2020年2月以降の新型コロナウイルス流行を受け、国内外を問わず大規模イベントが中止・延期に追い込まれています。こうした状況で注目を集めているのが「イベントのオンライン開催」。勉強会のように1対多での話が主軸となる場合、動画配信といった形での開催が続々と行われているほか、大規模な学会もオンライン開催になる例が出始めています。
1993年に立ち上げられた、VRや3Dユーザーインターフェースを扱う「IEEE VR」(アイトリプルイー・ブイアール)もそうした学会のひとつ。毎年世界の各都市で開催されている国際的なカンファレンスですが、今年は完全なオンライン開催を決定。さらに、VRヘッドセットを持っている人はソーシャルVRサービス「Hubs」経由でバーチャル参加が可能となりました。
(2020年のIEEE VRは、本来3月22日から26日の5日間、米国アトランタで行われる見通しだった)
開催直前での完全オンライン開催に至るまでには、どのような議論が行われたのか。そしてVR開催のねらいとは――。IEEE VRの運営に参画している、奈良先端科学技術大学の清川清教授に訊きました。
遠隔参加の可能性は議論されていた
IEEE VRのチームでは、新型コロナが話題になる前からバーチャル参加についての検討が進めてられていました。さらに昨年のIEEE VR 2019では、「小規模だが、実験的にHubs参加を実施(=併催)していた」とのこと。
2020年の配信体制はどのようになるのか。清川教授はこう語ります。
「HubsのVR環境の中で、講演者の発表をライブ中継するスクリーンを設け、その周りをアバターが動き回る感じですね。同様の映像をTwitchでも中継します。HubsはAWSのサーバーを強化して運営する予定ですが、現状各ルームは音声ありのインタラクションだと25人くらい、見るだけの方を含めても50人くらいしかさばけないようです。なので、同じ発表を見るルームを複数設けて対応することになりそうですね」
様々なソーシャルVRプラットフォームがある中で、Hubsを選択した理由は「VR専用ソリューションではなく、ブラウザさえあれば端末によらず参加できるという点を重視」したとのこと。また、「IEEE VRの大会長のひとりがHubsを提供している団体Mozilla所属という点も大きい」と語りました。
HubsでのVR参加だけでなく、Twitchで配信をすることで通常の視聴環境も整備していることからも、参加者の様々なニーズに最大限配慮した環境を整えています。
参考:IEEE VR 2020への参加方式
サービス |
形態 |
参加方法 |
Hubs |
バーチャル参加(VRヘッドセットあり) |
ブラウザを閲覧可能な各種PCVRヘッドセット、一体型VRヘッドセットでアクセス |
バーチャル参加(VRヘッドセットなし) |
PC、スマートフォンのブラウザからアクセス |
|
Twitch |
ライブ映像視聴 |
PC、スマートフォンのブラウザ or アプリからアクセス |
参加のハードルが下がり、学会・コミュニティの活性化につながるか
オンライン開催の仕組み自体はすでに検討していたこともあり、比較的スムーズに進行。現地開催しないという判断は、「先週(=3月2日の週)一週間で,IEEE (主催学会)、IEEE VR Steering Committee (IEEE VR国際会議の重要な方針を決める運営委員会)、IEEE VR 2020 General Chairs (今年の大会長)がほぼ毎日議論して決定」したとのこと。
特に議論になったのは採算の部分だそうです。もともとIEEE VRは会場を貸し切って開催されているため、会場費などのキャンセル料やオンライン開催費用に見合う収入があるように(=イベントが赤字にならないように)、一般参加者への参加費返金や発表者のオンライン参加費などを決めていった、とのこと。参加者は有料のチケットを購入する方式でしたが、オンライン開催に伴い無料化。発表者は450ドルを支払います。
完全にオンライン開催に移行するにあたっての不安要素を聴いたところ、「発表者からの配信がうまくいかない、配信のパフォーマンスが足りないなどの技術的側面だけでなく、国際会議なので時差(特に昼夜が逆転するアジア)も気になるところ」との答えが返ってきました。国際会議を現地に足を運ばずに開催すると、時差の問題が生じることになります。
しかしこうした不安要素を挙げつつも、清川教授はオンライン開催に「むしろ参加のハードルが下がり、学会・コミュニティの拡大・活性化につながるかもしれない」と大きな期待を寄せています。「子育てしながらとかスキマ時間だけ、などでも参加できますし、服装も化粧も気にしなくてよくなります。部屋のレイアウトを気にせず平等・気軽に質問できるメリットもありそうです」
もちろん現地に足を運ぶことで、様々な交流や「(人に限らない)偶然の出会い」が生まれるなどの価値もあります。そのメリット・デメリットのコントロールについて、清川教授は、「物理的に集まるメリットも当然あるわけですが、たとえば今回ですとニュージーランドやドイツなど、国ごとにローカルに集まって参加しようという動きもあります。オンライン開催とオフライン開催のメリットを両立することも模索していくべきだと思います」と話しました。
完全オンラインとなった国際会議「IEEE VR 2020」は3月22日から開催されます。VR参加を含むオンライン参加の詳細は、公式サイトにて後日公開予定です。
(参考)IEEE VR 2020