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業界動向 2022.04.21

Metaのコンテンツ担当が語るVR市場の現在とメタバースへの道、そして日本へのメッセージ

Metaは、日本時間4月21日午前2時より「Meta Quest Gaming Showcase」を実施。「ゴーストバスターズVR」、「Among Us VR」を始めとする注目の新作VRゲームの情報を一気に公開した。
一体型VRヘッドセットMeta Quest 2の好調な売上とともにコンテンツ拡充も続けるMeta。発表に先立ち、Mogura VRではMetaでMetaverse Contents VPを務めるジェイソン・ルービン(Jason Rubin)氏にインタビュー。現在のVRゲーム市場の状況やメタバースとの関係について訊いた。


ジェイソン・ルービン/Jason Rubin
ジェイソン・ルービンは35年以上にわたり、ビデオゲームやエンターテインメント分野で永続的なフランチャイズを創出し、また新しいメディアビジネスの立ち上げに貢献。1984年にNaughty Dogを設立し、「クラッシュ・バンディクー」「ジャック×ダクスター」シリーズを共同制作、後にNaughty DogをSony Computer Entertainmentに売却。また、THQ Interactiveの社長も務め、メディアスタートアップを共同設立し、Fox Interactive/MySpaceに売却した。
ジェイソンは2014年にOculusのスタジオ責任者としてFacebookに入社し、Oculusヘッドセットに最初のVRコンテンツをもたらしたチームを率いた。その後、Facebook Play担当VPに就任し、クラウドゲームを含むFacebook Playプラットフォームのすべてのイニシアチブに取り組んでいる。現在は、Reality Labsチームのファーストパーティスタジオ、ゲーム開発、体験、パブリッシングなど、MetaのMetaverse Contentをリードしている。

いまのVRゲーム市場を概観する

——現在のVRゲーム市場は、地域によって違いがあるのでしょうか。

ジェイソン・ルービン氏(以下、ルービン):

私たちのプラットフォームには多様なタイトルが揃っています。北米ではFPSが人気ですが、同時にシューティング以外の「Beat Saber」のようなゲームも北米で人気があります。そして「Beat Saber」は、世界中で非常によく売れている、とても人気のタイトルです。

特定のマーケットでより良い結果を出すタイトルもあります。例えば、「バイオハザード4 VR」は、日本市場とも親和性が高く、非常によく売れています。VR市場は非常に好調で、規模も大きくなってきましたが、コンソールゲームや他の優れた製品に比べればまだ初期の段階です。またVRゲームではコアなユーザー層の比率が高いですが、彼らは地域を問わず同じようなコンテンツを好みますね。

——年齢層や地域、平均普及時間など、Questユーザーの特徴的なデータで話していただけるものはありますか?

ルービン:

ここで特に強調して共有できる数値はありません。ただ、私たちがストアを立ち上げたときと比べて、ユーザーはどんどん多様化しています。例えば、「FitXR」や「Supernatural」などのフィットネス用アプリでは、利用者の年齢層は高く、女性が多い傾向があります。

——「FitXR」や「Supernatural」のようなアプリはコアユーザー向けではないという位置づけなのでしょうか?

ルービン:

もちろんコアユーザーもこうしたフィットネスアプリを使っていると思います——特に体重を減らしたい人は。ただ、「Supernatural」は、ウォーキングマシンで体重を減らしたい人、家にある程度のスペースがあってワークアウトをゲーム感覚でしたい人という、特定のユーザー層をターゲットにしていました。しかし蓋を開けてみると、多くの人が「Supernatural」で減量に取り組んでいるようです。

今後、VRはもっと多くの市場のいろいろなユーザー層を引き込んでいくことができると思います。たとえば、料理とか旅行などは全く異なるユーザー層ですね。

——プラットフォームを運営していく中ではどういった数値を重視しているのでしょうか? DAU、MAUや平均プレイ時間など、様々な指標があるとは思いますが。

ルービン:

具体的に答えることはできません。ただ言えることは、私たちがリリースするものには様々な目標があり、様々な側面からあらゆる数値を見ています。例えば米国でスーパーボウルが開催されたとき、「Venues」にあるVR会場でフー・ファイターズの無料ライブを実施しました。この取り組みは一度に集まる人数こそ見ていたとしても、明らかに収益を求めたものではありませんよね。

一方プラットフォームとしては、マネタイズがとても重要だと考えています。ゆえに「どれだけの開発者が、どれくらいマネタイズできているか」は定期的に発表しています。開発者の成功が重要です。私たちは、ソフトウェアの販売で10億ドル以上の収益を上げたことや、2,000万ドル以上を売り上げたタイトルが8本あることをたいへん誇りに思っています。

6年間で、VR市場もVRのゲームデザインも大きく変わった

——2016年のOculus Rift発売から6年が経ちましたが、市場にはどんな変化がありましたか?

ルービン:

ゲームは大規模になり、より複雑になりました。ユーザーも多くなりました。ジャンルは様々なものが登場しました。そのため、開発者はよりマネタイズが可能になり、さらに大規模なタイトルを作ることができるようになったと思います。

6年前、「Beat Saber」はありませんでした。「Beat Saber」は、VRゲームの新しいジャンルを切り拓きました。その後「Pistol Whip」、「Supernatural」、「Fit XR」など様々なタイトルが生まれました。現在は北米だけの展開ですが、「Supernatural」はワークアウトアプリで、「Beat Saber」の系譜を受け継いでいます。6年前は私たちが想像もしなかったようなジャンルが生まれ大成功を収めています。

新しいジャンルが登場していますが、まだあまり開拓されてこなかったジャンルもあります。例えば、街づくりゲームは今年「Cities VR」のように新しいタイトルがいくつか発売されます。VRゲーム市場はどんどん拡大しています。市場が大きくなればなるほど、より多くの新しいジャンルが登場することでしょう。

——VRゲームのゲームデザインには、この6年間でどのような変化があったのでしょうか?

ルービン:

VRにおける様々なデザインが標準的になりました。私たちは、それが可能だとは夢にも思っていませんでした。たとえば移動に関しても、2014年にはコントローラーを使って疑似的に移動する以外の方法があるなんて思ってもいませんでした。Riftの初期を思い出してください。コントローラーを持って座ったまま「動かないで!」と。そして空間にある壁などを掴んで動いていく「Echo VR」が登場しました。空間に引き込まれ、お腹が痛くなってもおかしくない、酔いやすそうな移動方法のはずなのに、思いのほか気分が悪くならなかったのです。

今や、身体を動かしながらの移動はより普通になりつつあります。スナップターン(※1)もスタンダードになっています。スムースターン(※2)よりずっと快適です。

(※1 コントローラーのスティックを倒すたびに数十度の角度で視点を切り替える方法)
(※2 コントローラーのスティックを倒しただけ視点が連動して動く方法)

スティックを倒した方向に動くのではなく、ユーザーがまさに見ている方向に進む形式が一般的になり、より快適にVRで過ごせるようになりました。「Beat Saber」のように、全く動かずとても快適にプレイできるゲームも登場しました。色々なタイプの人に向けたゲームが生まれたんです。

——この6年間は、言わば快適さの実現に取り組んできたということですね。

ルービン:

他にも、VRで何かに手で触れたとき、どのようなインタラクションを実装するのか、多くのチャレンジがありました。そのすべてのチャレンジに対応できるようになってきています。その結果としてゲームの質がさらに上がってきています。

——2022年3月のGDCで、Questストアで100万ドル以上を売り上げたアプリが124、そして2,000万ドル以上稼いでいるアプリが8つあるとのことなど、ストアで売上が好調なアプリの数が更新されました。この数字は期待通りでしょうか?

ルービン:

個人的には、とても満足しています。2016年のことを思い出してください。人々は「VRゲームを作って成功するわけがない」と言っていました。しかし2022年の今、開発者は大きく成功しています。

今回続編が発表された「The Walking Dead: Saints & Sinners」は、世界中で知られている作品がテーマで、特に北米では大人気の作品です。この作品は6,000万ドル以上を売り上げたと発表されました。VRでは平均的にタイトル数が少ないので、他のプラットフォームほどは競争が激しくありません。私たちはQuestプラットフォームで10億ドル以上のソフトウェアを販売したと発表しましたが、このプラットフォームにはまだ400程度のタイトルしかありません。その中で10億ドルを達成したのです。

VRゲームはまだ平均的には小規模です。そして、小規模な開発者にとっては100万ドルの売上が非常に有益な数値となっています。Questプラットフォームは順調に拡大しています。毎年ホリデーシーズンになると上昇サイクルに入りますし、今後も拡大していくでしょう。

——開発規模の話がありましたが、6年間で開発チームの規模はより大きくなったのではないでしょうか? より多くの予算とチームが必要になっているような印象があります。

ルービン:

開発者によって戦略が異なります。実験的にユニークな小さなタイトルを選ぶ開発者もいますよね。「Beat Saber」はたった3人のチームでした。彼らは非常にユニークなタイトルを選び、それが今では多くの人を抱えるチームに拡大しました。

もし大規模なチームによるプロジェクトならば、それはコストがかかった“高価なもの”になります。大規模でより開発に深みが求められ、グラフィックも優れているので、ストアでも目立つタイトルとなります。「The Walking Dead: Saints & Sinners」は大規模なタイトルの例と言えるでしょう。小規模なタイトルと比較してより大きな投資を行い、より大きなリターンを求めたと言えます。

これについては本当に開発会社やチーム次第です。小規模なチームと大規模なチーム、どちらにもチャンスがあることは健全なことです。もし私が小さな開発チームを有しているとしたら、大規模なタイトルを作るために人を雇うのは大変なので、小規模でスクラップアンドビルドが容易なものにしようと思っていますよ。

もし予算があって「ウォーキング・デッド」のような強力なIPのVRゲームを作るとなったら、人も多く雇い、予算もかけます。「ウォーキング・デッド」ならみんな知ってますから。「あの番組知ってる! VRでやってみたい!」と思ってもらえるような、大規模なものにする必要があります。

——「FitXR」や「Supernatural」のようなアプリは、ターゲットとなるユーザーがプラットフォームに増えてきたから登場したのでしょうか?それともこうしたアプリが増えてきたから、ユーザーの多様化が進んだのでしょうか。

ルービン:

プラットフォームには常に多様なユーザーがいるということはお伝えしておきます。しかし、VRの市場が立ち上がって最初の数年間は、非常に狭いジャンルのソフトウェアしかなかったため、平均すると、より男性が多く、より若い人たちが多くを占めていました。しかし特にフィットネスアプリケーションを含む多様なソフトウェアが登場したことで、さらに多様な人々が利用するようになりました。

そして、特に今年の年末年始から来年の年始は、さらにユーザーが増えるホリデーシーズンになると思っています。私たちは、初期のユーザー構成からどんどん離れていき、最終的にはより社会の縮図に近い構成のユーザーを抱えることになるになると思います。

——先週、Rec Roomのチームが、2021年のホリデーシーズンでVRでアクセスする月間”VR”ユーザー数が300万に達したという大きな数字を発表しました。ホリデーシーズンは、やはり大きなターゲットなのですね。

メタバース=テーマパークであり、一人用のコンテンツも許容される

——いまルービンさんは「メタバースコンテンツ」担当のVPに就いています。そもそも「メタバースコンテンツ」とは何を指すのでしょうか?

ルービン:

私たちは、メタバースが最終的にはテーマパークのようなものになると考えています。 テーマパークに入るとき、おそらく、私たちのソーシャルアプリであるHorizonのようなアプリを通して友達と一緒にメタバースに入るでしょう。そして、やることを色々と決めていくでしょう。その中には、Horizonの中に組み込まれているものもあれば、組み込まれていないものもあると思います。

メタバースのコンテンツには、Horizon内に構築されるコンテンツと、Beat SaberやRec Roomのようにストアに置かれる独立したアプリケーションがあります。これらはすべて、最終的にはテーマパークの一部となります。私の役割は、Horizon向けのコンテンツだけでなく、独立したアプリケーションも含めて、すべてのVRコンテンツを包括的に扱うことです。ほとんどのユーザーは「これがHorizonにあるのか、それともストアにあるのか」なんて気にもしないでしょう。あらゆるコンテンツを非常にスムーズに行ったり来たりすることができる状態が理想です。

——お話によると、メタバースコンテンツというのは「QuestプラットフォームのVRコンテンツすべて」ということですね。一方、現在の多くのVRゲームは一人用が主流です。今後、VRゲームの開発者はマルチプレイを意識すべきなのでしょうか?

ルービン:

今後、VRゲームはよりメタバースとの接続が強くなるでしょう。プラットフォーム自体もどんどんソーシャルになります。友達を見つけるのが簡単になり、より多くの友達がアクセスできるようになると思います。VRコンテンツを体験中にも、友達からスマートフォンで電話がかかってきて話したり、VRを体験している時間がソーシャルになっていくでしょう。今後ますます多くのVRゲームがマルチプレイになり、人々はより多くの時間をマルチプレイに費やすのではないでしょうか。

一方で、私たちの時間のすべてがソーシャルになるとは思っていません。いまインタビューを受けている今日は私にとっては長い1日でした。もう午後6時ですが、今朝は7時に病院の予約をしていましたし、診察のあと約12時間働いていたことになります(笑) こんな疲れた一日は、一人でやりたいことがあって、一人でメタバースに飛び込んでテレビを見たりすることもあるかもしれません。あるいは何かをゆっくり作って落ち着こうとか、ゾンビを撃ちたいから「バイオハザード」をやるとか、そういうこともあるかもしれませんね。

つまりメタバースにおけるすべてのコンテンツが必ずしもマルチプレイである必要はないのです。ゾンビを撃っていたら電話がかかってきて、「友達が一緒に遊びたいって言ってるんだけど、いいかな」と言われるかもしれません。そうしたら「そうだ、一緒にやろう」となるわけです。

ただし、今のわたしたちのプラットフォームでは、一人でゲームをプレイしているときに誰にも話しかけられない状態なので、話しかけることは簡単にしていきます。何か人と関わりたいと思った時にすぐにアクセスできるようになります。総体としては、VRはよりソーシャルになるでしょう。

——確かにテーマパークには一人向けのアトラクションもありますね。

ルービン:

メタバースではすべてのコンテンツが競合しうると思います。例えば、VRで「バイオハザード」をプレイしている時にコンサートの誘いがきたとします。私は「バイオハザード」を続けるよりもそのコンサートに行きたいですし、そうすることが自然にできます。もう一人の友達も誘おうとして何をしているかと思ったら、現実世界でテレビを見ている。その友達にメタバースからコールして、「メタバースでコンサートがあるんだ。一緒に行かないか?」。そしてその友達はスマートフォンでコンサートに参加する……といったように、全てが自然に繋がっていきます。

——体験が自然につながっていく、というのは一つのキーワードですね。「Horizon Worlds」はまだ北米でしか展開されていません。この地域を拡大する計画はあるのでしょうか?日本でのリリースはありますか?

ルービン:

計画はありますが、残念ながらいつかはわかりません。サーバーの問題があり、日本にはまだHorizon Worldsのサーバーがありません。

日本におけるVRゲーム開発を加速させるために

——日本のVRゲーム開発状況について聞かせてください。日本では、VRゲームの開発者の数が欧米ほど勢いよく増えていません。日本でVRゲーム開発を加速させるためのアイデアはありますか?

ルービン:

私たちはまさにこのことをよく話し合っています。私はかつて1996年に「クラッシュ・バンディクー」を開発しました。そのときにわかったことがあります——「日本で売ろう」と思っても、日本ではうまくいきません。日本という市場を本当に理解しなければならないのです。日本は非常にユニークな市場でありつつ、非常に優秀なゲーム開発者が集まっています。

日本のゲーム開発者には2つのタイプ、全世界を対象にした開発者日本向けの非常に特殊なコンテンツを作る開発者がいます。

世界に目を向けている開発者たちは、世界の市場にアクセスし、より多くの人たちがVRヘッドセットを使っていることを知ったら、アイデアを出してより積極的になっていくでしょう。日本の開発者は実際に世界の市場向けにゲームを作り、成功させています。

一方で、私たちはまだ日本に大きく踏み込んで展開できているわけではありません。日本国内向けにゲームを作っている開発者には、まだVRは十分なマーケットがありません。私たちは日本への展開をさらに成功させなければいけないと思っています。日本の開発者には大きなポテンシャルがあります。

——日本での展開を楽しみにしています。それでは最後に、日本のVR開発へのメッセージをお願いします。

ルービン:

開発者の皆さんへのメッセージは 非常にシンプルです。VRの市場は現実にあります。多くの人々がVR向けの開発を学んでおり、いま学んでいる開発者はきっと成功するでしょう。私はかつて、プレイステーションのプラットフォームに賭けたことが成功のきっかけになりました。これからのゲームは3DCGになり、媒体はCD-ROMになると賭けたのです。

当時はほとんどの人が違う意見を持っており、誰もが「ゲームの勝者はカートリッジだ」と言っていました。2Dグラフィックじゃないとキャラクターアクションゲームは作れないと思われていたのです。そして、私のチームであるノーティドッグは3Dに賭け、今もゲームを作る上で非常に重要なスタジオの一つにまで成長しました。

VRはチャンスです。未来に目を向け、未来に賭けなければならない時が来ています。日本ではまだ十分な観客がいないけれど、私たちは実現します。そして、もしあなたが世界に向けてゲームを作ることに興味がある開発者なら、いずれはそこにたどり着けるでしょう。

VRが今後数年で本格的に普及するとしたら、いまは本当に重要なチャンスです。エコシステムはさらに大きくなっていくでしょう。

——今回はありがとうございました。


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