2026年8月5日、コーヒーメーカーであるUCCジャパン株式会社(以下、UCC)と住友商事株式会社は、世界最大級のメタバースプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」において、コーヒー生産の全工程を擬似体験できる独自コンテンツ「BECOME A COFFEE FARMER」を公開した。
本プロジェクトは、単なるブランドプロモーションの域を超えたチャレンジとなっている。企業のパーパス(存在意義)、次世代のサステナビリティ教育、そして最新のデジタルマーケティングが高度に融合した次世代教育の先行事例といえるだろう。本記事では、住友商事(Omochi Studio)とUCCジャパン株式会社の発表会をレポート形式で伝えながら、この事例について紹介する。
メタバース空間にコーヒー農園を構築
UCCは「より良い世界のために、コーヒーの力を解き放つ。」というパーパスを掲げているコーヒーメーカーだ 。同社は2030年までに30万人にサステナビリティ教育を提供する目標を持ち、2025年12月時点で累計約21.7万人に教育を届けてきた 。この目標達成に向けた新たな施策が今回のプロジェクトである。
発表会の冒頭、UCC側は本コンテンツ開発の経緯に触れた。住友商事からの提案を受けた際、直感的に面白いものができると感じて開発がスタートしたという 。主な狙いは、物理的な距離の克服にある。赤道付近の「コーヒーベルト」で営まれる栽培や精製の現場は、日本の消費者にとって実感しにくい 。ロブロックスを単なるゲームにとどまらない体験型学習装置として活用し、遠い異国の社会課題や生産背景を身近に学んでもらう意図が込められている 。
住友商事が語るロブロックスの圧倒的なアテンション
続いて、開発を担当した住友商事の次世代リテイルユニットに所属する富田氏が登壇し、プラットフォームの市場規模と自社の実績を解説した 。同氏が所属するコンテンツ制作スタジオ「Omochi Studio」は、これまでにホラーゲーム「ペタペタ様」でグローバル6億回以上、人気ゲーム「青鬼」のRobloxコンテンツで1億回以上のプレイ実績を持つ 。日本のゲームセンター文化を発信する「トーキョークローマシン」も含め、累計11億回以上遊ばれるコンテンツを生み出してきた 。

(住友商事株式会社 次世代リテイルユニット ユニット長代理 富田翔也氏)
富田氏は、ロブロックスの月間アクティブユーザー数が約4億人に迫る規模だと指摘。これはLINEのグローバル規模を超え、X(旧Twitter)に届く勢いである 。さらに、ユーザーの1日平均利用時間が2.5時間に達するデータも提示された 。富田氏は、このプラットフォームがTikTokやYouTube以上に没入力があり、ユーザーが長時間を費やしてくれる場所であると強調した 。ゲーム版YouTubeとも言えるこの空間は、プレイヤー自身が開発者になれる独自の文化を持っており、住友商事はこの点に事業としての可能性を見出している 。
UCCの知見が生むリアルなバリューチェーン体験
次に、UCCサステナビリティ推進室担当課長の日比氏が登壇し、ゲームの概要とこだわりを説明した 。ゲームの舞台は最大9名が同時にアクセスできる島で、右半分が実を探す探索エリア、左半分が自分の農園エリアに分かれている 。プレイヤーは探索エリアを走り回って野生のコーヒーの実を収穫し、農園に持ち帰って地面に植える 。ショップで肥料を買って与えることで成長スピードを上げることも可能だ 。
収穫後の加工工程には、UCCの知見が深く反映されている。ゲーム内では、ナチュラルプロセスと呼ばれる製法に基づく乾燥や脱穀が行われる 。さらに、豆の大きさを揃えるスクリーン選別や、色の違う不良豆を取り除く欠点選別といったプロの作業がミニゲームとして再現された 。最後の焙煎工程では、目標とする色味にいかに近づけるかで売却時の獲得コインが変わる仕組みを採用している 。
先行プレイで見えた次世代ユーザーの熱量
発表会の中盤では、日常的にロブロックスを遊ぶ2人の子供たちによるデモプレイが披露された 。レベル10の迷路エリアをプレイしたコウキ君は、すり抜けられる隠し壁を即座に見つけ出すやり込みを見せた 。
また、カヤちゃんはショップで高額な黄金のカップを購入し、カフェエリアで他のプレイヤーとチャットを楽しんでいた 。機能は安い白いカップと変わらないが、高価なアイテムを所有するステータス性を正しく認識して遊んでいた 。
教育目標の拡大とリアル連動・収益化の展望
発表会の後半はメディアからの質疑応答に充てられ、ビジネス視点や将来の展望について活発な議論が交わされた 。
最初の質問として、2030年までに30万人というサステナビリティ教育目標に対する本施策の位置づけが問われた 。UCCの里見氏は、すでに目標達成が見えつつある中で、目標自体を10万人単位で引き上げる必要があるという認識を示した 。ロブロックスは日本以外の海外ユーザーがメインであり、数日で何万人ものプレイヤーが利用する可能性を秘めている 。この前例のない拡散力に対し、UCCは強い期待を寄せている 。
続いて、教育内容とゲーム性の両立について質問が飛んだ 。日比氏は、過去に10カ国弱の生産国を訪問した経験を活かし、加工工程のリアリティを限界まで追求したと回答した 。一方で富田氏は、ロブロックスユーザーが派手なものを好む傾向を考慮し、レア度の高い豆が紫色に発光する演出を取り入れたと明かした 。事実とゲーム的表現のバランスを細かく調整したことが窺える。
ブランド価値の向上や現実世界との連動(O2O)についても重要な議論が行われた 。里見氏は、若年層にUCCブランドの馴染みを持ってもらうことが大きな課題であると述べた 。富田氏は、北米においてウォルマートがロブロックス内のゲームから現実の商品を買える仕組みをテストしている事例を紹介した 。UCC側も、小売店との連動キャンペーンや、神戸の「UCCコーヒー博物館」を訪れることでゲーム内の限定アイテムが手に入る仕組みなど、現実とメタバースを往来する構想を検討している 。
開発期間と今後の発展性についての質問に対し、日比氏は3月末から約3ヶ月間かけて開発したと説明した 。今後のアップデートでは、地球温暖化がもたらす「コーヒーの2050年問題」や、化学肥料に頼らない「ネイチャーポジティブ」といった環境学習要素を段階的に追加する予定である 。
持続的な運用に向けた課金とアップデートの展望
質疑応答の終盤、筆者(Mogura VR)から、ゲーム内通貨を用いた課金・収益化の今後の計画について質問を投げた 。住友商事の開発担当者は、現状でも天候を変化させる機能などに一部課金要素を導入していると説明。その上で、ロブロックスのコンテンツとして大きく育てていくためには課金要素も重要になるとし、ユーザーの反応やUCCとの協議を踏まえて導入を検討していく意向を示した 。これに対しUCC側は、サステナビリティ教育が第一の目的であり収益を上げることが主目的ではないと前置きしつつも、持続的に開発を続けコンテンツを面白くしていくための運用コストを賄う手段として、成長に合わせた課金モデルを模索していると語った 。
開発陣に今後のアップデートの方向性と頻度について問うと、開発陣は子供たちの意見に深く同意した 。たとえば、次に着手する内容として、加工工程を自動化してくれる従業員を雇える機能など、工場経営の効率化が目標となるようなアップデートを検討していると明かした 。具体的な更新頻度は未定であるものの、ロブロックスは更新頻度が高いプラットフォームであるため、ユーザーが満足できるようなペースで継続的にアップデートを実施していく方針を示していた 。
企業にとって、Robloxの取組は新しく挑戦であることは間違いない。サステナビリティ×教育。大人向けの飲み物であるコーヒーと子どもたちの接点をRobloxで作るという意欲的な取組が今後どのように展開していくのか、注目したいところだ。
BECOME A COFFEE FARMER ゲーム概要
| コンテンツ名 | BECOME A COFFEE FARMER |
| 公開日 | 2026年8月5日 |
| プラットフォーム | Roblox(ロブロックス) |
| 共同開発 | UCCジャパン株式会社、Omochi Studio(住友商事株式会社) |
| ゲーム内容 | コーヒーの栽培・収穫・加工・焙煎・販売の疑似体験 |
| プレイ人数 | 1サーバー最大9名アクセス可能 |
| アクセスURL | https://www.roblox.com/ja/games/73058702493295/BECOME-A-COFFEE-FARMER |










