6月23日、VRデバイスやインターフェース開発を手掛けるDiver-Xは、メディア向けの新製品発表会を開催しました。
今回披露されたのは、同社の新グローブ型VRコントローラー「ContactGlove 3」と、ロボティクス向けデータグローブ「ContactGlove 3 Pro」。また、7月1日付で社名を「Melt Interface Technologies株式会社(メルト・インターフェイス・テクノロジーズ)」へ変更するという大きなリブランディングが発表されました。
本記事では、代表取締役CEO・迫田大翔氏が語る社名変更に込められた思いから、大幅な進化を遂げた新デバイスの実機デモの様子まで、発表会の模様をレポートします。
XR領域を飛び越え、横断的にインターフェースを提供する総合企業へ
最初に登壇した迫田氏は、今年で創業5周年という節目を迎えるにあたり、会社のこれまでの経緯と今後の展望、そして社名変更について語りました。
民生向けVRデバイス「ContactGlove」をはじめ、これまではコンシューマー向けのVRデバイス企業としての色が強かった同社。しかし過去5年間を振り返ったとき、「VRデバイスだけではなく、人間とテクノロジーをつなぐ部分に魅力を感じていた」と迫田氏は語ります。
VRやマウスのような日常のユースケースは、あくまでもアプリケーションの1つに過ぎません。「いかに人間の生産性を高めるか」「VR空間との接続性を高めることで体験の質を向上させるか」という部分に事業的な価値を見出しています。
そこで同社は、XR領域を飛び越えて横断的にインターフェースを提供する総合企業であることを示すため、社名を「Melt Interface Technologies」へ変更します。
この新しい社名には、人間がコンピューターを思いのままに操作できるような「障壁を溶かす(Melt)」体験を作ること、「インターフェース(Interface)」そのものを主軸とすること、そしてさまざまなソリューションを展開する「技術群(Technologies)」であることの3つの思いが込められています。
また、これまでのDiver-Xは「VRデバイス開発企業」というイメージが先行していましたが、実は収益の半分はソリューション・サービス事業が占めているといいます。デバイスからソフトウェアまでを垂直統合できる体制は、AIによってアプリケーション開発のコモディティ化が進む現在、同社の強力な競合優位性となっていると迫田氏は強調しました。
今後は、「MeltMouse」のような日常向けデバイス、今回発表された「ContactGlove 3」などの産業用インターフェース事業、そして自社の技術力を生かしたBtoB向けのソリューション事業の3本柱で展開していく方針とのこと。
触覚フィードバックや、産業現場のDXを実現するセンシング技術といった、自社デバイスならではの強みに注力する一方で、マウスなどの既存デバイスにとどまらず、音声入力のような日常的なインターフェースのあり方そのものを刷新していきたいと意欲を語りました。

(2025年10月に立ち上げられた新ブランド「Melt Interface」の第一弾として発表された、クリエイター向け高機能マウス「Melt Mouse」。名称もですが「あなたの手が、コンピュータと完全にMeltする(溶け合う)体験。」というキャッチコピーから、今回の社名変更の背景には同ブランドのコンセプトも深く関わっていると推測されます)
Diver-Xの強みは「圧倒的にインターフェースを考え抜いて、それをスピーディーに具現化できる集団である」こと
続いて登壇したのは、Diver-Xの主要株主であり、共同開発を行っているトヨタ紡織株式会社の小島純氏。トヨタ紡織は車の内装を手掛けており、「インテリアスペースクリエイター」としてモビリティにおける空間のあり方を模索している企業です。
以前から、開発コストの削減や体験検証においてバーチャル分野の活用を進めていた同社ですが、従来の環境では「VRゴーグルだけでは物に触れられないため、距離感や操作感が非常にわかりづらい」という課題に直面していたといいます。
そこで同社は、早い段階から形状記憶合金を使った指先の触覚フィードバック技術を取り入れていたDiver-Xに着目し、共同開発をスタートさせました。現在はハプティクスグローブを活用し、VR空間内で車の内装を実際に触って操作する検証を行っています。
数ある企業の中からDiver-Xを選んだ理由について、小島氏は「迫田CEOを筆頭に、圧倒的にインターフェースを考え抜いて、それをスピーディーに具現化できる集団であるから」と高く評価しました。
具体例として小島氏は、過去に「こういうものを作れませんか?」と迫田氏にリクエストした際のエピソードを披露。わずか2日後にはデモ映像が送られてきて、その翌日に直接会ったときには、その改良版が用意されていたとのこと。その驚異的な開発スピードに、「現代のエジソンはここにいたのか」と衝撃を受けたと語りました。
ドリフトゼロを実現する新モデル「ContactGlove 3」と、ロボットティーチングの世界標準を目指す「ContactGlove 3 Pro」
続いて、営業・マーケティング統括の風見貴史氏から、注目の新製品「ContactGlove 3」が発表されました。
製品コンセプトは「Beyond Limitations」。新しいContactGloveの最大の特徴は、独自の「Zero-Drift Technology」によるセンサー方式の刷新にあります。
従来のContactGlove2では、指の曲がり角度を推定する曲げセンサー方式を採用していましたが、新しいContactGloveでは電磁場(EMF)トラッキング方式を採用。磁気センサーを使うことで、指や手のポジションの絶対値の取得が可能になりました。
これにより、誤差は中央値0.5mm、最大値1.5mmという驚異的な精度を達成。手と指の動きの繊細なニュアンスを、より正確にバーチャル空間へ再現できるようになっています。従来モデルの課題だった時間の経過によるズレ(ドリフト)も解消され、使用前のキャリブレーションも初回のみで済む仕様へと進化を遂げました。
快適性の面では、バッテリーが10時間稼働に向上し、過酷な耐久試験をクリア。同梱される新型コントローラーモジュール「Magnetra 3」も20%小型化され、指との干渉を最小限に抑えています。
また、新たに搭載された「グリップ固定ボタン」によって、手の形が変わってもグリップが解除されず、VR空間内で意図せず物を落としてしまう課題が解決されています。ほかには1.2mのケーブル付き専用ドングルが用意され、通信環境の安定化も図られました。
そして今回、VR用途と並ぶ大きな柱として浮かび上がったのが、産業分野における「ロボットのティーチング」への展開です。
この1年間で急増したという「汎用ロボットへの動作教示やデータ収集に、グローブ型デバイスを使いたい」というニーズに応えるべく、新たにロボティクス向けデータグローブを開発。それが、「ContactGlove 3 Pro」です。
指先が開いたオープンフィンガー型のContactGlove 3に対し、ContactGlove 3 Proは指先まで一体で覆う構造を採用しています。高精度な指先トラッキングによって、「摘む」ような繊細なインタラクションも忠実に取得・再現が可能。指先の精密な動作を学習用AIデータとして蓄積したい現場において、ContactGlove 3 Proは最適な選択肢となり得ます。
さらに、ロボティクス分野での長期的な利用を見据え、将来的には触覚機能などのオプションを追加できる拡張性も備えているとのこと。さまざまな開発環境でスムーズに導入できるよう、ROSやUnityなどの各種SDKにも手厚く対応しています。
風見氏によれば、ContactGlove 3 Proは「ロボットティーチングの世界標準になる」ことを目指しているとのこと。新製品はいずれも10月発売予定で、ContactGlove 3に関しては公式ストアで予約販売が開始されています。
ロボットハンドも登場!トラッキング精度の高さを見せつけた実機デモンストレーション
発表会では、CTOの浅野啓氏によるContactGlove 3の実機デモンストレーションも行われました。
一般的なグローブ型デバイスが苦手とする「指先同士をきっちり合わせる動作」も、画面内の手はズレることなくピタリと追従。親指と人差し指、あるいは中指など、どの組み合わせでも正確そのものです。
さらに、指を1本ずつぐるぐると回したり、人差し指と中指をクロスさせたりといった、従来の光学式カメラによるトラッキングでは認識が難しかったジェスチャーも完璧に再現。極めつけは、オクルージョン(死角)への強さです。
用意された箱の中に手を入れ、外部からは手元が一切見えない状態にしても、画面上のバーチャルハンドはまったく影響を受けることなく、滑らかに正確なトラッキングを継続していました。
さらにデモンストレーションでは、実際に「ロボット」が登場。ContactGloveを使って、5本指のロボットハンド「OmniHand」をリアルタイムで動かすデモも行われました。浅野氏が指を動かすと、ロボットの指が同じように駆動します。
この実演を踏まえ、浅野氏は「ロボットを遠隔操作し、ティーチングのための正確なデータを供給する市場が立ち上がりつつある」と説明。そのために必要な高精度のトラッキングデータを取得できるデバイスとして、ContactGloveのようなデバイスの需要が今後さらに高まっていくとの見通しを語りました。

(発表会後のデモ体験にて。ContactGlove2からフィット感がさらに向上しており、感覚としては「生地の薄い軍手を装着している」のとほとんど変わりません。サイクルグローブや作業用手袋にありがちなゴツさはなく、手を動かしたときの引っかかりも皆無です。この軽快な装着感であれば、楽器演奏のような用途にも適していそうな印象を受けました)
(構造上、親指以外は指先にセンサーが配置されていないため、第一関節までをフルに使うような微細な動きにおいては硬さを感じる場面もありました。しかしそれを差し引いても、人間の指のうねうねとした柔軟な動きまでトラッキングできていることがわかります)
新社名が示す「インターフェース」が形作る未来
浅野氏も言及していたように、ロボットティーチングを行うための高精度なデータ収集への需要は、世界的に急増しています。これらを実現する上で、指先の細かなニュアンスまで正確にデジタル化できるハンドトラッキング技術は、なくてはならないものです。
「ContactGlove」といえば、これまではVRChatユーザーをはじめとする、コンシューマー向けの「VR用ハンドトラッキングデバイス」としての印象が極めて強い製品でした。それだけに、今回の発表でロボティクスや産業用途への本格的な展開が提示されたことは、少なからず驚きをもって受け止められました。
一方で、Diver-Xは以前から「インターフェース」に注力してきた企業でもあります。迫田氏も2024年のインタビューで以下のように発言しており、「優れたハンドトラッキング技術やハプティクス技術をより広い産業分野へ転用する」という同社のアプローチは、むしろ一貫性があり、極めて自然なアプローチだと言えるでしょう。
弊社が基軸としているのは「インターフェース」であり、将来的にはVR以外のデバイスも作っていきたいと考えております。では、なぜ今はXR領域に注力しているのかと言えば、そこに「体験」としての価値の差が生まれやすいと感じているからです。
たとえば「良いキーボードを使ったらタイピングが速くなる」「良いディスプレイを使ったら映像がきれいに見える」というように、良いインターフェースを使うと、それによって得られる体験もぜんぜん違ったものになります。つまり、良いインターフェースを使えば何らかの差異が発生する。そして、その「差」の部分に顧客は価値を感じてくださるわけです。
そのような原理を前提として考えたときに、その「差」を生み出しやすいと感じたのが、XR領域でした。そもそも発展途上の業界ですし、VRはそれ自体が身体感覚を伴う体験です。新しいデバイスをちょっと付け加えるだけでも、体験の質が大きく変わってくる。だからこそマネタイズもしやすいのではないかと考えて、現在はこの領域に取り組んでいます。
単なるVRデバイスの枠を超え、あらゆるフィールドで活用できる「汎用的なインターフェース」へと進化を遂げたContactGlove 3。この製品の転換は、まさにDiver-XからMelt Interface Technologiesへと社名を変え、人とテクノロジーの障壁を溶かす総合企業を目指すという、同社のリブランディングの思想を何よりも象徴しています。
迫田氏が語る「人間が生活するあらゆるシーンで、デバイスによってテクノロジーとの境界がメルトし(溶け合い)、生活や生産性が上がっていく世の中」の実現に向け、新たな社名とともに力強い一歩を踏み出した同社の今後に、引き続き注目していきたいところです。


















