KDDIが3月7日に新サービス「αU」を発表しました。カヤック、クラスターなども登壇したメディア向け発表会・デモンストレーションの模様を、ベテランガジェットライターの武者良太氏がレポートします。
メタバース、NFT、Web3.0、デジタルツイン、暗号通貨、ブロックチェーン、クラウドレンダリング、相互接続など、IT業界の流行語が目白押しの「もう、ひとつの世界。」とは――?
3月7日、KDDIが新たなメタバース・Web3サービス「αU」(読み:アルファユー)を発表しました。キャッチコピーは「もう、ひとつの世界。」。メタバースはリアルから見た「もうひとつの世界」ではなく、「ひとつの世界」に融合するという期待が込められています。
いままでKDDIは、メタバースプラットフォーム「cluster」を用いて「バーチャル渋谷 au 5G」や「バーチャル大阪」といった都市空間を再現してきましたが、独自に新しいプラットフォームをはじめます。次のようなアプリ・サービスの総合ブランドです。
・αU metaverse:アバターでボイスチャットできる3D空間
・αU live:音楽ライブ空間(全方位視点)
・αU market:デジタルアートショップ(NFTアートを含む)
・αU wallet:暗号資産管理ツール
・αU place:リアルアイテムも買えるバーチャルショップ
高橋社長「5G時代はWeb3.0への転機となる」
発表会に登壇したKDDI代表取締役社長の高橋誠氏は、デジタルネイティブ世代が(もう、ひとつの世界を)「自由に行き来している」として、コンシューマー向けデジタルビジネスで「リアルとバーチャルの線引きはもう必要ないのでは」と語ります。
デジタルネイティブ世代は「友人同士で位置情報を共有しあったり、離れた場所に居ても音声通話アプリなどで繋ぎっぱなしにしている(リモート同棲)」と。
技術面では、クラウドレンダリングに「Immerive Stream for XR」(Google Cloud)を採用。デバイスのスペックに依存しないAR/VR表現を目指します。αUとGoogle Cloudが共創し、技術チームレベルで開発を進めるとのこと。
コンテンツ面でも「ひとつの世界」を目指します。バーチャルアーティストがYoutubeで活躍する機会の創出、ANNIN(*1)による次世代型アーティストの創出、そしてWPPグループ(*2)との戦略パートナーシップによるグローバル展開を行います。
*1:アソビシステム、Activ8、KDDIの3社による合弁会社。
*2:世界最大の広告代理店グループ。
他社プラットフォームとも連携する「オープンメタバース」を
KDDI事業創造本部副本部長の中馬和彦氏は、「clusterやREALITYといった日本発の複数のプラットフォームと相互接続し、自由に横断できる『オープンメタバース』を目指す」と語りました。
αU metaverseの総合プロデューサーは、面白法人カヤック天野清之氏が務めます。「傷物語VR」やVRイベント「ソードアート・オンライン Synthesis -The Period of Alicization Project-」を手掛けた方です。
最初期のαU metaverseが一般公開された頃から携わり、ボイスチャットの強化、3D空間を活かしたUI/UX設計、アバターのコンフィグレート機能やマイルーム機能の実装に注力したとのことです。
今後も「ブロックチェーン技術によるバーチャルアイテムのセキュアで自由な販売・購入・管理、多人数のアバター描写やライブのための技術開発、そして外部アプリ・サービス連携によるUGC制作サポート」を図ると語りました。
「オールジャパン」で日本の一大産業を
「αU」と歩調を合わせるプラットフォームの代表として、クラスターCEOの加藤直人氏も登壇。普段から様々なメディアを通じて「メタバースが日本のIT産業の最後の砦」だと発言している加藤氏は、「日本のカルチャーは世界で大きな経済効果をもたらしており、デジタル、ひいてはメタバースとの相性が抜群」と説明します。
そして、多くの企業と連携しながら「コンテンツ×メタバースによるエコシステムを日本の一大産業として築き上げたい」と語りました。これを受けてKDDIの中馬氏も「オールジャパンでやりたい」と発言。「メタバース業界は対立構図で語られがちだけれども、どの企業に属する人もメタバースを追いかけてきたメンバーで、実は仲が良い」と述べました。
aU live:ボリュメトリックビデオやフォトグラメトリの技術を活用
発表会の終了後、デモンストレーションコーナーでαU liveとαU placeを体験してみました。αU metaverseも自分のスマートフォンにインストールして体験してみました。
まずαU live。バーチャルシンガー花譜氏の3Dライブが見られる展示でした。ブース中央にはキャラクター召喚装置「Gatebox」(*3)が飾られて、「対応しているの!?」と感情が沸き立ちましたが、あくまでイメージとのこと。ブラウザベースのサービスで、多くのデバイスに対応予定だそうです。
*3:Gatebox株式会社が開発・販売するリアプロジェクション投影装置。
視点移動は自由です。大きく映し出された歌手の周囲を回って、好きな角度から見られます。ただし、ステージの袖や、熱狂するファンの背後から見るといったことはできない様子。
ボリュメトリックビデオを用いて、バーチャルシンガー、VTuberだけではなく、フォトリアルなライブコンテンツも展開するようです。サーバー側の問題か通信環境によるものか、視点を動かすと低ビットレートな映像になったことが気になります。「Immerive Stream for XR」を用いて、リッチコンテンツを高解像かつ快適に楽しむ条件が知りたいところ。
αU metaverse:実店舗スタッフから実物を見せてもらうことも
αU placeは、アバターを操作しながらリアルアイテムを購入できるサービスです。フォトグラメトリ技術を用いたバーチャルショップは現実の渋谷と同じ街並み、同じ店内、同じ商品で、実店舗のスタッフさんがログインしており、近づいて話しかけられます。
(「実物を見せて」とお願いすると、カメラ映像でディティールまで見せてくれます)
会話システムは1on1専用で、スタッフさんが他のお客さんと話しているときは割り込めません。これは現場に則した仕様であって好印象。ただし、実店舗の接客スタッフがバーチャルショップの接客も担当するとなると、どちらの世界でもお客側の待ち時間が生じやすいかもしれません。バーチャルショップの専任スタッフを起用する必要がありそうです。
αU metaverse:アイテム充実に期待も、安全に配慮された空間
αU metaverseは最初にアバター作成から始まります。現段階では選べる種類が限定的で、アバター作りを楽しむ感覚はまだ得られませんでした。
スタート地点となる「マイルーム」画面。左上に現在地、右上に電子マネーの残高、左下に移動コントローラ、右下にカメラ/モーション/メニューアイコンが並びます。
「ショップ」メニューではTシャツ(10eL:160円)、トップスからシューズまでのコーディネート(40eL:640円)、数量/期間限定のNFTシューズ(150eL:2400円)などが販売中でした。
メニュー画面から「移動する」を選択すると、「αU」用に作られたバーチャル渋谷とバーチャル大阪、そして様々なアート作品が見られるワールドコンテンツが選べます。
ちなみに、バーチャル渋谷の容量は850MB。アートワールドは2GB弱で、屋外で通信していると、この先に進むか少し躊躇しますね。発表会では低料金スマホプラン「povo」の新トッピング「SNSデータ使い放題(7日間)」のほか、「今後はαUユーザー向けのトッピングも考えている」と説明されました。早期展開に期待です。
バーチャル渋谷、バーチャル大阪に入ると、街を行き交うNPCアバターやスタッフアバター、他のユーザーのアバターが見えます。深夜にアクセスしたらスタッフアバターの姿が見えなかったので、彼らとコミュニケーションできるのは日中だけかもしれません。
移動できるのは基本的に歩道のみ。車道に出ようとすると縁石上の照明が赤く点灯して、それ以上は進めません。安全性が高く、管理された空間であると感じさせます。
無料で使えるアイテムはまだ少なく、常にマネーの残高が画面に表示されるなど、有料アイテムの購買につなげる狙いがあるにしても、やや居心地が悪いと感じたのは事実。とはいえ、フレームレートが高く、描写はなめらか。移動もスムースです。スマートフォンでアクセスするコミュニケーションアプリとしてよく練られたUIで、その点は見事と言うしかありません。
若い世代をターゲットとしたと思われるαU。日本を代表するサービスとなりえるでしょうか。今後の展開に期待しましょう。