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開発 2025.01.17

ARグラス用ガラス、磁気粘性流体による新触感、カメラ単体での視線追跡——日本から世界に打って出る要素技術

2025年の年明け早々開催されたCES2025ではXR関連の様々な展示があった。

もともとは消費者向けの家電がテーマだった同イベントも近年では電子機器の総合展示会となり、商談を目的とした産業向けのデバイスや機器の要素技術も数多く展示されていた。

今回はそんなCES2025の展示で日本から要素技術を展開していた3社を紹介しよう。

ARグラス向けにガラスを作り続けているAGC

ガラスメーカーのAGCは、CES2025ではモビリティ関連のエリアに出展。自動車向けそして半導体向けのガラス素材を推して展示していたが、そこにXRデバイス、特にARグラス向けのガラス樹脂が展示されていた。


(左の丸い円盤のようなものが展示されていたARグラス向けのガラス基板「M100/200 シリーズ」)

AGCは2019年にARグラス向けガラスの研究開発が進み、量産化が可能になったことを発表。以降、ハードウェアメーカーに提供しながら、改良を進めてきた。

ARグラス向けのガラスは他用途のガラスに比べて広い視野角を実現するために高い屈折率と表示を鮮明にするための透過度が求められる、という。さらにコンシューマー向けのARグラスになると、小型軽量なデバイスを実現するために、薄さや軽量化の要求が強くなる。

AGCは、こうしたARグラスに特化したリクエストに応えるために、高屈折率、高透過率といった特長の基板を作ったとのこと。


(屈折率が高いと視野角が広がることの図示。AGC公式サイトより)

AGCの事業開拓部でXRガラスプロジェクトリーダーを務めている平瀬英成氏によれば、「エンタープライズ向けも、最近はコンシューマー向けも、爆発的ではないが需要が増えつつある」とのこと。最終製品が分からないことも多いようだが、市場が成長しつつあることを感じているようだ。

また、メーカーからのさらなる屈折率の高さ、透過度の高さなど性能面のリクエストは飽きることなく続いているため、メーカーからのフィードバックをもらいながら、さらなる研究開発を進めていくそうだ。理想のARグラスを目指した動きの中でもガラスは大事な役割を果たしている。

(参考)AGC AR/MRグラス向け高屈折率ガラス基板

新素材で実現する新次元の触覚表現

大阪に本社を置き、インフラ・工場などに向けた資材を製造している株式会社栗本鐵工所が展示していたのは、新たな触覚を実現する「SoftMRF」という独自素材。SoftMRFは、同社の開発したナノ粒子を用いた磁気粘性流体の名称だ。

磁気粘性流体は磁気を通すことで液体から固体まで硬さが変わる物質のこと。栗本鐵工所のブースでは、SoftMRFをシャーレに入れて、実際に磁場で液体から固体まで変化するところを実演していた。


(SoftMRF、磁場の発生装置に近づけると固体になる。もう少し離すと本当にドロドロな液体状になっており、まるでスパイダーマンの宿敵「ヴェノム」の生命体「シンビオート」のように黒い可変な物体だ。)

このSoftMRFを組み込んだ小さなモジュールを組み込むことで、いわゆる振動由来のハプティクスを生じさせ、触覚を再現するのだが、既存のVRデバイスのコントローラーで感じる「何段階かの振動による擬似的な触覚」と異なり、生々しい感覚になる。「硬さ」や「引きつる感覚」は1つのデバイスではあまり体験したことがない。筆者が体験したところでは、ボタンを押す硬さを調節するPlayStation 5のアダプティブトリガーが近いだろうか。ただし、アダプティブトリガーはモーターによって制御しており、逆に硬さしか表現できないため、表現力はSoftMRFのほうが多様だ。

ただし、このSoftMRFは、適切なデバイスの設計を行って組み込まないと触覚デバイスとして完成しない。グローブ型のデバイスに組み込むとしたら、指の動きを再現する技術やコンテンツの中で触った感触が視覚情報とも一致しなければならない。CES2025でのデモはグローブは、ソフトウェアも自社製とのことで、かなり荒削りだった。今後良いパートナーが見つかって、最終製品に組み込まれていくことに期待したい。

なお、SoftMRFは、過去にはバンダイナムコアミューズメントが展開していた施設型VRで展開していた釣りゲームのコントローラーにも採用され、魚がかかったときの感触を再現するために使われていたこともあるという。

参考)栗本鐵工所 SoftMRF公式サイト開発担当インタビュー

画像ベースで視線トラッキングと表情トラッキング

こちらも大阪に本社をおく日新電機工作株式会社は、スマートフォンやPCなどのカメラで視線追跡(アイトラッキング)ができるSDK「Messay Development Kit」を展示。特殊なデバイスを使わず、カメラの画像認識で視線追跡と表情の認識を行う。

いわゆる眼球の動きに加えて、瞬きや顔の向きを認識、難しい操作を覚えることなく顔を自分のコントローラーにすることができる。


(目の動きでカーソルを移動して、瞬きをすると「タップ」。目を閉じて顔を左右に動かすといわゆる「スワイプ」になる)

受配電設備の販売、設計·製作などを行っている日新電機工作の本業とは全く異なる新規事業だが、もともときっかけとなったのはALSや筋ジストロフィーなど四肢の自由が効かなくなった人たち向けに視線で会話する「Messay」、スマホを操作できるようにするアプリ「mezic」などをリリースしたことがきっかけ。この技術をさらに広く使えるようにするためにSDKを展開しているようだ。

ただ精度を追求するのではなく、特別なデバイス抜きで簡単な操作とインターフェースを実現するか、いわゆるUX(ユーザー体験)を高めている点が特長的だ。

(参考)日新電機工作 Messay公式サイト


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