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開発 2019.09.15

PSVRで人気のコンテンツ教えます SIEが明かしたプレイ動向【CEDEC2019】

2019年9月4日から6日にかけて開催された、ゲームを中心とするコンピュータエンターテインメントの開発者カンファレンス・CECEC2019

9月6日の「PlayStation®VR の振り返り」セッションでは、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、「SIE」)の秋山賢成氏が登壇しました。発売から約3年が経つPlayStation VR(以下、「PSVR」)向けコンテンツについて、ユーザーのプレイ傾向と、コンテンツ開発に役立つ知見について、プラットフォーマーだから分かるコアな情報に基づいて講演が行われました。

ダウンロード数、プレイ時間から見る世界と日本の動向

PSVRは2016年に発売されてから世界累計での実売台数が420万台以上(2019年3月3日時点)、そしてPSVR向けとして全世界で約500ものタイトルがリリースされています。
そこで秋山氏は、「データから見る世界のトレンド・動向」として、どういったタイトルが売れ、そしてどのような時間遊ばれているか、解説を行いました。

まず最初に紹介されたのは、2018年3月以降の北米でのPSVRコンテンツのダウンロード上位10位の推移についてです。
毎月様々なタイトルがランキング表に入れ替わって登場している中、「Job Simulator」と「SUPERHOT VR」、そして2018年12月からは「Beat Saber」がコンスタントにランクインし続けています。

これは、「新規ユーザーがとっつきやすいのか、上位のタイトルは長期間に渡ってコンスタントにダウンロードされている」ということを示しています。
さらに、北米でのPlayStation Storeでは、
・PlayStation Move モーションコントローラー(「PS Move」)を利用したタイトルがとても人気
・シューターも根強い人気があると思われる
と秋山氏は続けます。

つづいて、(具体的なタイトルは言えないとのことですが)ワールドワイドと日本国内での、「アタッチレート」(装着率)、コンテンツごとの累計での「セッション時間」(総プレイ時間)、プレイ1回あたりの「セッション時間」(1プレイごとのプレイ時間)について、データに基づいて分析された結果の報告がありました。

ワールドワイドの傾向(PSVR発売以降)

◯アタッチレート
・無料コンテンツは高いアタッチレート
・有料コンテンツも、PlayStationのゲームとして発売済で、PSVR化されたタイトルが同レベルで高い人気
・ノンゲームコンテンツも高い人気で、VR内で動画を再生するコンテンツがとても多くプレイされている

〇セッション時間(累計)
VR入門的なコンテンツのプレイ時間が長い
・同じレベルで、シナリオがあるコンテンツのプレイ時間も長い
 1プレイが短いコンテンツは、意外にもセッション数(プレイされた回数)もシナリオベースのものよりも少ない
ユーザー間コミュニケーションをベースとしたコンテンツも、上記と同レベルでプレイ時間が長い

〇セッション時間(1プレイごと)
ユーザー間コミュニケーションをベースとしたコンテンツが上位を占める
 特に、ユーザー毎に役割が与えられ、それを楽しむコンテンツが人気
・繰り返し長く楽しむコンテンツが増えてきている
・逆に、シューターコンテンツはあまり上位にこない

日本国内の傾向(PSVR発売以降)

〇アタッチレート
・ワールドワイドと比較して、動画コンテンツがとても高い。また、人気アニメコンテンツのVRのダウンロード数がとても高い
・ノンゲームコンテンツの人気が高い
・ゲームはフルボリュームのものが人気

〇セッション時間(累計)
動画コンテンツが圧倒的
・ノンゲームコンテンツは、激しいアクションがないものが人気
・ゲームコンテンツは、ワールドワイドと同様にPlayStationのゲームとして発売済で、PSVR化されたタイトルが累計で長く遊ばれている

〇セッション時間(1プレイごと)
RPG要素が強いコンテンツがダントツ
・戦略的な駆け引きや長考するようなコンテンツも上位
・動画コンテンツも上位だが、ワールドワイドと比較してこの分野だけ日本はかなり特殊で、ダウンロード数は上位にないコンテンツがかなり多く締めている(1プレイをじっくり遊ぶユーザーが多い?)

ここまでは3年前にPSVRが発売されてからのデータに基づく分析でしたが、続いてここ半年の動向についての分析も報告がありました。

ワールドワイドの傾向(直近半年)

〇コンテンツ起動回数(月ベース)
・リリース日に関わらず、PlayStation Storeの人気コンテンツがそのまま多く起動されている
入門VRも多く起動されている。つまり、新規ユーザーもコンスタントに入ってきている

〇セッション時間(累計・月ベース)

VR内コミュニケーションがあるコンテンツが、ここ半年で(月あたりの)プレイ時間を伸ばしている
・ほぼすべてのコンテンツが5~6月に多くプレイ時間を伸ばしている
・新作よりも、長く遊ばれているコンテンツが多く遊ばれている傾向が強い

〇セッション時間(1プレイごと・月ベース)

発売以降の傾向と同じく
ユーザー間コミュニケーションをベースとしたコンテンツが上位を占める
・特に、ユーザー毎に役割が与えられ、それを楽しむコンテンツが人気
・人気コンテンツは毎月落ちることなく継続してプレイされている

日本国内の傾向(直近半年)

〇コンテンツ起動回数(月ベース)
・ある動画コンテンツがずっと一位。他の動画コンテンツも上位。
・ワールドワイドで強いアクションゲームが最近人気に
・ワールドワイドと比較すると、日本は離脱が早い傾向にある。つまり、ずっとプレイするよりも新作を求める傾向が強そうである

〇セッション時間(累計・月ベース)
動画コンテンツが圧倒的。直近半年はより顕著に
・ワールドワイドと比べて新作が人気

〇セッション時間(1プレイごと・月ベース)
RPG要素が強いコンテンツがダントツ。ワールドワイドで比べると、1ユーザーあたりの起動時間がとても長い(同じコンテンツで比較すると倍以上)。日本は傾向が特定の分野に偏る傾向がある。
・動画コンテンツについて、直近半年では連続再生する時間が短くなっている(累計はダントルで多い)。連続ではなく、こまめに見ているユーザーが非常に多い印象。

このようにSIEでは、ダウンロード数・起動回数だけでなく、累計プレイ時間、1プレイあたりのプレイ時間も含めての分析がなされ、今後の傾向なども検討できるようになったと秋山氏はいいます。そして、本発表よりも詳細なデータを見ながらのディスカッションも出来るため、PSVRの新規開発の際には是非問い合わせをしてほしいと続けました。

VRコンテンツ制作時にハマったポイント

SIEでは、PSVR向けコンテンツのリリースに際し、より多くの人に素晴らしいVR体験をしてもらえるよう「VR コンサルテーション」というサポートをしています。ここでは、コンサルテーションの際にあがった事例の紹介がありました。

コンサルテーションでは、Reprojection Issue(頭の動きを予測して映像表示を補完する、PSVRの「リプロジェクション」機能についての問題)やBlock OLED Smear(黒ジミ)など、下記の画像のような様々な問題があがり、対応策の提案をしてきたそうです。

レーシングゲームの例では、VRに慣れた人向けにアグレッシブなカメラ表現(ここでは、カーブ時にカメラも傾くなど)が実装されていましたが、初心者にとってはVR酔いを誘発してしまう可能性があると指摘されたケースがあったそうです。そのため、VR慣れした人向けのアグレッシブなカメラのモードに切り替える際にwarning(注意)メッセージを表示させるようにしたとのことです。このように、advancedな(つまり、VRに慣れている)プレイヤーだけでなく、そうでないプレイヤーにも配慮した方がいいと、SIEでは考えているそうです。


立ちながら遊ぶVRについては、ユーザーは楽しくなると歩き回ってしまうため、周りのものにぶつかるなどの事故がおきやすいです。そのため、プレイに際し注意勧告を行うだけでなく、PSVRを検知するPlayStation Cameraの中心から外れた時は必ずwarningメッセージを出すよう指摘をしたそうです。こういった対策は、言われれば当たり前なことではありますが、開発中には抜けていることもあるとのことです。

PSVRアプリケーション開発における技術的Tips

本セッションの最後には「制作時のちょっとした小話」として、様々な開発事例を見たからこそのPSVR向けアプリケーションの技術的ヒントについて紹介がありました。以下にそのいくつかをあげます。

〇フレームレートについて
PSVRアプリケーションのフレームレートは、60Hzをリプロジェクション機能を用いて120Hzにするだけではなく、120Hzや90Hzにも対応しています。当然高い方がよい体験になりますが、処理が間に合わなかったりすると目がチカチカしてしまうので、コンテンツの特性を見極めて、処理負荷を計算した上でどのフレームレートを採用するかが重要でしょう。

60Hzをリプロジェクションで120Hzにした場合、頭を左右に振ったり、高コントラストのオブエジェクトが早く動く場合残像のように絵がブレることがあります。

一方で、絵がブレる原因はリブロジェクション機能を使ったこと自体によるものではなく、リプロジェクション機能に誤ったヘッドマウントディスプレイ(HMD)の位置や向きの情報、処理に用いる時間情報を渡していたり、2D GUIなどのレイヤーをきちんと分離していなかったことに起因するケースもあるそうです。また、シーンによって処理が重いためフレームレートが稼げていなかったというケースも検討すべきでしょう。

SIEが提供している「PlayStation VR COMFORT SAMPLE」では、表示に関する様々な問題について実際にVR上で体験することができます。最近ではクイズ形式でSAMPLEの中で表示エラーと対応策を「体験」することができます。

〇VRコンテンツの最適化について
ゲームエンジンを使ってVRコンテンツを開発するにあたり、各エンジンの「VR mode」を選択するだけではDraw Callが両目分の2倍発生するなど不十分です。UnityであればSingle Pass Instanced renderingを、Unreal Engine 4であればInstanced StereoにMulti-Viewを設定するといいでしょう。

Foveated Rendering(視線の外側の解像度を下げる)手法は、エンジンへの組み込み、実装に時間がかかるものの、大きな効果が生まれたケースも何件もあったそうです。

無駄な処理がないか確認することも重要です。
VR向けと非VR(テレビモニター)向けを同時に開発している際に、両目に向けて2回描画処理が発生していたなど、非VRで向けでは問題がなくてもVR向けでは無駄な処理が気付かず発生していたケースもあったそうです。

Overdraw(奥にある見えない部分の重複しての描画)も比較的よくあるケースだそうです。

VR体験をよくするために描画更新はなるべく高い頻度で行いたいですが、物理シミュレーションや衝突判定、シャドーマップの更新、ゲームロジックなど、他の全てのロジックまで同じ頻度で行う必要はなく、処理負荷を抑えるには検討すべき点です。

最適化の作業は地道で大変ですが、うまくいけば見返りは大きいです。ただし、非常に工数がかかる改善を必要とする場合もあり、何か問題が起こってからやろうとするのでは辛いこともあるそうです。そのためには、開発の初期段階で多くの最適化事例をチェックし、事前戦略を立てて取り組むことが重要です。

PlayStation 4の開発ツールにもRazorというプロファイラーが用意されています。これを用い、ハードウェアでどのような処理がされているのかを理解すれば、初期段階で最適化が図れるでしょう。

(参考)CEDEC2019: PlayStation®VR の振り返り


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