今後のXRビジネスの展望を探ることができる、XR/メタバース業界のスタートアップによるピッチイベント「XR Future Pitch 2024」。今年は6社が登壇し、それぞれが提供するサービスやソリューションについて熱いプレゼンテーションが行われました。
審査を務めたのは、4名のコメンテーターに加え、会場の来場者によるオーディエンス投票も実施されました。どれも注目に値するサービスばかりでしたが、果たして多くの人が最も期待を寄せたのはどのサービス・ソリューションだったのでしょうか。
まずは司会者とコメンテーターからご紹介しましょう。司会を担当されたのは、インキュベーター、アクセラレーター、ベイターキャプタルとして活動しているブレイクポイント代表取締役の若山泰親さん。
コメンテーターは3名。博報堂DIホールディングス 常軌研究員 目黒慎吾さんは、実空間(フィジカル空間)とサイバー空間とが融合した「サイバーフィジカル空間」における次世代サービスUXや体験デザイン、コミュニケーションの将来について研究されています。
株式会社荏原製作所 データストラテジーチーム Digital Tech R&D and Promotion ビジネスディベロップメントマネジャーの島﨑さくらさん。前職の日本HPではVRヘッドセットの市場開発に従事、現在はメタバースを活用したプロモーションプラットフォームの構築の検討を推進しているそうです。
DG Daiwa Venturesの増山真輝人さんは、これまで国内外の運用会社で外国債券や日本株式の投資に携わり、さらに国内の政府系VCファンドでキャピタリストとしての経験を積まれてきました。そんな増山さんが、ベンチャーキャピタリストならではの視点で各社のピッチを評価します。
最大75人で同時体験できるIMMERSIVE JOURNEY
XR技術を活用した映画制作会社CinemaLeap代表取締役 大橋哲也さんのピッチからスタートしました。2019年に創業したCinemaLeapは、ベネチア国際映画祭やカンヌ国際映画祭のXR部門での受賞歴を持つ企業です。しかし、XRデバイスの普及の遅さや、現状の施設型体験コンテンツに課題を感じており、新たな挑戦に乗り出しました。
彼らは2024年12月1日、横浜に大型XRエンターテインメント施設「IMMERSIVE JOURNEY」をオープンしました。最大同時体験人数75名というグローバル級のXR施設となっており、第1弾作品の「Horizon of Khufu」を現在提供しています。
今後は日本の歴史や文化、アニメ・漫画などのIPを活用したコンテンツを開発し、国内外への展開を目指しているそうです。
高精細なVR180 16Kが楽しめるAmplium
Amplium Cofounder & CEOの佐藤響さんは、Apple Vision Pro向けの高品質なイマーシブビデオプラットフォーム「アンプリウム」のプレゼンを行いました。体験できるコンテンツは立体視のVR180 16K。現実と見間違うほどリアルな解像度の映像を提供し、まるで現場にいるような没入感ある体験を可能にします。
ストロングポイントは、独自の映像プレイヤーにより、リアルタイムでのカラーグレーディングや高品質なレンダリングを実現していること。VR180コンテンツは今までにも多く存在していましたが、YouTubeなどにアップロードされた圧縮映像を見る以外の方法が乏しく、画質劣化から逃れられないという課題がありましたが、Ampliumはこの点をカバーしています。
今後はクリエイターが有料コンテンツを配信し、トランザクションに手数料を得るビジネスモデルを展開予定。オリジナル作品の制作も視野に入れ、Netflixのイマーシブビデオ版を目指すそうです。
誰でも3Dモデルが作れる「3D版Canva」
内藤薫さんがCEOとして率いる株式会社CHAOSRUは、3Dコンテンツ制作ツール「3D版Canva」を開発中です。3D CGデータが様々な分野え活用されている現在ですが、制作できるのは専門知識をもった一部の人に限られるという現状から、技術者ではないクリエイターでも、簡単にリッチな3Dコンテンツを制作できる環境を目指しています。
大きな特徴は、ブラウザ上でアセットやテンプレートを組み合わせ、簡単に3Dコンテンツを制作可能なこと。シンプルなUXであることを重視しながら、リッチなCG映像制作を支援するテンプレート機能を提供していくそうです。ゲームやプロジェクションマッピングなど、高度な技術を必要とする作品制作のためのテンプレート公開も計画中です。
ビジネスモデルとしてはサブスクリプション型を基本としながら、APIの提供、受託制作との組み合わせによる収益化を検討するとしています。
アニメコンテンツの展示会場となるVRChatワールド
Anique株式会社代表取締役 笠井高秀さんは、VRChatで実施したVR展示会のプレゼンを行いました。
Anique株式会社はアニメの世界観をリアルに体験できるVR展示会により、デジタルとリアルの融合を目指し、アニメファンに新たな感動を提供することを目指しているようです。
第一弾としてVRChatユーザーに提供したのは、1998年のSFテレビアニメ『serial experiments lain』の25周年を記念したイベントワールド。2ヶ月の開催期間中、約6万人がワールドにアクセスしたそうです。またその半数が海外ユーザーだったとのとこ。現在もコンテンツのアップデートを継続いています。
ワールド運営のビジネスモデルにおいては、ワールド内からECサイトに遷移させ、キャラクターグッズなどの物販収益を軸としていること。そのため開発・運用は全てAnique株式会社の持ち出しとなるそうです。
共にグローバルで戦う仲間を探しているNEIGHBOR
株式会社NEIGHBORのCEOであるノトフさんは、フォートナイトおよびUEFNを活用したメタバース体験の制作を手掛けています。この分野において、早い段階からフォートナイトのクリエイティブマップ制作を行い、企業とのコラボレーションを多数実施してきました。
同社が制作したクリエイティブマップの累計参加者数は約300万人に達しています。現在ではアニメや映画との連携プロジェクトを展開するとともに、HipHopアーティストのスヌープ・ドッグや登録者数4,500万人を誇るYouTuberと共同でマップ制作を進行中です。
多くの作品を手掛けた経験から、日本のIPがグローバル市場で大きな影響力を持つことを強く実感しており、NEIGHBORは共に世界を目指せる仲間や事業者を探しているとのことです。
日本の農業を救うAgri-AR
株式会社Rootの岸圭介さんは、AR技術を活用して農作業を効率化するアプリ「Agri-AR」のプレゼンを行いました。ターゲットとしているのは小規模農地向けの現場。小さい農地が多い日本の場合、安価で導入が可能で、実用的。そして効率化が計れる技術が求められているとのことで、農水省の研究支援も受けているそうです。
主要な機能は平行直線のガイド、距離や面積の計測、肥料分布のAR表示、作業記録の保存と再現、AR看板機能などがあります。カメラ機能を持つスマートグラスを使った場合は、指で農作物の大きさを測ることができるなど、農業歴10年以上の経験が生きた機能をもちます。
「Agri-AR」はスマートフォンでもスマートグラスでも利用できますが、現場の方に向けたデモを行うと、スマートグラスに情報を表示しているところに注目が集まるそうです。
受賞したのはAgri-AR!
厳選なる審査の結果、XR Future Pitch 2024オーディエンス賞を受賞したのは株式会社Rootの「Agri-AR」です。スマートグラス、ARグラスのユースケースとして、広く期待できるところが高く評価されたのでしょう。おめでとうございます!