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セミナー 2022.01.07

【XR Kaigi 2021】MR産業活用を怒涛の紹介 最先端を走るホロラボが語る事例紹介

国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」が今年も開催されました。今年の「XR Kaigi 2021」はオンラインカンファレンス「XR Kaigi Online」(11月15日~17日)と、リアル会場での展示・体験会「XR Matsuri」(11月25日・26日)のハイブリッドで実施。XR Kaigi Onlineでは、3日間の期間中に50以上のセッションが行われました。

今回はその中から、11月15日に行われた株式会社ホロラボのセッション「ホロラボでのHoloLens 2アプリ開発事例紹介」をレポートします。セッションにはホロラボの代表取締役CEO・中村薫氏が登壇し、同社の「mixpace」を活用したHoloLens 2のビジネス活用事例を多数紹介・解説しました。

近年のXRを取り巻く環境

ホロラボは、HoloLens 2やWindows MR向けにAR/VR/MRなどのシステムやアプリケーションの開発を行うほか、XR技術などの調査研究や普及啓蒙活動も行う、設立5年目となる企業です。同社の代表取締役CEOである中村氏は冒頭、XR業界を取り巻く近年の環境について、大きく2つの話題について語りました。


(2021年、MetaとMicrosoftのテックジャイアント2社が「メタバース」を標榜)

1つめの話題は、Meta(旧フェイスブック)とMicrosoftの2社が「メタバース」という単語を用い始めたこと。特にMetaがメタバース志向を発表したことで、今までXRに携わっていなかった人にも「メタバース」という言葉が浸透したことが大きいと言います。

さらに、MicrosoftがMicrosoft MeshをMicrosoft Teamsに対応させるという発表をしたことも、インパクトのある出来事だと中村氏。Microsoft Teamsがすでに多くの企業で利用されていることから、今までよりも多くのユーザーがMRを使ったサービスを体験することになるだろうとのことです。

こうした変化を受けて、ホロラボが置かれている状況も、AR/MRのアプリを「どのように使うか」から、「利用シーンの中で、どのように使い続けるか」に変わってきていると言います。また、こうした状況の中でどのようにアプリ開発を行っていくかが焦点がなりつつあると述べました。

mixpaceの紹介と事例解説

ホロラボが開発・提供するmixpaceは、建築・土木・製造業界で使われることの多いBIM/CIM/3DCADデータをWebブラウザを通じてアップロード&クラウドで変換し、iPadやHoloLens 2でARとして活用できるサービスです。


(ホロラボが開発・提供する主要製品のひとつ「mixpace」)

mixpaceは2021年に大きなアップデートとして「Autodesk BIM 360との連携」と「Microsft のAzure Remote Renderingへの対応」の2つを実施しました。 Autodesk BIM 360対応により、mixpaceへの3Dデータ入力の利便性が向上。また、Azure Remote Rendering対応によってmixpaceの描画機能(出力)が拡張されたとのことです。


(BIM 360対応およびRemote Rendering対応によりmixpaceの利便性が向上したという)

Autodesk BIM 360との連携

mixpaceのアップデートにより、Autodeskのクラウドデータ管理サービスAutodesk BIM 360から、mixpaceにデータを直接取り込むことが可能になりました。

これにより、従来行っていた「ファイルをダウンロードしてアップロードし直す」という作業が、Webブラウザ上での操作だけで行えるようになったとのこと。建設業ではBIM 360がデータのハブとなっていることが多いため、BIM 360との連携により、AR/MRの利用が日常業務の延長でできるようになると中村氏は解説します。

また、BIM 360から直接変換を行うため、中間に行う作業がなくなることで、変換ファイルの間違いなどのヒューマンエラーを防止できることや、AutodeskのBIMソフト「Revit」のファイルなどを編集なしにHoloLensまで持ち込むことができるというメリットもあるとのことです。


(BIM 360との連携により、作業効率が向上)


(従来の工程とmixpaceアップデート後の工程比較)

その他にも、BIM 360連携の特徴として以下のようなものがあります。

・mixpaceからアクセスできるフォルダの権限はBIM 360と同期されるため、mixpace上でのアクセス権限設定作業が不要
・BIM 360から直接データを取り込んだ場合、mixpaceの変換回数制限(100回/月)にはカウントされない
・Revitファイルのビュー設定や、バージョンの設定に応じてファイルを個別に取り込むことが可能に
・後述のAzure Remote Renderingとの併用により、ビル一棟といった巨大なデータを直接取り込んでHoloLensで表示できる


(mixpaceとBIM 360連携の特徴まとめ)

Azure Remote Renderingへの対応

mixpaceではまた、Microsoftのクラウドレンダリング/ストリーミングサービスAzure Remote Renderingにも対応しました。

中村氏いわく、HoloLens 2で快適な体験を実現できるポリゴン数は約30万ポリゴン。しかし、建設・土木業界で使われるデータでは100万~数千万ポリゴンになるものも多いとのこと。そこでAzure Remote Renderingを活用すれば、HoloLens 2でもポリゴン数の多い3DCGを快適に表示できるようになります。


(HoloLens 2での表示ポリゴン数の目安)

通常、Azure Remote Renderingで処理を行う際には、さまざまなデータ設定などが必要。ですが、mixpaceを通してAzure Remote Renderingを使用することで、データファイルの準備から表示するまでの作業をWebブラウザ上で完結できるとのことです。


(ポリゴン数の多い3DCGをシームレスにHoloLens 2で表示可能にする)


(HoloLens 2とAzure Remote Renderingで処理可能になるポリゴン数の比較)

また、中村氏はリモートレンダリングとローカルレンダリングのメリット・デメリットについても解説。ローカルレンダリングでは表示可能なポリゴン数に制限がある一方、事前にダウンロードしたデータを使うため、オフライン環境でも利用できるメリットを挙げました。

逆に、リモートレンダリングでは表示可能なポリゴン数が実質無制限である一方、表示には高速なネットワーク回線が必要であることや、レンダリングのために追加コストが発生することがデメリットになりうると説明しました。


(ローカルレンダリングとリモートレンダリングの使い分けについて)

mixpaceの活用事例

ここからは、実際にmixpaceを使った事例の紹介。事例としては建築・土木が多いですが、コンシューマー向けの事例も挙げられました。

建築・土木分野:大林組

大林組では、mixpaceをベースにした独自の施工管理業務アプリ「holonica」を展開しています。holonicaの利用により、従来の紙図面を使った仕上げ検査業務比較して約30%の時間短縮を実現したとのことです。


(従来の紙図面での業務と、holonicaを利用した業務の工程の違い)

建築・土木分野:東急建設

東急建設では、BIM360・mixpace・Azure Remote Renderingの組み合わせを活用した検証を行っているとのとこと。BIM 360連携によりRevitデータを加工せずにHoloLens 2に持ち込むことが可能になり、従来の持ち込み手順と比較して80%の時間短縮を実現したそうです。


(従来の手法から段階的に作業手順の改善を行った)


(従来のデータ持ち込み手順と、BIM 360とAzure Remote Renderingを連携した手順の比較)

建築・土木分野:大和ハウス工業

大和ハウス工業では、デジタルコンストラクションの一環として、XR技術を活用した設計・施工・維持管理業務の効率化、高品質化に取り組んでいます。その取り組みの中でmixpaceの活用についても検証が行われています。

検証では特に、位置合わせの精度確認、設計変更内容の比較確認、リモートレンダリングによる大容量モデルの確認といった点を重視しているとのこと。また実際、BIM 360との連携によりデータ変換の容易さが向上しているとのフィードバックも得られたそうです。


(実際に現場でリモートレンダリングを用いて、HoloLens 2で表示している様子)


(実際のワークフロー。作業ではMicrosoft Teamsによる遠隔コミュニケーションも活用)

建築・土木分野:竹中工務店


(mixpaceについて議論するための竹中工務店のMicrosoft Teamsの様子)

竹中工務店では、全店のHoloLens有識者を中心に、mixpaceの利用シナリオについて試行・情報共有・展開の検討を行っています。すでに大量のフィードバックをもらっており、それらを製品に反映するサイクルの構築を目指しているそうです。

建築・土木分野:日本国土開発

日本国土開発会社では、CIMデータをmixpaceに取り込んでiPadでAR表示するという、独自の取り組みを行っています。実物の鉄筋とCIMデータの鉄筋を重ねて表示することで、設計通りでない配筋をひと目で発見できるようになったとのことです。

建築分野:鹿島建設


(制作した避難シミュレーションを行っている様子)

鹿島建設が独自に制作していたVR避難シミュレーションのHoloLens 2版制作において、ホロラボが技術支援を行った事例(mixpace不使用)。HoloLens 2を用い、最大600人の避難シミュレーションを実際の建物に重ねて表示することができます。煙の流れのシミュレーションなども行うことができるため、実際に現地でどのように避難すればいいのかを検討することができるとのことです。

コンシューマー分野:NTTドコモ


(NTTドコモのARを使ったクラウドサービスの事例)

ホロラボでは2019年ごろから、NTTドコモのARクラウドサービスの開発に参加しています。同プロジェクトではARコンテンツを制作するためのオーサリングツールの開発や、大規模VPS(Visual Positioning System)の実装も手がけているとのことです。

ほかにも、森ビルの商業施設ヴィーナスフォートにおいてARクラウドの実証実験を行った事例も紹介されました。

(森ビルのヴィーナスフォートで行われたARクラウドの実証実験)

ホロラボが提供するパッケージ製品の紹介も


(ホロラボがリリースしているパッケージ商品)

ホロラボはmixpace以外にも、TechniCapture手放しマニュアルHoloRemotetoMapHOLO-COMMUNICATIONなどのパッケージ製品をリリースしています。セッションでは、mixpace以外の製品も紹介されました。

TecniCaputure:熟練技術者の技を継承

TechniCaptureはHoloLens 2を用いて、作業者の手・指・頭の動き・音声を記録&再生できるアプリケーション。TecniCaputureを使うことで、熟練者の動きを記録したり、そのデータを新人・初学者が利用して学習することを目的としています。

また、TecniCaptureを使って記録した動きを閲覧する「TechniDataVisualizer」というPC向けアプリケーションもリリース。TechniDataVisualizerでは1人のデータを再生できるだけでなく、2人のデータを取り込み&同時再生して動きの違いを比較することもできます。例として、初学者と熟練者の動きの違いを比較したり、初学者のトレーニング開始時と終了時の動きの変化を比較するなどの使い方が紹介されました。


(TecniCaptureで記録した動きを閲覧するTechniDataVisualizer)

手放しマニュアル:マニュアルをMR表示しハンズフリーに

手放しマニュアルは、マニュアルを現実空間にAR表示することで、デバイス着用者の作業支援を行うツール。空中にAR表示されたマニュアルを、頭の動きによるポインターだけで操作できるため、完全ハンズフリーでの利用が可能です。

また、マニュアルには3Dデータだけではなく、テキストや静止画、動画といった従来の2Dデータも表示可能。今までの資産を活用したMRマニュアル制作が可能だと解説しました。

さらに、マニュアル自体をHoloLens 2上で制作できる「手放しエディター for HoloLens/PC」もリリース。従来はPCとExcelを用いて行っていたマニュアルの制作が、HoloLens 2上でも行えるようになるとのことです。


(マニュアル自体をHoloLens 2上で制作できるツールもリリース)

HoloRemote:現場作業者を遠隔支援

HoloRemoteは、HoloLens 2とWebブラウザを使った遠隔支援システム。例えば札幌からはWebブラウザで、東京からはHoloLens 2で接続して遠隔コミュニケーションを行うことが可能になります。また、映像や音声でのコミュニケーションのほか、空間にマーカーを書き込んだりもできます。

さらに新機能として、HoloLens 2側でマスクを設定することで、見せてもよい場所のみをブラウザ側へ配信できるマスク処理機能が追加されるとのことです。


(周囲に機密性の高い物がある状況などで効果を発揮するマスク処理機能)

toMap:PLATEAU互換のデジタルツインサービス


(アナザーブレインが2021年3月に発表したtoMap)

toMapはアナザーブレインによって開発された製品。国土交通省が推進する3D都市モデル整備・活用プロジェクト「PLATEAU」と可能な限り互換性を保つ、3D都市モデルプラットフォームサービスです。

toMapを使用することで、PLATEAUで提供されるさまざまなオープンデータと、自社で保有するプライベートデータを一緒に扱うことができます。

セッションでは、2021年7月に熱海の伊豆山で発生した土砂災害の際、ドローンで撮影した画像を元に、フォトグラメトリで生成した3DデータをtoMapに配置することで防災に役立てた事例が紹介されました。


(熱海伊豆山土砂災害でのtoMap活用例)

その他にも、CGデータや点群データの表示、iPhoneのLiDARによって作成した3Dスキャンデータの表示、ハザードマップの表示やリアルタイム座標の表示など、toMapの活用を想定した事例が説明されました。


(その他、toMapのさまざまな活用想定例を紹介)

企業とともに技術試行にも取り組む

セッションではまた、ホロラボがトヨタ自動車と共同で取り組んでいる技術試行の例が2つ紹介されました。

Microsoft Meshのコンセプトを独自に実装

1つめは、Microsoft Meshのコンセプトを既存のハードウェアやサービスをを用いて独自に実装するというもの。試行では、人の3Dデータのリアルタイム転送・アバターの転送・車のリモートレンダリングを既存の技術で実装しました。


(3人の人物のうち、左側はアバター、右側はリアルタイム転送された3D映像、奥は実際にその場にいる人)


(Azure KinectやAzure Remote Renderingなどのサービスを使い、Microsoft Meshと同等の機能を実現)

MRデバイスVarjo XR-1の活用試行

2つめは、MRデバイスVarjo XR-1を用いた活用試行の例。光学シースルー型のHoloLens 2とは異なり、Varjo XR-1はビデオシースルー型のMRデバイスです。試行では、ドライブシミュレーターや実際の自動車運転を通じて、両デバイスの特徴や違いを検証したとのこと。

従来のビデオシースルー型ヘッドセットでは、走行する車両内で使用する際、車の動きと頭の動きを判別できないという問題があります。そこで、車両側に追加でトラッキング用センサーを搭載することで、走行車両内での安定したMR体験を実現できたということです。


(Varjo XR-1を使った自動車運転時のシミュレーションの様子)

3Dデータを活用したDX

セッションの最後は3Dデータ活用とデジタルトランスフォーメーション(DX)について。

中村氏によれば、当初の「HoloLens上で3Dデータを活用したい」という視点から、しだいに3Dデータの活用の幅を広げる取り組みが広がってきているとのこと。と同時に、3Dデータの活用方法がイメージしにくいという問題や、業務に必要なすべての3Dデータを企業が持っているわけではない、といった課題が見つかったと言います。

そこでホロラボでは3Dデータを活用するために、ワークフローからのシナリオ作成支援を行っています。具体的には「どのようなデータが必要なのか」「どのような業務に適用するのか」などを整理するとのことです。

また、「業務に必要なすべての3Dデータがそろっていない」という課題に対しては、3Dデータの作成支援・内製支援を行っています。こちらはレーザースキャン撮影、フォトグラメトリ、CAD/BIMのデータ変換などによる3Dデータ作成が含まれます。



(ホロラボでは企業のDX推進のサポート事業も行っている)

中村氏は最後に、ホロラボでは3Dデータの作成だけでなく、実務でのデータ活用法まで含めて整理することで、日常業務の中で使い続けられるXRアプリケーションの制作に取り組んでいるとまとめ、セッションは終了となりました。


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