Home » 「Metaverse Japan Summit 2022」レポート。1,100名が参加したメタバースのグローバルカンファレンス


セミナー 2022.08.03

「Metaverse Japan Summit 2022」レポート。1,100名が参加したメタバースのグローバルカンファレンス

2022年7月14日、一般社団法人Metaverse Japanがメタバースに関するグローバルカンファレンス「Metaverse Japan Summit 2022」を東京・渋谷にて開催しました。あいにくの雨模様の中行われたイベントでしたが、当日はふたつのステージで20近いセッションを実施。それに加えて、スポンサー企業による展示も行われていました。

本稿ではその中から、「日本からグローバルを目指すメタバースプロジェクトの今」「メタバースのルールメイク」「メタバースにおけるテクノロジー変革2030」の3つのセッションをピックアップ。また、会場で展示されていた企業のブースについても、一部ご紹介していきます。

オンラインとオフライン合わせて1100名がイベントに参加

朝11時から開催されたOpening Remark(開会挨拶)では、PwCコンサルティング合同会社 Partner 執行役員の馬渕邦美氏と一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長の長田新子氏が登壇。馬淵氏からは、今回のイベントがオンラインとオフライン合わせて1100人もの人々が参加していることが発表されました。


(写真左から、一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長の長田新子とPwCコンサルティング合同会社 Partner 執行役員の馬渕邦美氏)

今回のイベントを開催したMetaverse Japanはユニークな組織で、参加している理事やアドバイザーも意義に賛同して参加している人たちばかり。このMetaverse Japanが捉えているメタバースの世界観は、「これから10年後ぐらいに実現されるメタバース生活圏に向けて、どのように上がっていくのかというところを重要視している」と馬淵氏は語ります。

そのビジョンは、メタバース領域で個人やコミュニティが多様性を尊重しながら自由に活動する社会を創ることで、ミッションとして日本の可能性をメタバースを通じて世界に解き放つハブとなることを掲げています。

その場でメタバースが体験出来るスポンサーブースも登場

ステージイベントは、渋谷ストリーム ホールの4Fと6Fの2会場で行われていましたが、その間の5Fではスポンサーによるブース出展も行われていました。まず入り口近くで目を惹いたのが、クラスターのブースです。こちらでは、メタバースプラットフォーム「cluster」の体験と手軽にバーチャル空間を作れる「WORLD CRAFT」機能の紹介が行われていました。

「cluster」は、法人向けと一般ユーザー向けのふたつの軸で展開されていますが、「WORLD CRAFT」機能はサバイバルパッケージといったテーマなど、ユーザーに向けて毎月新機能を追加しているものとなっています。

サイバーエージェントのメタバース関連会社として、今年の2月に設立されたサイバーメタバースプロダクションのブースでは、バーチャル店舗に特化した事業「CyberMetaverse Productions」の紹介が行われていました。

こちらはリアル店舗やメーカーなどが、バーチャル空間を利用したショッピング体験を提供するためのサービスです。アバターを利用した接客やデジタルアイテムの販売に加え、広告領域に強いサイバーエージェントならではのサービスとして、データを蓄積して収益を向上させる店舗活動の運用サポートも行っています。

HIKKYのブースでは、今年の8月13日から開催される世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット2022 Summer」が紹介されており、VRヘッドセットでのバーチャル渋谷の体験もできるようになっていました。加えて、来場者からの問い合わせに応じてスマートフォンでイベントに参加できる「Vket Cloud」の説明も。

楽天モバイルのブースでは、「Metaverse・XR×5G」ということで、今後拡大していく5Gネットワークと最新のテクノロジーを掛け合わせた新たなユーザー体験について紹介が行われていました。エデュケーション分野では東京と仙台、沖縄の各地からメタバース上にアクセスし、3Dのモデルを様々な角度から見られるような試みが行われています。エンターテイメント分野では、スタジアムでスマートフォンをかざすだけでARが出現し、メニューを選ぶと選手の情報などが見られるといったことも実施しています。

こうした技術を支えているのが5Gですが、それに加えて完全仮想化されたモバイルネットワークを支える技術として「Beyond 5G」の研究開発も行われています。こちらはメタバースを支えるための技術のひとつで、そちらの紹介も同ブースでは行われていました。


(写真左から、楽天モバイルの近谷珠希氏と宮澤拓也氏)

メタバースブームは顧客不在なところが危険!?「日本からグローバルを目指すメタバースプロジェクトの今」

REALITY 代表取締役社長の荒木英士氏とPsychic VR Labの浅見和彦氏、そしてミラティブ 代表取締役の赤川隼一氏の3名が登壇して行われたセッションが「日本からグローバルを目指すメタバースプロジェクトの今」です。

本セッションで最初に取り上げられたテーマは、大きなバズワードになりつつある「メタバース」市場のなかで、自分たちのサービスがどのポジションに位置づけているのか。ミラティブの赤川氏はこれについて、「今のメタバースブームは顧客不在なところが危険だと思っている」と語ります。これは、エンドユーザーで「メタバース」をやりたいという人がいない状況のことを指します。そのため、ミラティブの社内でも「メタバースだから」という話はしておらず、「自分たちが信じた世界観をやっていくことが結果的にメタバースになっていく」という考えで運営しているとのこと。


(今回はオンラインでの登壇となった、ミラティブ 代表取締役の赤川隼一氏)

メタバースは、ゲームの周辺から出来てくることを確信しているという赤川氏。現在、オンラインで人が長く過ごしているコンテンツはゲームですが、ポストメタバース時代に最適化されたコンテンツではまた違ったものが出てくるかもしれません。そこでミラティブが一番力を入れているのが、「ライブゲーミング」と呼ばれる領域です。「ライブゲーミング」は、ゲームとゲーム実況を融合させたものです。従来までは、ゲーム実況を見ている時にはコメントを書くことぐらいしかできませんでしたが、今後は配信者に対して装備品をプレゼントするなどアイテムレベルでの相互性が出てくると考えています。これらがメタバースと呼ばれるかはわからないものの、2020年代のゲームにおいて体験レベルのキラーコンテンツになると考えており、同社ではそのプラットフォーム化を進めています。

これらを突き詰めていった先でユーザーが喜び、様々なサービスや機能が追加され、結果的に「メタバースだね」といわれる形を目指しているそうです。


(本セッションでファシリテーターを務めた、REALITY 代表取締役社長の荒木英士氏)

一方、「リアルメタバース」という言葉を掲げて活動をしていると語るのが、Psychic VR Labの浅見氏です。これはVRもそうですが、何かを体験したことによりその人の捉え方や感覚が変わり、アップデートされるということ自体がメタバースの持つ本質なのではないかという考えから生まれたものです。

ユクスキュルという学者が「環世界」という概念を提唱していましたが、それになぞらえてARで街を体験すると、ARが無い街と元の感覚が変わってくるという感じで、感覚をアップデートしていくこと自体がメタバースであると考え活動しているそうです。


(Psychic VR Labの浅見和彦氏)

続いて、本セッションのメインテーマにもなっている話題に移行。日本発でグローバルを目指すメタバース市場には、それぞれどのような機会があると捕らえているのでしょうか?

Psychic VR Labでは、「空間を身にまとう」というミッションを掲げています。ハードが進化していくにつれて、様々な人がXR的な表現ができるようになってきます。現在は誰しもがスマートフォンを所有しており、情報を身にまとっています。それと同様に、これからは空間を身にまとうのではないかという考えから生まれたものです。

表現者自体もどんどん増やしていく必要がありますが、それに対して「STYLY」というアプリを通じて世界中のクリエイターに使ってもらえるアプローチを行っています。現在、パルコとロフトワークと共同で「NEWVIEW」というプロジェクトに取り組んでいますが、日本だけでなく台湾、ニューヨーク、ロンドン、トロントでオンラインスクールを開校しています。

もちろん、1度に数千人から数万人という規模で展開されているわけではなく、まずは友達の友達の友達ぐらいの範囲で熱意の高い人たちの仲間を増やし、そこからまた新たな仲間を増やすという展開が行われています。ちなみにスクールの参加者は、Adobe系のツールは使えるものの、ほとんどは初心者といった人たちばかりとのこと。そこで、2次元から3次元のクリエイターになることを啓蒙しているそうです。

「メタバースは当たり前のようにグローバル戦争になる」と語る赤川氏。インターネットの基本概念は個人をエンパワーメントしてプロに近づけることだと考えており、国際間の距離も瞬間的にゼロになります。また、コミュニケーションもそれぞれの言語でできるようになっていきます。そうしたときに、ローカルだけで勝てる時代が想像しづらい世界は、今以上に「来る」と考えているそうです。

とはいえ、ミラティブの現状のサービス基盤はほぼ日本にあります。しかし、「ライブゲーミング」自体はグローバルでも共有することが可能です。高速通信が普及して、あらゆるエンターテイメントがインタラクティブになってきている中で、これまでインタラクティブではなかった視聴体験ももっと快適になっていくことでしょう。

最後に、ファシリテーターを務めたREALITYの荒木氏は「メタバース市場は地域でくくらないことが重要。リアル化アプローチもあればオンライン化のアプローチもあるなど、様々なアプローチがあり、重要なことはそこにエンドユーザーがいること。そしてそのエンドユーザーにニーズに答えられるものを提供することが大事」と語り、セッションを締めくくりました。

高級バッグのニセモノNFTアートや事件も——メタバース時代のルールメイクとは?

PwCコンサルティング合同会社の馬渕邦美氏、アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業の河合健氏、経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課 課長補佐の上田泰成氏、SAKURA 法律事務所 代表弁護士の道下剣志郎氏の4名が登壇したセッションが、「メタバースのルールメイク」です。

メタバースに関するルールメイクは、まだまだ未整備だといわれています。しかし、整備しすぎてしまうと今後登場するイノベーションへの阻害にも繋がるのではないかという懸念もあります。ルールメイク自体には話し会うべき多数のテーマがありますが、その中から今回は経済活動と人権問題というふたつの重要なテーマに絞り、事案を紹介しながらトークが繰り広げられました。


(写真左から、PwCコンサルティング合同会社の馬渕邦美氏、アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業の河合健氏、経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課 課長補佐の上田泰成氏、SAKURA 法律事務所 代表弁護士の道下剣志郎氏)

最初に紹介された事案は「MetaBirkins事件」です。「Birkin(バーキン)」はHERMES(エルメス)の高級バッグですが、それを模倣したデジタル製品の「MetaBirkins」というNFTアートが販売され、数百万円の価格がつけられていました。当然のことながらHERMESは、2022年1月に「MetaBirkins」のクリエイターに対して商標権侵害を理由に、ニューヨーク州連邦裁判所へ提訴を行っています。

こちらの事案を取り上げた理由は、メタバースという空間で人々が今より幅広く経済活動をすることができるようになってくるからです。場所だけあっても人は集まらず、コンテンツが必要です。NFTに限らず、何らかのアートや3Dモデルは一例として挙げられることは多くあります。

さて、この裁判で問題になったのは、こうしたバッグを作りたいという表現の自由についてです。しかし、その一方で当然のことながら既存の著作権も守っていく必要があります。

「メタバースであれば、単に『これ持ってます』と自慢することもできますし、彼女であるアバターにプレゼントして街で使ってもらうことも考えられます。当然のことながら、HERMES側としては自分たちが許諾した物だとは思われたくありません。クリエイター側から見ると、違う毛皮を被せているなど自分の表現活動をやっていることなので、それをどう折り合いを付けるのかがテーマです」と河合氏は語ります。

また商標は国ごとに取得するものであるため、一部でしか取っていない場合、国境を越えてアクセスできるメタバース、ひいてはWebの場合はそれがどこに属するのかという問題もあります。それについて上田氏は、経済産業省でも令和2年度にビジネス事業者がメタバース空間に参入する際、どんな法的リスクがあるのか洗い出したものがあると紹介しました。経済産業省自体にも問い合わせが多くなってきており、中には中学生から直接上田氏あてに「夏休みの自由研究でメタバースを扱いたいので教えてください」といったものまであったそうです。「メタバース空間上で経済活動を創出していくために、商法的な観点から保護するということが主流となっています。事業者も自社の商標を確認して、保護対象範囲を拡充していくことが必要」と上田氏は語ります。

必ずしも法律だけですべてが決定できる範疇ではなくなってきているものの、日本は判例法で立法事実が積み重なっていきます。それに伴い、法律も整備されていきます。そのため、日本のルール上ではいきなり法律を整備するのは難しいところがあるのです。メタバースは市場として曖昧な状況にあるため、あえて法律で管理せずに市場の原理に任せることもひとつの手です。
 
ちなみにこちらで取り上げた「MetaBirkins」の裁判は、2022年1月に提訴して5月には結果が出ています。日本の裁判よりかなり早く判決が出た印象ですが、道下氏は「NFTというコンテンツがないとメタバース空間は活況になっていかないという部分を考慮して、今回の判決ではNFTは商品性があるというところが述べられていたのは大きな成果だった」と感想を述べました。

ふたつ目の事案として紹介されたのが、「メタバース上での痴漢事件」です。Metaが提供しているプラットフォームの「Horizon Worlds」では、様々な人たちと会議や会話ができたりダーツを一緒に楽しんだりといったことができます。そうした中で、ひとりの女性アバターに、複数の男性アバターがつきまとう事件が発生します。あくまでもバーチャル空間でのできごとであるため、実際に触られたような感触はなかったものの、これまでのゲームとはまったく異なる感覚で恐怖を覚えたとのこと。Metaも、ユーザーが危険を感じたときは誰も近づけないようにする「Safe Zone」という機能を用意していましたが、そのユーザーはとっさに使うことはできませんでした。メタバースでは通常のオンラインゲームよりも没入感が高いため、これまで問題にならなかったような人権問題も出てきているのです。

この事案に対して、現実の法案を適用するのは無理だと語る河合氏。そのため、プラットフォームの中のルールに沿って退会などの処置が取られていくことになります。しかし、性犯罪に近いものは、国の規制で守るべきものでもあります。しかし、メタバースでは国境もないため、日本の法律を適用するのも難しい状況です。そのため、まずはプラットフォーマーとして業界標準のルールを作っていく必要があるのです。
 
日本のゲーム業界が提供しているメタバースならば、世界にリーチもしやすい状況にあります。公序良俗に関する部分については、日本が率先してルールメイクを世界に向けて発信していくことで広めていくことができるかもしれません。ルールは先に出して広まった方が勝ちという部分もあるので、こうした問題に取り組んでいきたいと河合氏は語ります。

最後に、登壇者それぞれから今後ルールメイクでやっていきたいことについて紹介が行われました。道下氏は、ルールというものを作るためには現実世界で何が起きているのか、しっかりと観察する必要があると語ります。インターネットが登場する以前にプロパイダー規制法はありませんでした。Web3時代を担うツールのメタバースが出てきたので、どんなことが世界で起きているのか実証をしっかり追っていきたいと抱負を述べました。

上田氏が目指すのは、業界団体の統一です。現在はメタバース関連の団体が乱立していますが、これは産業の黎明期によくある話でもあります。メタバースの場合は、業種を横断するようなツールでもあるため、それぞれに目的を持って活動をする団体が出てきます。その反面、どこと連絡を取ればいいのかわからないということも出てきます。そのため、この分野を日本全体で進めていくには団体の統一や、ある程度求心力を持ったところが活動していくことが重要になってくるのです。

Metaverse Japanの中でも、ルールメイキングのワーキングをやっていく予定だと語る河合氏。そこで重要なのは、様々な経済活動や生活をしていく中で、一定の権利保護が行われ安心して商取引ができるようにしたいと考えているそうです。ただし、あまりにも安心と安全を強調しすぎてしまうとダイナミズムが失われてしまいます。権利保護とダイナミズムがうまくマッチすることで、ルールメイクをしていきたいと語りました。まだまだメタバースのルールメイクについては議論の余地がありそうですが、今後も注目していきたい話題のひとつといえます。

メタバースのプラットフォーム作りは神になることとどう違うのか? 「メタバースにおけるテクノロジー変革2030」

東京大学 生産技術研究所特任教授で建築家の豊田啓介氏とクラスター 代表取締役 CEOの加藤直人氏、スクウェア・エニックス AI部 ジェネラル・マネージャーの三宅陽一郎氏、ハコスコ 代表取締役CSOの藤井直敬氏の4人が登壇して行われたセッションが「メタバースにおけるテクノロジー変革2030」です。


(写真左から、東京大学 生産技術研究所特任教授の豊田啓介氏、クラスター 代表取締役 CEOの加藤直人氏、スクウェア・エニックス AI部 ジェネラル・マネージャーの三宅陽一郎氏、ハコスコ 代表取締役CSOの藤井直敬氏)

今回は、VRに近い領域にあるメタバースのプラットフォームを作る側にかかわっているメンバーが多いということで、「神になるのとどう違うのか?」と質問を投げかけた豊田氏。それに対して、ユーザー側と作る側の視点があるとクラスターの加藤氏は答えます。ユーザー側の視点では、メタバースという言葉がキラキラしており期待値が高すぎるところだといいます。その期待値には、全能感であったり自分が欲しい世界が作れたり欲しい姿になれるといったものが含まれています。

その一方で、リアルな物理世界はかなり良くできており、とんでもない計算量に該当します。しかし、「cluster」は、極めて古典力学的かつシンプルな物理法則で動いています。そこに対して、ひとりひとり違うものにできないか考えていると加藤氏は語ります。そこまで実現できたときに、初めて神になることができると考えているそうです。

メタバースで神になれるのは、どちらかというと作り手側だと答えるスクウェア・エニックスの三宅氏。メタバース空間で一番予測することが難しいのがユーザーです。仮想物理空間ではあるものの予測不能な多人数により予測不能なことが起こります。そして、それこそがメタバースの面白さでもあるのです。

ゲームとメタバースの違いという視点では、ゲームの世界には物語があり、ユーザーには役割が与えられています。しかしメタバースにはそうしたものはなく、ただの箱の中に匿名の人間として存在しているだけです。それではメタバースにはなにがあるのかというと、経済と社会です。そこが新しいところでもあるのです。

一方、「神様ってなんだっけ? というところから考えなければならない」と答えるのはハコスコの藤井氏です。ひとりひとりに違う世界を作ることが大切だと考えており、人の外側から見ている視点では世界が作れないと考えているそうです。自分たちの世界は内側からしか見ることができません。世界は内側から出来ているので、外側から設計された世界では人の本質には到達することができないのです。そのため、人の中にうまく入り込むシステム設計や、プラットフォームを作りたいと述べます。

「cluster」では、大胆そぎ落としている部分とそぎ落としていない部分がありますが、加藤氏が引きこもっていたときに作りたいと思っていたのは「人が集まっている感じ」でした。そのトレードオフで、様々なものをそぎ落としていった結果、現在の「cluster」が出来上がっているのです。

また、加藤氏は続けて「メタバースは贅沢な技術」だと言います。メタバースで行われていることは、人と繋がったり人の存在を感じたりという程度に過ぎません。引きこもって脳内で思考だけしていれば幸せという感じには、人はなりません。そこで他者が欲しい、繋がりが欲しいというときに利用する技術としてメタバースが使われる側面があるのです。
 
「cluster」自体も、ユーザーはおしゃべりを楽しんでいるだけといった使われ方をしていることがほとんどです。深夜にファミレスに集まり「ダベって」いるような使い方をされており、贅沢なテクノロジーの使われ方がされています。

そこで得られるのは、ある種の無駄であり贅沢です。そこにどんな贅沢やどんな無駄を足していくのか。eコマースならば、カタログがあり最安値の商品が見られれば済むようなことでも、メタバースの場合はわざわざショップを作ってウインドウショッピングするような仕組みになっています。そこにあるのが贅沢だと加藤氏は力説。

一方、無意識で得られるのは、空間と身体だと語る三宅氏。オンライン会議がある種しんどく感じるのは、人と人の間に空間がないことが理由です。リアルな世界では、近くの人に近づいていくことができますが、これは空間がそこにあるからです。遠ざかることができる、隠れる、視点をそらすといったものは無意識的な行為で、その無意識の自由度がオンライン会議では失われているのです。

 現実世界で人と一緒に歩く機会は度々ありますが、実はこれはかなり大変なことなのです。相手の歩調に合わせたり、相手のスピードを予測したりする必要があるからです。そのため、メタバース上で歩調をあわせて歩くのは、かなり難しい作業になります。

この歩調をあわせるというのは、相手のことを思いやることでもあります。それを情報空間でクリックするだけで実現できるかというと、そうではありません。相手が歩調をあわせて歩いてくるという、そこはかとない優しさが身体と空間の良さでもあるのです。

メタバースなどのバーチャル世界では、ありとあらゆるトランザクションがデジタルプラットフォームを介して行われます。記述もされており、記録も可能です。それをベースに、これまで取得することができなかったトランザクションデータが蓄積されます。そこで、まったく異なる学習や評価量が生まれる可能性があります。それがバーチャル世界から実世界に展開されると、かなりの転換期にもなります。そこがメタバースの大きな価値だと語る豊田氏。

それに対して三宅氏は、昔オンラインゲームをプレイしていたときの話題として、初めて会ったプレイヤーだと思っていたら近くにいたことがログを確認してわかったという出来事を披露。これはゲームの世界ですが、現実世界で初めて会った人に挨拶したときに、ログを確認したら同じメタバース空間にいたことがわかったということがありうるのではないかと語ります。

つまり、これは記憶や社会的な関係性の外部化で、自分が覚えていないことでも認めて委ねるという世界でもあります。当然のことながら、それが苦手に感じる人と幸せに感じる人が出てきますが、加藤氏の場合は、それは幸せなことだといいます。

資本主義の中でプラットフォームを運営していると、メタバースの世界で分断は避けられません。自分とウマが合う人とマッチングして欲しかったり、自分の興味範囲にあった人たちと集まった方が楽しかったりするからです。そうなってくると、プラットフォーマー側はどんどんアルゴリズムの分断をしていくほうを選ばざるをえません。

 単純に気持ちよさだけを掛けていくと、分断されたメタバースが作られていきます。それを選ばない場合は、何が幸せなのかといった哲学が必要になってくると加藤氏はいいます。

今は、自分が見ている物が本物かどうか分からないというテクノロジーが当たり前になってきています。そうした中で、「自分にとっての現実は何かについては答えがない」と藤井氏は語ります。プラットフォーマーとしては豊かさを提供することが大事です。現実世界での豊かさは物理的なものばかりでした。いずれもお金や資源など上限があるもので、全員に均等に渡すことができません。しかし、テクノロジーが作るリソースは、安価でアンリミテッドです。

たとえば社会的な幸せや関係性を作るということならば、Botをたくさん作る、というのもひとつのソリューションです。テクノロジーが人に貢献できるようにするために、豊かさをどうやって作っていくか、人にとっての幸せは何を提供すればいいのかというところが、一番考えなければいけないところなのです。そこで、「豊かさとはなんだろうか?」というところをもう一度定義していくことで、こうしたものに対しての答えが出てくるのではないかと、藤井氏は語ります。

メタバースのように情報が拡散したものが自由に選べる世界が常識になってきたなかで、自分自身の考え方や社会性はどう変わっていくのでしょうか? 加藤氏はその問いに対して、「究極のメタバースは脳」だと答えます。現実世界が目の前にあるように感じているのも、結局のところはそれを解釈しているのは人の脳です。そのため、究極のメタバースは「脳をすべて繋いだもの」ではないか、と加藤氏。

ある意味メタバースは、我々の現実感を変容させたものであるため、変化してもいいのではないかと三宅氏は答えます。アニメの「エヴァンゲリオン」のラストは、ATフィールドがなくなりみんな溶けてしまいますが、それをメタバースで実現して、1週間で崩壊してまた新たな世界が始まるという体験も実現するといったことが可能です。ただの箱ではあるものの、そこにドラマや変化を入れて新しいソーシャル体験ができるのではないか——と考えているとのこと。

藤井氏は、メタバースが持つ一番の特徴は「再現性」だといいます。現実での出来事は1度しか起きません。それは人々の日常を規定していますが、メタバースでは繰り返し起こすことができます。これまで常識だった日常の考え方や行動の制限がなくなった時点で、人は大きく変わる可能性があります。少なくとも「一回性」という制限はなくなりつつあります。そこで人の意識は変わり、変わった後の未来のメタバースや未来の社会性はどうなっていくのか、面白いきっかけになるのではないかと考えているそうです。
 
豊田氏は最後に、「今回のセッションではビジネス寄りの話題ではありませんでしたが、一度外に出ていろんな形で見ることで形やアプローチの仕方が見えてきます」と語り、本セッションを締めくくりました。

今回は一部のセッションのみをピックアップしましたが、当日はさらなる深い話題も多数行われていました。今後、メタバースがどのような進化や発展を遂げていくかについても、引き続き見守っていきたいところです。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード