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業界動向 2021.05.10 sponsored

小型軽量を追求したキヤノンの「MREAL S1」。体験とインタビューから通して見るその実力

カメラやレンズ、プリンタなどで広く知られているキヤノン株式会社が、新たにMRヘッドセットMREAL S1を発売した。同社のMRヘッドセットはこれまでハイエンド寄りの性能を重視したデバイスだったが、今回は一転し「小型軽量」に強く焦点を当てたという。

今回Mogura VR Newsでは実地での体験や取材を通し、「MREAL S1」の使用感、そしてキヤノンによる小型軽量へのこだわりを探った。

平成初期からMRに取り組むキヤノン

そもそも、「キヤノンがなぜ突然MRを?」と思う人もいるかもしれない。しかし、掘り下げてみればその歴史は長い。キヤノンが経済産業省(当時は通商産業省)と共同プロジェクトを立ち上げ、MR技術の開発をスタートしたのは実に1997年のことだ。その後、2012年にはMREALシリーズの初代製品である「HM-A1」を発売。以来、2016年には「MD-10」を、続く2020年には「MD-20」を発売、併せて専用ソフトウェアの提供も行うなど、およそ20年以上にわたってMRに取り組んでいる。


(キヤノンによる「MREAL」製品のタイムライン。今回発表された「MREAL S1」は同社初のエントリーモデルに位置づけられている)

ユーザーヒアリングを重ね、軽さとポータビリティを追求

研究に研究を重ねて新製品を送り出してゆく中で、課題も見えてきた。これまでのMREALシリーズは視野角や解像度、つまり表示性能を高める方に注力してきた。しかし、通常これらの性能を高めれば高めるほどデバイスは重くなってしまう。

企画を手がけたキヤノン株式会社のイメージコミュニケーション事業本部 安東武利氏は、「これまでMREALシリーズを使っていただいたお客様からは、好評をいただいていました。他方で長時間の体験や作業姿勢での体験を行う場合、重量が気になるというご意見や、工場のラインで使うためにポータビリティを向上させてほしいというご意見もあります。こうした現場の声をもとに、今回の『MREAL S1』は小型軽量ポータブルをコンセプトに据えています」と語る。

2020年に発売された「MD-20」と比較し、ディスプレイ部分の重量はおよそ三分の一である137gまで軽量化。ヘッドバンド部分を含めて338gと、市場のMRヘッドセットと比較してもきわめて軽い。参考までにマイクロソフトの「HoloLens 2」は566g、Varjoの「XR-3」はディスプレイ部分だけで594gだ。


(ハンドヘルドユニットを装着した状態の「MREAL S1」)

単に本体を小型軽量にするだけでなく、モバイルワークステーションへの対応も行った。従来のMREALシリーズは動作させるために、ワークステーションと呼ばれる高性能な業務用コンピュータ、それも大型のものを必要としていた。「MREAL S1」はノート型のモバイルワークステーションに対応し、手軽な持ち運びが可能に。会議室や工場のライン、そして屋外での使用も簡単になった。


(モバイルワークステーションや各種アタッチメントにケーブル、そして本体を収納してもアタッシェケースひとつに収まる)

屋外でもくっきり見える

「小型軽量」というコンセプトを強く打ち出した「MREAL S1」だが、実際の使用感はどのようなものになっているのだろうか。今回、同デバイスを屋外と屋内の双方で体験した。

従来、MRヘッドセットは晴れた屋外での使用は難しい。日光や熱などの要因により、デバイス本来の性能を発揮しづらいからだ。体験当日は周囲にあまりモノがなく、天気は快晴と、デバイス的にはかなりの逆境となった。

しかし、「MREAL S1」は問題なく動作した。減光フィルターをカメラに取り付けることで、明るい屋外でも現実環境の特徴点を捉えていた。CGの位置ズレは気にならない。映像の見え方も必要十分。何より圧倒的に軽く、ヘッドマウントディスプレイにありがちな重量感がない。セットアップも非常に早く、5分もかかっていなかった。


(「MREAL S1」で実車の手前に3Dモデルを表示したスクリーンショット。現実の風景をカメラで取り込んでCGを合成するため、建築物や機器、車両などのプレゼンテーション・比較用途に適している)


(車内に入った際のスクリーンショット。色認識で手のひらをCGとリアルタイム合成することで、奥行きの表現も可能。この画像ではハンドルより奥に手が置かれている)

(こちらは建築物を「MREAL S1」で表示した際のデモ動画。キヤノンの川崎事業所にある建物を現実の風景に重ねて表示している。建設予定の建物を表示し、その際の見え方や景観への影響などを見ることもできる)

屋内では遠隔かつ複数人で同時に、商品加工の設備を再現した3DCGで作業を行うデモを体験。こちらも屋外と同じ位置合わせ方式で、基準となるマーカーが1枚置かれていた。設備の作業性や安全性のデザインチェックなどを想定したデモとなっている。少しかがんだ姿勢で作業を行い、製造前に「この状態だと機械に頭がぶつかりそうだ」といった問題点を確認する仕組みだ。

屋内でも、位置合わせ含め「MREAL S1」はスムーズに動作した。ディスプレイ部分が軽いため、頭を振っても「持っていかれる」感じはない。加えてフリップアップ機構も搭載しており、ディスプレイ部分を動かすことでメモを取ったり指示書を確認したりもできる。

屋外と屋内の双方で「MREAL S1」を体験したが、いずれも「軽さ」「使い勝手の良さ」はかなりのもの。直接外を見る「光学シースルー型」ではなく、カメラで取り込んだ現実の風景とCGを合成する「ビデオシースルー型」ゆえ、屋外で使いやすいというメリットもある。

また、「モノの大きさに違和感がない」ことも大きなポイントとして挙げておきたい。「MREAL S1」に限らず、ビデオシースルー型デバイスはディスプレイ部分の前面にカメラが取り付けられている。必然的に、現実の風景を取り込むためのカメラとそれを映すディスプレイの間には、ヘッドセットの厚みのぶんだけ距離が空く。したがって、肉眼で見ている風景とヘッドセット越しの風景には、少なからずモノの大きさにズレが生まれてしまうことになる。そして製造業のように、高い精度が求められる領域ではこのズレが決定的な要因になることも少なくない。

「MREAL S1」はかなり薄型になっているため、この「カメラとディスプレイの距離」が小さい。したがって映像のズレや歪みが減り、大きさの違和感も減る。さらにIPD設定次第ではカメラとディスプレイ、そして目を一直線上に揃えてより自然な見え方を実現する「光軸一致」も搭載するなど、「実寸に限りなく近づける」ための工夫が凝らされている。この辺りは光学技術・光学設計に強みを持つキヤノンならではと言えよう。

キヤノンの開発者が語る「MREAL S1」へのこだわり

今回、このように小型軽量とポータビリティを追求した「MREAL S1」へのこだわりを、企画・開発を手がけたキヤノンのメンバーに聞いた。


(左から:キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業本部 鳥居嵩氏、同所属の荒谷真一氏、近藤亮史氏)

――初めて「MREAL S1」を体験しましたが、非常に軽いことに驚きました。この重量感のなさや取り回しやすさには、かなり強いこだわりがあるように思います。

安東氏:

「MREAL S1」では「長時間、ストレスなく、検証に集中できるもの」を目指しています。「MD-20」は現場で高い評価を得ていたのですが、より様々なシチュエーションで使っていただくためにはポータビリティを高める必要があり、重量以外にも配線やモバイルワークステーションへの対応など、多角的に取り組みました。

――ポータビリティが大きく向上していますよね。小型化に際し、MRヘッドセットの要のひとつである光学系やディスプレイ部分では、どのような工夫を行っているのでしょうか?

近藤氏:

小型軽量にフォーカスしたこともあり、「MD-20」などで使っていた自由曲面プリズムではなく、より小型かつ薄いものを使っています。実現のために部品選びから見直しを行った形ですね。光学系が小型化したたことで、相乗効果的に他の部品もコンパクトに収められました。

鳥居氏:

ディスプレイ部分では材質から見直しを行い、S1に最適な装着系を作るために構成から見直しています。初期段階では3Dプリンタでプロトタイプを作り、お客様に試していただいたうえで、そのご意見を製品に反映しました。排熱経路や材料の厚みなども、「小型軽量かつ必要十分、かつ快適」を意識し、どれだけ盛り込んでどれだけ絞るかはかなり取捨選択しています。


(左から:キヤノンITソリューションズ株式会社 エンジニアリングソリューション事業部 第二営業部の竹中哲也氏、キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業本部 安東武利氏、キヤノン株式会社 総合デザインセンター の西村賢一氏)

――ヘッドバンド部分も、長時間使用や快適性を重視した工夫がなされているように思います。体験時も、あまり調整せずともスムーズに使うことができました。

鳥居氏:

単純につけるだけであれば、ヘッドバンドはさらに細くできるのですが、ユーザビリティや装着時の快適さを重視して現在の形状に落ち着きましたね。実は最初のプロトタイプをお客様に体験していただいた際、形状のせいでアジャストしやすい人とアジャストし難い人に分かれてしまいまして……。試行錯誤と試作を繰り返して、誰でもフィット&アジャストしやすい装着系にするためにかなり苦心しました。

西村氏:

ハードのデザインは、他メーカーができないレベルで「使いやすいデザインにすること」を目指しています。現場での使われ方をきちんと調べ、ユーザビリティ検証を何度も地道に繰り返した結果を反映しています。やはりカメラメーカーなので、「ちょっとやりすぎ」なくらい、細部の使いやすさ/多種多様な持ち方に配慮しています。

特に今回は手で持って使うための、ハンドヘルドアタッチメントのデザインを大きく変更しました。今まではハンドルを握って持つ、ちょっと「大げさな形」でしたが、それをストレス無く持てる「軽い」デザインにまとめることが出来ました。より多くの方々に文字通り「気軽に」使って頂けると思います。

安東氏:

ヘッドバンドについては、開発やデザインの皆さんのおかげで最終的に「弱い力で締め付けつつ、長時間安定して使える」という難しい課題をクリアできたと思っています。

――ソフトウェア面ではいかがでしょうか。「MREAL S1」はモバイルワークステーションでも動作するようになりました。

荒谷氏:

過去にMREALシリーズを動かしていたソフトウェアはCPUの処理能力に頼っている部分があり、既存アーキテクチャのままでは高度な大規模計算が難しい状態でした。「MREAL S1」に合わせて各種モジュールやランタイムを大きく刷新し、モバイルワークステーションでも動くようにしています。

安東氏:

ハードウェア本体の小型軽量化ももちろんですが、モバイルワークステーションに対応したことで、使い勝手やポータビリティがより大きく向上した形です。光学系、電気回路、ディスプレイや装着系、デザイン、ソフトウェアが一体となってコンセプトを実現できたのではないかと。

――最後に、MREALシリーズの将来的な展望についてお聞かせください。

安東氏:

MREALは既に建設や製造、自動車業界のお客様にご活用いただき、支持していただいています。今後、例えば医療分野にもアプローチしていくというのはひとつの考え方としてあるのではないかと思います。他にも一般消費者の方に届くような、エンターテインメントのような領域でも貢献できるとより活用方法が広がると考えています。ハードウェアとしてのMREAL、という意味では、キヤノンがカメラやレンズといった分野で培ってきたエッセンスをさらに投入し、お客様にあっと驚いていただけるようなデバイスを作っていきたいですね。

――ありがとうございました。

(了)

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