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セミナー 2022.09.28

「メタバース」はゲームのいちジャンルにとらわれない、大きな流れだ——基調講演「ゲームは、絶対、とまらない。」レポ【TGS2022】

9月15日から18日までの4日間、千葉・幕張メッセで開催された日本最大級のゲーム関連イベント「東京ゲームショウ2022(TGS2022)」。2020年と2021年はオンラインでの開催になりましたが、今年は3年ぶりに現地会場で行われ、大きな盛り上がりを見せています。

その初日である9月15日に行われたのが、TGS2022の基調講演「ゲームは、絶対、とまらない。」。今回の基調講演は「メタバース」がテーマであり、日本における第一人者であるクラスター代表取締役CEO・加藤直人氏、Roblox China Presidentのアリ・ステイマン氏、バンダイナムコグループ チーフガンダムオフィサーの藤原孝史氏の3名が登壇。モデレーターはKADOKAWA Game Linkage ファミ通グループ代表の林克彦氏が務め、トークセッションが行われました。


(写真左から、モデレーターのKADOKAWA Game Linkage ファミ通グループ代表の林克彦氏、クラスター代表取締役CEOの加藤直人氏、Roblox China Presidentのアリ・ステイマン氏、バンダイナムコグループ チーフガンダムオフィサーの藤原孝史氏)

各社にとっての『メタバース』とは?

今回の基調講演では、「メタバース」を軸に、大きく分けて5つのテーマでトークが繰り広げられました。最初のテーマになったのは、「各社にとっての『メタバース』とは?」

この問いに対してクラスターの加藤氏は、「ゲームの1ジャンルにとらわれない大きな流れだと思っています」と語ります。「インターネットの歴史の中で2000年から2020年まで牽引してきたのは動画であり、それがインターネット×ゲームという流れに変わってきました」と加藤氏。もちろん、これまでにもゲームにインターネットは使われてきましたが、それが「よりインターネット的な使われ方になる」。これは「様々なプレイヤーがゲームを作ったり、あるいは様々なバーチャル空間を作ったりし、その中にみんなで集まっての楽しむ」という、遊び方のことを指しています。こういった時代の大きな流れをメタバースとして捉えるのが良いのではないか、加藤氏は言います。

Roblox Chinaのアリ氏もメタバースについて様々な人から聞かれるそうです。アリ氏は、あえて言い方を変えて「人間による共創の体験」としたほうがいいと主張します。ゲームを遊んで終わりではなく、「同じ場所に来て同じことをする」といった概念に変えてもいいのではないかと考えている、とのこと。

この概念はさまざまなジャンルの垣根を超えて、みんなで一緒にいろいろなことをする……というものです。たとえば別々の人が同じライブに参加できる仕組みでも、人によっては異なるデバイス(例えばPS5やNintendo Switch、スマホ、そしてVRデバイスなどなど)でアクセスして、ひとつのライブを体験します。

また、アリ氏は「メタバースは、一社だけでできるものではありません」と強調。アリ氏の所属するRobloxはテクノロジーを、そしてその一環としてゲームエンジンを作っており、「ゲームエンジンを使ってユーザーが想像する限りのことを、メタバースで表現できるようにしている」そうです。

一方、バンダイナムコが考えるメタバースは、社内では「IPメタバース」と呼ばれており、「キャラクター(IP)のファンが集う場を作りたいというのが一番」と藤原氏。「ファンの力の凄さ」について述べ、メタバースを通して世界中のファン同士がつながることができるようになるのではないか。IPのファンが集える場を作り、バンダイナムコとファンが、そしてファン同士がつながり、そこから生まれる熱量の素晴らしさを大きくしていくこと——それこそが、同社がメタバースに取り組んでいる理由だと語りました。

メタバースによって、ゲームやIPはどのように楽しくなるのか?

続いてアリ氏は「7年前にRobloxに入社した当時は、同社が提供していたゲームは年齢層が低い人たち向けのものでした」とコメント。しかし2022年の現在、最も成長著しいのは低年齢層コンテンツから17歳から24歳向けのコンテンツに変わってきたとのこと。さらに、メタバースはクリエイターの場所でもあります。「コンテンツは特別な人ではなく、普通の人が作っています。その人たちがコーディングを学び、チームを作り、さらにはスタジオを作って、コンテンツ提供をしています」と述べました。

またバンダイナムコでは「発想を変えていかなければならないと思っている」「ファンと一緒に作っていくことが、メタバースに取り組む上で一番重要なポイント」と語る藤原氏。既に一部のタイトルやコミュニティで行われているように、将来的には「受け取るだけ」ではなく「メタバースの中で、一緒に作っていく」ように変化し、今後のゲームの価値を大きく変えると語ります。

さて、加藤氏率いるクラスターが提供しているのは「ゲーム」ではなく、ユーザーが空間を作る場です。「ゲームというよりは、それ以前の何か」と加藤氏。クラスターのユーザーはゲームを遊んでいるというより、「深夜のファミレスに集まってダラダラ話しているような遊び方」に近い使い方をしているそうです。一例として、最近クラスターのなかで「コインプッシャーゲーム」が人気になりました。ゲームセンターに置かれているコインプッシャーゲームを、みんなで遊びながらあれこれ喋る場になっているとのこと。既に「Discordでボイスチャットをつなぎながら雑談しつつ、みんなで同じゲームをバラバラに遊んでいる」ケースは多々あり、「ゲームの遊び方」は大きく変化しているようです。

ビジネスの観点から考えるメタバースの可能性

バンダイナムコ藤原氏は「メタバースによるコミュニティの盛り上がりによってはグループ企業であるバンダイからの商品化が出てくるかもしれない。あるいはメタバース空間があるからこそフィジカルな商品が面白くなり、さらにはフィジカルな商品があるからメタバースで想像を超えたような新しい楽しみ方ができるようになるのではないか」とコメント。現在同社が取り組んでいる「ガンダムメタバース」では、ガンプラを3Dスキャンしたものをメタバース空間内で自分のモビルスーツとして乗り込めるようにし、他のプレイヤーと対戦する、といったことも検討されています。このように「フィジカルな商品を使ってデジタル空間でどう遊ぶか」を考えており、藤原氏は「『ガンダムビルドファイターズ』の世界を実現したい」との抱負を述べました。

続いて、クラスター加藤氏は「メタバースの発展度合いによっていろいろなビジネスが生まれてくるのではないか」と語ります。「トヨタがレクサスの試乗ブースをcluster上に作り、みんなが乗れる」といった施策を行っていました。現実ではハイブランドの車に乗る機会はなかなかありませんが、ゲームの中だからこそいろいろな人たちに体験してもらうことができるようになっています。

また「メタバースの本質はクリエイターで/にある」と加藤氏。空間自体を誰でも作ることができるようになっていくことが本質であり、これは「Webの本質はクリエイターだった」ということに通ずる話でもあります。トップクリエイターだけではなく、3Dを学んだばかりの中学生や高校生が面白い・興味深いコンテンツを作り、それによってお金や機会が得られるかもしれない——といったチャンスが広がっていくといった流れが、メタバースの大きな波になるのではないか、と語りました。

続いてアリ氏は「Robloxは共創体験という点において、同じ考えを持っている」と語ります。Robloxがテクノロジー基盤やインフラ、ゲームエンジンを作ることで、「さまざまなクリエイティビティを受け止められる場」を作り、クリエイターがいろいろなものを作る……というエコシステムが生まれています。ここでポイントとなるのは「誰でも、いわば“普通の人”でもコンテンツを作れる」ということです。加藤氏のコメントと共通する点も多く、また他の「メタバース」とも「参加者自身が3D空間うえで自分のコンテンツを作れる、何かを表現する場がある」という点では共鳴するところがありそうです。

メタバース普及のための課題とは何か

さて、まだまだ一般的ではない「メタバース」が普及していくための課題として、加藤氏は「『メタバース』の定義をVRに限定して押し込めてしまうと、『VRデバイスは普及するのか?』といったあまり面白くない話になってしまう」とコメント。「少し話を広げると、基本的にありとあらゆる課題は、テーマが決まり、人間が努力して解決してきたという歴史をたどっている。そこで大事なことは才能が集まること」と続けます。

メタバースのマーケットや技術は、ゲーム業界のマーケットや技術と非常に類似している、あるいは重なっています。加藤氏が一番課題に思っていることは「メタバース」と聞いたときに「『セカンドライフ』やMMORPGの焼き直しなんじゃないの?」と、斜に構えて業界に参入しないという流れができてしまうことです。「ゲーム業界やさまざまな業界と手を組んで、才能が集まり、大きなものを作っていくことが重要ではないか」とコメントしました。

続いてアリ氏は「みなさんのクリエイティビリティがストップしてしまうこと、それこそが課題になる」と語ります。メタバースはクリエイティビリティを発揮してこそ進んでいくもので、提供されるテクノロジーもそれに追いついていく必要があります。Robloxではそのための様々なツールを提供していくこと、そして「一緒にみんなでやること」が大事だとコメント。「Robloxにとって日本はTOP25に入る大きな、そして急成長している市場。「昔からゲームともなじみ深い国で、クリエイティブな人ばかり。その力をRobloxで発揮してもらいたい」と述べました。

バンダイナムコ藤原氏は「メタバースに関してはまだまだ開発中というステータス」とコメント。現状はトライ&エラーを重ねていく必要があると考えているようです。これはゲームにたとえると「エンディングのないオープンワールドゲームを作るのに似てる」と藤原氏。「バンダイナムコがベストだと思うものを作りきるというよりも、ユーザーと一緒に作っていく。ユーザーが能動的に入ってこられるような場の空間作りが大事だと考えている」とのこと。

メタバースで実現したいことは?

今回の基調講演で最後に選ばれたテーマは「メタバースで実現したいこと、理想や目標」。Robloxのアリ氏は、「没入型空間を作っているが、現在はキーボードなどのデバイスが必要であるものの、将来的にはそうしたものが不要になるかもしれない」と語ります。仮にコントローラーやキーボード等のデバイスが不要になれば、今以上に「境界線」が見えなくなり、いろいろな人がメタバースを通してコミュニケーションを取ることができます。「メタバースにはVR/ARヘッドセットを使う」というイメージがあるものの、「そうしたものは必ずしも必要だとは限らない。それよりも、スマホなどの手軽なデバイスからメタバースに行ってみることが大切だ」と語りました。

バンダイナムコの藤原氏は、目標として「いろんなIPでのメタバース空間を作っていくことが、我々がファンのためにやるべきこと」とコメント。ガンダムが先行しているものの、「アイドルマスター」や「鉄拳」「たまごっち」など、様々なIPを通してメタバース空間を作ることも可能です。それらがつながっていくことがバンダイナムコのメタバースなのではないか、と語りました。また気になる「ガンダムメタバース」のリリース時期は「担当者に確認しているものの、『いつリリースする』とは言い切れない状態」とのこと。併せて「出来上がったものを披露するというよりも、いろいろな意見を取り入れていこうと考えている。来年あたりから少しずつ皆さんに触ってもらえるような展開に入っていく」予定だそうです。

最後にクラスター加藤氏は「メタバースに関しては大きな話が続いたので、小さな(=個人的な)話をしたい」。自身が元々引きこもりだったということもあり、今のクラスターでやりたいことは「引きこもっていたときに思っていたこと」の実現だと語ります。「ソードアート・オンライン」のような作品は「救いを描いている」と加藤氏。「どうしようもない現実に対して、なりたい自分になることができたり、あるいは理想の世界そのものを自分でつくって生活することができたりする。そうした世界が訪れたら、個人としても嬉しく思う」。その実現のために起業し、日々の業務や経営を頑張っているとのこと。

また「大きな話」として、「メタバースの世界は物理法則に制限されない。これまでできなかったようなクリエイティブ体験も実現することが可能で、1億人が共同で何かを作るということも実現できる。今までなかったクリエイティビリティが生まれ、そこに経済の流れが生まれ、新しい価値の流れが生まれる。そういった世界をつくれたら、とてもエキサイティングなことだと思う」と語り、今回の基調講演を締めくくりました。


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