Apple Vision Proが登場してから1年以上が経過。筆者もこの「空間コンピューター」を主に執筆用の道具として使ってきましたが、話題性が落ち着いた今だからこそ見えてくる、その真価と今後の可能性について、あらためて考えます。
※今記事はPodcast番組「もぐラジオ」でこれまでApple Vision Proについて語ってきた回をベースに、記事として再構成しています。詳細は下記の動画も確認ください。
そもそもApple Vision Proとは?
Apple Vision Proは、Appleが「空間コンピューター」と呼称するデバイスです。 技術的にはMR(複合現実)ヘッドセットの一種で、現実の景色とバーチャルなモノが融合して表示されているかのような体験ができます。
このデバイスを装着すると、スクリーンに見えている現実の空間に、iPhoneのアプリのような丸いアイコンが表示されます。これらのアプリを使って3DオブジェクトやPCのウィンドウなどを自由に操作できます。 PCのMacの画面と同期させ、バーチャルディスプレイとして映し出したり、複数のアプリを同時に起動したりも可能です。
Apple Vision Proを1年使ってわかったリアルな魅力
Apple Vision Proを使い始めて約1年経ちましたが、今もなお魅力的に思えるポイントが複数あります。
まず特筆すべきは、ディスプレイの美しさです。 1年以上使用してもこの感動は薄れません。映画やYouTubeなどの映像コンテンツを見た際には、まるで綺麗な映画館にいるかのような高解像度の映像を見られます。大型TVなどを所有していない著者にとっては、装着した途端にホームシアターのような感覚は衝撃的でした。
片目あたり約4K相当の解像度を持つため、PCモニターで見るよりもApple Vision Proで見た方が綺麗である可能性もあります。著者はこれまでMeta Quest 3やPICO4 Ultraなど、MR機能をベースとしたヘッドセットを使用してきましたが、それらと比べても解像度の高さは段違いです。はっきりとApple Vision Proのほうが美しいと思えます。
このディスプレイの美しさは、デジタルコンテンツだけでなく、ビデオパススルー機能で映される現実空間のほうの映像でも感じられます。そのため、デバイスを装着したままでも飲み物を飲んだりキーボードを打ったりといった日常的な行動もスムーズに行えます。
操作方法についても初使用時は驚きでした。主にアイトラッキング(視線追跡)とハンドトラッキング(手の動き)で行いますが、コントローラーを必要とせず、指でピンチするだけで決定操作などが可能。こんなシンプルなやり方でサクサクと動く、無駄な動きが極力カットされている点は、これまでの類似ヘッドセットにはない感動でした。たしかに最初は操作に戸惑う場面もありましたが、慣れてくるとその快適さに気づけるはずです。
特にMacユーザーにとっては、アップデートによりMacの画面をウルトラワイドディスプレイとして拡張できる機能が非常に便利です。 MacBook単体では決して実現できない高解像度のデュアルディスプレイ環境をどこでも構築できるため、Safariでリサーチをしながら横にメッセージアプリを開いておく……といったマルチタスクも快適に行えます。Macとの映像同期の操作も非常に簡単で、思い立ったときにすぐ起動できるのも魅力と言えるでしょう。
個人的には、このバーチャルオフィスの快適さこそ、Apple Vision Proの現時点で最も有用な点ではないかと考えています。
Apple Vision Proの真価 純正アプリとエンタメ体験
Apple Vision Proを使い続けて特に感じるのが、Apple純正アプリの完成度の高さです。 特にApple独自の動画サービスと写真アプリは、一見の価値ありといえます。
写真アプリでは、iPhoneで撮影したパノラマ写真や空間フォト/ビデオを閲覧できる機能が備わっています。従来これらのフォーマットの画像や動画は、iPhoneで撮影可能ではありましたが、その特徴をそのまま活かした状態では閲覧できませんでした。Apple Vision Proで実際に体験してみると、映像の迫力と没入感がとても高く感じられます。
この没入感を特に実感できるのが「空間ビデオ」です。そもそも、空間ビデオとは、右目用と左目用に分けた映像を1つにまとめた動画のことで、通常の動画に「奥行き」がプラスされたものと言えます。 iPhone 15 Pro/Pro Max、およびiPhone 16の全機種でこの空間ビデオの撮影が可能で、カメラアプリのメニューからだれでも手軽に撮影できます。
Apple Vision Proでこの空間ビデオを視聴すると、その奥行き感に感動できます。 Vision Proのディスプレイの美しさも相まって、まるで綺麗な映画館にいるかのような高解像度の映像で、過去の瞬間を振り返れます。筆者のような子育て中のユーザーであれば、子どもの成長記録を空間ビデオで残しておけば、後で見返した際に当時の記憶が鮮やかに蘇るはず。
そうした、この「今、撮っておかないと後悔する」かもしれない瞬間を、その場の雰囲気や感覚と共に鮮やかに残せる点は、空間ビデオの最大のメリットと言えるでしょう。
Apple公式のイマーシブビデオもクオリティが高く、ロデオやパルクール、NBAの試合など、その場にいるかのような迫力ある映像を体験できます。現在、ヤンキースの試合やメタリカのLiveといった豪華なコンテンツも増えており、非常に見応えがあります。
エンターテイメント体験に目を向けると、プリインストールされているデモコンテンツ「エンカウンターダイナソーズ」の恐竜は、思わず手を伸ばして触れようとしてしまうほどの存在感がありました。アプリとして完成度の高いものとなっています。
映画鑑賞も特筆すべき体験です。特にディズニー+チャンネルアプリで「スター・ウォーズ」シリーズの3D版(※映画館で立体メガネを装着して鑑賞するタイプの形式のもの)などの作品の視聴は、このデバイスで無ければ得られない体験でした。自宅にいながら、まるで映画館にいるかのような、あるいはそれ以上の体験ができる点は大きな魅力です。もし自宅に大型のプロジェクターを導入しようという方がいるのなら、Apple Vision Proは選択肢のひとつにして良いと思います。
デメリットは「重さ」と「魅力的なアプリの少なさ」
一方で、いくつかのデメリットや課題もあります。
筆者以外にも、多くのユーザーが不満を述べているのがデバイスの重さです。 デフォルトのヘッドバンドでは重さ(600g〜650g)が分散されにくく、目元や首に負担がかかりやすいので長時間の利用には向いていません。装着時間が長くなると首や顔への負担を感じるので毎日のように使うデバイスとしてはやや扱いにくい面もあります。この点はサードパーティのバンドなどで重さのバランスを調整するしか、現状は解決方法がありませんでした。
また、Siriや日本語入力において改善の余地があります。実際に使ってみると、快適な入力のためには、物理キーボードの使用が望ましい場合もあります。操作面では、アイトラッキングやハンドトラッキングは革新的ですが、習熟には時間がかかる場合もあります。正確なキャリブレーションが必要で、慣れるまでは誤操作が起きることもあります。
継続して使用したいと思えるアプリが少ないことも課題です。 試してみても一度見たら終わりになりがちな映像アプリや、iPhoneにもあるようなミニアプリが多く、この高価なデバイスに見合うだけの充実したコンテンツや、空間を活かしたアプリは現時点で少ない印象です。Meta Quest 3のような充実したゲームマーケットや、Steamのような高クオリティのVRコンテンツのあるプラットフォームを期待すると、肩透かしになるのは間違いありません。
それでも、いくつかは挑戦的な試みも出てきつつあるので、今後に期待したいところです。
また。他の人にVision Proの体験を勧めたり、試してもらったりすることの難しさも問題です。 これは、デバイスが高価で破損や汚れのリスクを避けたいという理由に加え、体験開始時にアイトラッキングなどの設定に手間がかかることなどが原因と言えます。いろんな人に体験してもらいたいが、気軽には貸し出せない……そんな部分もApple Vision Proを広める機会を奪っているように感じます。
Apple Vision Proの購入価値と日本市場の課題
Apple Vision Proの価格は、アメリカで3,499ドル、日本円に換算すると約60万円(為替レートや構成により変動)と、コンシューマー向けデバイスとしては非常に高価です。
まず、購入を検討すべきユーザー層としては、新しいテクノロジーに強い関心を持つアーリーアダプター、XRコンテンツの開発者や3Dクリエイター、そして(マニアックな)Apple製品の利用者です。 特に、高精細なディスプレイを活かした映像編集やデザイン作業、あるいは新しいプレゼン手法を模索する人々にとっては価格以上の価値を見出せるかもしれません。
ビジネスシーンでは、3Dモデルのレビューや建築物のウォークスルー、複雑なデータの可視化、遠隔地にいるメンバーとのリアルなコラボレーションなどの業務が直感的に行える可能性があります。また 教育分野では、歴史的な出来事や宇宙空間をリアルに体験できる没入型学習コンテンツ、医療分野では、手術のシミュレーションやリハビリテーション支援などの活用も考えられます。事実、少しずつですがそのような導入例も増えてきています。
もちろん、そのためにはソフトウェアの継続的なアップデートと、開発者エコシステムの拡大が不可欠です。visionOSがより洗練され、サードパーティから実用的なアプリが登場すれば、現在の状況は変わってくるはず。特に日本市場においては、国内向けの魅力的なコンテンツの登場が普及の鍵といえるでしょう。
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