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業界動向 2018.12.19

HTCの語る“これまで”と“これから”、そしてモバイルVRプラットフォーム – VIVE JAPAN デベロッパーミートアップ2018講演レポ

HTC NIPPON株式会社は、2018年12月3日に開発者向けカンファレンスイベント「VIVE JAPAN デベロッパーミートアップ2018」を開催しました。

本記事では、カンファレンス最初の講演となったレイモンド・パオ氏(General Manager of HTC Asia and VP of VR Product and Strategy)とトニー・リン氏(Director, Dept. VIVE Wave Develop Support)による「2018 VIVEビジネスの振り返り、VIVE WAVEとVIVE Focusの紹介」のレポートをお送りします。また、本講演の動画は前編がこちら、後編がこちらから視聴できます。

統計などから

まずレイモンド氏はXRDCなどが行った複数の調査データを挙げ、VIVEやVRについて話しました。データ全体を見てもHTC VIVEは開発環境として主要なリーダーであり、「(VIVEがデベロッパーから指示を得ていることは)非常に心強い」と述べました。

続いて「VRが成長するための障壁は何か?」という話題に。VRXによる開発者向け調査によれば、2017年段階では「HMDの価格が高い」「コンテンツが十分ではない」ことが挙げられていたとのこと。一方で2018年にHMDの価格は約10%安くなり、「VRChat」や「Beat Saber」などの利用継続率が高いコンテンツが登場するなど、こうした課題は少しずつ改善されつつあるようです。

また、VRは複数の企業が取り組んでいますが、中でも最もVR業界を引っ張っているのはやはり「ゲーム」とのこと。しかしそれ以外にも教育、ヘルスケア(医療)、映像産業などもVRの参加について「プライオリティが高い業界」と話しました。

VRのエコシステムを育てる

さらにレイモンド氏は「VRゲームだけでなく、色々なユースケースを育てたい。VRのエコシステムを作りたい」と語り、複数の活用事例を紹介しました。

上記画像のスライドに写されているものは、VR空間上で解剖を行えるコンテンツ。台北医科大学の協力を受けて制作しており、これまで分厚い本で学んでいた解剖を分かりやすく、さらに低コストで学ぶことを可能としています。

また、2018年11月にはVIVE Proのマクラーレンとのコラボモデルを発表しました。この発売に併せ、F1のシミュレーションコンテンツを開発。従来F1のシュミレーターは高価であることからも、「安価で提供することができれば選手だけでなく、ファンにとっても嬉しいことではないだろうか」とレイモンド氏。同コンテンツはF1ドライバーのフェルナンド・アロンソ氏も体験をしたそうです。

また、レイモンド氏はスペシャルプログラムのVR for impactにある「Tree」を紹介しました。木を小さな種から育てていくことで、地球の環境を守ろうという気持ちを育むというもの。「VRで体験することで、より共感を得ることができるようになります」とレイモンド氏。VR業界をより進展させるためのアクセラレーターとして「VIVE X」を紹介し、様々な企業や団体を訪問、VRの利活用を促進させる試みについて語りました。

様々なユースケースに対応したデバイスを打ち出す

続けてレイモンド氏は「こうしたエコシステムをインキュベーションするために、“完全なポートフォリオ”が必要となる」と語りました。HTCは2016年にHTC VIVEを、2018年にはさらに高品質なVIVE Proを発売しました。一体型VRヘッドセットVIVE Focusも販売しており、これにより、あらゆるユースケースに対応してハードウェアを提供できるようになったとのこと。


(左からVIVE Focus、HTC VIVE、VIVE Pro。それぞれマスマーケット、VRにより熱心なユーザー、VRプロフェッショナル向け、という位置付けとなっているようだ)

またHTCはハードウェアだけではなく、ViveportというVRコンテンツのプラットフォームを運営しています。最初に構築したときからHTC製の製品だけではなく、他社の製品もサポートしたいと考えたていたそう。2018年8月からOculus、中国のパートナーのPicoやiQIYIもサポートしています。

Viveportはサブスクリプションモデルでのコンテンツの販売も行っています。一般のコンテンツプラットフォームでは「支払ってダウンロードする」のが基本ですが、それではたくさんのコンテンツを体験してもらうことができません。「コンテンツを試すことができるようにして、VRの魅力をより知ってもらうことが狙い」とレイモンド氏は語りました。

VIVE Wave

また、PCの方のSDK(ソフトウェア開発キット)は充実してきているが、モバイルVR向けのSDKはまだあまり多くありません。ここでレイモンド氏は「VIVE Wave」について紹介しました。VRプラットフォーム「VIVE Wave」は、オープンなモバイルVR向けのSDKを提供しています。移植が容易、かつAPIのレベルでこれまでのSDKと似ており、3DoF、6DoFの双方に対応できるとのこと。

また、VIVE Waveはオープンプラットフォームなので、HTC以外のデバイスにも対応します。レイモンド氏は「これからもっとハードウェアパートナーを増やしていき、マネタイゼーションのプラットフォームにしてSDKも充実させていきたい」と語り、開発者と一緒にモバイルエコシステムを伸ばしたいとも話しました。

2019年以後の展望

レイモンド氏は最後に、2019年とそれ以後の展望について語りました。2018年初頭に発表された「VIVE Reality」はそのひとつ。まずレイモンド氏は「VRはまさしく“エクスペリエンス(体験)”であり、それの実現には様々な技術を複合的に用いる必要がある」と語り、様々な技術を盛り込んでいくと強調しました。

中でも5Gについては「スマートフォンは、3Gのときには写真を見ることに使われた。次に4G回線になったことで、ビデオやライブストリーミングが主流となった。5Gになったらまた新しい使われ方をすることが予想され、そのうちの1つがVRなのではないか」とレイモンド氏は述べました。

またAIもVRにおいて大きく採用されており、現在も指のトラッキングや手のジェスチャーなどを予測するのに用いられています。レイモンド氏は「こうした技術は収束し、一つになると考えている」と語り、前半を締めくくりました。

後半パートでは「VIVE Wave」の話題に

ここからはDirector, Dept. VIVE Wave Develop Supportであるトニー・リン氏による後半パート。トニー氏はVIVE Waveの活用事例など、様々な話題を語りました。

VIVE Focusの活用事例

まずトニー氏はVIVE Focusの解説を行い、続けてエンタープライズやビジネスにおけるVIVE Focusの活用事例を紹介しました。

トヨタ台湾は安全技術のシュミレーションをVR空間で行っています。同社は車を安全に運転するための技術を多数有していますが、こうした技術は消費者側になかなか伝わりづらく、イメージがしにくいという問題があります。そこで何通りかのVRデモを用意し、技術がどこで使われているのかを消費者に伝わりやすく、分かりやすいようにしました。VRで安全技術を体験したことにより、価格は高くなるものの、より安全な技術が実装された車を買う、という決断をする顧客もいるそうです。

もうひとつはVIVE Focusによる教育事例です。「学生もすぐに使いこなすことができ、教育市場に良い候補になります」とトニー氏。北京で設立されたパートナー・VIVEDUと一緒に進めているプロジェクトでは、小学校レベルから大学レベルまで幅広く学ぶことができます。また、コンテンツを簡単にアップロードすることができ、マルチユーザーが同時に勉強することができることも大きなメリット。中国国内だけではなく、米国の有名大学などでも取り入れられつつあるとのことです。

VIVE Waveとは何か、そしてその目指すもの

続けてトニー氏は「VIVE Waveとは何か?」そして「なぜVIVE Waveなのか?」という問いに答えていきます。HTCが2017年に行ったとある調査によれば、世界ではおよそ400種類以上のVRヘッドセットが存在しており、ハードウェアは互換性がなく標準化が欠けている、とトニー氏。「これらの問題を解決するべくVIVE Waveというプラットフォームを作り、あらゆるモバイルVRのエコシステムになることを目指している」と語りました。


(ここに挙げられているだけでも多数のハードウェアが存在する。2018年、2019年と先に進めばさらに多くの……とキリがない)

「VIVE Wave」はモバイルVR向けのオープンなプラットフォームであり、クアルコムのSoC「Snapdragon」やサムスンの「Exynos」で動作するスマートフォン、そして一体型のVRヘッドセットに対応しています。複数のデバイスに向けて、より手間なくハイパフォーマンスに最適化されたコンテンツを作成可能になる、とのこと。

VIVE Waveのランタイムには、プラグインキットによって各種コントローラーが対応します。現在は3DoFのコントローラーに対応していますが6DoFのコントローラーにも対応しています。またハードウェアメーカー向けにはOEM SDKを、コンテンツ開発者向けにUnityやUnreal Engine 4向けのプラグインを提供しています。

VIVE Waveのランタイムは、立体視のサポートやトラッキングの予測、非同期タイムワープなどOculus向けのランタイムでも提供されている機能や通知機能などVR体験が搭載されており、これらの機能で高いパフォーマンスの実現を支えているそう。

またOEM SDKにより、異なるハードウェア間で設定などを共通化します。たとえば、「センター位置を直す」アクションでは、一つ一つのデバイスで仕組みを一から実装する必要なく、「センター位置を直す」というアクションを設定するだけでセンター位置を直すことが可能になります。コントローラー向けのプラグインキットにより、モバイルで動作する様々なOEM製のVRヘッドセットとコントローラーの組み合わせが可能になるという形です。また、VIVE WaveのエコシステムにはPicoやdlodloなどのハードウェアパートナーが参加していることもあり、対応端末はVIVEだけに限りません。

また、ゲームエンジン向けのプラグインでは、インタラクション、ビジュアライゼーションなどを調整可能です。たとえば、シミュレーションモードでは、まだハードウェアとしてはほとんど登場していない6DoFのコントローラーで実装した場合をシミューレーションすることが可能です。3DoFから6DoFへのシームレスな最適化も行えます。

トニー氏はSDKのパートの最後に、将来的な実装について明かしました。6DoFコントローラーに加え、アイトラッキングや解像度を調整するフォービエイデッド・レンダリングに対応するとのこと。「ハンドジェスチャーやルームスケール、AR/MRなど多岐にわたる機能をフォローするエコシステムを目指している」とトニー氏は語りました。

移植における実装事例

トニー氏はコンテンツのハードウェア間の移植について、VRシューティングゲーム「Super Pazzle Galaxy」を例に具体的に紹介しました。

移植にあたっては、異なるプラットフォームの仕組みを適用した上で、トラッキングシステムなどを対応し、最後にパフォーマンスの最適化を行う必要があります。本ソフトではVIVE Wave SDKを利用することで、DaydreamからVIVE Focusへのプラットフォーム間の移植は2時間程度で完了したとのこと。同じモバイル向け、コントローラーも形状が似ていることもあり、比較的簡単に移植を行うことに成功しています。

コントローラーの対応に関して、「Super Pazzle Galaxy」では、6DoFコントローラーでは手を伸ばして実際に掴んでいたシーンは、ビームで遠い物体を掴み、タッチパッドで近づけたり遠ざけたりといった操作を導入することで、3DoFのコントローラーに対応しています。

また、開発者を悩ませる課題のひとつ「パフォーマンスの最適化」についても触れました。PC向けのハイエンドなVRとモバイル向けVRでは、そのパフォーマンスには大きな差があります。「Super Pazzle Galaxy」では、PC向けのドローコールが250に対してモバイルでは50と、およそ5分の1に削減。これにはCPUとGPUのパフォーマンスを確認しながら、ドローコールやPhysics、シェーダー、ライティングなどの調整を行う必要があります。VRシューティングゲーム「Surehot」では、当初40fps程度だったパフォーマンスが最適化により75fpsに改善しています。

トニー氏は講演の締めくくりに、「VIVE Waveへの参加を待っている」と、会場に集まった開発者らに語りかけました。今後さらにハードウェアやプラットフォームが増えていくことが予想されますが、それらを一気通貫にサポートすることで、コンテンツを集めたいハードウェアメーカーやプラットフォーマーと、できるだけ多くのプラットフォームにコンテンツを配信したいコンテンツ開発者を繫ぐVIVE Wave。今後の展開にも注目です。


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