発売以来、Oculus Quest(オキュラス クエスト)屈指の美しいグラフィックだと話題のVRゲームがあります。その作品の名は「Red Matter」。スペインのゲームスタジオVertical Robotが開発したタイトルです。
本記事では「Red Matter」のグラフィックの魅力や、実際のゲーム性がどのようなものか、筆者がプレイした体験を元にレビューします。
「Red Matter」はどんなゲーム?
「Red Matter」は、未来の冷戦をテーマとしたSFパズルアドベンチャーゲームです。NATOとソ連をイメージした「Atlantic Union」と「Volgravians」の2つの大国が冷戦を引き起こしています。プレイヤーはAtlantic Unionに所属する宇宙飛行士となり、土星の第5衛星レアに建てられたVolgravianの秘密基地を探索して、極秘研究プロジェクトを解き明かしていきます。
2019年9月現在、「Red Matter」はQuest版のほかにPC(VR)版やPlayStation VR版がリリースされています。なお本作は、Oculus Storeのクロスバイ(※)には対応していません。
(※クロスバイ:ソフトを1つ購入すれば、同ソフトの他機種版が無料でプレイ可能となる仕組み。)
日本語対応はナシだが、英語字幕はアリ
本作は、2018年にリリースされたPC版「Red Matter」の移植版です。ゲームの基本的な仕様は変更されていませんが、トラッキングやグラフィックなどが、Quest向けに最適化されています。
2019年9月現在「Red Matter」はバージョン(PC、Questなど)を問わず日本語対応はしていませんが、英語字幕機能は実装されています。パズルの読み解きやストーリーの理解などには、ある程度の英語力が必要です。
(レトロなスライドショーで行われるブリーフィング。字幕は画面中央に表示)
土星衛星1人旅
ゲーム開始後、プレイヤーの分身となる宇宙飛行士「コードネーム:Epsilon」は、上司からミッションのブリーフィングを受けます。Epsilonに課せられた使命は、衛星レアにあるVolgraviansの放棄された施設に侵入し、彼らが何を研究していたのか探るというもの。
作戦説明の終了後、Epsilonは衛星レアに向かって射出されます。同衛星への旅は無事に成功しますが、着陸はあまり上手くいかず、通信デバイスなど装備の一部が破損してしまいます。
(施設の文章はすべてVolgravian語。ゲーム内の翻訳システムを活用する必要があります)
ここで、宇宙服のチェックを兼ねたチュートリアルが行われます。Epsilonの宇宙服には、スキャン機能を含むVolgravian語の翻訳システム、フラッシュライト、ミッション目標の表示機能などが搭載されています。それぞれの機能は左ハンドコントローラーのスティックで選択、トリガーを引くと作動します。
例えば両手に装着されたハンドマニピュレーターを使うと、フィールド内の色々なオブジェクトを掴むことができます。
(ポインタージャンプ移動の一例。スティックを前に倒すことでジャンプの加速も可能)
ゲーム中の状況や自身の酔いやすさに合わせ、プレイヤーの移動操作が複数選べるのもポイント。操作方法は以下の3パターンです。
・6DoFトラッキングを活かした実際の歩行移動。
・目標地点にポインターを設置して飛ぶジャンプ移動。(右ハンドコントローラー使用)
・“内トリガー”を押し込んで前進する移動(PCの一人称ゲームで「W」キーを押すような動き。右ハンドコントローラー使用)。
筆者の場合、通常の移動はジャンプで済ませ、細かい調整はトリガー押し込みで行うかたちでプレイしましたが、頭を振りながらジャンプを繰り返すといった極端な動きをしない限り、酔いをほとんど感じませんでした。
圧倒的なグラフィックで描かれる衛生レアの風景
着陸地点からしばらく進むと、衛星レアの美しい地平線と研究施設のエントランスが目の前に広がります。
筆者が本作のグラフィックの素晴らしさを実感したのが、まさにこのタイミングでした。それまでしばらく薄暗いシーンが続いていたのですが、この瞬間を際立たせるための、よく練られた構成だと思います。
(英語で表示される謎解き手順。難しい単語はほぼ無いのですが…)
研究施設のエントランスを開くと、搬入エリアのエアロックに電力を供給して侵入するミッションが始まります。電力供給は必要なアイテムを探すだけなのですが、エアロック通過には決められた手順を実行しなければなりません。これが「Red Matter」最初の語学力を必要とする謎解きです。
謎を解くには、Volgravian語で書かれている説明マニュアルや操作パネルをスキャンで翻訳する必要があります。筆者の所見ですが、エアロックの通過のためのマニュアルを苦労せず解読できるのであれば、ゲームをクリアするための英語力は十分だと思います。
(癒し枠のAIアシスタント。メッセージカード形式で“同志”に通達を送ってくれます)
レトロSFな世界観を堪能できる!
2019年9月現在、Questで発売されているタイトルの中では、屈指のグラフィックの美しさを誇る「Red Matter」ですが、その雰囲気に厚みをもたらしているのが、アメリカとソ連が、冷戦を続けたまま歴史が進行したかのような世界観です。
Volgravianの景色は、共産主義国家(主にソビエト連邦)らしさを感じられるもので、ディストピア的雰囲気も付け加えられています。施設の内部では趣向を凝らした“赤い”プロパガンダや、美術作品をあちこち見られ、レトロSF好きにはたまらない仕上がりです。
(ジョージ・オーウェルの小説「1984年」のようなディストピア感のあるポスター)
施設内の機械類が、いわゆる“ハイテク”でないのも特徴。このゲームに登場する設備の多くは、完全に60~70年代SFドラマ映画のソレです。
例えばゲーム内のディスプレイはタッチパネルがない、どうみてもブラウン管なモニターです。こうした設備のデザインは「Red Matter」独特のビジュアルにアレンジされており、レトロSF作品が大好きな筆者としては、小物類を眺めているだけでも幸福を感じました。
開発元のVertical Robotは、Quest版「Red Matter」のグラフィックを、モバイル向けプロセッサで動作するVRヘッドセットで高画質にするため、ある試みを行っています。
その試みとは、簡易版フォービエイテッド・レンダリング(※)と言えるもの。ディスプレイの周辺部分に表示されるグラフィックを簡易化するシステムです。記事のスクリーンショットの外周部分をよく見ると、視界の周辺部分は中央と比べてテクスチャー荒いのが分かります。
(※フォービエイテッド・レンダリング:画面をレンダリングする際、人の中心視野ほど高解像度で、そして視野の外側に行くに従って低解像度で描画する手法)
Questにはアイトラッキング機能は実装されていないので、首を動かさない状態で視線を外に向けると荒いテクスチャーが目に入ってしまうのですが、普通にプレイする分にはほとんど気になりませんでした。
惜しむらくは〇〇の反応の悪さ
グラフィックの美しさや操作の快適性など多くの点が高水準にまとまっている作品ですが、プレイしていて唯一気になったのが、ハンドマニピュレーターの反応の悪さです。
マニピュレーターには、モノをつかむ以外にも、遠くの物体を引き寄せてキャッチできるマグネット機能があります。つかみたいモノにマニピュレーター(ハンドコントローラー)を向け、レーザーポインターが表示された状態でトリガーを引くと作動するのですが、“照準”を合わせるのにかなりの精度が要求されます。
(基本的にオブジェクトの真ん中付近にしか存在しないレーザーの発生判定)
レーザーは、オブジェクトがマグネット可能なときにしか表示されません。なので遠くのものを引き寄せたくても、そもそも正しい位置を狙えているか分からず、近くまで移動して回収した方が速いというケースが何度もありました。
もともとアクション要素の少ないパズルゲームであり、マグネット判定の厳しさでフラストレーションが貯まることは無いのですが、それでもゲームプレイの快適さをやや損なっていると感じました。
言葉の壁を乗り越えてでもプレイしたいゲーム
「Red Matter」は、高品質なグラフィックとSF好きにはたまらない世界観、そして適度な難易度のパズルが楽しめるゲームです。日本語に対応していないのがネックですが、個人的にはそこを乗り越えてでもプレイする価値のある、確実にオススメできるタイトルと感じました。
Volgravian基地の奥底で何が起こったのか、是非その目で確かめてみてください。
ソフトウェア概要
タイトル |
Red Matter |
開発元・パブリッシャー |
Vertical Robot |
ジャンル |
SFパズルアドベンチャー |
対応VRヘッドセット |
Oculus Rift、HTC VIVE、Valve Index、Windows MR、Oculus Quest、Playstation VR |
価格(税込) |
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プレイ人数 |
1人 |
公式サイト |