iPad)は、2020年頃から空間認識の精度を向上させる「LiDARスキャナー」を搭載しており、モノや地形の「距離」を読み取って、ARオブジェクトと現実世界の“位置関係”を正確に再現可能になっています。Android系端末の処理能力もパワーアップを続けており、今後はよりリッチなAR広告が増えてくると予想できます。

また、これらのAR技術は、MRデバイスや空間コンピュータにも横展開できるケースがあり、Meta Quest 3やApple Vision Proなどにも実装可能なものもあります。例えば、最初に紹介した「8th Wall」は、すでにApple Vision Proに対応済みで、ARコンテンツを、空間コンピュータで出力可能となっています。同じく、ARプロモーションによく利用されている「STYLY」も、QuestシリーズやVision Proで動作します。今後、ARプロモーションはスマートフォンだけでなく、さまざまなVR/MRデバイス、スマートグラスでも展開されるでしょう。

執筆:井文


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