今年のCESを象徴するキーワードは、間違いなく「Physical AI(物理実体を持つAI)」でした。デジタルの中にいたAIが、ついに強靭な「身体」を手に入れ、私たちの生活空間に溢れ出そうとしています。
人と空間を共有して協働するために、多くのロボットは人型に近いかたちをしています。しかし、共に協働する未来への現実的な期待が生まれた一方で、人がこれまで培ってきた身体感覚を前提とした認識が、通用しなくなる可能性への戸惑いを感じました。
「パワー」への脅威:Unitree のヒューマノイド
まず、中国のスタートアップ企業Unitreeのブースで目撃したヒューマノイド同士の格闘デモをご覧ください。
強化学習によって最適化された彼らは、全力で殴り合い、蹴り合おうとしています。攻撃が当たり、バランスを崩しても立ち直れる姿は、技術の進化を感じました。狙いが外れて盛大に空振りしたり、勢い余ってバランスを崩したりする姿はどこか滑稽ですが、一方で、当たった時の衝撃は重く、荒削りなパワーを感じました。
リングで明確に境界があるので安心して見ていられましたが、もし隣にいたら? と思うとそのパワーにちょっと怖さを感じます。
「人ならざるもの」への困惑:Boston DynamicsのヒューマノイドAtlas
ついに量産開始といわれているBoston DynamicsのヒューマノイドAtlasのデモのワンシーンをご覧ください。

工場での作業を想定したステージに登場したAtlas。人らしい姿を保ちながら、「理解不能な関節」の動きに脳がバグる衝撃を受けました。まるで生成AIで作られた動画のように、人間のような予備動作を一切行わずに、あらゆる関節が360度回転することができ、最短の合理的軌道で動き続けます。
私たちは無意識に、相手の肩の入り方や視線から「次の一歩」を予測して安全圏を保っています。ですが、Physical AIが導き出した「最適解」は、そんな人間の身体的常識を軽々と超えていきます。効率的であればあるほど、人の動きとはかけ離れていく。人を超えた身体をもつPhysical AIと安心して空間を共有していくには、妄信的に技術を信頼する以外に何か新しい工夫が必要になるのだろうと感じた。
デモの全編はこちら
オペレーターがVRヘッドセットを装着して、Atlasに遠隔操作で作業を教えることで、以降は自律的に作業を進める様子がみられました。
「予測できる」という快適さ:Sentigent ROVAR X3
そんな中で、少しホッとさせられた展示がありました。屋外での走行可能なコンパニオンロボット、ROVAR X3です(開発:Sentigent Technology)。
芝生の上を駆け回るその動きは、まるで子犬のようにボール遊びをし、撫でられて喜ぶ仕草を見せる、とても愛らしいものでした。そこには、私たちが直感的に「こう感じてるだろうな」、「こう動くだろうな」と理解できる文脈(コンテキスト)が存在していました。見守りなどを目的としたコンパニオンロボットとしてわかりやすいインターフェースがデザインされていました。
空間の未来を予測する技術:富士通の「Spatial World Model」
人とロボットなどが共存するPhysical AIの世界で、人が快適に生きるための1つのヒントになりそうなのが、富士通の「Spatial World Model」技術の展示でした。
担当者に話を聞いてみると、「Spatial World Model」技術とは、CESでもよく見られたような個々のロボットが周辺の状況を認識してふるまいを決めるだけではなく、人やロボット、モノを含む空間全体を把握できる技術とのこと。さらに、人やロボットの「意図」を推定して、空間がどう変化していくのか未来の状態を予測できるようになるのだそうです。
参考:富士通株式会社 プレスリリース「人とロボットが共存・協働する未来を拓く 空間World Model技術を開発」
CESでの展示では、区切られた空間内の人やロボットの動きを、ロボットのカメラと空間上部に設置されたカメラで把握しながら、状況の変化に合わせて自律的に動いているのが見えます。また、展示では床面プロジェクションで、ロボットの状態をわかりやすく掲示していました。人を認識して挨拶したり、画面奥の禁止エリアへの人の接近を感知すると、足をジタバタさせて警告をする動きをすることも。筆者も実際に中に入ってみましたが、ロボット側のステイタスや意図がわかることで、安心感がありました。
今回は区切られた空間の中でのデモでしたが、たとえば今後、人がスマートグラスなどを装着するようになれば、人の視野映像を利用して、より広いエリアでの解析が可能になったり、ロボットの次の動きをARでさりげなく表示したりと、これまでとは違った新しいコミュニケーションが生まれるかもしれません。あるいは、人ならざるモノとしての動きや存在を意外とあっさり受け入れてしまう可能性もありえます。
想像を絶するスピードで進化するAIが、ついに実体を持って動き始めました。CES 2026では、Physical AIの世界がいよいよ現実のものになろうとしているのを強く感じました。一方で、それを受け止める側の社会や人の能力は、まだそのスピードに追いついていないのが実情です。実際に、ロボットやモビリティと同じ空間に共にあるとき、人は何を感じ、どのようにふるまうのか。そのためにXR技術はどのように活用されていくのか。来るAI社会に向けて、そんな「共にいる人のUX」について考え続けていきたいと思います。


