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開発 2023.05.15

米国VRゲーム市場は着実に成長、売上100万本超のヒット作も「GDC2023報告会」レポート【前編:業界動向】

日本時間の2023年3月21日から25日にかけて、サンフランシスコで行われた世界最大級のゲーム開発者向けカンファレンス「GDC 2023(Game Developer’s Conference 2023)」。
現地で得られた知見や業界トレンドなどを紹介するオンラインイベント「GDC2023報告会」が、2023年4月4日に開催されました。ライター/編集者の高島おしゃむ氏によるイベントレポートをお届けします。

「業界動向編」にはMyDearest岸上氏とambr西村氏が出演

「GDC」は、1998年から続いているカンファレンスイベントで、ここ数年は2月~3月にかけてサンフランシスコのモスコーンセンターで行われています。毎回膨大な数の講演と展示がされており、場外のネットワーキングも活発です。

多くのXR/メタバース関連コンテンツが、ゲーム開発で培われた技術をもとに作られています。GDCに出展されるゲームは、ほとんどがリアルタイム生成されるインタラクティブな3DCGコンテンツです。

「GDC2023報告会」は、株式会社Moguraが主催する2部構成のイベントです。第1部は業界トレンド編として、業界関係者が現地で見てきた「GDC」をトークセッション形式でレポート。第2部は技術編として、XR/メタバースの関連技術が紹介されました。

第1部のトークセッションでは、MyDearest株式会社(以下:MyDearest) 代表取締役CEOの岸上健人氏と株式会社ambr(以下:ambr)代表取締役CEOの西村拓也氏、Mogura VR編集長の久保田瞬が登壇しました。

コロナ渦が明けてリアルイベントに人が戻ってきた


(写真左から、ambrCEOの西村拓也氏とMyDearest代表取締役CEOの岸上健人氏)

――どんな風に参加しましたか?

岸上健人氏(以下、岸上):VRゲーム開発者として参加しました。滞在予定はネットワーキングに振り切ったので、講演はひとつも見られませんでした。1週間弱かけて、昼間はミーティングをして、夜は開発者や投資家が集まるパーティを毎晩3件くらいハシゴして。Metaとはもちろん、VRゲームのディベロッパーやパブリッシャーとも面会しました。

新興ディベロッパーの人たちともたくさん知り合っています。今のVRゲーム界には、自作をQuest Storeの本ストアにリリースできず、App Labにしかリリースできないディベロッパーが少なくありません。本ストアへVRゲームをリリースしている僕らのようなパブリッシャーにたくさん相談が来ます。

西村拓也氏(以下、西村):弊社は『xambr(クロスアンバー)』というVRの体験を設計・開発する事業を行っています。そのひとつである『東京ゲームショウVR』を海外へアピールするために、ブース出展と登壇の両方を行いました。ブース内にMeta Quest 2を置いて来場者に体験してもらったり、「VRでこんなイベントがあるんだよ」と講演したりしていました。

――出展してみた感想は?

西村:日本で出展するよりも「体験」してもらえる感じはありますね。リアクションもしてくれます。「これ、めっちゃいいね!」とか、「ワーオ!」みたいな。

出展は大変ですが、楽しい部分も多かったです。僕たちくらいしかVRイベントを出展していなかったので、驚いてくれる人も多かったですね。体験後にSNSへ書き込んでくれている人もいて、嬉しかったです。

訪問目的である、東京ゲームショウVRのPRもしっかりとできたと思います。日本企業の出展は5社ぐらいで、全体の出展社数は330社だったので、さすがに少ないなと思いましたね。


(出所:Mogura)

――現地の印象は?

 岸上:僕は今回で2回目ですが、コロナ禍前に行った前回と比較すると、ものすごく盛り上がっていたなと感じました。コロナ禍が明けて、こうしたリアルイベントに人が集まるんだなと、あらためて思いましたね。

西村:キラキラのサンフランシスコをイメージして行ったら、治安が悪くて怖かったのですが(苦笑)、会場は大盛り上がりでした。開催前日から早めに並ぶとチケット登録できるのですが、前日なのに行列で、2時間ほど待たないと登録出来ない状態でした。

街の至るところに「GDC」参加者用のカードホルダーを付けている人がいて、あちこちのカフェで「あなたも参加するの?」みたいな話が聞こえました。街全体が「GDC」一色……とまではいきませんが、盛り上がりは感じましたね。

会場中が「Next Big Things」を探している空気だった

――XR/メタバース関連の出展はありましたか?

西村:会場に入ると、最初にMeta、Pico、PlayStationの大きなブースがあるんです。PlayStationのブースはPSVR2を出展していたので、いわゆる「VR3大巨頭」がどん・どん・どーんとある感じでしたね。その存在感がありつつも、会場中で話題になるわけでもなく。「当たり前になった」とまでは言いませんが、インパクトはないというか。

VR系の出展企業は、全部で20~30社ぐらいだったかな? 出展者に「メタバース」を謳う人はあまりいませんでしたね。一部のWeb3.0系の企業が謳っていましたが、体験展示がないところも多く、あまり賑わっていませんでした。

岸上:アメリカでは「メタバースといえばWeb3.0」的なニュアンスが強いんですよね? 僕ら日本人が思う「VRゲーム」は(メタバースに)包括されていないのかなと。僕の体感でも「GDC」は開発者向けのイベントで、BtoCよりはBtoB向けで新しいものが目に止まりました。

前回は「VRが次の波ではないか?」みたいな期待がありましたが、今年はみんながNext Big Thingを探しているような空気でしたね。AIも、まだ展示段階には至っていないようでした。とはいえ、VRゲームの新興ディベロッパーは目に見えて増えています。特にヨーロッパ系の出展者が多かったですね。


(Mogura VR編集長の久保田瞬)

久保田瞬(以下、久保田):西村さんが言うように、MetaとPicoとPlay Stationの出展が分かりやすく目立っていて、なのに3社ともXRについては人目を惹く新情報がなかったんです。

Metaのブースはリリース済みのタイトルがほとんどでした。ひとつだけ、ザッカーバーグが楽しそうに遊んでいたMeta Quest Proのフェンシングのデモはありましたが。

一方で、Meta Quest Pro向けSDKのAPIを解説する講演は、収容人数250人ぐらいの会場が、立ち見でしたね。日本では値段も高いし、大きく売れるデバイスではないでしょうが、開発者たちの間で「新ジャンルのコンテンツが作れそうだ」と期待されている印象を受けました。Meta Quest Proを使った実験的なコンテンツや、来場者が遊べるローケーションベースのコンテンツを出展するブースも少なくありませんでした。

Picoのブースでは、残念なことに実機が展示されていませんでした。後で分かりましたが、イベントの裏ではTikTokが米国議会で吊るし上げられていた。展示ブースは明らかにお金がかかった装飾だったので、当初はPico 4をアメリカでリリースすると発表したかったのでしょうね。代わりに、これまで発売したデバイスやコントローラー、アクセサリーを綺麗に並べて見せていました。

PlayStaitonブースも、すごく目立つ場所にあるのに、PlayStation VR2が2月に発売されたこともあってか、新コンテンツ発表や開発者向けの訴求はほとんどありませんでした。アイトラッキングの実験的なデモを展示していました。

「Robolox」「Fortnite」の存在感にUnityユーザもざわつく


(出所:Mogura)

――面白かった展示・講演はありましたか?

 西村:VRイベントの展示は僕たちだけでした。多くの人が「こんなの見たことない」と言ってくれました。日本では結構な数のバーチャルイベントが行われていますが、海外ではまだそんな感じではないんだな、日本はこのマーケットでユニークなんだなと思いました。

Metaの近くでは『Yahaha(ヤハハ)』というメタバースがめちゃくちゃデカいブースを構えていました。仕組みは『Roblox』で見た目は『Fortnite』みたいなコンテンツを提供する会社です。2020年創業ですが、100億以上の資金調達をしています。社員は200名ほどで、『Roblox』を卒業したゲームユーザー向けのメタバースを作っています。

岸上:Metaのコンテンツチームトップのクリス・プルエットが会場で「Oculus Publishing」を発表したと後で知りました。「Oculus」という名前が復活したのは面白かったですね。Metaはレイオフを進めていますが、VR部門は成長しています。あるアメリカの投資家から「アメリカ国内でしか絶対流行らなさそうなVRゲームが100万本売れるマーケットになっている」と聞いて、驚きましたね。

久保田:メタバースという言葉は各社の講演でほとんど使われていませんでした。Epic GamesのCEOのティム・スウィーニーだけは、講演中に10回以上使っていましたね。昔からメタバースが好きで、「NFTやVRゴーグルは必要ないよね」なんて言いながら、10分近くメタバースへの思いを語る一幕も。

その他に印象的だったのは、PCで『Fortnite』のマップを制作できる「Unreal Editor For Fortnite」の発表でした。クリエイターに純利益の40パーセントを還元するのも、さすがだなと。あくまでクリエイターに還元するための収益システムだそうで、発表者に「(独自の)経済圏を作らないのか」と聞いたら「やらない」と。

西村:UnrealとEpic Gamesで別々に最大のブースを出していて、内容面でも繋がっていました。「Unreal Editor For Fortnite」を発表した直後に触れられるようになって、場内にいたUnityユーザーらしき人たちが「俺たちUnrealに行かなくていいんだっけ?」「Unrealやばくない?」みたいに会話していました。

久保田:Robloxは体験展示をしていなかったので、展示フロアだけで見ると存在感はありませんでした。Roboloxのゲーム単体だと、(デバイス体験などもある)他の展示ブースと比べてクオリティが低く見えてしまうからでしょうね。

他方で講演を4~5件スポンサードしていて、パネルディスカッション形式で毎回4人ほどが登壇していました。ほぼ全てのパネルディスカッションで、Robloxのプラットフォームがいかにクリエイターフレンドリーで儲かるのかをPRしていて、ゲーム開発者の関心をUnityとUnrealから奪いたいという意図が明確でした。

Roboloxはグラフィックの品質向上を進めています。今年からは「ガチゲー」が出てくるでしょう。「開発者は9歳から『Roblox』を遊んできた10代のチームなんです」みたいな事例も出てくるはずです。

(出所:Roblox)

まっとうに成長する米国VRゲーム市場。対するアジア勢は?

――今回のトレンドは何でしたか?

 岸上:VRゲームの開発動向でいえば、なくなった会社もありますが、残った会社はめちゃくちゃ大きくなっています。まだApp Labでしかリリースできない新興ディベロッパーも増えていますし、開発者も、開発費が高騰するモバイルやコンソールに代わる次の作り先を探しています。

アメリカ市場では100万本売れるタイトルが出る一方で、売れないものは売れないというまっとうな淘汰が始まっています。そのトレンドはもっと広がるでしょうし、広がるべきだと思います。「Meta Quest ProのMR機能で新しい体験が作れるのでは」という話もちょくちょく耳にしました。

西村:メタバースでいえば、プラットフォームを目指す人たちが迷っていますね。先ほど話した「Yahaha(ヤハハ)」は、100億円調達して社員も200名になったものの、ビジネスをどう立ち上げていくのか、はっきりとは見えていないように感じました。

別のプラットフォームをやっている人も、「一旦はWeb VRに注力して、次はどうしようかと考えている」といった様子で、誰もが悩みながら実績を積み上げつつ、まだ「これだ」というものが見えていないようです。

かたや、Unrealの流れを汲むEpic GamesやRobloxが(業界に)すごいものをたたきつけてきて、対する僕ら(日本のプラットフォーマー)がどうシナリオを作っていくのかは考えさせられましたね。

久保田:AR系企業で大きめの展示をしていた会社がNrealです。Tシャツとノベルティを入れるだけにしては大きなショップバッグを配っていました。「来場者に会場中で持ち歩かせて目立つ」というマーケティング戦略でしょう。

彼らは『Nreal Air』をゲーム用ディスプレイとして売り込もうとしていました。スマホやPCの拡張ディスプレイとして使える3DoFのデバイスですが、Nintendo SwitchやSteam Deckにつなげばちゃんと3Dで見られることを、やたらと押していましたね。

 
(撮影:Mogura)

というわけで、前半のトークセッションはこれにて終了。現地に参加した人にしか分からない、貴重なお話を聞くことができました。

後篇では、株式会社スクウェア・エニックスAI部ジェネラル・マネージャーの三宅陽一郎氏と、フィグニー株式会社CEOの里見恵介氏による現地レポートをお届けします。そちらも合わせてチェックしてみてください!

(執筆:高島おしゃむ、編集:笠井康平)


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