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業界動向 2025.09.11

なぜ教育現場にXRとAIが必要なのか? 学習を“共創”に変えるためのヒント【XR Kaigi Hub in 福岡レポ】

2025年9月2日、福岡市のレソラホールにて、国内最大級のXRカンファレンス「XR Kaigi」の姉妹イベント「XR Kaigi Hub in 福岡」が開催された。本イベントは、XR(VR/AR/MR)・AI・メタバース領域の最先端技術やビジネス事例が集結し、業界のキーパーソンやリーディング企業が多数登壇する地域イベントである。

本稿では、数あるセッションの中から、monoDuki LLC.でXRとデジタルエデュテイメントを担当する鮫島 歩氏による講演「XR・AIで変わる教師と生徒の関係性: 『教える』から『共創する』教育現場の挑戦」の模様をレポートする。教育現場がDX(デジタルトランスフォーメーション)化の変革期にある今、XRやAIは子どもたちの学びをどのように変え、教師と生徒の関係性をいかにアップデートしていくのか。鹿児島を拠点に活動する鮫島氏の実践から、そのヒントを探る。

話者紹介:鮫島 歩 氏

monoDuki LLC. Director, XR & Digital Edutainment / XR Meetup Kagoshima 共同代表。鹿児島と東京を拠点に、XR技術と教育・エンターテイメントを組み合わせた「デジタルエデュテイメント」を推進。生徒の「やりたい」という意欲を引き出し、教職員と生徒が共に学ぶ「共創」の場作りを目指す。自治体や学校へのXR導入支援、教育プログラム開発、コミュニティ運営など、教育現場に寄り添う伴走者として幅広く活動している。

教職員と生徒がともに学ぶ時代へ

教育現場は大きな転換期を迎えている。デジタルネイティブと呼ばれる世代が学びの主役となる中で、教師が一方的に教えるというスタイルは限界に近づきつつある。鮫島氏はこの現状に対し、教育のゴールを再定義する必要性を説く。

「特に教育分野では、生徒の『やりたい』という意欲を引き出すこと、教職員と生徒が一緒に共同で新しい学びを創造していくことに取り組んでいます。ツールの導入自体がゴールではなく、生徒の成長が最も重要だと考えており、教育者と共に私がコーディネーターとして伴走するスタイルを大切にしています」

鮫島氏が目指すのは、単なるテクノロジーの導入ではない。テクノロジーを触媒として、生徒の主体性を引き出し、教師と生徒がフラットな関係で共に探求する「共創」の学習環境を構築することである。デジタルに慣れ親しんだ生徒が先生に使い方を教えたり、共にプロジェクトを進めたりする。そうした現場を支援し、未来の教育のプロトタイプを作ることが、同氏のミッションだ。

XR/AIが学習体験をどう変えるか

鮫島氏が提唱するコンセプトの中心には、「デジタルエデュテイメント」という教育領域で注目されている造語がある。これは、デジタル、エデュケーション(教育)、エンターテイメントを組み合わせたものだ。

「これは、楽しみながら学べる学習を指し、ゲームのような面白さや集中できる要素にデジタルの特性を加えることで、学習意欲の向上や能動的な学びの促進、理解度の深化を目指しています。さらに、XR(AR、VR、MR)技術の特性を加えて、時間や場所を超えて繋がれるというメリットを活かし、教育現場に関わっています」

XR技術は、教科書や映像だけでは得られない「没入型体験」を可能にする。例えば、歴史的な建造物をその場にいるかのように見学したり、危険な化学実験を安全にシミュレーションしたりすることができる。生徒は知識を暗記するのではなく、五感を通して直感的に理解できるようになる。

ここにAIが加わることで、学習体験はよりパーソナライズされたものへと進化する。AIは生徒一人ひとりの学習進捗や理解度を分析し、最適な課題やヒントを提供できる。鮫島氏は、生徒の「やりたい」という興味・関心に合わせてAIがプログラムを提案するような、次世代の教育モデルを見据えている。

重要なのは、これらのテクノロジーが「すごいね」で終わる一過性の体験ではなく、生徒の好奇心を持続させ、探究へと繋げるコンテンツとして設計されていることだ。デジタルネイティブ世代の生徒達が夢中になっているコンテンツや、ゲームが持つ熱中させる力、仲間と協力する楽しさを学習に取り入れることで、生徒は受け身ではなく、自ら学んでいく習慣を身に着けていくようになる。

「教える」から「共創」への転換

テクノロジーの導入は、教師の役割にも大きな変化を促す。鮫島氏が関わる現場では、この変化を意図的にデザインしている。その象徴的なエピソードが、XRデバイスの導入プロセスだ。

「実は、最初に先生ではなく生徒に体験してもらった点がこだわりの一つです。生徒に体験させた後に、学校側に導入されたMeta QuestやハイスペックPCを使って、先生向けの体験会を実施しました。この際、先に体験した生徒たちが先生に使い方を教え、サポートするという形を取りました」

このアプローチの狙いは、責任感の強い教師が陥りがちな「生徒に質問されたら全て答えられなければならない」というプレッシャーから解放することにある。デジタルネイティブである生徒の方が、新しいデバイスに詳しいことは往々にしてある。そこで、教師が専門家になることを目指すのではなく、「これよく分からないんだけど、一緒に調べながらやってみよう」という空気感を醸成する。これにより、教師は「教える人」から、生徒と共に学ぶ「伴走者」へと役割を変えることができる。

この関係性の転換は、学習の質を劇的に向上させる。教師が全ての答えを知っている必要はなくなり、生徒の問いや発見を起点に、共に探求するプロセスが生まれる。生徒は自らの知識やスキルがクラスの役に立つことを実感し、主体性が育まれる。

鮫島氏は自身の役割を「コーディネーター」と位置づけ、このような共創的な学習環境が生まれるための触媒として機能する。例えば、初めてBlenderを学ぶ生徒がいれば、AIも活用しながら一緒に調べながら試行錯誤する場を設け、自然と生徒同士で教え合う文化を育む。デジタルものづくり教育を届けることを目指す「Minecraftカップ」の活動で取材した沖縄の事例では、マインクラフトの操作が分からない高校の先生の代わりに、生徒が教壇に立ってクラスメイトのみんなに教えていたという。

テクノロジーは、知識伝達の効率化ツールである以上に、コミュニケーションを活性化させ、学びのコミュニティを形成するための強力なプラットフォームとなる。生徒の得意なことを見つけ、それを活かす場を提供すること。これこそが、デジタル時代の「共創」型教育の核心であると鮫島氏は語る。

教育現場におけるXR/AI活用の挑戦

鮫島氏の取り組みは、鹿児島県にある私立高校・希望が丘学園 鳳凰高等学校での文部科学省高等学校DX加速化推進(DXハイスクール)事業を機に、具体的な成果として結実している。ここでは、生徒たちが主役となってXR技術を駆使したプロジェクトの数々を紹介する。

高校生が自動運転バスをデザインする

最初の挑戦は、3D空間ペインティングツール「OpenBrush」を活用したプロジェクトだ。偶然にも、学校がある南さつま市で自治体が自動運転バスの実証実験を行っており、そのラッピングデザインを高校生に考えてほしいという依頼が舞い込んだ。

鮫島氏らは、XRを学ぶ生徒たちのためにワークショップ教材を用意。バスの3DモデルをOpenBrush内に表示させ、MR(Mixed Reality)機能を使って現実世界を見ながらデザイン作業ができる環境を整えた。MRのおかげで、VR酔いをしやすい生徒も快適に参加できたという。

生徒たちは、自治体の特産品や特徴をアイデアに落とし込み、デザインの意図をプレゼンテーションした。特にデザインが得意な生徒が2次元平面に落とし込んだデザインはレベルも高く、最終的にプロのデザイナーが少し修正を加えただけで、実際にラッピングデザインとして採用された。

このプロジェクトは、デザイン制作にとどまらなかった。生徒たちは南さつま市長や教育長への報告会で、自分たちのデザイン意図やXRツールを使った制作プロセスを堂々と説明し、大人たちにXR体験を案内したVTuberコンテンツなど普段からアバター表現に慣れ親しんでいる彼らは、ごく自然にデジタルな自己表現を披露したという。このバスは実際に運行を開始し、鹿児島県知事からも評価されるなど、大きな成功を収めた。

この取り組みは論文にもまとめられ、CIEC(コンピューター利用教育学会)が主催する2025年のPCカンファレンスで、アンダー18部門の最優秀論文賞を受賞するという快挙も成し遂げている。

「スタープレイヤー」が牽引するVRゲーム開発

さらに驚くべきは、VRゲーム開発の事例だ。2024年度に入学した高校1年生の中に、すでに独学で「Unreal Engine」を習得している「スタープレイヤー」が現れたのだ。彼の存在が起爆剤となり、チームは深海魚をテーマにした新しいVRゲームの制作に着手した。

学校がある南九州市は混獲されてしまう深海魚の有効活用に取り組む地域であり、生徒たちは深海魚を食べるイベントに参加したり、iPhoneの3Dスキャンアプリで魚をスキャンしたりするなど、地域資源について深く学びながら開発を進めた。特にVRChatが好きだった生徒が中心となり、アバター表現を活用したゲーム紹介動画を制作した。鮫島氏が久しぶりに学校に行くと、ほとんどサポートしていないにもかかわらず動画が完成していて驚いたという。

このゲームは、3種類の深海魚が流れてくるのをコントローラーを用いた両手で仕分けるというシンプルなルールながら、金のタカエビを入れると大量の深海魚が流れてくるなどゲーム性も高く、夏のオープンキャンパスに参加した中学生に対する体験案内では非常に高評価を獲得した。また、5日間で451人の体験者を案内した生徒たちの、やり切った満足げな表情が何よりも成果を物語っていた。

さらに、福岡で開催された「九州学生ゲーム大祭」にも参加。周りがゲーム専門学生ばかりという環境の中で発表する機会を得て、「君たちはグレートだ」と多くの好意的なフィードバックを受けた。この経験は彼らにとって大きな刺激となり、「次のゲームをこう作ろう」とさらなる意欲を燃やすきっかけとなった。

Unreal Engineを使いこなすエンジニア担当の生徒は、今や九州のユーザー拡大を目指すイベントに登壇を依頼されるまでに成長している。これらの活動は、DXハイスクールの制度によって国から提供される予算を有効活用し、ハイスペックPCや3Dプリンターといった機材導入と、それを活用するプログラムを両輪で進めることで実現されている。

共創が拓くこれからの教育の未来

単に新しいツールを導入することではない。生徒一人ひとりの「やりたい」という情熱を発見し、それを仲間と共に形にする「共創」のプロセスそのものが、最も価値ある学びとなるのだ。

特に印象的だったのが、内向的だった生徒の変化だ。クラブ活動でVRChatを使っていたその生徒は、当初は物静かだったが、バーチャル空間での撮影活動に取り組むことをきっかけに、「僕がVRChatを教えるよ」と自ら仲間たちに教えるようになった。そこからコミュニケーションが活発になり、一体感が生まれたという。先生方も「彼の表情が変わったね」と話していたそうだ。

これは、テクノロジーが生徒の得意なこと、好きなことを発見し、それを表現・貢献する場を提供することで、自己肯定感を育み、コミュニケーションを促進する力を持っていることを示している。講演の最後に、鮫島氏は未来への強い願いを語った。

「今年はAIが大きなテーマになることが確定しています。しかし、AIだけでなく、2025年を振り返った時に、『XR業界に教育というテーマが組み合わさってきたよね』と思えるような未来が来ると良いなと願っています」

そのために、鮫島氏は今回紹介した生徒たちを、12月に東京で開催される「XR Kaigi 2025」本番に連れていきたいと考えている。全国から集まるXR業界関係者や同世代の学生たちと交流し、さらに大きな刺激を受けることで、彼らの活動がより活発になることを期待しているからだ。鮫島氏の教育現場での「デジタルエデュテイメント」の実践は、今後も続いていく。

国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京で開催!

そして、年間の総仕上げとして、国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京ポートシティ竹芝で開催されます。バーチャル領域の担い手がノウハウや技術をシェアし、繋がり、高め合うことを目的とした本イベントに、ぜひご期待ください。

XR Kaigi 2025
開催日程: 2025年12月1日(月)〜3日(水)
会場: 東京ポートシティ竹芝
公式サイト: https://xrkaigi2025.studio.site/


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